成長企業への長期投資で継続的に含み益をあげているはっしゃんさん。エンジニアとして長らく務めた会社を辞め、兼業投資家から独立起業し、投資入門書の著作や株Bizの監修、投資家VTuberとして活躍しています。
株式投資では、成長企業の業績に注目する長期投資に転向してから、基本的に売買をしない「ほったらかし」&「ホールド」投資に徹しています。その裏には独自で築き上げた「はっしゃん式理論株価」という独自指標と、それを基にした業績分析力がありました。ロジカルで明確な分析にファンも多いはっしゃんさんの投資スタイルに迫ります!
<はっしゃんさん プロフィール>
投資家VTuber、ITエンジニア投資家、はっしゃん式理論株価Web、月次Web監修、株入門書の著作は多数。株価チャート職人。大手上場企業のサラリーマンから専業の個人投資家「初心者に持続可能な株式市場の実現」を理念として起業家に転向。株式投資のきっかけは持株会。
株式投資のきっかけは持株会
トウシル:投資を始めたきっかけを教えてください。
はっしゃんさん:新卒で入社した会社の従業員持株会に入会して、株式口座を作ったことですね。ただ、当時はバブルが弾けた後で日経平均株価も下がっていた時期でした。「株なんて危ない、素人がするもんじゃない」といった雰囲気がありましたね。
トウシル:そんな空気感の中、持株会以外に、自分でも株式投資を始められたのはどうしてですか?
はっしゃんさん:持株会がきっかけといえども、保有している株価の動きは気にしていました。バブルの痛手も徐々に癒えて、日経平均もだんだんと上がり始めていたので、それなら自分で、他の銘柄も買ってみようかと思ったんです。最初は100万円の軍資金を用意して、二つの銘柄を購入しました。
トウシル:自分の意思で始めた、初めての株式投資ですね。銘柄は何を基準に選ばれたのですか?
はっしゃんさん:まずは、同期の友人が勤めていたので横浜銀行(7186:現コンコルディア・フィナンシャルグループ)の株と、カメラが好きだったので旭光学工業(現在はリコーの子会社である、リコーイメージングに統合)の株を買いました。
当時、旭光学工業はPENTAX(ペンタックス)というブランドでカメラを販売していて、自分が好きなメーカーだったというのが購入理由です。
トウシル:初戦の成績はいかがでしたか?
はっしゃんさん:旭光学工業は一株270円で購入し、550円で売っていますね。ビギナーズラックで株価が上昇してくれて、利益確定したらそこそこの金額になりました。横浜銀行は大きな利益は出ず、プラスマイナスゼロ、みたいな結果に落ち着きました。
トウシル:初戦で倍近くまで株価上昇とは、ラッキーでしたね!
はっしゃんさん:はい、ビギナーズラックは意外と大事ですよ(笑)。初戦で利益が出ていなかったら、今ごろ、株式投資は続けていなかったかもしれません。
株価が気になって仕事が手につかない!
トウシル:初戦は比較的短期で売買して利益が出たんですよね? 今のはっしゃんさんは長期投資にスタイル変更されていますが、なぜ方法を変えたんですか?
はっしゃんさん:会社員をしながら投資を続ける難しさを感じていました。仕事中も株価が気になって仕事に集中できない状態になってきてしまったんです。
当時はフレックス勤務で午後から出社できたので、前場の9時から11時まで株価をチェックできました。半面、後場は手出しができない状態で、ニュースなどで株価や日経平均が下がっているのを見てしまうと、不安が募ってしまい、精神的にキツイ状況で…。
トウシル:始めた当初はデイトレードをされていたのですか?
はっしゃんさん:それに近いスタイルでしたね。
トウシル:それでは気が気じゃないですよね…。仕事中も株価をチェックされたんですか?
はっしゃんさん:おっしゃる通り(笑)。当時は携帯電話がない時代で、さすがにトイレにこもって株価チェック…まではやらなかったのですが、休憩時間も株価をチェックして、仕事もうわのそらになりがちでした。これでは長く続けられないな…と、短期トレードに見切りをつけて、2000年ごろに長期投資に転換したんです。
短期は株価を、長期は業績を予測するという違い
トウシル:それで短期投資をやめて長期投資家に?
はっしゃんさん:仕事をしながらだと、どうしても投資に割く時間がばらけてしまうんです。2000年で短期投資を辞め、長期投資家になりました。2024年で長期投資24年目になります。
トウシル:はっしゃんさんにとって、長期投資と短期投資の大きな違いは何でしょうか?
はっしゃんさん:短期投資は、株価の動きを見て株価を予測して投資をします。一方、長期投資は、将来の企業の業績を予想します。そこが大きな違いだと思います。長期投資で企業の業績を注視して投資をした場合、業績が良ければ結果として株価も上がります。
私にとっては、日々の株価を追うより、企業(銘柄)の業績をしっかり分析して成長を追う、長期投資のほうが性に合っていたということですね。
トウシル:株式投資の初心者にとっては、どんな投資スタイルが自分にあうのか、迷いますよね。
はっしゃんさん:勤務先で入っていた持株会で、定期的に積み立て投資をしていた経験は大きかったと思います。コツコツ長期で自然と投資ができていたし、それで利益も確かに上がっていました。それで、自分には長期投資があっているのではないかと考えました。
株価予測に引きずられると、短期で売買を繰り返して自滅してしまうケースも多い。でも、長期投資は、株価が上昇したとしても、企業業績が好調だった結果、株価が上昇したという結果論なので、短期的な株価の上下に一喜一憂しなくてすみます。
トウシル:メンタルも安定しそうですね。投資の方法を一つに絞ることに迷いはなかったですか?
