GDP改定値

以前掲載した「GDP(Gross Domestic Product 国内総生産)」では日本の4-6月期GDPを例にとって、GDPの内訳の話をしました。このGDPは内閣府によって四半期毎に発表されますが(四半期最終月の1か月半後に発表されると覚えると便利です。4-6月期は、8月中旬発表となります)、このGDPの数字は速報値で、その後改定値、確定値と発表されるという話もしました。そしてこれらの数字の修正が、上方修正や、下方修正、あるいはその修正が予想よりも大きいか小さいかによって株式市場や為替市場が反応するため、これらGDPの改定値や確定値は注目しておく必要があります。

9月8日、内閣府は8月17日に発表された日本の4-6月期GDPの改定値を発表しました。速報値は実質年率▲1.6%(前期比▲0.4%)でしたが、改定値は実質年率▲1.2%(前期比▲0.3%)と上方修正されました。しかし、マーケットは内容が悪いとの見方から、株は売られ、ドル円も円高の動きとなりました。全体の数字だけではなく、内容もじっくり見ないとマーケットの動きを予測できないケースです。改定値の内訳を見てみます。

日本4-6月期GDP成長率の変化
(前期比、民間在庫はGDPへの寄与度)

2015/4-6
(%)
速報値
(8/17)
改定値
(9/8)
実質成長率
(年率)
▲0.4 ▲0.3
▲1.6 ▲1.2
個人消費 ▲0.8 ▲0.7
住宅投資 1.9 1.9
設備投資 ▲0.1 ▲0.9
公共投資 2.6 2.1
輸出 ▲4.4 ▲4.4
民間在庫 0.1 0.3
名目成長率
(年率)
0.0 0.1
0.1 0.2

内容を見てみますと、個人消費は▲0.8→▲0.7とわずかながら0.1増え上方修正となっていますが、設備投資が▲0.1→▲0.9と0.8のマイナスとなり、大きく下方修正されています。公共投資も2.6→2.1と0.5のマイナスとなり下方修正されています。下方修正された項目が多いのに、全体のGDPが上方修正されたのは、民間在庫が0.1→0.3と上方修正されたことが大きな要因となっています。民間在庫が増えるとGDPに対しては押し上げ要因として働きますが、在庫増の内容が問題となります。今回の在庫増加の背景は製造過程前の原材料段階で在庫が増えていたり、また、個人消費が伸び悩むなかで、商品が売れなくなって在庫として倉庫に積み上がっていることが背景のようです。民間在庫とは、個人が消費してお金を払う代わりに企業が在庫としてお金を払っていると考えるとわかりやすいかもしれません。しかし、現実には消費や輸出が伸び悩む中では(今回のGDPのマイナス項目)、今回の在庫増加は前向きな話ではないことになります。

民間GDP予測と法人企業統計

為替相場を予測する過程で経済指標に注目しますが、その中でもGDPの民間予測は、よく新聞などに掲載されているため、注目しておくと役に立ちます。
今回のGDP改定値の発表前にも予測記事が出ています。民間調査機関10社の予測によると、9月8日発表の4-6月期GDP改定値は、速報値と同じ▲1.6%と予測しています。この予測には、GDP改定値が発表されるその月の初旬に発表される法人企業統計の調査結果が反映されています。法人企業統計は、財務省が四半期毎に資本金1,000万円以上の企業に対して、その企業活動の実態を把握する調査です。より詳細なデータが把握できるため、内閣府が発表するGDP改定値の設備投資や在庫に反映されます。民間会社は、この法人企業統計を参考にして、GDP改定値の予測を修正して発表します。
つまり、GDPの改定値については、改定値が発表される月の初旬に発表される法人企業統計に注目すると(この記事も掲載されます。あるいは財務省のHPで閲覧できます)、改定値の方向性を予測することが出来ます。その後、民間の予測記事をみれば、GDP改定値発表前に準備が出来ることになります。上方修正されれば、株価が上昇し、ドル円も円売りに反応する、あるいは下方修正されれば、株価が下落し、ドル円も円買いに反応すると予測しておくことが出来ます。
今回の民間会社の予測は、法人企業統計による設備投資の弱さと、在庫調整の遅れによる在庫増がGDP押し上げ要因になると予測し、差し引き同じの▲1.6%と予測したようです。しかし、蓋を開けてみると、設備投資の減少幅も大きく、民間在庫の寄与度が予想よりも大きかったことから予想が外れ、GDPは上方修正されました。

7-9月期GDP予測

4-6月期GDPは全体では上方修正されましたが、内容は悪化したとの見方となっています。それでは、次の7-9月期のGDPはどうなるでしょうか。GDP改定値発表日の前日9月7日に日本経済研究センターが民間エコノミスト41人の経済予測調査を発表しています。これによると、2015年7‐9月期の実質GDPの平均予想は、前期比年率で+1.67%と予測しています。マイナスだった4-6月期からプラス成長に戻る見通しですが、8月の前回調査(+2.48%)からは下方修正となっています。中国の景気減速を背景に輸出の伸びが弱くなるとの予想ですが、更に中国経済が減速し、消費低迷が続くと、マイナス成長になる可能性があるとの見方をするエコノミストもいます。プラスとマイナスとでは大きな違いがあります。今後発表されてくる消費動向、中国経済と日本の輸出動向、そして企業の設備投資動向、これらは今回発表されたGDPのマイナス項目ですが、これら項目がどのような展開になっていくかを注目していく必要があります。

2015年GDP 公表予定日 公表時刻
7-9月期1次速報 11月16日(月) 8時50分
7-9月期2次速報(改定値) 12月8日(火) 8時50分
10-12月期1次速報 2月15日(月) 8時50分
10-12月期2次速報 (改定値) 3月 8日(火) 8時50分