日銀金融政策決定会合・政策金利発表、米連邦公開市場委員会(FOMC)・政策金利発表---今年後半最大の同時開催注目イベント開催前の1週間は、マーケットがブラックアウトしたように全く動意を見せず、日米の金融政策の結果をじっと見守っている状況でした。米FRBは年内利上げをするのかどうか、来年の利上げの回数はどうなるのか、日銀に対しては、ECBが腰砕けとなった後は最後のアンカーとしての期待が大きいですが、「検証」後に果たして政策姿勢の不透明感が払拭されるのかどうか注目されています。これらの期待と思惑が交錯し、結果が同日に発表される21日当日は、昼ごろから深夜、早朝にかけてマーケットの乱高下が予想されます。乱気流に飲み込まれることなく、治まってから次の方向性を探るのが得策かもしれません。

日米欧の現在の金融政策が出そろい、それでも各国の方向性に不透明感(「現状をなかなか認めず、結論を出すのを先延ばしにする」と言い換えてもよいかもしれません)が残っている場合、各国中銀は景気に対して慎重姿勢だということがわかります。今後の政策は経済指標次第ということになると、年内はこのまま調整相場、気迷い相場が続くかもしれません。

世界の景気が良いのか悪いのか、あるいは停滞状態が続くのかどうか、今後の大きな流れを考える上では、やはり世界景気の動向が最も気になるポイントとなります。7月に公表されたIMFの世界経済見通しは、2017年は3.4%と2016年の3.1%よりも上向きの予測となっています。しかし、気になるのは4月予測時点よりも今年も来年も下方修正されていることです(「英国の経済見通し(インフレレポート)」参照)。今年より来年の方が景気は上向くが、四半期ごとに下方修正されている状態が続くと、なかなか景気に対しては強気にはなれません。

南米で史上初めて開催されたブラジルのリオデジャネイロ・オリンピック、パラリンピックは無事閉幕となりました。陸上の男子400mリレーは、バトン技術によって銅メダルを獲得した走りにわくわくしましたが、同時に「技術立国」日本を重ね合わせて観ていました。やはり、日本は卓越した技術をベースにチーム力で世界に対抗していくしかないなと再確認しました。

さて、「五輪後不況」という表現があります。元の意味は、経済成長が順調に進んでいた国がオリンピック開催に向けて建設ラッシュとサービス向上に励むため景気が良くなるが、しかし、オリンピックが終わった後は、その頑張りに一息入れるか、あるいは順調な成長経路に戻ることから、オリンピック前よりも不況になるという現象のことを意味します。

この表現が最近注目されたのは2004年のアテネ・オリンピックでした。開催1年後は景気が減速しますが、その後盛り返します。しかし、財務が粉飾だったことがわかり債務危機が表面化されると一気に景気が悪化しました。このオリンピック開催国の経済不振が、ブラジルにも起こるのではないかと数年前から注目されていました。ところが、今回はもっと状況が悪いようです。開催の数年前から減速傾向になり、1年前にはマイナスの成長となりました。しかも、3%を超えるマイナスで、今年も3%台のマイナス予測となっています。建設ラッシュやその追い上げはTVなどで見ていましたが、3%のマイナスは驚きです。2年後以降の予測でも、かつてのような勢いは見られないようです。負の遺産だけが残り、景気が更に悪化しなければよいのですが。

下表は、1984年以降のオリンピック開催国のGDP成長率の推移を表しています。開催5年前と開催5年後までのGDP成長実績と予測をIMFデータから抽出しました(1964年東京オリンピックは参考値)。

オリンピック開催国のGDP成長率、開催5年前から5年後、%)

出所:IMF、1964年東京オリンピックは参考値

上表をみると、必ずしも「オリンピック不況」が起こっているわけではないようです。オリンピックをばねにして、見事に高成長を続けた典型例が1964年の東京と1988年のソウルオリンピックでした。2008年の北京オリンピックは、リーマン・ショックの年ですが、大規模な財政出動によって跳ね返しました。しかし、数年経つとそのつけが回り、現在は6%台とピークの半分以下の成長となっています。ロンドンオリンピックは、開催前も後もあまり成長力は変わりませんが、2%台の低成長となっています。そして2017年にはEUに対して離脱の通告を行う予定のため、イギリス経済は、この予測よりも悪化する可能性が高そうです。日本はどうでしょうか。1%を割る低成長の予測が続いています。オリンピック予算も削減の方向で進んでいるため、前回の東京オリンピックのような景気の盛り上がりはみられないかもしれません。前回は高度経済成長時代であり、世界経済全体も成長の時代でしたが、2000年以降、大きな枠組みが変わったため、オリンピックの事業規模だけでは成長の牽引力にならないのかもしれません(「世界経済の大きな流れ)。

「2000年以降、世界の枠組みを変えた世界経済の大きな流れ」

  • 1999年 ユーロ創設
  • 2000年 米国ITバブル崩壊
  • 2001年 米国9.11テロ
  • 2005年 米国住宅バブルピーク
  • 2007年 米国サブプライムローン問題、パリバショック
  • 2008年 リーマン・ショック
  • 2010年 ギリシア・ショック
  • 2011年 欧州債務問題表面化、アラブの春
  • 2016年 欧州難民問題、テロ多発、英国EU離脱決定

各国政府は、サブプライム問題、欧州債務問題を解決するために大規模な財政出動と金融緩和によって対応してきましたが、問題の根本が解決されないまま、財政政策も限界にきている状況です。そのため金融政策で異次元緩和(2013年、アベノミクス)や日欧のマイナス金利導入によって対応してきましたが、その効果と副作用が議論され始めてきました。

日米欧金融政策の次の一手、それが為替変動の最も大きな要因になるのか、あるいは金融政策も限界にきており、各国の金融政策は変動要因としては一要因としかならない状況になるのか、マーケットでは景気の先行きをみながら次の大きな要因を探している段階のようです。