誕生「BRICSプラス」!

 8月22日から三日間にわたり、南アフリカ共和国の最大都市であるヨハネスブルグで、BRICS首脳会議が行われました。BRICS(ブリックス)は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国(南ア)の頭文字(英語表記)をとった、比較的規模が大きい新興国のグループ名です。

図:BRICSプラスとG7の位置

出所:map chartをもとに筆者作成

 毎年行われている首脳会談ですが、今年の同会談では、このグループに2024年1月から6カ国を加えるという、大きな決定がなされました。6カ国とは、アルゼンチン、イラン、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)です。

 一部では大きくなるBRICSを、BRICSプラス、拡大BRICSなどと呼び始めています(本レポートでは、OPECが拡大したあと(2016年)に浸透した「OPECプラス」にならい、「BRICSプラス」と呼びます)。

 2022年2月のウクライナ危機勃発以降、世界で枠組みの乱立・再編が続いている中での出来事でした。

 西側、非西側、あるいは第三国など、考え方の違いで成り立っている枠組み、北大西洋、環太平洋・インド洋、あるいは欧州とアジアを陸と海で結ぶ地域など、地理的条件で成り立っている枠組み、原油など特定の資源を輸出する国々で成り立っている枠組みなど、足元、枠組みは世界に多数存在します。

 特定の国の特定の品目を禁輸した国とそれにならう国たちもまた、呼称はないものの「枠組み」を形成していると言えるでしょう。

 一緒になっていた方が安全・安心、仲良くしない方が身のため・リスク回避に適している、など、「枠組み」の乱立・再編には多数の国々の思惑が渦巻いています。今回のレポートで取り上げる「BRICSプラス」もまた、多くの思惑を抱えた枠組みの一つです。規模感が他の枠組みに比べて格段に大きいため、今後の動向に特に注意が必要です。

BRICSプラスの歴史

 BRICSプラスの歴史を確認します。BRICSプラスの起源は米国の大手金融機関が発行した経済レポートであるとされています。

 2001年にジム・オニール氏が書いた「Building Better Global Economic BRICs(より良い世界経済を築く BRICs)」、2003年にジム・オニール氏などの助力を受けた2人の専門家が書いた「Dreaming With BRICs: The Path to 2050(BRICsと共に夢を見る:2050年への道)」で、「BRICs」の文字を確認できます。

 レポート内で「BRICs」(sが小文字)の表記になっているのは、「複数の新興国」という意味を出す意図があったと考えられます。2001年のレポート内に、Brazil, Russia, India and China (BRIC) という、単数の表記が残っており、「the BRIC」にするか「BRICs」にするか、迷ったことがうかがえます。

 これらのレポートの存在は、(金融機関の働きかけがあってか)瞬く間に世界中が知ることとなり、「BRICs」(一部では「BRIC's」の表記もある)は、今後大変な成長を遂げる国のグループ、というイメージが定着しました(2000年代前半)。

 当事国(当該レポート内の四カ国、南アはまだ属していない)の動きは、周囲の急成長を期待する動きにやや遅れ、2006年の国連総会で四カ国の外相が会談を行い、リーマンショック直前の洞爺湖サミット(2008年)の場で非公式の首脳会談を行い、2009年にようやく公式の首脳会談を行いました。

 名づけ親も火付け役も米国で、BRICsはその流れに乗った(だけの)ようにも見えます。

図:BRICSプラスの歴史

出所:各種情報源をもとに筆者作成

 2011年の第三回首脳会談で、南アフリカが加わることが決まり、5カ国になりました(これを機にsはSに変わった)。そして今年の第15回首脳会談で6カ国が加わることが決まり、「BRICSプラス」になりました。

人口は2100年まで増え続ける見通し

 以下は、BRICS既存5カ国、新加入6カ国、およびG7の人口推移です。2022年以降は、国連の見通しです(中程度)。

「人口増加」は、経済発展と政治力拡大の源泉です。人口増加により、貿易額が大きくなったり、他国との結びつきが強まったりするためです。言い換えれば、「人口減少」は経済も政治力も減退する可能性を高めます。

図:BRICS既存5カ国、新加入6カ国、およびG7の人口推移 単位:10億人

出所:国連のデータをもとに筆者作成

「人口増加」は新しくBRICSに加わる6カ国の強みです。国連の中程度の見通しによれば、6カ国の人口(合計)は、2100年まで増加し続けます。2021年時点でおよそ4億人ですが、同見通しでは一度も減少することなく2100年を迎え、7億2,000万人に達します。7億2,000万人は2007年のG7と同じ水準です。

