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著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
日本株「買い場」と判断、米景気不安はやや行き過ぎ?

5日の日経平均は4,451円(12.4%)安の3万1,458円

 週明け5日の日経平均株価(225種)は、前営業日比4,451円安で過去最大の下げ幅でした。下落率は12.4%で、1987年以降2番目の大きさでした。

日経平均、1日の下落率ランキング:1987年以降

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 米景気不安からドル金利が低下する一方、日本銀行がサプライズ利上げを実施したことから、円高が急伸、外国人投資家による日本株の売りにつながったと推定されます。

 確かに、米景気は悪化しつつあります。ただし、日経平均にこれほどの暴落をもたらすほど悪化するのでしょうか? 少し疑問を感じます。今回の暴落は、デリバティブズ(先物・オプションなどの派生商品)を駆使するヘッジファンドによって増幅されていると思います。

 米景気の先行き予測は難しく、先行きを決め打ちすることはできませんが、私はリーマン・ショックやコロナショックのような景気後退に陥ることはないと考えています。米景気は来年にかけて景気後退すれすれまで減速すると思いますが、景気後退には至らず持ち直すと予測しています。私の見方を前提とすれば、今回の日経平均の暴落は、行き過ぎと考えられます。

米景気は急速に弱含み

 それでは、足元、どれだけ米景気が弱含んでいるか確認しましょう。8月に入って発表された、7月の雇用統計・ISM(米サプライマネジメント協会)景況指数は、米景気軟化を示すものでした。

【1】7月のISM景況指数は製造業が50割れ

 かなり弱く見えるのが、ISM景況指数です。50を割ると景況が悪いと判断しますが、8月1日に発表された7月の製造業景況指数は、前月比1.7ポイント低下して46.8となりました。

 ただし、5日発表のISM非製造業景況指数は、前月比2.6ポイント上昇して51.4となり、50を超えました。

 米国は製造業が早くから空洞化しているので、製造業が50を割っても非製造業が高ければ、米景気は堅調を保ちます。7月は、非製造業が辛うじて50を上回っています。この先どうなるか、9月に発表される8月の数字が注目されます。

ISM製造業・非製造業景況指数:2020年1月~2024年7月

出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成

【2】雇用が緩む

 人手不足が続き、雇用は逼迫(ひっぱく)が続いてきましたが、7月は緩む兆しが見えました。完全失業率は4.3%まで上昇、非農業部門の雇用者増加数は20万人を割り、11.4万人となりました。

米雇用統計:完全失業率

出所:米労働省より楽天証券経済研究所が作成

非農業部門の雇用者増加数(前月比):2021年1月~2024年7月

出所:米労働省より楽天証券経済研究所が作成

 米国では、インフレは徐々に低下しつつあります。それでも、これまでのインフレの累積効果で、生活必需品の価格が高くなり過ぎ、米国の消費に悪影響を及ぼす可能性があります。来年にかけて、米景気はさらに減速することが予想されます。

 ただし、それは循環的な景気低下であり、いわゆる「バブル崩壊」とは異なります。つまり、金融危機を伴う景気後退局面であったリーマン・ショックや、世界中で人々が巣ごもりする異常事態を招いたコロナショックとは、異なります。通常の循環的な景気悪化となると私は予測しています。米景気不安を震源とした、日経平均の暴落は行き過ぎと考えています。

日経平均のドローダウン(下落率)は10~30%

 日本株が割安で、長期的には良い買い場という見方は変わりません。また、日経平均が5年以内に5万円まで上昇するという見通しも変わりません。

 とはいえ、ここからV字型の反発は想定できません。米景気悪化を示す指標がこれから増え、さらに円高が進めば、一時的に日経平均が3万円まで下がる可能性もないとはいえません。リスク管理は大切です。時間分散しながら、割安な日本株を買い増ししていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。

 ご参考まで、安倍政権の経済政策アベノミクスがスタートした2012年末以降の日経平均(指数化)の動きをご覧ください。大きな下落局面で、日経平均は10~30%下落しています。

日経平均の動き:2012年末~2024年8月(5日)

出所:2012年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 アベノミクスがスタートした2012年末からの12年間で日経平均は約3倍となっており、大幅な上昇です。ただし、一本調子で上昇が続いてきたわけではありません。何回も急落・急騰を繰り返しながら、上昇してきました。

 急落局面で、高値から安値までの日経平均のドローダウン(下落率)は10~30%です。今回、日経平均は高値から既に26%下落しています。値幅調整は、かなり前倒しで進んだと考えられます。ここからは、時間分散しながら日本株への投資を増やしていくことがよいと考えます。

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▼著者おすすめのバックナンバー

2024年8月5日:日経平均急落、米景気への懸念から円高急伸、外国人が日本株売り(窪田真之)