三菱UFJ・三井住友の「買い」継続

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下「三菱UFJ」と表記)、三井住友フィナンシャルグループ(以下「三井住友FG」と表記)の2社について、筆者は2019年以降、一貫して「強い買い推奨」を継続してきました。その投資判断は今も変わりません。

【告知事項】みずほフィナンシャルグループ(8411)は投資判断の対象外
楽天証券は、みずほFGの子会社であるみずほ証券の出資(49.0%)を受けている。そのため、みずほFGは投資判断の対象外。筆者は三井住友FG株を5,000株保有。

 三菱UFJ、三井住友FG2社の「買い」推奨を継続する理由は以下4点。

【1】2社とも金利上昇で利ザヤ拡大・2期連続で最高益更新の見通し

 欧米でも日本でも長期金利上昇の恩恵で、2社とも預貸金利ザヤ(貸付金利と預金金利の差)が拡大し、今期(2025年3月期)の連結純利益は2期連続で最高益更新の見通しです。

 2社とも、国内商業銀行業務は、長年にわたり長期金利をゼロ近辺に固定する日本銀行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策で大きなダメージを受けてきましたが、日銀が3月にYCC政策を撤廃し、さらに7月に利上げを実施したことが追い風となります。

【2】2社とも配当利回りの高いバリュー(割安)株であること

 2社とも近年、株価が大きく上昇しました。それでも現時点の株価で見て、PER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)が低く、配当利回りが高いバリュー株であることに、変わりません。両社とも株価割安という判断は変わりません。

【3】2社とも海外事業拡大・ユニバーサルバンク経営によって低金利でも安定的に高収益をあげるビジネスモデルが出来上がっていると考えること

 2社の近年の株価上昇は、金利上昇の恩恵を評価する動きです。ただ、2社の評価ポイントはそこだけではありません。2社は、低金利下でも安定的に高収益をあげるビジネスモデルが出来上がっていると判断しており、金利動向にかかわらず長期的な投資価値が高いと考えています。

【4】2社とも、株主への利益還元に積極的であること

 2社とも、継続的に増配・自社株買いを行ってきていることが、高く評価できます。

2024年4-6月期の業績、金利上昇で好調

 三菱UFJ、三井住友FGが8月初に発表した、2024年4-6月期(2025年3月期第1四半期)決算は好調でした。金利上昇の恩恵で預貸金利ザヤが拡大しました。

三菱UFJ、三井住友FGの2024年4-6月期純利益・業務純益

出所:両社決算資料より作成

 三井住友FGは過去最高益でした。三菱UFJは、前年同期(2023年4-6月期)の純利益が一時的な会計上の利益で大きくなっていた影響で、前年同期比0.4%の減益でした。ただし、特殊要因【注】を除くベースでは、551億円(約11%)の増益で、実質的に最高益でした。

【注】三菱UFJ純利益の特殊要因
三菱UFJの前年同期の純利益には、持分法適用会社モルガンスタンレーの持分法適用期間変更の影響で約795億円の一時的会計上の利益が含まれていました。また、同社の今4-6月期純利益には、アユタヤ銀行の決算期変更による一時的利益約218億円が含まれています。両要因を控除すると、同社の今4-6月期利益は551億円の増益となります(出所:三菱UFJ決算説明資料)。

 一時的な会計上の損益影響を除く、銀行業の本業に近い利益の変化は、業務純益に表れています。業務純益で見ると4-6月期、三菱UFJは約22%増益、三井住友FGは約31%の増益でした。金利上昇による預貸金利ザヤ拡大により業務純益が拡大した好調な決算でした。 

 2社とも通期純利益で最高益を更新する予想です。第1四半期決算を発表後、通期の業績予想は変更していませんが、第1四半期純利益の、通期予想に対する進捗(しんちょく)率は三菱UFJが37%、三井住友が35%と高めの進捗です。通期業績予想は上方修正含みと考えています。

三菱UFJと三井住友FGの2025年3月期純利益(会社予想)

