時価総額は3兆ドルに達したアップルに軍配

 6月30日、電子製品・ソフトウエアなどを手掛ける世界規模の企業「アップル(米国)」の時価総額が世界で初めて、3兆ドルを突破したと報じられました。以下のとおり、同社の時価総額は2018年8月に世界で初めて1兆ドルに到達しました。その後、さらに騰勢を強め、2020年8月に2兆ドル、そして今回の3兆ドル到達となりました。

図:主要企業の時価総額の推移 単位:兆ドル

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 世界的なインターネット環境拡大が、同社が得意とする高機能端末の需要を拡大させました。また、新型コロナがパンデミック化したことで非接触の生活様式が拡大し、各分野でオンライン化が進んだことが、時価総額(その企業の価値とされる。株価×発行済株式で算出)増加に拍車をかけました。

 3兆ドルは、米国の電気自動車大手で宇宙開発なども手掛ける「テスラ」の3倍強、台湾の世界的な半導体大手「TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)」の7倍強、そして日本の自動車大手「トヨタ自動車」の10倍強です。

 以下は主要企業の時価総額上位10位です。アップルの3兆ドルを皮切りに、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、アマゾン、メタプラットフォームズ(旧フェイスブック)といった、いわゆる「GAFAM(これらの企業の頭文字を並べた、米国のハイテク企業のあだ名)」が名を連ねています。

図:時価総額主要企業上位10位(直近) 単位:兆ドル

出所:companiesmarketcap.comのデータをもとに筆者作成

 アップルの「3兆ドル」到達、GAFAMの上位ほぼ独占。まさに米国のハイテク企業(電気自動車大手のテスラ、半導体大手のエヌビディアも含め)の隆盛を目の当たりにしているわけですが、ランキングに食い込むようにサウジアラビアの企業「サウジアラムコ」(3位)の名前が確認できます。

 サウジアラビアの国営石油会社「サウジアラムコ」。今回のレポートでは、同社の動向を確認しつつ、原油価格の動向、引いてはインフレの動向について考えます。

営業利益はGAFAMを超えたアラムコに軍配

 GAFAMら米国のハイテク企業の株価が長期視点で上昇傾向にあることから、米国のハイテク企業を中心とした企業の株価をまとめた指数「ナスダック総合指数」や米国で時価総額が大きい主要500社の株価をまとめた指数「S&P500種指数」なども、長期視点で上昇傾向にあります(短期的な下落はある)。

 しばしば「GAFAMは時価総額が大きいから優良企業だ」という話を耳にします。たしかに、企業の価値とされる時価総額が大きいことは良いように思えます。ここで留意したことは、先述のとおり時価総額が「株価×発行済株式数」で計算されていることです。株価だけではなく、発行済株式数にも注目する必要があります。

図:時価総額主要企業上位10位の発行済株式数(直近) 単位:10億株

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 発行済株式数は時価総額1位のアップルが157億株、同2位のマイクロソフトが74億株です。アマゾンやアルファベットもおおむねこの水準です。一方、発行済株式数の分野で突き出ているのが「サウジアラムコ」です(2,420億株)。

 同社は2019年12月に同社株の数パーセントを同国内の証券取引所(タダウル市場)に上場させました。当時、資金調達額が2014年の中国アリババ集団(250億ドル)を上回る、史上最大(256億ドル)となったことが、大きく報じられました。上場を経て、同社のデータが明るみに出て、米国など他国の企業と比較が可能になりました。

 時価総額の大きさを論じる際は、発行済株式数にも着目する必要があるでしょう。発行済株式数は、将来的な資金調達力に影響し得ます。

 また、以下は、主要企業の営業利益です。サウジアラムコの営業利益はGAFAMの1位であるアップルの2倍以上です(GAFAMの一部はランク外)。西側諸国主導の環境問題への解決策の一つ「脱炭素」は進んでいるものの、まだまだ、石油関連企業(サウジアラムコ、エクソン・モービル、エクイノール、シェル、ペトロブラス)の利益が大きいことがわかります。

図:営業利益主要企業上位10位(直近12カ月) 単位:10億ドル

出所:companiesmarketcap.comのデータをもとに筆者作成

 上図のとおり、「サウジアラムコ」の直近12カ月の営業利益はおよそ2,940億ドルです。この額は、サウジアラビアのGDP(国内総生産:実質2022年)6,721億の4割前後です。

 同国のGDPの内訳における「原油・天然ガス」と「石油精製」の割合の合計は4割前後と推測されることからも、サウジアラムコはその名の通り同国の国営石油会社であり、同国の石油産業のほぼ全てを担っていると言えます。

