※本記事は2019年10月28日に公開したものです。

 情報社会といわれる現在、私たちの周りにはありとあらゆる資産形成に関する情報が溢れ、投資、節約、ポイ活など、自分の生活を豊かにするための資産形成の手段を知ることも、実行することもできます。お金に関するセミナーも多く開催されており、中には年間数十万円という授業料を払い、スクール形式で資産形成の勉強をする方もいるようです。お金については、自分で調べたりするだけでは漠然とした不安を解消できず、専門家から話を聞きたいというニーズが多いのでしょう。

 しかし、これから資産形成を行う方にとって重要なことは、まずは自身の収入に合った暮らしをすること、収入を増やすこと、お金の基礎知識を蓄えること。専門家のアドバイスを聞くよりも、自分自身で行うべきことがほとんどなのです。そもそも、資産形成中の方がアドバイス料を払って相談した場合、逆にその料金が負担となり、資産形成の邪魔になってしまう可能性すらあります。

 そこで今回は、前回記事の「やってはいけないNISA・iDeCoの使い方。実践的資産形成術」で紹介した、確実な資産形成の実現のために「やってはいけない5カ条」の詳細を紹介します。

資産形成、やってはいけない5カ条

1:お金に余裕があるからと、家計収支の内情を確認せずに、いきなり資産運用を始める(=ライフプランを考えていない)

 今、あなたに必要なことは、貯蓄より資産運用ですか? 万が一の備えはできていますか? 今の収入は安定していますか? 数年後に大きな支出の予定はありませんか?

 もし、年収のうち賞与の割合が大きい場合は、賞与が減って、急に収支が悪化する可能性があります。また、最近は共働きの夫婦も増えていますが、将来、子どもが産まれる可能性があるなら、お金に余裕があるのは共働きの間だけになることを、考える必要があります。

 さらに、会社員であっても、現状の収入が今後も続くだろうと考えることは、楽観的すぎるかもしれません。現在あるお金だけを考えるのではなく、将来のこともあわせて考えるようにしましょう。資産形成は将来のために行うのですから。

2:無理して投資額を多めに設定し、肝心の貯金ができない。もしくは途中で金額を減額するか、投資そのものをやめてしまう(=過大投資)

 投資は余裕資金で行うことが基本。まずは貯金をして、いざという時にすぐ使えるお金の用意が先決です。また、資産形成は長い時間をかけて積み立てる投資が中心なので、最初から無理に投資額を高くして、途中でやめてしまっては本末転倒です。資産形成はマラソンのようなものです。無理せず自分のぺースで行いましょう。

3:NISAを使うことが前提で、通常、証券投資で利用される特定口座や税金のことを理解せずに始めてしまう(=基礎知識の不足)

 NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)といえば、利益に対して非課税で有利という点が注目されがちです。そのため、通常の取引で使われる特定口座(※)と比較して、メリット、デメリットを理解せずに投資している方が多くいます。

 特定口座とNISA口座の取引は、損益通算ができません。特定口座で買い付けした投資信託に利益が出ていて、NISA口座で買い付けした投資信託が損失となっている場合、「節税効果が期待できない」ということも起きています。

※特定口座:譲渡損益などを証券会社が計算する口座。投資家本人が税計算する必要がなく、金融機関が発行する「年間取引報告書」を用いて確定申告を行うことができる。また、「特定口座(源泉徴収あり)」を選択すると、特定口座内での売買などで生じた利益に対する所得税や住民税を、取引金融機関が源泉徴収し、代わりに納付する

4:iDeCoとつみたてNISAを比較するときに、iDeCoの所得控除と受取時の退職所得控除(または公的年金控除)の仕組みを理解していない(=税制への理解不足)

 証券投資をするときには、投資した資産が値上がりするか、その資産からの配当や利息から得る運用益で資産を増やしていきます。しかし、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)では資産が増えなくても、投資した金額にあわせて所得控除という節税が期待できます。これは、収入が高ければ高いほど税金の支払いが減ることになるので、iDeCoで選択した投資資産が現金同等資産だとしても、税金が減ることで、結果的に資産が増えることが期待できます。

