執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 選挙前の「もしトラ銘柄」と、選挙後の「トランプノミクス銘柄」は全く異なる。
  • 三大割安株がトランプノミクスで恩恵を受ける。
  • 過激発言復活でトランプノミクスのイメージが悪化するリスクには注意が必要。

(1)選挙前の「もしトラ銘柄」と、選挙後の「トランプノミクス銘柄」は全く異なる

米大統領選が実施される前、「もしトランプが大統領に当選したら上がる銘柄」(略して「もしトラ銘柄」」について、いろいろなレポートが出ていました。ただし、トランプ当選後に明らかになったトランプノミクス銘柄(トランプ次期大統領の経済政策で恩恵を受ける銘柄)は、事前の市場予想と異なります。

トランプ氏が、当選後に、選挙前の過激公約と正反対の発言をしているために、市場の反応も正反対となっています。

もしトラ銘柄・トランプノミクス銘柄の比較

選挙前のもしトラ銘柄 選挙後のトランプノミクス銘柄
金利低下メリット株 金利上昇メリット株     → 金融株
円高メリット株 円安メリット株       → 輸出株 
ディフェンシブ株 景気敏感株・資源関連株 → 資源関連株 ・ 重厚長大産業
防衛関連株 防衛関連株に疑問符

(注:筆者作成)

選挙前にトランプ氏は、「経済破壊者」「対外強硬策の実施者」と見られていましたが、選挙後のイメージは「米景気拡大策の強力な推進者」「外交では現実路線へ転換」に変わりました。また、選挙前に「共和党主流派と対立しているので大統領となってもリーダーシップを発揮できない」と見られていましたが、選挙後は「上院下院とも多数派を占めた共和党主流派を抱き込んで強い大統領となる」と変わりました。

このため、金利・為替の反応が、事前の市場予想とは正反対となりました。米景気回復の見通しが強まり、長期金利が上昇、為替はドルが全面高となりました。コモディティ市場では、銅・ニッケル・亜鉛などが急騰しました。その結果、上の表のように、メリットを受ける銘柄ががらりと変わりました。

評価がはっきりしないのが、防衛関連株です。選挙前には、「国防を米軍に依存する国にタダ乗りはさせない。日本に駐留米軍経費の大幅な負担増を求める。応じなければ米軍を日本から撤退させる」「米国の防衛費を拡大する」と言っていました。米大統領が対外強硬策を取ることで国際的な緊張が高まり、世界的に軍事費の拡大競争が起こるイメージを持たれていました。

ただし、トランプ氏は当選後に「すべての国と仲良くし良好な関係を築きたい」と発言を翻しています。選挙前の過激公約のかなりの部分が、選挙のためのパフォーマンスであった可能性があります。果たして本当に世界的な軍拡競争を起こすような緊張を生み出すのか、現時点で不明です。

(2)三大割安株がトランプノミクスで恩恵を受ける

本レポートで「三大割安株」と呼んで注目してきたのが、以下です。

三大割安株

  割安に放置されていた背景 選挙後に見直された理由
金融株 マイナス金利への不安 世界的に長期金利が上昇
輸出株 円高への不安 円安が急進
資源関連株 資源バブル崩壊の不安 銅・ニッケル・亜鉛などが急騰

(注:筆者作成)

この三大割安株が、現時点で、トランプノミクス銘柄として上昇しています。中でも、金融株の上昇率が特に高くなっています。3メガ銀行など金融株は、株価上昇でやや配当利回りが低下しましたが、なお十分に高い利回り水準にあり、ここからさらなる株価上昇が期待できると考えています。

(関連レポート)10月17日「好配当利回りの金融株を見直し」

実際、ここまでのトランプ・ラリーでの上昇率は、金融株が一番高くなっています。

主な三大割安株のトランプ・ラリーでの上昇率

コード 銘柄名 種別 株価:円
11月15日
トランプラリー
での上昇率
配当利回り
11月15日
8306 三菱UFJ FG 金融株 643.0 28% 2.8%
8316 三井住友FG 金融株 3,981.0 19% 3.8%
8411 みずほFG 金融株 187.3 13% 4.0%
8766 東京海上HLDG 金融株 4,669.0 21% 2.9%
8750 第一生命HLDG 金融株 1,760.5 24% 2.3%
8591 オリックス 金融株 1,753.0 13% 2.9%
6501 日立製作所 輸出株 586.4 15% 2.0%
5108 ブリヂストン 輸出株 4,154 11% 3.4%
7203 トヨタ自動車 輸出株 6,064 10% 3.3%
7270 富士重工業 輸出株 4,177 17% 3.4%
6902 デンソー 輸出株 4,780 14% 2.5%
8058 三菱商事 資源関連株 2,485.5 11% 2.4%
8031 三井物産 資源関連株 1,530 12% 3.3%

(注:トランプ・ラリーでの上昇率は11月9日から15日までの株価上昇率、筆者作成)

(3)過激発言復活でトランプノミクスのイメージが悪化するリスクには注意が必要

トランプ次期大統領の選挙後のあまりの豹変ぶりに、金融市場はまだ半信半疑です。そのうちに暴言が復活して、イメージが悪化するのではないかとの不安がぬぐえません。

日本株にとって大きな影響があるのは、為替・金融政策についての発言です。選挙前、トランプ氏は、ドル高(円安)を批判し、利上げを進める米FRBも批判していました。

今、トランプノミクスへの期待から、長期金利が上昇、ドル高(円安)が進んでいます。トランプ氏は、金利上昇・ドル高を許容するのでしょうか。もしトランプ氏から、「こんなドル高(円安)は許容しない」「米FRBの利上げは許さない」などの発言が出ると、円高に反転するリスクが高まります。

果たして12月13-14日のFOMC(米金融政策決定会合)で利上げはできるのか?今の為替市場は、米金利の上昇によって、12月に利上げが実施されることを織り込んで、ドル高(円安)が進んでいるように思われます。FOMCが近づくにつれ、トランプ氏が、金融政策についてどんな発言をするか、緊張感が高まると思います。

日本株は、世界景気の回復期待が高まったことで、上昇トレンドに入りつつあると考えています。ただし、トランプ発言をめぐって短期的に急落することは、これからもあるでしょう。トランプノミクス相場は、荒れながら上昇していくと見ています。