決算コメント

アルプス電気

2017年3月期3Qは増益転換

アルプス電気の2017年3月期3Q(2016年10-12月期)業績は、表1のように前年比、前期比(2Q比)ともに増益転換しました。3Q営業利益は188億1,900万円(前年比48.0%増)となりました。

表2の様に、今3Qは電子部品事業の中の「民生その他事業」が売上高542億円(前年比18.1%増)、同部門営業利益135億円(前年比33.7%増)と回復し、全社が増益転換する要因となりました。2015年12月からのiPhone減産の悪影響から抜け出しました。

「民生その他事業」が増益転換した要因は、北米高級スマホの新機種向けに手振れ補正式アクチュエーター(カメラの絞り機構)が伸びた事、外側にカメラが2個搭載されるデュアルカメラ搭載スマホが増加したこと(カメラ1個にアクチュエーター1個が搭載される)、中国スマホ向けAF(オートフォーカス)用アクチュエーターの増加などです。中国スマホでもアクチュエーター搭載機種が増えており、デュアルカメラ化も緩やかに進むと思われることから、当社にとって中国スマホは重要になっています。

一方で、高級スマホの中で2016年モデルは順調でしたが、2015年モデルが不調だった模様です(アルプス電気の見込みに対してです。後述のように村田製作所は逆の言い方をしています。会社によって市場の見方が違うためと思われます)。当社は当社製アクチュエーターの採用機種を公表していませんが、2016年9月発売の「iPhone7」シリーズは手振れ補正用アクチュエーターが標準装備され、「7Plus」(5.5インチ版)にはデュアルカメラが搭載されているため(手振れ補正用とAF用のアクチュエーターを搭載)、当社にとって重要な機種と思われます。ただし、今も販売中の「6s」シリーズ(2015年9月発売、4.7インチ版はAF用アクチュエーター、5.5インチ版は手振れ補正用、いずれも単眼カメラ)の販売が会社の見込みに対して振るわなかった模様です。

また、連結子会社のアルパイン(アルプス電気の車載情報機器事業)は、コストダウンと円安によって、3Q営業利益は前年比4.7倍の33億円になりました。

表1 アルプス電気の業績

表2 アルプス電気のセグメント別損益:四半期ベース

表3 アルプス電気のセグメント別損益:通期ベース

2017年3月期会社予想業績は円安要因で上方修正された

今3Qの結果を受けて、会社側は2017年3月期見通しを表1のように上方修正しました。通期営業利益は前回見通しの380億円から420億円に上方修正されました。

この上方修正は為替前提を見直したことによるものです。2Q決算時の下期為替前提は、1ドル=100円、1ユーロ=110円ですが、それに対して3Q実績は1ドル=109.30円、1ユーロ=117.78円、4Q会社前提は、1ドル=110円、1ユーロ=117円です。対ドル1円の円安で1月0.9億円、対ユーロ1円の円安で1月0.1億円の営業利益に対するメリットが発生します。単純計算では、上記の上方修正幅は円安メリットの合計以下になりますが、これは北米高級スマホで上述のような旧機種の売れ行き不振があったこと、電子部品の車載市場向けで輸送の遅れによる損失が発生していることなどによると思われます。

来期は通期で増益転換が予想される

2018年3月期は、アクチュエーターについては、中国スマホの拡大と2017年秋発売が予想される新型iPhoneの寄与が予想されます。新型iPhoneは、有機EL搭載機種が含まれると思われ、かなり評判になりそうと思われます。今期に投入した地磁気センサの伸びも期待されます。

また、電子部品の車載市場向けは懸案となっている採算向上が注目点。アルパインも今期の利益水準が更に伸びるかどうかが焦点となります。

来期は通期で増益転換が予想されます。引き続き投資妙味を感じます。

村田製作所

2017年3月期3Qは33%営業減益

村田製作所の2017年3月期3Q(2016年10-12月期)は前年比10.5%減収、32.7%営業減益となりました。2Q比でも1.0%増収ながら6.3%営業減益でした。1年前の2015年10-12月期は12月からアップルのiPhone減産が始まりましたが、2016年10-12月期は減産はありませんでした(2017年1月から季節的な減産が始まったと思われる)。

にもかかわらず、3Qが大幅減益となった理由は、第1に円高です(前3Qは1ドル=121.51円、今3Qは1ドル=109.35円)。対ドル1円の円高で年間約35億円の営業利益に対するデメリットが発生するため、3Qは単純計算で100億円超の営業減益要因が発生したことになります