 資産運用では普段聞き慣れないような単語が多く出てくるため、考えることがつい面倒になってしまいがちですが、制度の内容はしっかり理解しておきましょう。

5:iDeCoで投資をしているのに、確定申告は年末調整で行っているか、自分で申告する必要があるのか、職場に確認していない(=事務手続きの理解不足)

 iDeCoは投資を始めようとした方が一度は目にするぐらい、普及が進んでいる制度だと思いますが、まだまだ知らない方も多いのが現状です。

 まず、iDeCoを始めるにあたって、勤務先に自分が始められるかどうかを確認する必要があります。しかし、このとき、支払方法によって、年末調整で会社が手続きしてくれる(事業主払い)のか、自分で確定申告をする必要があるのか(個人払い込み)、詳しい制度の違いまでしっかり教えてくれるかは分かりません。勤務先でiDeCoをしている人が少ない上に、事務担当者も詳しく制度を理解していないことから、自分で確定申告しなければならないことを知らなかったという方もいます。

 しかし、知らなかった場合は自己責任です。やはり制度の内容はしっかり理解しておきましょう。

知っているか、知らないか。大きな差になるのが資産形成

 資産形成に役立つ制度や仕組み、推奨される商品などについて、知っている人にとっては当たり前のことなのに、普段お金の話題に触れることが少ない方にとっては「目からウロコ」ということは多く、資産形成に関する情報格差は大きいと感じます。

 資産運用はやってみないと分からない、実感しづらいことも多いと思いますが、NISAやiDeCoを始める前に最低でも下記の点を理解してから投資を始めることをおすすめします。

銀行・証券会社での取扱商品の種類や数の違いを知る

 同じ金融機関といっても、銀行と証券会社では元々の役割が違います。基本的には銀行よりも証券会社の方が資産運用での取扱商品の種類や数が豊富です。銀行で相談しているのに、グループ会社の証券会社などが提案してくることも珍しくありません。

担当者がいる対面取引と、ネット取引の手数料を比較する

 継続的にフォローをしてくれる担当者がいる対面取引は、全て自分の判断で行うネット取引に比べると、当然手数料が多く発生することになります。サービスを受けるため当たり前と思うかもしれませんが、NISAやiDeCoのような資産形成についての手続きは、対面を行わない会社のコールセンターでもかなり対応してくれます。

 必要がないと感じているなら無駄な手数料を支払う必要はありません。ネット取引で対応しましょう。

NISA、つみたてNISA、iDeCoの仕組みだけでなく、実務を知る

 これらの制度にはそれぞれメリット、デメリットがありますが、運用中にどんな手続きが必要になるか知っておくべきです。知らずにいることで、せっかくのメリットを享受できない可能性もあります。始めた後でも気になったこと、分からないことを一つずつ理解していくと、多くのことが自分で判断できるようになっていきます。

証券投資の税金制度を把握する

 証券投資における税金は、値上がり益(譲渡所得)、株式などの配当(配当所得)、債券などの利息(利子所得)などがかかりますが、現在の税率では20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税が所得税額に対して2.1%[15%×2.1%=0.315%])で統一されています。

 多くの方は特定口座(源泉徴収あり)で取引していると思いますが、その場合は確定申告をしなくても、取引金融機関が税金の支払手続きを行います。しかし、ご自身で確定申告をすることで税金が還付されたり、損金を繰り越せる場合もあります。税制上有利な方法を知っておくことで、効率的な資産形成を実現することができます。

 資産形成は10年20年と時間をかけて資産を築くための運用方法です。そのため慌てる必要はありません。少しずつでもいいので資産運用の知識を増やし、投資経験を蓄えつつ計画的に実行できれば、自分の思い描いた資産形成を達成することができるでしょう。

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