たった10銘柄で日経平均株価の30%が動く

前回のコラムの最後で、算出方法から浮かび上がってくる日経平均株価の特徴を宿題といたしました。その答えは、「株価の高い値がさ株の影響を大きく受ける」という点です。

みなし額面による調整を行った後でも、銘柄によって株価は大きく異なります。2月3日の株価はファーストリテイリング15,440円、ファナック12,570円に対し、新日鉄は188円です。

日経平均株価の計算式の分子は225銘柄の株価を足し合わせているわけですから、新日鉄株が2倍の376円になるのと、ファーストリテイリング株がわずか188円(1.2%)上昇するのとで、日経平均株価に与える影響は同じなのです。

日経ヴェリタス2012年1月22日号59ページによると、ファーストリテイリング株は日経平均株価に対して6.71%、ファナック株は5.96%の影響を与えることが分かります。つまり、ファーストリテイリングとファナックのたった2銘柄で日経平均株価へ12.67%もの影響度を及ぼすのです。そして、影響度上位10銘柄の合計は31.1%にもなります。1,600銘柄以上が上場している東証1部銘柄のうち、わずか10銘柄だけで日経平均株価の3分の1に影響を及ぼしているというのはちょっとびっくりですね。

実際に投資していると、日経平均株価が大きく上昇したにもかかわらず、自分自身の持ち株の株価は一向に上昇しない、ということがよく起きますが、それは日経平均株価への影響度の高い一部の値がさ株のみが大きく上昇したから、ということが多いのです。

東証1部全銘柄を計算対象としているTOPIX

では、日経平均株価ほど特定の銘柄の影響を大きく受けず、日本株全体の動きをより正しく表す指数はないのでしょうか。そこで登場するのが日経平均株価と並び代表的な株価指数であるTOPIX(トピックス、東証株価指数)です。

日経平均株価は大きく上昇しているのに持ち株は全然上がらない、というときはTOPIXもチェックしてみてください。すると、TOPIXの上昇率が日経平均株価の上昇率よりかなり低い場合が多いことが分かります。

TOPIXは、東証1部上場の全ての銘柄の「時価総額の変化」を指数で表したものです。時価総額とは「株価×発行済み株式数」で計算される金額のことです。

TOPIXは基準時点(1968年1月4日)の時価総額を100とした場合、現時点での時価総額がどのくらいになっているかを示しています。そのため、日経平均株価のように「~円」ではなく「~ポイント」という単位で表します。

日経平均株価と違い、TOPIXは東証1部上場の全ての銘柄を対象として計算されています。そのため、日経平均株価への影響度の高い値がさ株よりも株価の低い中低位株を好む傾向にある個人投資家の実感により近いものとなります。

時価総額の大きい銘柄の影響を強く受けるTOPIX

ただ、日経平均株価よりも相場全体の値動きをよく表しているとはいえ、TOPIXにも限界があります。

TOPIXは、東証1部上場の全銘柄の浮動株の時価総額の合計が基準時点と比べてどの程度変化したかをみるものです。そのため、銀行株など時価総額の大きい銘柄にどうしても値動きが左右されてしまいます。

例えば、東証1部上場であっても日経平均株価に採用されず、時価総額の小さい銘柄(いわゆる中小型株といわれる銘柄)は、株価がいくら上昇しても日経平均株価には全く影響を与えませんし、TOPIXに与える影響もわずかです。

東証1部上場以外の銘柄(東証2部、大証、ジャスダック、マザーズなど)に至っては、日経平均株価はもちろんのこと、TOPIXに対しても全く影響を及ぼしません。

ここ最近、株価が低位の中小型株の乱舞が続いていますが、この間日経平均株価、TOPIXとも小動きであったことと対照的です。多くの中小型株が大きく上昇したにもかかわらず日経平均株価やTOPIXが前日比マイナスの日もありました。日経平均株価やTOPIXには、中小型株の急騰がほとんど反映されていなかったことがよく分かります。

あくまでも銘柄ごとの業績や株価のトレンドで判断

そこで、個別銘柄に投資する際は、日経平均株価やTOPIXをみて判断するのではなく、銘柄ごとに業績をチェックしたり、株価のトレンドをみて売買の判断をしていく必要があります。

日経平均株価やTOPIXは、2月3日時点ではやっと少し頭をもたげて上昇してきたかな? という程度で本格的な上昇トレンドにはまだまだ程遠い状態です。その一方、個別銘柄では大きく上昇して中長期的な上昇トレンド入りしているものが数多く出ています。

もし、日経平均株価やTOPIXだけを見て、「まだ上昇トレンドには至っていないのでもう少し様子を見よう」と考えていたら、こうした個別銘柄に本格上昇前の安い株価で投資するチャンスを逃していることになります。

相場全体が上昇トレンドにないときはできるだけ慎重に

とはいっても、日経平均株価やTOPIXが上昇トレンドのほうが個別銘柄も上昇しやすいことは確かです。当たり前のことですが日経平均株価やTOPIXは個別銘柄の株価の動きを合計したものだからです。

そこで、1つの戦略として、筆者であれば次のような方法を取ります。基本的には個別銘柄ごとの業績や株価のトレンドに基づいて売買を判断します。しかし、日経平均株価やTOPIX(特にTOPIX)のトレンドも重視し、これらが下降トレンドにある場合は無理のない範囲(例えば投資可能資金の20~30%)で株価が上昇トレンドにある個別銘柄に限って投資するようにします。日経平均株価やTOPIXが上昇トレンドに転じたら投資資金を増加させるなど強気に転じます。

個別銘柄へ投資する際には、日経平均株価やTOPIXは、相場全体の「温度」を測るモノサシとして活用するのがよいでしょう。日経平均株価やTOPIXが上昇トレンドなら強気、逆に下降トレンドなら慎重に、という具合です。

多少内容的には重複しますが、今回のコラムに関連したものを、以前コラムで書いてありますので、そちらも合わせてご覧いただくとより理解が深まると思います。特に第6回でご説明している「NT倍率」は知っておくときっと役立つはずです。

なぜ日経平均株価が上昇しても自分の持ち株は上がらないのか

NT倍率で市場のトレンドを探ろう