はっしゃんさん:常に株価が気になる投資方法は、自分には合ってないということに気付いたので、迷いは特にありませんでした。精神的に無理なく続けられる投資方法に変えないと、結局長くは続けられない。自分に合った投資手法に、シンプルに修正しただけなんですよ。
長期投資のポイントは企業分析
トウシル:長期投資では成長企業の分析がポイントとおっしゃっていますが、初心者にとって企業業績の分析は難しくないですか?
はっしゃんさん:私も最初は初心者で、少しずつ勉強していきました。まずは企業の業績を見て投資するというオーソドックスな形で始めました。前職がITエンジニアだったので、自分で株価チャートや財務分析のアプリを作ったのが大きかったと思います。
移動平均線も、証券会社のチャートをただ眺めるのではなく、自分で数値を入力するとグラフが出るように、プログラミングしたんです。
トウシル:ご自身でプログラムを書かれたんですか? それはスゴイですね!
はっしゃんさん:はい。Webサイト上には、すぐにみられるチャートもあふれていましたが、誰かがグラフにしてくれたものを眺めるよりも、自分で移動平均線を書いてみると、そのロジックが理解できてとてもいい勉強になりました。
トウシル:確かに、チャート図を眺めているだけでは、結果は分かったとしても、ロジックは腹に落ちてきませんよね。
はっしゃんさん:PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)も、自分でPER=株価÷EPS(1株当たり利益)、PBR=株価÷BPS(1株当たり純資産(簿価)÷株式数)、などという計算式をプログラミングして、自分で算出できるようにしました。
そうやって続けていると、株価が上がるとPERは上がるんだな、など、指標の指している意味や考え方、それをどうとらえたらいいのかが分かるようになっていったんです。こういう指標は毎日の株価で動くものなので、今日の最新の指標も自分で出せるようになります。
トウシル:単なる指標を追うだけでなく、指標の本当の意味を理解できたのは、エンジニアのはっしゃんさんならではの強みですね。
はっしゃんさん:そうですね。単に数字を見比べているだけではやはり根本的なロジックが分かりづらいと思います。今はExcelでも簡単に計算式が作れるので、初心者の方は一度やってみるといいと思いますよ。
トウシル:ほかに学んだことはありますか。
はっしゃんさん:やはり基礎となる『会社四季報』を真剣に読みました。四季報にはPERやPBRが記載されているのですが、編集当時の数値でしかなくて、株価が上昇・下落するとPERやPBRもどんどん変わります。四季報の発行と現在の株価にはタイムラグがあるので、四季報のPBRと現在のPBRは全然違う値になるんですよ。
トウシル:参考値にはなりますが、現状を知るには不十分ですね。
はっしゃんさん:はい。企業の決算発表によってもPERやPBRは大きく動きます。これらの最新の情報を、自力で算出できるようになった、しかもそのロジックが理解できた、ということが、その後の投資活動にとても役に立っています。「投資の最新情報は、最新の株価と最新の決算から算出しなければ、生きた情報にならない」と分かったんです。
ですから、四季報の発行を待たずに自分で全部、計算して管理した方が旬の情報が手に入るな、と。情報源が二次情報だったものを、自分で算出する一次情報に変えられたのが大きな転機だったと思います。
初心者が学ぶ長期投資のポイントとは
トウシル:初心者が、長期投資を始める時に手始めに学ぶポイントはありますか?
はっしゃんさん:そうですね。Excelの知識は必要ですが、投資指標について、基礎からきちんと学んでみてはいかがでしょうか。
例えば株価が割安か割高かを判断するための指標にPERがあります。PERの出し方の数式は誰でも計算できますし、Excelを使えば簡単に計算できるんですよ。指標の構成要素を理解して、どのようなロジックで指標が動いているのか理解するといいと思います。
トウシル:中身を理解しないまま、数字だけを追っていても身につかないということですね。
はっしゃんさん:はい。PERは低いほど割安と言われ、「株価の割安性」を判断する材料です。しかし、構成要素の一つである「株価」が上昇するとPERは割高になるし、同時に、もう一つの構成要素である「1株純利益」が増えても割安になります。その1株純利益が増えるということは、企業の利益が増えることなんです。
利益が増えるパターンには二つあって、売り上げが増えたから利益が増えるパターンと、売り上げは増えないけれども経営の合理化によって利益が増えるパターンがあります。
さらに、景気がいい業界なのか、あるいは企業自体が成長しているのか、といったいくつかの条件があります。私は、実際に興味がある企業を深く分析することで、こうしたことを少しずつ勉強しました。
トウシル:なるほど。単に指標や株価の上下ではなく、企業を取り巻く全方位的な視点が必要なんですね。
はっしゃんさん:はい。短期的な株価の値動きだけを見るのではなく、増収増益が続いている成長企業に投資することがポイントです。そうした銘柄は、基本ほったらかしでも株価が上昇していきます。少し楽観的な例えかもしれませんが、売り上げが上昇したら、利益も上昇し、株価も上昇するというロジックです。そうした企業が投資の狙い目ですね。
成長している業界の見極め方
トウシル:成長している業界の見極めも研究されているのですか?
