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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「【テクニカル分析】今週の日経平均&株式市場 最高値更新の米国株と戻りの鈍い日本株~米エヌビディア決算でどう動く?<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し>」
先週末5月17日(金)の日経平均株価は3万8,787円で取引を終えました。前週末終値(3万8,229円)からは558円(1.46%)高、週間ベースでも上昇に転じています。
また、米国株市場に視点を向けると、NYダウ、S&P500、NASDAQの主要株価指数が先週に史上最高値を揃って更新してきました。
日本株は順調に戻り基調を描いているものの、日経平均の株価位置は、3月から4月にかけての下落幅に対してまだ半分程度に過ぎず、米国株と比べた印象では戻りが鈍いようにも見えます。
そこで、今回のレポートでは、「最高値を更新した米国株はこの後も上昇を続けるのか?」、また、「現在の日本株は米国株よりも本当に弱いのか?」、の2点について考えて行きたいと思います。
早速、いつものように足元の状況をチェックしていきますが、今回は最高値を更新してきた米国株市場から先に確認します。
米国株は最高値を更新。そのインパクトは?
図1 米NYダウ(日足)とMACDの動き(2024年5月17日時点)
まずはNYダウです。
冒頭でも触れましたが、3月21日の直近高値を超えて史上最高値を更新したほか、4万ドルという節目の株価水準乗せも達成しています。また、図1ではチャート上に多重移動平均線を描いていますが、ほぼすべての線が上向きとなっています。
さらに、下段のMACDが上向きを継続していることや、ローソク足の推移も、いわゆる「ダブル・ボトム」による底打ちを形成しているようにも見えるため、日足チャートから見た相場の基調は上向きと言えます。
S&P500とNASDAQのチャートを見ても同じような株価の軌道を描いています(下の図2と図3)。
図2 米S&P500(日足)とMACDの動き(2024年5月17日時点)
図3 米NASDAQ(日足)とMACDの動き(2024年5月17日時点)
図1~図3から読み取れるように、米主要株価指数は先週の最高値更新と同時に、NYダウが4万ドル、S&P500が5,300p、NASDAQが1万6,500pの節目を超えてきました。こうした米国株の株高スイッチを押したのは、先週15日(水)に公表された米経済指標(4月分の消費者物価指数と小売売上高)です。
もともと、直近の米国では、インフレ進行と景気過熱の落ち着きを示す内容の経済指標が増え始めていたことや、5月1日まで開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)後のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見で、市場が懸念していた「利上げ再開シナリオ」が否定され、米国の金融政策に対する見方が再び緩和的に傾いたことなどを受けて、5月に入ってからの米国株市場は上昇基調を強めていました。
こうした中で公表された先週の消費者物価指数や小売売上高の結果が安心材料となって、米主要株価指数の最高値を更新させた格好です。
現時点の市場は、「年内に2回の利下げ」を前提に、今後のシナリオを組み立てつつあるように感じられます。
「新値は買い」の米国株。上昇基調を強められるか?
このように、節目の株価を超えて最高値を更新した米株価指数ですが、ここから先の株価上昇は、新たな株価(新値)をつけることになります。「新値は買い」という相場格言があるように、一般的なセオリーでは上目線が強まりやすい状況です。
ただし、気になる点がないわけではありません。
まず、米株価指数の最高値更新スイッチとなった、米消費者物価指数と小売売上高はかなりの注目度でしたが、公表された15日(水)の株価を上昇させたものの、週末にかけてはあまり伸びておらず、目先の節目を超える材料になっても、そこから先の上昇の勢いに弾みをつける起爆剤になっていないように見えることが気になります。
また、もう一つの気になる点については、昨年からの米国株の相場展開を局面に分けて捉えていくと見えてきます。
図4 米NYダウ(日足)の動き(2024年5月17日時点)
チャートで見た米国株市場は、昨年10月の終盤に底打ちしてから長期の上昇トレンドを描いているように見えますが、いくつかの局面に分けられます。
そもそも、米国株が上昇に転じたきっかけは、「米FRBが2024年にも利下げを開始する」見方が高まったことでした。上の図4の(1)の局面で確認できるように、NYダウは10月下旬の3万2,000ドル台後半から12月末の3万7,000ドル台へと、約2カ月間で5,000ドル以上も上昇したわけですが、当時の市場は「2024年に6回の利下げ」を想定していました。
2024年を迎えてからの(2)の局面では、思ったよりも根強いインフレと堅調な米国経済が続き、利下げの開始時期の後ずれと回数の見通しが減少したことで、金融緩和による買いが後退したものの、それに代わって買いの原動力になったのは、ハイテク・IT企業を中心とする業績期待でした。
この流れを受けて、NYダウは3月21日の取引時間中に3万9,889ドルをつけるところまで上昇して行きました。