第2に一部製品の大手スマホメーカー向けシェアが下がったことなどです(会社側は明言していないが、北米高級スマホ向けWiFiモジュールの納入シェアが下がった模様)。用途別売上高の「通信」向けは前年比20.0%減、製品別売上高の「通信モジュール」は26.7%減となり、WiFiモジュール減収の影響が大きかったことを示しています。

第3に、減収、操業度低下に伴い、操業度損が発生しました。

第4に、これはアルプス電気のコメントとは逆ですが、村田製作所の予想よりも「iPhone6s」向けの部品が多く、「7」向けが少なかった模様です。このため、従来型部品の販売が多くなり、これが利益の出方にネガティブに影響した模様です。

なお、当社がトップシェアを持つチップ積層セラミックコンデンサ、SAWフィルタは堅調でした。製品別の「コンデンサ」は前年比0.8%増、「圧電製品」(SAWフィルタが含まれる)は3.3%増でした。円高分を考慮すると前年比10%以上伸びたと思われます。DRAM、NAND型フラッシュメモリ、タッチパネルの品不足がある程度解消したため、中国スマホの生産が進み、当社部品の販売も増えた模様です。

表4 村田製作所の業績

グラフ1 村田製作所の用途別売上高

(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ2 村田製作所の製品別売上高

(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

2017年3月期通期会社予想は修正無しだが、今の為替レートが続けば上乗せも

会社側は、2017年3月期通期見通しを、為替レートの前提(4Qは1ドル=100円)も含めて修正していません。ただし、為替レートと中国スマホの状況を考慮すると、通期会社予想営業利益2,000億円に対して100億円程度の上乗せ余地があると思われます。

スマートフォンの新しい流れに向けた取り組みに期待

今年秋に予想される新型iPhoneについて、一部メディア等で伝えられている概要は、液晶パネル搭載機種として従来通り4.7インチ版、5.5インチ版がありますが、更に上級バージョンとして5.8インチの有機EL搭載版ができるというものです。各機種の性能、中身は不明ですが、カメラはデュアルカメラと単眼カメラの各々の機種が出来ると言われているようです。アップルは有機EL搭載版にかなり積極的であるという観測も出ているようです。

また、中国スマホではマルチバンド対応のための中身の高度化が続くと思われます。中国では2017年後半から5G(第5世代移動体通信)の投資が始まると言われているため、スマートフォンの5G対応も始まると思われます。低中級機種の中身が実質的に中級以上の中身になることもあると思われます。

このように見ると、村田製作所にとっての来期2018年3月期は、今期よりも中高級スマホの販売台数増加の恩恵と、スマホの中身の高度化(=単価の高い部品販売の増加)が期待できると思われます。

なお、ソニーから譲り受ける電池事業は4月上旬に買収が完了する見込みです。村田製作所がどのように電池事業を展開するのか注目されます。これについて、2月3日付け日経新聞は、韓国サムスン電子が今春発売する予定の新型スマートフォン「ギャラクシーS8」の充電池の調達について、村田製作所と協議を始めたと報じました。ソニー電池事業は現在赤字が続いていますが、これが実現すると、買収早々に黒字化あるいは赤字縮小の可能性が出てきます。

今3Q決算は振るわないものでしたが、来期に向けた好材料を考えると、引き続き投資妙味を感じます。

任天堂

2017年3月期3Qは4%営業減益

任天堂の2017年3月期3Q(2016年10-12月期)業績は、表5のように3.7%営業減益となりました。2016年11月18日発売の3DS用「ポケットモンスター サン・ムーン」が1,469万本(日本381万本、海外1,088万本)の大ヒットとなったため、3DS用ソフトは前3Q1,966万本から2,755万本へ増加しましたが、「サン・ムーン」以外のソフトは振るいませんでした。また、Wii Uビジネスは、ハード、ソフトともに大幅に減少しました。円高デメリットもありました。

スマホゲームでは、2016年12月15日(日本時間では16日)にiOS向けに「スーパーマリオラン」を配信開始しました。売上高の中の「スマートデバイス・IP関連収入等」の中に、スマホゲームの課金収入、ポケモンGOプラスの売上高などが入ります。この売上高は前3Q16億6,200万円から今3Q72億7,500万円に増加していますが、この増加分の中に「スーパーマリオラン」の課金収入が含まれていると思われます。「スーパーマリオラン」(買い取りで1,200円、9.99ドル)は、配信開始後4日で4,000万DL(ダウンロード)、1月31日時点で7,800万DLになりました。ダウンロードしたユーザーに対する課金率は推定5~10%です。課金率は傾向的に上昇している模様ですが、今の水準は会社側にとって想定以下と思われます(会社側は10%以上を目指しています)。

