※この記事は2021年12月24日に掲載されたものです。
資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。
お悩み
老後に備えて始めた資産運用は絶対に失敗したくない!ではどうすれば?
野中茂雄さん(仮名)会社員・60歳(既婚、子どもは独立済)
早期退職をした野中さんは老後のお金に悩まないためにも、これまでの貯蓄と割り増し退職金をもとに資産運用を始めるため、証券会社に口座をつくりました。
シニア年代の資産運用は、絶対に失敗できないと意気込みますが、投資の種類や商品数のあまりの多さに、どんな投資先が自分に合っているのか、何を選ぶべきかわからなくなり、困り果てていました。
そこで、「買ってはいけない5つの金融商品」の特徴に当てはまる商品を避けていけば、よい商品や投資方法が見つかるのではと考えつきました。
■参考記事:50〜60代のはじめて投資!買ってはいけない5つの金融商品
野中さんのようなシニア世代が、資産運用の失敗で悔やまないためには、どんな商品を避けるべきなのでしょうか。
シニア世代が資産運用で陥りがちな落とし穴「安心・安定・安全」
50代以降になると、投資目的が40代までとは変わってきます。積極的に資産を増やしたいというより、すでにある資産を安定的に増やしたい、もしくは利息や配当の収入で余裕のある生活を送りたいというニーズが高まるためです。
それと同時に投資に対しても慎重に向き合い、誰しも「安心」できる商品で「安定」した運用結果を「安全」な方法で得たいという気持ちになるのではないでしょうか。
しかし、このような「安心・安定・安全」の観点は、運用する人によって状況は大きく変わります。もし、リスクを取らずに「安定」した運用結果だけ欲しいと考えているなら、そんな「うまい話」はありません。そう考えていた方は、いきなり資産運用を始めずに、まずは投資知識を蓄えることから始めた方がよいでしょう。
まず投資で大事なポイントは失敗事例とその理由を学ぶこと、そして自分にあった投資方法を知ること、さらに投資する商品のメリットとデメリットを理解することです。
シニア世代が後悔する「悲惨な投資先」とは?
シニア世代が「買ってはいけない5つの金融商品」では、避けるべき商品の特徴として、次のことをお伝えしました。
- 「コストが割高な商品」
- 「リターンが高い商品(リスクが高い商品)」
- 「現金化しづらい、現金化に時間がかかる商品」
- 「仕組みが複雑!分かりづらい商品」
- 「安定した利息・配当が約束されたように見える商品」
今回はさらに、これら「買ってはいけない金融商品」を具体的に挙げ、解説します。
シニア世代が後悔する金融商品1:運用中のコストが高い「投資信託」や「ファンドラップ」
安定した運用成果を期待し、分散投資された金融商品を、シニア世代にはすすめられることが多いようです。
ところが、長期分散投資といえば王道ですが、中には運用中に支払う費用が非常に高い商品もあるため、注意が必要です。この費用は日々の価格の中から差し引かれているために、どのくらいの金額を支払ったかが実感しづらいという問題点があるからです。
例えば、1,000万円を年間費用1.5%の投資信託で運用した場合、単純計算で年間15万円、20年間では300万円もの費用を支払うことになります。
利益が出ているときは、こうした運用中の費用をあまり気にしない人がほとんどのようです。しかし、利益のありなしに関係なく支払う必要があることを認識し、普段からコスト管理をしていれば、より多くの利益を出せたり、損失も少なく済むようになります。
運用の年間コストは、高くても1%以下を目指すように心掛けておきましょう。
シニア世代が後悔する金融商品2:実は高コストでローリターン「為替ヘッジ付債券ファンド」
安定運用といえば債券投資ですが、日本の低金利では円建ての債券ではほとんど利益が出ないのが現状です。しかし、外国債券投資であれば2~4%程度の期待リターンがある商品もあります。その代わりに為替リスクが発生するので、為替の値動きによっては損失となってしまう可能性があります。
そこで、為替リスクを抑えるヘッジ投資を組み合わせた債券ファンド「為替ヘッジ付債券ファンド」が注目され、銀行預金などから購入される方もいます。しかし、ヘッジにかかるコストは一定ではありませんし、商品によっては運用コストも差し引いてリターンを考える必要があります。このタイプの商品はよく販売されているものほど、要注意です。
「安心・安定・安全」な運用が「できそうな」商品ほど気をつけましょう。
シニア世代が後悔する金融商品3:現金化できず、コスパの悪い「EB債」
EB債(他社株転換可能債、Exchangeable Bond)とは仕組債の一種で、投資資金を償還した際に、株式で返ってくる可能性のある債券のことです。株式に転換されるリスクがあるため、一般的な債券に比べて利率が高く設定されています。
よくある仕組みでは、参照銘柄の株価が50~60%程度まで下落しなければ、株式償還による損失が発生せず、年間数%から高ければ10%近い利率を受け取れることもあります。
「この銘柄ならそこまで下がらないだろう」と感覚的な判断で投資をしている方が多くいらっしゃいますが、下がる可能性があるため成り立つ商品といえます。
またEB債の多くは参照銘柄の株価が上昇した場合に、早期償還(元金の100%が償還)される可能性があり、その場合には当初想定した利息を受け取ることができなくなります。