出所:両社決算短信より作成

2社とも株価割安のバリュー株

 過去3年、三菱UFJと三井住友FGは株価が大きく上昇しました。

2社の株価上昇率:2021年・2022年・2023年・2024年(8月26日まで)

出所:楽天証券作成

 それでもなお、株価指標で見て極めて割安なバリュー株であることに変わりありません。株価が割安な好業績株として「買い」判断は変わりません。

 8月26日時点で、以下の通り、PER・PBRが低く、予想配当利回りが高い、バリュー株です。

2社の株価バリュエーション:2024年8月26日時点

出所:両社決算資料より楽天証券経済研究所が作成。配当利回りは2025年3月期会社予想ベース1株当たり配当金(DPS)を8月26日株価で割って算出。DPSは、三菱UFJ50円、三井住友FG330円。三井住友FGのDPSは10月1日の株式分割を考慮して調整

2020年まで金利低下を嫌気して過度に売り込まれていた

 三菱UFJ、三井住友FGの株価は2021年以降大きく上昇しましたが、それでも株価指標で見てなお割安です。2020年まで、金利低下を嫌気して株価が長期にわたり低迷していたからです。日本および世界の金利低下を嫌気して売り込まれていました。それが、2021年以降、世界的な金利上昇を好感して、株価が急上昇しています。

日経平均株価、三菱UFJ、三井住友FG株価の動き比較:2007年1月~2024年8月(26日まで)

出所:楽天証券作成

 三菱UFJ・三井住友FG株とも金利低下が続いた2020年まで、日経平均株価を大幅に下回るパフォーマンスとなっていました。株式市場で「金利低下→銀行(金融業)の収益悪化」というイメージが定着していたので、金利が低下する都度、世界中で銀行株が売り込まれ、その流れで両社とも売り込まれました。

日米の長期金利(10年国債利回り)推移:2007年1月~2024年8月(26日)

出所:QUICKより作成

 2021年以降、世界的に金利が上昇し始めると、銀行株が一斉に買われて上昇しました。日本のメガ銀行株も上昇しました。

金利が低下していた時でも高水準の利益を維持

 三菱UFJ、三井住友FGとも、金利低下期でも、安定的に高収益を稼いできました。「金利が下がると銀行の収益が悪化する」というイメージは、この2社には当てはまりません。

三菱UFJ、三井住友FGの連結純利益:2014年3月期~2025年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料。2025年3月期は会社予想

 上の表をご覧いただくと、「金利が下がると銀行の利益が出なくなる」という株式市場の思い込みが誤りであることが分かります。両社の連結純利益は、2019年3月期まで、長期金利がどんどん低下していく中でも安定的に高水準を保っています。

 2020年3月期・2021年3月期はコロナ禍で信用コスト(貸倒償却および貸倒引当金繰入額)が増加したことによって利益水準がやや下がりました。それでも、「コロナ禍にもかかわらず高水準の利益を維持していた」と評価できます。

 2022年3月期、2社ともコロナ前の水準に利益が戻りました。三菱UFJは、2015年3月期にあげた最高益を更新しました。想定されたほど貸倒れが発生しなかったことから、貸倒引当金の戻入益が大きくなったことが貢献しました。低金利でも稼ぐメガ銀行の姿がよく表れています。2024年3月期・2025年3月期は2社とも2年連続で最高益を更新する予想です。

 このように、三菱UFJと三井住友FGは、海外収益の拡大とユニバーサルバンク経営によって、低金利でも高収益を稼ぐビジネスモデルを確立していると考えています。今後、国内の長期金利の上昇が続けば、国内商業銀行業務の利益も拡大するので、さらに投資価値が高まります。

前期に続いて今期も増配

 両社とも株主への利益配分に積極的と評価できます。以下の通り、両社とも、コロナ禍で配当を据え置いた2021年3月期を除けば、安定的に増配を続けています。

三菱UFJ、三井住友FGの1株当たり配当金:2017年3月期実績~2025年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料より作成、三井住友FGの2025年3月期配当金は、2024年9月30日の株式分割を考慮して修正

 両社とも、さらに自社株買いを積極的に行っていることが高く評価できます。ともに株主への利益配分に積極的です。

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