表5 任天堂の業績

表6 任天堂:各ハード、ソフトの販売台数、本数:四半期ベース

表7 任天堂:各ハード、ソフトの販売台数、本数:通期ベース

2017年3月期営業利益予想は下方修正された

2017年3月期通期の会社側営業利益予想は、前回予想の300億円から200億円に下方修正されました。今1-3Q累計営業利益は263億円なので、4Qは赤字になる見込みです。

2月2日に配信開始となったiOS版、アンドロイド版「ファイアーエムブレム ヒーローズ」は任天堂としては初めて課金システムに「ガチャ」(電子くじ)を導入しています。成否を見極めるには時間が必要ですが、出足とユーザーの初期評価は悪くないようです。また、3月に「スーパーマリオラン」のアンドロイド版の配信を予定しており、これは一定の課金収入が期待できると思われます。一方で、スマホゲームの「どうぶつの森」は来期に延期されました。

4Qの売上高で大きな比重を占めるのは、3月3日発売の「ニンテンドースイッチ」ハード、ソフトになります。ニンテンドースイッチは発売日予約分が売り切れつつあります。会社側は3月末までの出荷計画、ハード200万台を変更していませんが、増産したい模様です。ニンテンドースイッチハードは最初から黒字になる価格で販売しますが、立ち上げのマーケティング費用がかかるため、4Qは営業赤字になる見込みです。

引き続き投資妙味を感じる

ニンテンドースイッチ立ち上げのための自社製ソフトは、発売日2作(「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「ワン・ツー・スイッチ」)、春3作(「マリオカート8デラックス」「ARMS」「いっしょにチョキッとスニッパーズ」)、夏1作(「スプラトゥーン2」)、冬1作(「スーパーマリオ オデッセイ」)、2017年中に1作(「ゼノブレイド2」)と続きます。1月20日付けの本稿でも指摘しましたが、ニンテンドースイッチは今年冬に向けて成功する可能性が高いビジネスと思われます。

一方で、スマホゲームの現状は私の予想を下回っています。今後、訪問取材等を経て新たな業績予想を作成するつもりですが、任天堂のスマホゲームビジネスが軌道に乗るのは急には難しいかもしれません。

もっとも、スマホゲームがなくとも、ニンテンドースイッチが成功し、今後新興国展開も行うならば、来期以降は再成長が期待できると思われます。引き続き投資妙味を感じる銘柄です。

ソニー

2017年3月期3Qは映画事業の減損で54%営業減益

ソニーの2017年3月期3Q(2016年10-12月期)業績は、表8のように営業利益が923億7,200万円(前年比54.3%減)となりました。主な要因は映画部門で1,121億円の減損を計上したことです。これを除くと営業利益は2,044億円となり、前3Qの営業利益2,021億円とほぼ同水準となります。

表8 ソニーの業績

表9 ソニーのセグメント別営業利益:四半期ベース

表10 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

部門別動向

3Qの部門別実績と通期見通しは以下の通りです。

モバイル・コミュニケーション(MC)

スマートフォンの販売台数が前3Q760万台から今3Q510万台に減少しましたが、前3Qに比べて円高になったことによる円高メリット(MCは中国でスマートフォンを生産して日本に輸入するため円高メリットが発生します。ソニーは製品ごとに生産地と販売地が異なるため、円高メリット、デメリットの出方が部門ごとに異なります)、これまでの構造改革による費用削減などが効いて減益ながら黒字が維持できました。会社側は通期での黒字を目指しています。これまでの進捗は順調なので、通期の黒字化に期待したいと思います。

ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)

PS4ハード、ソフトが好調で、25%営業増益になりました。ソフトの好調さを考えると若干物足りない増益率ではありますが、PS4ハードの値下げによる利益減少要因があったためと思われます。PS4販売台数は前3Q840万台、今3Q970万台で、通期見通し2,000万台は維持されました(前期は1,770万台)。通期営業利益予想1,350億円も変更されておらず、ゲーム部門は引き続き当社の利益成長の牽引役になっています。

表11 ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)の売上高内訳

イメージング・プロダクツ&ソリューション(IP&S)