ただし、4月に入ってからのNYダウは、(3)の局面が示しているように、利益確定売りや、中東情勢への不安によるインフレ継続への警戒感などから売りに押され、年初時点の株価水準まで下落して行きました。また、この時期に本格化した企業決算シーズンも、業績への期待値が高過ぎたこともあって、好決算でも売られる銘柄も多く、株価上昇の材料とはなりませんでした。
そして、現在の米国株市場は(4)の上昇局面に入っているわけですが、企業業績は過度な期待を修正しているタイミングであり、当面は「下値を拾えても積極的に上値を追える」材料になりにくいこと、また、足元の株価を押し上げている米政策金利の利下げ期待についても、昨年の(1)の局面と比べると、利下げの回数を含めて楽観的な見通し自体は後退しています。
今後もインフレと景況感次第ではさらに後退する可能性があること、そして、景況感が想定以上に悪化してしまうシナリオも残されています。
さらに、今週の22日(水)には米半導体大手のエヌビディア(NVDA)の決算が予定されています。
図5 米エヌビディア(日足)とMACDの動き(2024年5月17日時点)
ちなみに、上の図5はその米エヌビディアの日足チャートですが、週末17日(金)時点の株価は直近の高値どうしを結んだ上値ラインをトライするところに位置しており、決算で上値ラインを超えることができれば上昇に弾みがつく展開も期待できる状況となっています。
そのため、まだまだ株価が上昇していく余地はありそうですが、売りに転じてしまった場合には、予想以上に下落することも考えられるため、エヌビディア決算は今週最大の焦点になりそうです。
日本株は「派手さ」はないが、着実に復調
続いて、先週の日本株の動きについても確認していきます。
図6 日経平均(日足)とMACDの動き(2024年5月17日時点)
先週の日経平均も、前週に続いて75日移動平均線を挟んだ攻防が続く中、株価が上昇していく展開となり、「派手さ」はないものの、着実に復調している格好です。
ただ、冒頭でも述べたように、先週末17日(金)の株価は、3月高値と4月安値の下げ幅の半分(50%戻し)のところに位置しており、最高値を更新した米国株市場と比べると、確かに株価の戻りの勢いが鈍くなっています。
目先の焦点は、「日経平均が50%戻しを超えて、さらに上昇して行けるか?」になりますが、チャート上から読み取れるポジティブなサインは、下段のMACDが上向きを続けており、「0円」ライン超えを射程圏内に捉えていること、ネガティブなサインとしては、直近のローソク足の並びが「上昇ウェッジ」っぽい形状になっていて、下落する展開も想定されることです。
ただ、あらためて先週の日本株の上昇幅を確認すると、日経平均が558円(1.46%)高、TOPIX(東証株価指数)は17p(0.62%)高となっています。同じく、米株価指数の週間の上昇幅は、NYダウが491ドル(1.24%)高、S&P500が81p(1.55%)高、NASDAQが345p(2.11%)高となっています。
確かに、TOPIXの上昇は米国株指数と比べると出遅れている感がありますが、米国のグロース株の動きの影響を受けやすい日経平均はそこまで出遅れている感じはなく、今週のエヌビディア決算の米国株(特にNASDAQ)の反応次第では、日経平均が一段高する可能性は十分にあると考えられます。
ただし、日本株上昇のハードルは意外と多い?
そのため、今週の日本株については、最近まで優位だったTOPIXよりも日経平均への注目度が高くなりそうですが、同時に日本株の上値の重たさのポイントについても整理しておく必要があります。
例えば、前回のレポートでも紹介した、信用買い残の需給要素がまだ戻り待ち売り圧力として残っていることや、日米の金融政策の方向性が緩和を向いている米国と、引き締めが想定される日本とで異なり、日本株への積極的な買いは以前よりも後退する可能性があることなどです。
また、決算シーズンを経て、日本株の業績期待が盛り上がっていないことも挙げられます。この点については、日本企業の多くが期初の決算でガイダンス(業績見通し)を慎重に設定する傾向であることが影響している面もあり、時間の経過とともに業績の上方修正が増えてくれば、いずれ再評価される可能性は高いですが、当面の買い材料にはなりにくい状況が続きそうです。
その他、意識しておいた方が良いかもしれない点として、香港株市場の動きがあります。
図7 香港ハンセン指数(日足)とMACDの動き(2024年5月17日時点)
上の図7を見ても分かるように、足元の香港ハンセン指数の株価の上昇が際立っています。上昇の起点となっている4月19日は、日経平均や米国株価指数と同じ日ですが、香港ハンセン指数の戻りの勢いがいちばん強くなっています。
最近の中国では、経済指標が改善を示すものが増え、中国経済に対する悪材料の出尽くし感が出始めていることや、相次いで打ち出される経済政策期待などがその理由として考えられます。
これに伴い、足元の香港ハンセン指数の上昇が、これまでの日本株上昇の要因のひとつとなっていた、「外国人投資家による中国から日本への資金シフト」の流れが一部で巻き戻されている可能性も考えられます。
したがって、日本株が一段高して行くためのハードルは意外と多く、目先は3月の高値(4万1,087円)に向かう場面があったとしても、そこから先を目指す展開をイメージするのは難しいかもしれません。
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