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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「【テクニカル分析】今週の株式市場 日本株がさらに上昇するための条件 ~買いの「ボリューム」が問われる~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し>」
大型連休明けで迎えた先週の国内株市場ですが、週末10日(金)の日経平均株価は3万8,229円で取引を終え、前週末の終値(3万8,236円)からは7円安と、ほぼ横ばいながらも小幅下落となりました。
前回のレポートでは、日経平均のチャート形状や決算を物色する動き、そして、米国株市場の戻り基調などを理由に、「株価が上昇しやすい」地合いであることを指摘していました。ただ、実際に蓋を開けてみると、米国株市場ではNYダウが先週末時点で8連騰を演じるなど、全体的に上昇が続いていたのに対し、日本株はその流れに乗り切れない格好となりました。
このように、先週の日本株は上値が重たかったのですが、その一方で、下値を試しにいくような動きでもなかったため、相場が崩れた様子も感じられません。そこで、まずは足元のチャートから、その点について確認して行きます。
日経平均は相場の復調続くが気掛かりな点も
図1 日経平均(日足)とMACDの動き(2024年5月10日時点)
あらためて、先週の日経平均の展開を上の図1で振り返ると、週初の2日間(7日と8日)が前日比でそれぞれ599円高、632円安といった具合に、値動きが大きかった割には、相場に方向感が出たわけでもなく、週を通じて75日移動平均線を挟んだ攻防が続きました。上値も25日移動平均線が抵抗となっているようにも見えます。
膠着感が強まりつつあるような印象ですが、「週間の安値(3万8,072円)が3万8,000円台の株価水準を維持できた」ことや、「下段のMACDが右肩上がりで、かつシグナルよりも上に位置している」ことなどを踏まえると、冒頭でも述べたように、何だかんだで相場の復調が続いていると言えます。
ただし、足元のローソク足の動きが微妙な「上昇ウェッジ」を形成していることが少し気掛かりです。
上昇ウェッジは、上向きの「三角保ち合い」のような形状のため、見た目の印象では「上昇しそう」なのですが、実際には、「頑張って下値を切り上げたのに、それに比べて上値の切り上げが緩やか」であり、報われない買い方が後退して、その後の株価が下落することが多いとされています。
図2 日経平均(日足)の多重移動平均線(2024年5月10日時点)
また、上の図2は日経平均(日足)の多重移動平均線です。多重移動平均線はこれまでのレポートでも何度か紹介しましたが、トレンドの方向性や強さを探るのに用います。図2では、2日から28日までの複数の移動平均線が14本描かれています。
足元の状況は、全体的な多重移動平均線の傾きが下向きの中、短期の線の何本かが上向きになっていて、株価は底打ちからの戻りをうかがっている状況です。ただ、株価は移動平均線の束を上抜けできていません。
つまり、上昇ウェッジと多重移動平均線の状況からは、「底堅いが、まだ短期の下落トレンドから脱しきれていない」ことが読み取れます。そのため、復調気味の日経平均が再び下落してしまうシナリオも想定しておく必要があるのかもしれませんが、TOPIX(東証株価指数)に注目すると、少し違った景色が見えてきます。
今週はTOPIXの強さに注目
図3 TOPIX(日足)の多重移動平均線(2024年5月10日時点)
上の図3はTOPIX(日足)の多重移動平均線です。
先ほどの図2と比べると、多重移動平均線の傾きが日経平均よりも水平気味であるほか、株価も多重移動平均線の束を上抜けていること、多重移動平均線の期間の短い線の何本かが期間の長い線を上抜けていること、さらに、3月22日の高値を起点とした上値ライン超えをトライする場面が見られるなど、総じてTOPIXは日経平均よりも強く、短期の下落トレンドから脱しつつある状況がうかがえます。
実際に、先週末10日(金)時点の株価位置に注目すると、日経平均は直近高値(3月22日の4万1,087円)と安値(4月19日の3万6,733円)の下げ幅(4,354円)に対して34.35%の戻りですが、TOPIXは58.55%戻しています。「半値戻しは全値戻し」という相場格言もあるように、TOPIXは上値を試しやすいと言えます。
今週も国内株企業の決算発表が相次ぎますが、15日(水)に予定されているメガバンクの決算などが注目されそうです。そのため、値がさハイテク株の影響を受けやすい日経平均よりも、時価総額の大きい主力大型株の動きを反映するTOPIXの動きの方が重要かもしれません。
米国株は金融政策の警戒感後退で結構戻してきた
続いて、米国株市場の動きについてもチェックします。こちらも先ほどの図2・図3と同様に多重移動平均線を中心に見て行きます。
図4 米NYダウ(日足)の多重移動平均線、線形回帰トレンド、MACD(2024年5月10日時点)
最初はNYダウです。冒頭でも述べましたが、先週末時点で8連騰を上昇基調が目立っています。上の図4のローソク足も陽線が並んでいます。
株価は多重移動平均線の束を大きく上放れしているほか、下段のMACDも上向きを強め、「0ドル」ラインを上抜けるなど、上昇の勢いを強めている印象です。
株価位置も、3月21日の直近高値まで377ドルに迫っているほか、4月17日までの下げ幅に対しても83.45%戻しています。
図5 米S&P500(日足)の多重移動平均線、線形回帰トレンド、MACD(2024年5月10日時点)
続いてS&P500です。こちらも株価が多重移動平均線の束を大きく上放れしていること、下段のMACDも上向きを強めて「0p」ラインを超えてきたことなど、NYダウと同じ状況です。
株価位置については、3月21日高値から4月17日安値までの下げ幅に対して86.49%戻しています。
さらに、NASDAQについても、NYダウ・S&P500と同じ状況で、先週末の終値は下げ幅の84.95%戻しとなっています(下の図6)。
図6 米NASDAQ(日足)の多重移動平均線、線形回帰トレンド、MACD(2024年5月10日時点)
今週の米国株は目先の「ターニング・ポイント」を迎える?