熊本地震によって高級一眼カメラ用イメージセンサーの供給が滞ったため、業績が悪化していましたが、イメージセンサー生産の回復とともに立ち直ってきました。通期会社予想も上方修正されました。

ホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)

3Qは、家庭用オーディオ・ビデオの市場縮小、液晶テレビ販売台数の伸び悩み(前3Q420万台、今3Q410万台)、事業の分社化費用や円高デメリットがあり、16.7%営業減益となりました。通期では、高付加価値モデル(4Kテレビ、有機ELテレビ)へシフトする効果が見込まれるため、会社予想営業利益は上方修正されました。

半導体

九州で生産して輸出するため円高デメリットはありましたが、スマートフォン向けイメージセンサーが大きく伸びました。昨年12月からのiPhone減産と今年3月の熊本地震によって赤字が続いてきましたが、3Q営業利益は黒字転換しました。通期見通しも上方修正されました。高級スマホ市場では、iPhoneだけでなく中国スマホでもデュアルカメラ化が進行すると思われます。当社にとっては事業拡大要因となります。

コンポーネント

前3Qに電池事業の減損を行った反動で今3Qの赤字は縮小しました。ただし、通期では予定よりも費用が膨らむと思われ、営業利益予想は下方修正されました。今年4月を目処に電池事業を村田製作所に譲渡します。

映画

映画製作において製作力が低下していること、従来予想していたよりもDVDが売れなくなっていることを反映して「プロダクション・アンド・ディストリビューション事業」の営業権1,121億円を全て減損しました(この営業権は1989年にコロンビア・ピクチャーズを買収した時に計上したものです)。このため、3Qは1,000億円を超える営業赤字となりました。なお、この減損に伴う現金の出入りはありません。

映画事業の建て直しが今後の経営課題となりますが、時間がかかると思われます。

音楽

スマホゲームの「Fate/Grand Order」の課金収入が好調で、前年同期に「アデル」の新作アルバムの大ヒットがあったにもかかわらず3Qは増益となりました(「Fate/Grand Order」はソニー・ミュージックエンタテインメント・ジャパンの子会社「アニプレックス」が製作・配信)。通期予想も上方修正されました。アルバム制作からゲーム配信まで事業の多様化が進んでおり、来期も高水準の利益が予想されます。

金融

今3Qは44.5%営業減益となりました。ソニー生命における一般勘定の運用益減少によるものです。通期会社予想は変更なしですが、下方修正リスクもありそうです。

今後の見通し

今4Qに持分法適用会社であるエムスリーの株式の一部売却によって372億円の売却益が発生します(表10の「その他」「全社及びセグメント間取引消去」に計上される)。上述のように、多くの部門で通期見通しが上方修正されたこともあり、映画部門の減損にもかかわらず営業利益見通しは前回予想の2,700億円から2,400億円に下方修正されただけでした。映画のみが問題ですが、ソニーの多くの部門は好調です。

来期もこの好調さが続くと思われます。特に、ゲーム部門と半導体部門の好調が予想されます。また、IP&S、HE&S、音楽の各部門が持続的に成長する可能性にも注目したいと思います。

一方でリスクもあります。まず、MCの損益が果たして安定的に黒字となるかどうか。金融は株式市場にある程度左右されます。また、映画は大作になるほど製作期間が長く、優良コンテンツの流れを作るには時間がかかります。そのため、映画部門の収益力回復には時間がかかると思われます。映画部門の今後3年程度の業績は低水準と予想されます。

来期2018年3月期の営業利益がどの程度になるか、表10で今期の延長線上で試算しました(表10の2018年3月期楽天証券試算)。これを見ると、来期は営業利益4,800~4,900億円が期待できると思われます。半導体の伸びが大きい場合は、5,000億円に届く可能性もありそうです。

引き続き投資妙味を感じます。

小野薬品工業

2017年3月期3Qは営業利益232億円(前年比2.9倍)

小野薬品工業の2017年3月期3Qは表12のように、売上高711億1,900万円(前年比68.9%増)、営業利益231億6,800万円(前年比2.9倍)となりました。

