※この記事は2020年9月3日に掲載されたものです。

 親族の遺産がなくても、起業家でなくても1億円の資産を築いた人にはある条件がありました。

 その条件を明らかにするため、手段は違えど、いわゆる「普通の会社員」で「資産1億円」を達成した4つのケースの手法を紹介し、その達成要因と留意点を、連載「やってはいけない資産形成」の執筆者である西崎努氏が解説します。

株式投資で1億円

Hさん(男性・50代半ば・会社員)

 株式投資が好きで、投資キャリアの長いHさん。リーマン・ショックで株価が世界的に暴落したタイミングに、それまでの貯金を使って、割安株を大量買いしました。

 しかし、株式投資好きなHさんが投資のトレンドに乗って、流行(はや)りの銘柄を買うときは、なぜか損しがちでした。それでも株式投資で1億円の黒字を達成できたのは、ある銘柄のおかげでした。

 Hさんはある産業分野に明るく、世間一般には知られていないものの、長く業績成長を続けている1銘柄の売買を繰り返していました。これによって5,000万円ほどの利益(購入価格の7~8倍の値上がり)を得ていたのです。

 上場会社の管理部門に長く勤め、役員にもなったHさんですが、定年を待たずに退職。退職金2,000万円を受け取って、友人の会社に転職しました。そのとき、退職金の半分を債券に、残りの半分は、その1銘柄に投資。現時点のHさんの金融資産は1億円超です。

1億円達成の理由

解説:西崎努氏

 Hさんは家計の収支や資産の状況について把握することはもちろん、元々、自身でライフプランを作成するくらい、計画的に人生を歩んでいる人でした。そして、分からないことはIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)などプロのアドバイスを得て、常にライフプランをブラッシュアップさせています。

 Hさんは「1銘柄」以外に、十数銘柄の株式を保有していて全体としては黒字です。十数銘柄の株式は値動きを楽しむ目的で買っているところがあり、投資金額そのものも抑え、全体の金融資産に対する割合はそれほど高くはありません。

 金融資産の多くを株で保有しているHさんですが、50代半ばになったため、老後を視野に入れて、資産に占める「1銘柄」の割合を減らして、債券などの安定資産に移行させようとしています。しかし、株式を売って現金化しても、株式投資好きの血が騒ぎ、再びあの「1銘柄」を買い増ししてしまうそうです。

 老後を視野に入れた資産運用という観点からは軌道修正が必要なのですが、「1銘柄で大きな利益を出した」という成功体験があるため、なかなかやめられないようです。過去の成功体験が資産運用に影響を及ぼす例は珍しくなく、気をつけなければならないことと言えます。

 最後にHさんが資産1億円を達成した秘訣をまとめると、「ライフプランを作成し、人生の節目に応じて常に見直していた」「自分が詳しい業界の銘柄を売買していた」ことが挙げられます。

不動産投資で1億円

Sさん(男性・50代後半・会社員)

 Sさんは40代のころ、東京・品川区内に自宅用のマンションを約5,000万円で購入しました。当時はリーマン・ショックの後で、ほとんどの不動産が値下がりしていたタイミングでした。

 これをきっかけにSさんは不動産投資に興味を持ち始めて独学。自宅マンションを担保に、都心で2,000万~3,000万円の投資用不動産を複数購入しました。

 その後、アベノミクスによって景気が上向きはじめ、加えて東京オリンピックの開催が決定したことで、購入当時は底値だった不動産価格は一気に上昇。自宅マンションが1億円まで値上がりしたため、Sさんは「マイホーム(居住用財産)を売ったときの特例」(所有期間の長短に関係なく譲渡所得から3,000万円を控除)と、5年を超えて所有していたため、所得税率が低い「長期譲渡所得」の仕組みを使って売却。そのため、この時の売却益には、ほとんど税金はかかりませんでした。

 さらに、投資用不動産も、購入時から価格が5割程度上昇していたところで売却。金融資産と不動産の純資産(資産-負債)で1億円を達成したのです。

1億円達成の理由

解説:西崎努氏

 本来、不動産投資は不動産業者並みの専門知識が必要だったり、管理の手間がかかるなど、投資の中では効率が悪く、成功することが難しいと言われています。しかし、Sさんの場合は、なんといっても投資の時期が良かったのです。「安値で買って高値で売る」、正にこれを実現できました。

 自宅マンションの購入には個人の住宅ローンを使いましたが、投資用不動産の購入では、法人となって不動産投資ローンで資金調達しました。Sさんは長く会社に勤め、安定した収入があること、その収入も一定水準以上をキープしていることから、比較的ローン審査も通りやすい条件がそろっていたことも幸いでした。

 ただ、環境が良かったことに加え、Sさんだからこそが成功した理由もあります。それは「物件を買えるだけの頭金を積み立てていた」ことと、「投資用不動産が値上がりする条件(値上がりが期待できるエリアや部屋の広さなど)や金利、税金について、きちんと勉強してスタートした」ことでした。当時に比べて、現在の不動産価格もずいぶん値上がりしていますが、常日頃から準備や勉強をしていたことが結果につながりました。

自身のスキルを極めて1億円

Mさん(男性・60代後半・大学教授を退職)

 Mさんは、ある医療系専門分野では第一人者と称される、有名な大学教授でした。昼夜を問わず研究にのめり込み、産学共同研究にも熱心に取り組んでいました。教授としての年間給与は800万円ほどでしたが、大学以外の企業・団体で技術指導を行った際の謝礼など、月に数十万円になるほどの副収入もあったのです。