早期償還され、再度EB債を購入すれば、販売側はその都度手数料を受け取ることになります。しかし、個人投資家にとってメリットはほとんどありません。
その上、仕組債は途中換金が原則できません。
いざというときに現金化して使えない金融商品は、シニア世代にはおすすめできません。
シニア世代が後悔する金融商品4:高利回りだけど為替リスクが怖い「新興国通貨建債券」
先進国の金利はどこも、昔に比べて低水準に落ち込んでいます。しかし、新興国の金利は今でも高いままです。5%以上の金利も珍しくなく、場合によっては20%近い金利を受け取ることができます。
このため、新興国通貨建ての債券に投資をして、高い金利を受け取っておけば多少の為替リスクがあっても、老後も安心して利息収入を受け取れる、と考える人がいます。
2008年9月に起きたリーマン・ショックが多少落ち着いた2010年ごろから、新興国通貨建て債券へ投資する投資信託が流行しました。その後も新興国通貨建ての外国債券も多く販売されるようになりました。しかし、現在ではほとんどの人が大きな損失を抱える結果となっています。
2010年当時人気だったブラジルレアルは、対円で約50円でしたが現在では約20円と60%程度も下落。トルコリラに至っては、約60円だったものが現在では一時は6円近くまで落ち込み、90%ほど下落しています。当時は高いと思った金利もこれでは意味がありません。
さらに恐ろしいことに、金利が現地通貨ベースで支払われるため、円高が進めば進むほど、当初予定の金利よりも日本円ベースでは低い水準となってしまうのです。
見た目の金利の高さだけを信用してはいけません。「本当に」高い金利といえるのか、リスクを考えた上で判断しましょう。
シニア世代が後悔する金融商品5:やはり配当が魅力的?「超」高配当株式
老後は配当収入で余裕のある生活を過ごす、ということを考えたことはありませんか。特にシニア世代の方から、「高い配当を出していて、しかも落ち着いた値動きの株式へ投資をしたい」というご相談をよく受けます。しかし、高配当とはどの程度の水準をイメージされているでしょうか。
高配当銘柄と紹介されている株式などを見ると、3%以上というのが一つの目安となりそうです。
現在TOPIX(東証株価指数)の予想配当利回りが1.87%(2021年11月末日時点)、S&P500種指数が1.21%(バンガード・S&P500ETF[VOO]の過去1年の実績より計算)であることを考えると、非常に高い水準であるといえそうです。
高配当株式ETF(上場投資信託)を見ると、日本株へ投資する「NEXT FUNDS 日経平均高配当株50指数連動型上場投信(1489)」では約3.86%(2021年12月16日時点)とやはり3%超の配当を狙った組み入れです。
ただし、米国株の「SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF(SPYD)」では配当額が下がったため、直近の配当利回りは1.25%(2021年12月16日時点)です(※配当額が下がっていてもETFの価格が下がっていなければ損をしているというわけではありません)。
しかし、高配当銘柄の中には5%以上もの配当利回りを出す「超」高配当といえる株式もあります。ただこうした銘柄の多くは株価が下がってしまっているために、配当が高いというケースも少なくありません。
2019年ごろにはNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)買い付けランキングで「日産自動車」「みずほHD」「JT」「武田薬品」などよく知られている企業で高配当の銘柄が好まれていましたが、残念な結果となってしまった方も多いでしょう。
「高過ぎる」配当やリターンは何か理由があるはずです。安易に過去の数値だけで判断しないように注意しましょう。
シニア世代が老後で実践するべきは運用だけでなく「資産管理」
人生を楽しみつつも「高齢化」への備えが必要
FINMAC(証券・金融商品あっせん相談センター)では、金融商品を販売する側と顧客とのトラブル(紛争)のあっせん事例(裁判よりも簡易・迅速な手続きが可能で、当事者双方の話し合いを前提に紛争解決を目指す方法)がたくさん記載されています。
ここでよく問題となっているのは「仕組債の株券償還」「新興国通貨の為替損」「株式の過度な売買やリスクの取り過ぎ」です。
これらの共通点は、提案する側の意見をうのみにして、正しい投資知識やリスクへの理解度が不足していることです。
信頼できる相手に任せているとおっしゃる方もいると思いますが、金融機関のように担当者が代わっていく場合はやはり担当者次第ですし、長く付き合いがあっても第三者の意見などを参考にすることも忘れないようにしましょう。
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【要チェック】
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また、リーファス社の公式YouTubeチャンネル『ニーサ教授のお金と投資の実践講座』では、同コラムの他にも動画でお金と投資の知識を学ぶことができます。
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