3Qのオプジーボ売上高は293億円で、1Q252億円、2Q281億円から緩やかに増加しています。

ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)からのロイヤルティ収入は、1Q(2016年4-6月期)43億円、2Q(7-9月期)44億円、3Q(10-12月期)102億円と増加しました。このロイヤルティ収入は、表13のBMSのオプジーボ売上高に対応したものですが、BMSの「その他」地域でのオプジーボ売上高2016年10-12月期5億9,500万ドル(この中にはアメリカ以外での地域(主に欧州)でのオプジーボ売上高のほかに、小野薬品がBMSに支払っているロイヤルティが含まれる)の中には、本来なら7-9月期までに計上すべきだったドイツでの売上高が同国での薬価収載によって推定約3か月分まとめて計上されています。フランスでの売上高も薬価収載によって数か月分がまとめて10-12月期に計上されています。

そのため、小野薬品が10-12月期に受け取ったロイヤルティが大きくなっていますが、この調子で今後も伸びるわけではないようです。2017年1-3月期は欧州での投与患者数の伸びを考慮しても102億円よりも減る可能性があります。

表12 小野薬品工業の業績

表13 オプジーボの売上高

2017年3月期通期の会社予想営業利益は前年比2.2倍の685億円へ

会社側は2017年3月期業績見通しを表12のように修正しました。1月21日に公表されたメルクとの和解に伴い4Qに計上される頭金6億2,500万ドルの小野薬品取り分25%(1ドル=112円換算で約175億円)から訴訟関連費用を差し引いた金額が「その他の収益」に計上される見込みです。その結果、今期営業利益は685億円になる見込みです。オプジーボの薬価引下げ(2月1日から半分になる)を織り込んだ前回予想の540億円から145億円の上乗せになります。

なお、会社予想通りだと、4Q営業利益は152億円で、メルクからの頭金を除くとほとんど利益が出ていないことになりますが、これは4Qは研究開発費、販管費などの支出が多い期であるためです。半値になってもオプジーボは黒字が続いている模様です。

2018年3月期、2019年3月期の楽天証券業績予想は、決算内容を精査した後で再度修正するつもりです。現時点での楽天証券予想(1月23日付け楽天証券投資WEEKLY、アナリストレポート「小野薬品工業」を参照)では、来期営業利益は650億円、EPSは94.3円ですが、BMSからのロイヤルティをやや過小評価しており、メルクからのキイトルーダに関するロイヤルティも算入していません。

キイトルーダの浸透には時間がかかる可能性も。株価の戻りに期待したい。

表14は、日本と海外の免疫チェックポイント阻害剤の売上高を並べたものです。2016年10-12月期にメルクのキイトルーダがアメリカで大きく伸びました。非小細胞肺がんファーストラインの寄与と思われます。ただし、アメリカでのオプジーボは伸びは止まりましたが7-9月期比で横ばいであり、大きく減ったわけではありません。キイトルーダを非小細胞肺がんファーストラインで使う場合はPD-L1発現率50%以上、セカンドラインで使う場合でも1%以上が投与条件になっており、患者の遺伝子検査の次にPD-L1発現率の検査を行う必要があります。しかしこれは時間がかかるため、遺伝子検査→化学療法剤→オプジーボという順序でセカンドラインでオプジーボを使う場合も依然として多いようです(今のところオプジーボを使う場合はPD-L1検査は必要ない)。

また、日本では厚生労働省が作成中の最適使用推進ガイドラインにおいて、オプジーボの投与時にPD-L1発現率の検査が求められることになりそうですが、義務ではなく、検査しない場合は理由を要求されるというものです。

これらの事情を考えると、日本でキイトルーダが浸透するには時間がかかる可能性があります。ちなみに、非詳細肺がんファーストラインでPD-L1発現率50%以上の患者はファーストライン対象者の約30%(推定9000人強)ですので、キイトルーダが急速に普及するならば、非小細胞肺がんにおけるオプジーボの普及にブレーキがかかりかねないことになるでしょう。

しかし、逆にキイトルーダの普及に時間がかかるのであれば、オプジーボは日本の免疫チェックポイント阻害剤の市場でトップシェアを維持しつつ、他がん種への適応拡大と非小細胞肺がんファーストラインの臨床試験であるCheckMate227試験の結果を待つ時間の余裕ができると思われます。なお、特許についてですが、小野薬品=BMSは抗PD-L1抗体(開発会社はロシュ=中外製薬、アストラゼネカなど)についても複数の特許を保有しています。抗PD-L1抗体が上市した場合、メルクに対して行ったような特許訴訟を起こす可能性があります。

当面はキイトルーダとオプジーボの動きを観察したいと思います。株価の戻りが期待できるという意見は変えません。

表14 免疫チェックポイント阻害剤の売上高

表15 小野薬品工業:オプジーボの累計投与人数(がん種別)