2023年中国経済の鍵を握る、4-6月期の景気動向

 今回のレポートでは引き続き中国経済に焦点を当てていきます。

 4月の主要経済統計結果を検証した過去の記事などで指摘してきたように、2023年の中国経済全体を占う上で、4-6月期の景気動向は極めて重要です。2022年のこの時期は、上海市が2カ月以上のロックダウン(都市封鎖)に見舞われるなど、経済活動が大打撃を受けた結果、GDP(国内総生産)実質成長率は前年同期比0.4%増と大きく低迷しました。

 今年、どれだけ回復するか。1-3月期は市場予想を上回ったものの、前年同期比4.5%増という結果でした。昨年のGDP成長率は3.0%増と目標(5.5%前後)未達成に終わっており、回復状況はまだまだ道半ば。

 4月の生産、消費、投資を巡る数値も予想を下回りました。雇用動向では、若年層の失業率が20%超えと過去最高を記録したことも不安要素です。

 直近で言うと、中国税関総署が6月7日に発表した5月の貿易統計(ドル建て)では、輸出が前年比7.5%減となり、市場予想(0.4%減)を大幅に下回りました(輸入は前年比4.5%減)。中国政府が懸念してきた「外需の鈍化」の影響を直接的に受けた形です。 

 そんな中、2023年の成長率目標である5.0%前後を達成するためには、第2四半期以降、特に4-6月期が鍵を握るという従来の見方を、私はこれまで以上に強くしています。

 従って、その期間に当たる今現在、中国経済を巡る景気動向に影響を与え得る指標であれば、それがどんなにささいなものであったとしても、焦点を当て、分析していきたい。そんな思いで、今回のレポートを執筆しています。

中国の景気動向を見極める上で不可欠。混在する「二つのPMI」

 中国の景気動向を測る上で軽視できない指標がPMI、すなわち「製造業購買担当者景気指数」です。中国では二つのPMI指数が混在しているのが実態で、一つが中央政府機関である国家統計局が発表する「PMI」、もう一つが中国を代表する民間の経済・金融メディアである財新(Caixin)が発表している「財新PMI」です。

 PMIの調査手法に関しては、企業の購買担当者にアンケート調査を実施し、製造業と非製造業に分けて結果を集計します。算出された数値が節目となる50を上回れば景気は上向き、下回れば景気は悪化していることを示します。

 中国で混在する官民二つのPMIの違いを簡単に説明すると、PMIは約4,300社を対象とし、かつ国有企業の比重が高いのが特徴。財新PMIは、調査対象が約650社と、標本の数がPMIには及ばない一方、経済が発展した沿岸部における中小企業のウエートが高い。言い換えれば、景気の上下動に対してより敏感な反応を示す企業を対象としています。

 このような背景から、私の実感としては、中国の民間企業や海外の投資家は、中国の景気動向をより真実的に示す数値として、PMIよりも財新PMIを重視する傾向が見て取れます。私自身も、そのようなスタンスで二つのPMIを参考にしています。

 ただ、上記であえて「混在」という言葉を使用したように、二つの指標はいずれも中国の景気動向を示す重要なものであり、見る側とすれば、困惑したり、混同したりすることもありますが、両方を参照しながら中国の景気動向を、可能な限り真実的に見極めていく必要があると思っています。

5月PMI、製造業と非製造業にギャップ。需要不足響く

 官民それぞれが発表した5月のPMI数値を見てみましょう。

5月のPMI

  PMI 財新PMI
製造業PMI 48.8(▲0.4) 50.9(1.4)
非製造業PMI 54.5(▲1.9) 57.1(0.7)
国家統計局と財新の発表を基に筆者作成。PMIは国家統計局が発表、財新PMIは財新が発表。()は前月比増減。▲はマイナス。

 この表から読み取れる点は二つ。一つは、PMIの数値が4月を下回った一方、財新PMIのそれは上昇している点。もう一つは、製造業に比べて非製造業、すなわちサービス業のPMIの方があからさまに高い点です。

 二つのポイントを参考にしつつ、これらの数値から私が重要だと考える示唆を三つ書きます。

・製造業の景気感が不調である主な原因として素材価格の下落が考えられるが、特にPMIが低迷していることから、国有の大企業や内陸部における企業が困難に見舞われている。

・サービス業の好調ぶりは、特に大型連休「労働節」期間における新規受注が追い風となったと考えられ、感染を徹底的に封じ込めようとする「ゼロコロナ」解除が相当程度作用したと言える。

・製造業とサービス業の数値に明らかなギャップが存在する現状は、国家統計局が繰り返し指摘しているように、「経済が内的な原動力を欠いている」という需要不足に起因する。

 今後の見通しは、次の三つです。

 一つ目に、先週のレポートで扱った新型コロナ「第2波」に関して、中国当局がオミクロン株の感染拡大を食い止めるために、景気回復と逆行する政策を取るような形跡が見られないことは朗報であるということ。

 二つ目に、中国政府は金融緩和や財政出動といった景気刺激・支援策を常に用意し、必要に応じて発動していく見込みであるということ。市民の住宅購買欲を刺激する中央政府からの政策にも要注目。

 三つ目に、これから夏にかけて、史上最多となる1,158万人の大学卒業生が市場に流れ込んでくる。16~24歳の調査失業率は足元で過去最高の20.4%を記録しており、さらなる上昇が予想される。若者の失業率上昇は、需要不足を構造的に深刻化させるリスクとして懸念される。

 5月の生産、投資、消費指標を含めて、中国経済の動向からますます目が離せません。本連載でも適宜、丁寧にアップデートしていきたいと思います。