 同見通しによれば、既存のBRICSも、G7も、2040年代半ばに人口減少が始まります。しかし、BRICSに入る6カ国は増加し続ける、しかも2100年にはG7並みの人口を有することが見通されている…。新たに加わる6カ国は超長期視点の強みに、要注目です。

一貫して「国連改革」を主張

「BRICSプラス」の歴史は、20年くらいに収まります。例えばNATO(北大西洋条約機構 西側の軍事同盟)の結成が1949年、OPEC(石油輸出国機構)が1960年だったことを考えても、歴史は浅いといえます。しかし、20年程度の歴史の中に、今後の彼らの方針、引いては世界情勢に影響し得る大きなヒントがあります。以下は、首脳会議の声明の抜粋です。

図:BRICs(S)およびプラスの首脳会議の共同声明(一部抜粋)

出所:各種情報源をもとに筆者作成

 BRICSの首脳会議は2009年以降、毎年行われています。これらの会議の際に公表される共同声明を確認すると、ほぼ同じ文言が毎年盛り込まれていることがわかります。「国連改革(reform of the UN)」についての記載です。2009年にはじまり、2015年、2020年を境に、改革への語気がだんだんと強くなってきていることがわかります。

 2010年ごろ(2009年前後)は、欧州諸国が中心となり脱炭素の機運が高まったタイミングでした。2015年はロシアがクリミア半島(ウクライナ)を併合したことを機に、G8から除名された年の翌年でした。そして2020年はウクライナ危機が勃発した年でした。

 以前の「原油高とSDGsの深遠な関係」で書いた通り、西側が「脱炭素」を急速に進めたことによって非西側は「置き去り」にされ、世界各地で分断が深まった、そしてウクライナ危機が「後戻り防止装置」になってしまったと、筆者は考えています。

 2010年ごろから、こうした動きが目立ったわけですが、その間、上図のとおり、非西側の主要国であるBRICSは結束を強めて、一貫して国連改革を提唱していました。途上国の声を国連の会議の場に届け、議論するためです。今回の6カ国加入も、結束を強めるための一環だと言えるでしょう。それだけ国際会議の場に、非西側の声が届いているのだと考えられます。

穀物・エネルギー需給を揺るがす

 BRICSプラスは、以下のとおり小麦の消費量、原油の生産量ともに、G7を大きく上回っています。人口増加を背景にBRICSプラスで小麦の需要が急拡大し、世界全体の需給バランスが引き締まる(先進国でも供給不安が発生する)可能性があります。

 同時に、何らかの要因(ウクライナ危機起因の供給障害や異常気象など)で供給不足におちいった場合、政情不安が発生しやすくなるリスクが高いことを意味します。政治的・経済的な影響力が大きいグループでリスクが拡大した場合、つながりの深い先進国に連鎖的なリスクが及ぶ可能性があります。

図:BRICSプラスとG7の小麦消費量 単位:100万トン

出所:FAOのデータより筆者作成

 また、BRICSプラス11カ国中、4カ国が減産を実施しているOPECプラスに属するなど、世界の多くの原油供給を担っています。国連での発言権などをめぐり西側と対立が深まった場合、(BRICSプラス内の主要産油国がOPECプラスに入るなど)「減産強化」というカードが切られる可能性があります。

図:BRICSプラスとG7の原油生産量

出所:EIのデータをもとに筆者作成

 本レポートで触れた米大手金融機関のレポート「Building Better Global Economic BRICs(より良い世界経済を築く BRICs)」に、興味深い記述があります。G7内の欧州に属する国をまとめた上で、BRICsの4カ国を追加し、「G9」を作ることが、グローバルな政策決定をより効果的にする、としています。

「BRICSプラス」の考えを傾聴することが、グローバルな政策決定を効果的にし、多くの国際問題を解決させるきっかけになることを、20数年前のレポートが示唆しています。

 西側と非西側がお互いを認め合う状態にならない限り、コモディティ市場では各所で需給ひっ迫懸念が残ると考えられます。

[参考]コモディティ関連の具体的な銘柄

投資信託

iシェアーズ コモディティ インデックス・ファンド
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
eMAXISプラス コモディティ インデックス
SMTAMコモディティ・オープン

ETF

インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド (DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN (DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト (GSG)