前回のコラムにて、日銀追加金融緩和発表後の日本株の動きについて、速報版という形で解説しました。
ところがその後、消費税増税の先延ばしや、衆議院解散・総選挙という当初想定していなかった話が出てきたこともあり、筆者が思う以上に株高・円安が急ピッチで進行しています。
また、追加金融緩和発表から2週間がたち、現状の日本株の状況がだいぶ見えてきました。そこで今回は、より具体的に日本株の現状と今後の戦略を考えていきたいと思います。
個人投資家への恩恵は少なかった「黒田日銀バズーカ砲」
ここ1カ月の日本株の上昇は異常ともいえるものでした。日経平均株価は10月17日につけた安値14,529円54銭から11月14日の高値17,520円54銭まで、1カ月足らずで約3,000円も上昇しました。
日経平均株価の急騰という状況からすれば、個人投資家もさぞ儲かったのではないかと思われがちです。しかし筆者の感覚では「あまり儲からなかった」という感想を持つ個人投資家の方が多いのではないかと思っています。
なぜ個人投資家が今回の株価上昇の恩恵を受けていないのか、考えられる理由はいくつかあります。
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追加緩和発表後の11月4日~6日ごろに買った株が高値掴みになっている
個別銘柄の株価チャートをみると、11月4日の寄り付き付近で窓を開けて上昇したもののそこが高値となり、その後株価が下げ続けている銘柄が不動産関連・その他金融関連の銘柄などを中心に結構あります。
追加金融緩和発表後の初めての取引日である11月4日に個別銘柄を新規買いした個人投資家も多かったものと思われますが、この時買った株の多くが買値を上回れずにいるのです。 -
個人投資家が保有している中低位株や新興市場銘柄が上昇していない
個人投資家が保有する銘柄の多くは、日経平均株価の構成銘柄ではありません。それらの銘柄は、日経平均先物の怒涛の買いにより日経平均株価やその構成銘柄が上昇したとしても同じようには上昇しません。
筆者もそうなのですが、多くの個人投資家のパフォーマンスは、日経平均株価やTOPIXよりも、マザーズ指数に比較的連動しているのではないかと思っています。個人投資家の多くは日経平均株価採用の大型株よりも、新興市場銘柄のような値動きの軽い銘柄を好むからです。
実は、日経平均株価が1カ月足らずで20%以上も上昇した一方で、マザーズ指数は安値から10%ほどしか上昇していません。しかも、日経平均株価は11月に入ってからほぼ毎日のように上昇を続けているにもかかわらず、マザーズ指数は11月6日をピークにして、そこから11月14日まで結構下がっているのです。
先物主導の株価上昇では個人投資家は儲からない
個人投資家の信用取引における損益状況を表す「信用評価損益率」の推移をみても、10月17日のマイナス14.93%から、11月7日にマイナス7.24%になった程度で、思ったほど改善してはいません。
もともと、決算発表シーズンは決算に株価が大きく反応することが多いため、利益を得ることが難しい時期です。そこに今回の追加金融緩和発表による突発的な株価急上昇とその後の下落という動きが重なったため、ますます個人投資家にとって成果が出しにくくなってしまったと思われます。
個人投資家があまり儲けられなかった背景にあるのは、ここ1カ月間、特に追加金融緩和発表後の日本株が「先物主導の株価上昇」であったという点です。
つまり、大量の日経平均先物買いによって指数(日経平均株価)のみがスルスルと上がる一方で、個別銘柄の多くは蚊帳の外に置かれていたのです。
このことは、裁定買い残高の推移をみれば一目瞭然です。10月24日時点では2兆4,700億円だった裁定買い残高が、11月7日時点では3兆3,400億円にまで、たった2週間で約8,700億円も増加しているのです。
NT倍率の上昇を伴う上昇相場は、先物主導の上昇であることが多く、個人投資家が儲けにくくなります。実際、直近のNT倍率をみると10月28日の12.24倍から11月13日には12.51倍に上昇しており、このことからも多くの個人投資家が大して利益を得ることができなかったと想像できます。
今後注意すべき事項とは?
日本株の現状を踏まえて、今後注意すべき事項はなんでしょうか。まずは「裁定買い残の積み上がりによる株価急落」です。
裁定買い残高はわずか2週間の間に約8,700億円も急増しています。残高自体は昨年5月の急落前の水準よりは1兆円ほど少ないですが、今後も先物主導での株価上昇が続けば続くほど、裁定買い残高が積み上がっていきます。11月10日~14日の株価の動きを見る限りでは、おそらく現時点での裁定買い残高はさらに増加しているものと思われます。
高水準の裁定買い残高は、やがては昨年5月のような、裁定解消売りを巻き込んだ急落になる危険性を高めます。裁定買い残高の推移には十分な警戒が必要です。
もう1つ、「日本株全般の調整局面入りによる個別銘柄の下落」も注意しておきたい点です。
短期的に見て日経平均株価は明らかに買われすぎています。通常、かなり強い相場であっても日経平均株価の25日移動平均線からのプラス乖離が10%に達することは少ないものです。しかし11月14日時点ですでに、日経平均株価の25日移動平均線から10%上方にかい離しています。
確かに、個別銘柄の中にはあまり株価が上昇しておらず、割安の状態にある銘柄も少なくありません。しかし、暴落までとはいかずとも日経平均株価が早晩調整する可能性が高いこと、もしそうなれば大部分の銘柄の株価が下落するであろうことも考慮すると、そうなったときに買うことができるように資金をある程度温存しておいた方がよいと思います。
日本株の今後の戦略は?
それでは、ここ2週間の日本株の動きを踏まえて、今後の戦略について考えていきたいと思います。
10月31日や11月4日こそ、金融緩和でメリットを受けるであろう不動産株、銀行株、その他金融株に大量の買いが入りましたが、そこで一気に買いのエネルギーを使い果たしてしまったのか、それ以降は冴えない動きが続いている銘柄が少なくありません。
その一方で、好業績が続いている銘柄にはしっかりと買いが入り、順調に株価が上昇しています。結局、追加金融緩和発表前と同じような相場が現在も続いているということになります。
ただ、追加金融緩和発表時に急騰した銘柄の中で、11月4日の高値を超えてきたものもありますし、ここから再度上値を取ってくる可能性もあります。
さらには、ここまで完全に出遅れている新興市場銘柄に資金が向かうことだって考えられます。
はたまた、今後怒涛の外国人買いにより、2013年前半のような「何でも上がる」相場がやってくるかもしれません。
そこで、とりあえずは株価が順調に上昇している好業績銘柄を買っていくとともに、金融緩和メリット株(10月31日、11月4日に急騰した銘柄)や、その他中低位株、新興市場銘柄の値動きにも注意が払い、それらの銘柄が動き出したらひとまず乗ってみる、という二刀流戦略がよいのではないかと思います。
ただし、上でも書きましたが、短期的な株価調整はいつ起こってもおかしくありません。そうなったときに困らないよう、全力勝負は避けて資金をある程度温存しておくべきでしょう。
注.本コラムの内容はあくまでも筆者の予想です。投資判断は自己責任のもとでお願いします。筆者も上記の予想をもとに投資行動を行っていますが、株価トレンドの変化など、描いているシナリオと異なる動きが生じた場合などには保有株を減らするなど臨機応変に対応していきます。
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