以上のように、足元の米国株市場は3月下旬から4月にかけての下落幅のほとんどを取り戻している格好ですが、こうした株価上昇の背景には前回のレポートでも指摘したように、米金融政策への警戒感が後退したことが挙げられます。
直近で公表された米経済指標では、景気の減速感やインフレ進行の一服感を示すものが増え、さらに、先日通過したFOMC(米連邦公開市場委員会)でも、予想以上のQT(量的縮小)ペースの緩和が決定されたことや、警戒されていた利上げ再開シナリオに対しても、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が記者会見で否定し、「次の一手」が利下げであることを示したことも安心感をもたらし、こうしたムードの改善が株高につながっています。
とはいえ、これまでは不安や警戒の後退による買い戻しが中心でしたが、さらに積極的に上値を追えるだけの先高観が醸成されているかが焦点となるため、米国株市場はここからが重要です。
実際に、米国株市場の物色動向を探っていくと、これまでの牽引役だったグロース株(ハイテクやIT関連など)が失速気味で、景気敏感株やディフェンシブ株への選好が目立っています。
これまでに発表されたグロース株の決算は全般的に好調なものが多く、それでも株価の上値トライにつながらなかった背景には、「先取りし過ぎた業績期待の修正」が行われていることが考えられます。
実際に、現時点でのS&P500の予想PER(株価収益倍率)は約20倍台なのですが、長期的な平均が15~16倍台であることを踏まえると、まだ割高な状態です。
現在のPERを正当化するだけの業績期待へのハードルはかなり高く、景気敏感株とディフェンシブ株の物色だけでは相場を支えることができても、株価の上昇の起爆剤としてはやや弱いと思われ、株価が直近高値付近まで上昇した場合には、戻り待ち売りが出やすくなることも想定されます。
そのため、今後の株式市場が上を目指せるのかについては、これまで見てきたように、ファンダメンタルズの改善とバリュエーションとの綱引きが続く中、引き続き、景況感やインフレ動向に絡んだ金融政策への思惑がカギを握ることになります。
目先では、市場が注目している米国のCPI(消費者物価指数)や小売売上高が公表される今週15日(水)が重要視され、足元の相場が「戻り基調を加速させて行く」のか、それとも「調整モードへ再び入ってしまう」のかについてのターニング・ポイントを迎える可能性があります。
日本株が一段高するための条件
最後に、注目の米経済指標の結果が株式市場にとってポジティブだった場合についても考えて行きたいと思いますが、日本株が一段高していくためには、2つのハードルを超える必要があります。
ひとつめは、「米国株のキャッチ・アップ」です。
図7 日米の主要株価指数の推移比較(2023年末を100)(2024年5月10日時点)
上の図7は、昨年末を100とした、日米の主要株価指数の動きを比較した指数チャートですが、日経平均とTOPIXの年初来からのパフォーマンスを見ると、米NYダウ・S&P500・NASDAQよりも高いことが分かります。
米国株が両者の距離を縮めるほどの上昇を見せないと、パフォーマンス的に先行している日本株は、直近高値を目指せても、さらに上を目指していくのは難しいかもしれません。
なお、米国の指数では、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数が日本株と同じくらいのパフォーマンスですが、日経平均と米SOX指数は比較的連動性が高くなっています。米半導体企業のエヌビディアの決算が来週22日(水)に予定されていることもあり、こちらにも注意しておく必要がありそうです。
そして、ふたつめのハードルは、「戻り待ち売り圧力をこなす買いの強さ」です。これは、前々回のレポートで指摘したポイントである「信用取引残高(信用残)」を指しています。
図8 信用取引の買い残高と日経平均(週足)(2024年5月2日時点)
上の図8は信用残における買い残高の金額と日経平均の推移です。
直近で公表されたデータ(2024年5月2日時点)における信用買い残高は、4兆6,836億円と、目先のピーク(4兆8,645億円)からは減少しましたが、依然として大きく積み上がった状態です。
図9 直近の信用取引残高の推移(2024年5月2日時点)
また、上の図9は2024年からの信用取引残高の推移をまとめた表になります。
前々回のレポートでは、信用買い残の増加状況に注目し、とりわけ、4月は日経平均が大きく下落した、4月5日週と4月19日週にそれぞれ買い残が2,600億円以上増え、4月だけで5,000億円以上も買い残が増えていることを指摘しました。
足元では、2週続けて買い残が減少していますが、減少額の合計(約1,800億円)は、4月の増加分と比べるとまだ少なく、さらに、「信用倍率(買い残÷売り残)」も、6倍台後半で高い状況が続いています。
4月5日週の日経平均は、4万0,600円台から3万9,000円台割れまで下落、4月19日週では3万9,000円台から3万7,000円台割れまで下落していたため、日経平均が3万9,000円あたりから戻り待ち売りが出やすくなると考えられ、実際に、先週の日経平均の高値は3万8,863円でした。
したがって、こうした状況がまだしばらく続く可能性があり、今週の日本株市場はこれらの上値のハードルを乗り越えるだけの買いのボリュームが問われる局面に差し掛かっていると考えられます。
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