 研究に没頭し、派手な生活を好まず、質素に暮らし続けていたため、毎月の貯蓄額も多く、退職金3,000万円と合わせて、退職時の金融資産は1億円に到達しました。

 Mさんは世の中のために自身の専門分野を生かそうと、現在も企業などから依頼を受けて、技術指導を続けています。

1億円達成の理由

解説:西崎努氏

 Mさんが金融資産1億円を貯めることができた理由は、収支のバランスが良かったことが挙げられます。職業スキルを上げることで収入が増えていった一方、研究に没頭して質素な生活を続け、不要な支出がほとんどなかったのです。

 大学を退職後の現在の主な収入は企業からの指導料と年金、そして利息収入など。投資についてはそれほど詳しくないため、老後生活や介護費用を想定して、資産1億円の一部を預金で保有し、余裕資金の数千万円で債券を購入しています。これによって毎年200万~300万円の利息収入を得て、引き続きぜいたくはしない生活を送っています。

 改めてMさんが資産1億円を達成した理由をまとめると、「収入が増えても支出を増やさず、収支のバランスが良かった」こと、そして「自らの職業専門スキルを極め、それによって副収入を得ることができた」ことが挙げられます。

優待株式+米国株式投資で1億円

A夫妻(50代前半・会社員)

 2000年初頭のITバブル絶頂期のころから日本株投資を優待目的で始め、こつこつと保有銘柄を増やしていった妻のAさん。慣れてくると、優待目的から離れ、株価の値上がりを目的とした本格的な投資へとシフトしていきました。リーマン・ショック後の安値のころから本格的に買い始めたこともあり、現在の保有銘柄数は50銘柄以上、株式資産は約4,000万円を超えています。

 実はAさんの投資は、含み損の銘柄はもちろん、含み益の銘柄も「売らない」スタイル。売買せず、一度買った株をずっと長期保有し続けているのです。理由は、リスクを避けようと、いろいろな銘柄を数多く買った結果、どのタイミングでそれぞれ売買したらいいか判断が難しくなったこと。意識せず、分散投資のポートフォリオができ上がっています。

 一方、米国勤務経験の長い夫は、米国の成長力を肌で感じていたため、米国株投資一筋。運用資産は6,000万円ほどになっています。

 そして、1億円を目標に投資してきた夫妻の株式資産の合計は1億円を達成。妻のAさんは今後、少しずつ売却して利益確定するつもりだと言います。

1億円達成の理由

解説:西崎努氏

 妻のAさんの成功要因は、株価が値下がりしても「持ち続けた」こと。

 実はAさんのように株式を「売らない」例は意外に多いもの。どこが売却のベストポイントなのか考え過ぎ、また、株から別の資産に切り替える踏ん切りもつかずに、多くの人が苦労していることも現実です。

 A夫妻の資産の内訳を見ると、現金・預貯金の保有が極端に少ないのですが、二人とも会社員としての収入に加えて、株の配当収入があるため、今すぐ株を売って現金化する必要性を感じていません。

 とはいえ、50代になったことで、株の一部を債券に移して安定運用に切り替えることも必要です。そのことはAさんも認識しているのですが、保有株数が多過ぎて選別ができない状態です。

 そこでまず銘柄に売る順位を付けて、少しずつ整理していくことを提案します。順位を付けることができない人は第三者に客観的なアドバイスなどを受けることで、自身の銘柄に対する思惑と現実の相違がはっきりしてきます。

 また、譲渡益に約20%の税金がかかることを考えて株式を売れなくなる人も多いので、損益通算の仕組みを上手に使って、節税しながら整理していくことも必要です。

1億円を達成するための4つの条件

解説:西崎努氏

 1億円を達成した4つのケースに登場した人たちは、働いて給料や収入を得ている「普通の人たち」です。親族から相続した多額の遺産を元手に、不動産投資や株式投資を始めたわけでもありません。4人が1億円の資産を達成した「やり方」から、浮かび上がった4つの条件を明らかにします。

条件1:収入に見合った支出を維持して、お金が貯まる家計を作っている

 給料が増えても派手な生活をせず、こつこつと貯蓄を増やしていくことは、1億円達成の重要な条件の一つです。ケチに徹する必要はありませんが、無駄な出費は抑えるべきです。そうすれば、投資の十分な元手を作ることができます。投資金額が多いほど、株式投資であれば配当収入も増えることになります。

条件2:本業のスキルを高めて給料を増やし、複数の収入手段を作る

 会社員であれば、まず本業のスキルを高めて、会社に必要な人材となり、給料を増やすことを考えるべきです。時間的な余裕がある人は副業を始めれば、より多くの収入を得ることにもつながります。

条件3:目先の値動きや利益を追わず、投資を長期継続する

 株式でも不動産でも値上がりすると売って利益を確定したくなるもの。そういう頻繁に売買を繰り返す投資法もありますが、4人の1億円達成者に共通することは、「長期継続」です。株を買い増しすることはあっても、目先の値動きで売ることはほとんどありませんでした。長期を見据えた投資が成功の秘訣と言えるでしょう。

条件4:税制や各種制度を知って上手に利用する

 不動産投資で成功したSさんのように、税制や制度を把握して、「特例」や「長期譲渡所得の仕組み」を使って節税し、少しでも多くの利益を確保することは大事なことです。株式投資でも損益通算の仕組みを上手に使うことで、節税ができます。また、「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)」を使うこともおすすめします。