サウジは原油価格が高止まりすることを望む

 以下は、サウジアラビアの原油生産量の推移です。OPEC(石油輸出国機構)プラスのリーダー格である同国は、同組織の減産方針に従い、上限を設定した生産を行っています。上限(青い点線)を上回らない生産(赤線)を行っていることがわかります。

図:サウジアラビアの原油生産量 単位:千バレル/日量

出所:OPECの資料およびライスタッドエナジーのデータをもとに筆者作成

 ギリギリのラインで減産を順守しているのは、他の減産参加国が順守しきれていない分をカバーする、順守している様子をアピールして需給が引き締まっているムードを作り出す、などの意味があると考えられます。

 減産は、生産量が過剰にならないようにし、原油価格を高止まりさせる効果があります。表向きは「需要に見合った生産をする(需要が減りそうだから減産する)」としていますが、実態は原油相場を高止まりさせる策だと言えます。

 サウジアラビアが属するOPECプラスは巧みに、需要見通し(中央銀行のフォワードガイダンスに近い)を示し、生産量を調節し(減産も増産もする)、市場に需給のダブつき感が生じないようにして、価格を高止まりさせていると考えられます。

 手を変え品を変え、原油価格を高止まりさせているのは、西側諸国が環境問題を提唱し、「脱炭素」の名の下、原油などの化石燃料をできるだけ使わない世界を模索していることが大きいと、考えられます。サウジアラビアをはじめとした産油国の石油関連の収入は、おおまかに言えば「単価(原油や石油製品の価格)×輸出量」で計算されます。

「脱炭素」が進めば進むほど、輸出量が減少することが予想されます。しかし、産油国は収入を一定程度、維持しなくてはなりません。このため、単価(原油や石油製品の価格)の高値維持がかかせなくなっているわけです。「脱炭素」が長期視点の動きであるため、彼らの高値維持策も、長期視点になり得ます。

サウジ長期視点で原油生産を増やさない!?

 以下は、サウジアラビアにおける油井を掘削するために稼働しているリグ(掘削機)の数です(リグは油井を掘る機械であり生産するポンプではない)。

図:サウジアラビアの稼働リグ数 単位:基

出所:ベイカーフューズおよび世界銀行のデータをもとに筆者作成

 米国と異なり、サウジアラビアでの石油開発は着手から数年、長い場合で10数年かかるといわれています。つまり足元の開発活動が、数年後、10数年後の生産量に影響を与え得るわけです。

 グラフのとおり、サウジアラビアで油井を掘るために稼働しているリグ(掘削機)の数は、減少傾向にあります。2020年ごろから原油相場が急騰し、利益が大きくなりそうな状況になったとしても、です。「脱炭素」が、サウジアラビアの開発活動の手を止めてしまっていると考えられます。

「脱炭素」が長期視点であれば、「開発停滞→減産→価格つり上げ策実施」もまた、長期視点になる可能性があるわけですが、すでにもう、開発停滞が起きていると筆者はみています。

インフレ長期化の懸念あり

 具体的に、産油国はいくらくらいの原油価格を望んでいるのでしょうか。以下は、IMF(国際通貨基金)が示した、主要産油国の財政修正が均衡する時の原油価格です。サウジアラビアは80ドルを超えています。主要な産油国の平均はおよそ73ドルです。

図:主要原油輸出国の財政収支が均衡する時の原油価格 単位:ドル/バレル

出所:IMFのデータをもとに筆者作成

 OPECプラスの減産は、前回の「総点検!2023年上半期、どう動く?下半期」で述べた米国における「減産」と相成り、世界の原油の需給を引き締め続ける可能性があります。そして、具体的な原油価格の落ち着き先が「70~80ドル」となると、現時点で筆者は考えています。

 サウジアラムコを要するサウジアラビア、サウジアラビアとロシアがリーダー格であるOPECプラスの減産(脱炭素起因・長期視点の価格下支え)、米国の生産減少。供給面では長期視点の価格上昇圧力がかかり続けるとみています。

 仮に需要が減ったとしても、多くの人が望まない「景気後退」は長期化する可能性は低く、長期視点では需給ひっ迫は続く、すなわち、インフレは長期化すると考えます。

[参考]エネルギー関連の投資商品例

国内株式

INPEX
出光興産

国内ETF・ETN

NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア

外国株式

エクソン・モービル
シェブロン
オクシデンタル・ペトロリアム

海外ETF

iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
グローバルX MLP
グローバルX URANIUM
グローバルX 自動運転&EV ETF
ヴァンエック・ウラン+原子力エネルギーETF

投資信託

UBS原油先物ファンド
米国エネルギー・ハイインカム・ファンド
シェール関連株オープン

海外先物

WTI原油(ミニあり)

CFD

WTI原油
ブレント原油
天然ガス