老後にダブルパンチ~年金改正は給付減、消費税増などは負担増

老後の資金準備は、かなり真剣にならないと追いつかない恐れが高まっています。今回は「なんとなく」老後資金準備をしていてはダメだという話をします。

毎日ニュースを賑わせている話題の代表格が「年金改正」と「消費税増」です。最近は税と社会保障の一体改革なんていう言葉もあるようにセットで語られることも増えています。

こうしたニュースを聞くと、私たちは「目の前の保険料負担増」とか「目の前の消費税増」が家計に与える影響を考えてしまいます。確かに保険料の負担が増えることや消費税増は毎月の手取りを減らす要因であり、家計に与える影響も大きいものがあります。

毎月の消費支出(税金や社会保険料を除く出費)が、仮に30万円であったとしたら、5%の消費税はそのうち14,286円になっています。もし消費税が10%になったとして、収入に変化がなければ、同じ30万円を使い切るとすれば27,273円が税金ということになります。つまり実際に買い物できる金額は28万5,714円(消費税5%)から、27万2,727円(消費税10%)に下がるということです。毎月1万3,000円も手取りが下がるということを考えていかなければならないわけです。これはけっこう厳しい話です。

しかし、ここで発想を止めてしまってはいけません。実はこうした見直しのほとんどが、将来の老後の家計にも直撃するからです。

老後の年金収入は消費税増だからといって上がりません(毎月4~6万円程度の低年金者への加算をする可能性はあるが)。総務省家計調査によれば、年金生活をする夫婦の消費支出は、23.4万円です。今なら5%の消費税はそのうち11,143円です。ところが消費税が10%になったとき、年金収入は同じだとすれば、21,273円が税金ということになります。つまり実際に買い物できる金額は22万2,857円(消費税5%)から、21万2,727円(消費税10%)に下がるということです。
現役時代も大変ですが、年金生活に入ってからも毎月約1万円手取りが下がることを前提に、老後のやりくりを考えていかなければならないというわけです。

毎月1万円といっても、老後を20年と考えれば240万円を取り崩す必要がありますし、将来消費税が15%にでもなれば、さらに必要な額が増えます。これはかなりの不安要因です。

しかも、老後の出費がかさむ要因は消費税だけではありません。医療費の自己負担や介護保険の自己負担が値上がりすることも十分に考えられます。年金給付も将来もらうときの水準が今より下がる可能性を考慮していくべきでしょう。

老後のためのお金の準備、というのはよりハードルが上がっているというわけです。

いくらぐらい上積みすれば老後に足りるか

それでは、具体的にどのくらいの上積みを考えておけばいいでしょうか。
以前、標準的な水準としては、3,000万円を老後のための目標とすることをご紹介しました(老後資金は3,000万円で本当に足りるか考えてみる)。
必要に応じて上方修正したほうがいいこともお話しています。3,000万円という目標には、老後のインフレや消費税増も一応見込んでいますが、そこからそれぞれどれくらい水準アップすればいいでしょうか。

1 消費税増に備える老後資金準備増

先ほど消費税増に備える試算をしてみましたが、5%のアップで240万円は老後資産を多く必要とすることになります。これは公的年金に不足する分の穴埋めです。
手持ちの資金についても、消費税増の影響を受けますから、同様のベースアップが必要です。例えば、毎月の生活費に5万円×20年の老後資金(1,200万円)を確保したつもりでいたなら、生活水準維持のために約57万円の上積みが必要です。あまり厳密に計算する必要はありませんが、消費税増と同率くらいは準備額を増額する必要があるでしょう。

また、定年退職の頃にもし、消費税10%を超える話題が出てきたとしたら、年金生活を20年も過ごすうちに実現することは間違いありません。2回分の消費税引き上げを考えれば、ベースアップもさらに上方修正が必要です。
20年先をにらめば、やはり消費税15%はありうるのではないでしょうか。であれば、少なくとも消費税だけで1割は準備額を引き上げておく必要があります。

2 医療費等自己負担増に備える老後資金準備増

次にやっかいなのが、医療費負担等の増加です。かつては高齢者の医療費は無料でしたが、現在1割負担になり2割負担を目指しています。高所得者は年金生活者でも3割負担を求めており、将来においては、現役と同様の負担になることが予想されます。

医療費は実際にどれくらいかかるか、そのときにならなければ分からないのが悩みですが、現在の備え(以前紹介した老後資金3,000万円の例では1,000万円くらいを確保したい、としています)では不足することは十分に考えられます。
医療費には上限が設定されるため、無制限に負担が拡大することはないでしょうが、今より数割程度の増加は見込んでおきたいところです。

3 年金給付減に備える老後資金準備増

最後に年金給付減です。安易な破綻論者に与する必要はまったくありませんが、年金給付水準を引き下げることで制度全体の存続を図ることは考えられます。あるいは受給開始年齢を引き上げることもありえます(ちなみに、こうした引き下げの実施はむしろ制度破綻を遠ざけるので年金破綻論者が実施を反対することは矛盾しています)。

年金受給開始年齢については雇用可能年齢の引き上げと同期を取ると考えられるのであまり心配ありません(労働者人口の減少を考えれば実現はほぼ間違いない)。
気にするべきは水準の引き下げでしょう。しかし、これも現行の半分にするようなことは考えにくく、せいぜい2~3割で打ち止めになるものと思われます。おそらく、年金給付減より、消費税等の引き上げで実質的負担減を取ると思われるので、年金減はもっと少ないかもしれません。

仮に23万円程度の年金水準(夫婦のモデル例)が2割下がるとすれば、毎月5万円程度の不足になります。老後を20年と概算すれば1,200万円、老後の資金が追加になる、というイメージです。

備えられる余裕のあるうちにもっと備えよう

前回の老後資金準備額の検討では約1,000万円を年金給付減や消費税増、医療費自己負担増に備えるバッファーとしていましたから、全額を老後の目標額に上積みする必要はありませんが、今までのモデルでは不足する可能性は考えておく必要が高まっています。

今回の話題は、あまり前向きになりにくい結論で恐縮ですが、「老後の備えはできうる限り、取り組むべき」ということになります。少なくとも「なんとかなるさ」は禁物です。

「なんとかなるさ」は、実は「なんとかするしかないさ(今ある範囲で)」という意味だからです。実際に年金生活に入った人は「なんとかなるさ」でいいですが、まだ若い世代はこの言葉を封印したほうがいいと思います。

今行っている定期預金の積み立てだけでは追いつかない可能性もありますから、ここは運用の力も借りて老後の資金をどんどん貯めて増やす意識を持ちたいところです。
老後資産運用については、今後とも積極的に考えていきましょう。

年金改正、消費税増を意識した老後資金準備枠