はっしゃんさん:トレンドの業界の株は人気株になってしまうので、見極めが必要です。私が最初に注目したのは小売業です。例えばファーストリテイリング(ユニクロ:9983)。原宿で1,900円のフリースを売り出したとたん人気が出て、またたく間に日本中に広がりました。
先ほどお話ししたように、店舗数が増えれば売り上げも利益も増えて、株価が上昇する、というモデルですよね。
トウシル:はっしゃんさんが見つけた「コレ!」という成長企業と、どこに注目されたのかを教えてください!
はっしゃんさん:牛丼の「すき家」などを展開しているゼンショーホールディングス(7550)という企業に注目して、株を購入しました。。そこで注目していた指標が月次情報です。
私は上場企業のうち、自分で選んだ298社の月次売上と業種別ランキングを掲載している「月次web」というサイトを運営しています。月次情報とは、各企業が発表している月次業績を前年同月比で公表している情報で、成長の度合いがよく把握できる指標なんです。
月次情報の重要性に気付いたきっかけは、2001年9月11日の米国同時多発テロです。旅行会社のエイチ・アイ・エス(9603)の株価が暴落していたため、企業のサイトを見に行った時、月次情報が掲載されているのに気が付いたんです。
月次情報で成長企業の解像度がアップ
はっしゃんさん:調べていくと、さまざまな会社がこの「月次情報」を発表していることが分かりました。主に小売業とサービス業で、月次情報を掲載している企業が多いですね。月次情報では毎月、去年より売り上げがどのぐらい増えているのかが発表されているので、年4回の決算報告の情報だけよりも、成長度を見抜く解像度が上がりました。
トウシル:月次情報で売上と株価の相関性も分かるのでしょうか。
はっしゃんさん:はい。成長している企業は売り上げの伸びに対して、株価も上昇傾向であることが分かりました。ITバブルの終焉(しゅうえん)後、2006年のライブドアショックが起こるまでの間、相場が右肩上がりの時期がありました。その際、月次情報を注視した銘柄選びがうまくハマって、ぐんと資産を増やすことができました。
トウシル:単に証券会社のホームページを見ているだけでは分からない情報の取り方ですね。
はっしゃんさん:はい。そこで、月次情報と会社四季報の情報を加えて、ITの知識を生かしてプログラミングをし、それが一気に見られるシステムを組みました。それに加えて、月次情報の売り上げの変化を基に、売り上げの変化と利益を予測して、その時に株価がどのぐらいになるのか予測することを始めました。
トウシル:すごいですね。独自メソッドを作ったのですか。
はっしゃんさん:そうです。月次情報を発表している企業を発掘して、システムに組み込みました。当時はブログを書いていたので、そうした情報を自分だけにとどめずに、ブログで公開して、それを参考にしてくださる方も増え始めたんです。
トウシル:そうした活動が出版にもつながったのですね。
はっしゃんさん:はい。ありがたいことに2005年ごろ、宝島社さんからお声がけいただいて、これらのメソッドをまとめた『分散投資より一極集中!はっしゃん式長期株投資』という最初の書籍を出版させていただきました。
情報発信が自分の成長にもつながっていく
トウシル:自分だけの情報にとどめず、外に向かって発信した、というのが素晴らしいです。
はっしゃんさん:外に向かって発信することで、自分もとても成長できました。人にお伝えするためには、根拠をもって正しい情報を提供する責任が生じるので、情報元としても精度が磨かれるんですよ。
私がここまでこられたのは、エンジニアであるという出自を駆使して、ITを活用して自力で企業や業績を分析したことと、指標の見方や判断方法など、ロジカルな部分を皆さんに分かるように言語化して発信したためだと思っています。
トウシル:はっしゃんさんは、YouTubeでも積極的に情報発信をされていますよね。
はっしゃんさん:今はX(旧Twitter)のほかに、サイト【株Biz】初心者向け企業価値の見える化サイトで私が開発した企業分析を公開しています。
また、YouTube【株BizTV】はっしゃん式投資勉強会では、その日決算発表があった企業のざっとした業績解説と、リクエストのあった1社を掘り下げて分析するライブ配信を毎日行っています。
トウシル:毎日ですか! それはスゴイ! 企業の決算を見たほうが投資の指標になると分かっているけれど、見方が分からない人もたくさんいると思うので、とても貴重ですね。
後編では、はっしゃんさんが独自で開発した指標「はっしゃん式理論株価」について詳しくお話を伺います!
>>後編「独自で開発した「はっしゃん式理論株価」を公開中!IT投資家・はっしゃんさんインタビュー」[後編]を読む!
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