日本の日曜日は無事終わった

 5月21日の夕方から、「日曜日が終らない」「ちびまる子ちゃんを見てないので明日も日曜日」「子供達の事を少しでも考えてあげて下さい」などのコメントが付された引用ツイートが目立ちました。

 引用元は、同日の午後5時にちびまる子ちゃんの公式アカウントでなされた、アニメ「ちびまる子ちゃん」が都合により放送休止となったことを伝えるツイートでした。

 同アニメの代わりに放送されたのが、「ゼレンスキー大統領 平和公園へ」というニュース番組でした。ウクライナからG7サミットに参加すべく緊急来日したゼレンスキー大統領が平和公園に向かう車列や、同大統領の記者会見が放映されたもようです。

 同時間帯以降も、ネット上には、こうした対応を実施したテレビ局や、ウクライナで起きている戦争などに対する意見が書き込まれ続けましたが、日曜日は無事終わり、月曜日を迎えました。

 先日、文化人類学を専門とする大学の教授と話をする機会がありました。筆者の上の娘が志望する大学のオープンキャンパスで、個別質問に参加していたときでした。娘からの質問が一通り終わり、少しくだけたムードになったのを見計らい、専門分野について教授にいくつか質問を投げてみました(筆者としては教授やその教授を雇う大学の雰囲気を探る意図があった)。

 会話の中で教授は、文化に関わる研究では、偏見を持たないこと、相手をよく理解することが非常に重要だと言いました。自分の価値観だけで物事を考えては研究にならない、というのです。自分の価値観だけで物事を考えていると、重要な事象を見落とす、と言い換えられます。

 教授は、日本の生活に慣れた人(筆者を含め)には到底受け入れられない、スーダン(アフリカ東部)の儀礼的な習慣を例に挙げ(本レポートでは言及できない)、こうした習慣やこうした習慣を有している人であったとしても、まずは存在を認める姿勢が研究に欠かせないとも言いました。

 この教授の話と「日曜日が終わらない」の話は、つながっていると、筆者は感じています。もしかしたら我々は、習慣化してかつ五感で感じやすい事象に目を奪われ、自分の価値観だけで物事を考えてしまい、重要な事象を見落としているのではないか、ということです。

 その重要な事象とは、ゼレンスキー氏が物価高と密接な関係があること、ゼレンスキー氏が大統領を務めるウクライナが巻き込まれている戦争が終われば、われわれが直面している危機である「物価高」が終わる可能性が高いこと、です。

図:ゼレンスキー氏とは?

出所:筆者作成

 18時になり、ちびまる子ちゃんが始まらず、同番組を楽しみにしていたたくさんの子供たちが落胆したとのことですが、落胆のきっかけとなったゼレンスキー氏が、実は家族が直面している物価高という困難を取り除くことができるキーマンだと伝えることができたならば、子供の目にはゼレンスキー氏がヒーローに映ったかもしれません。

 本件に限らず、教授が言う「どんなもの(人)でもまずは存在を認める」「自分の価値観だけで物事を考えてはならない」という言葉は、社会全体を覆う膜のような得体のしれない物を切り裂く武器になるような気がします。取り急ぎ、件(くだん)の日曜日は無事に終わったわけですが、まだまだ、われわれの周辺では終わっていないことが山積しています。

高止まりが続く原材料価格

 ゼレンスキー氏は、ロシアに侵攻されたウクライナの大統領です。2022年2月24日にはじまった軍事侵攻は、解決の糸口を見いだせないまま、現在も続いています。以下のとおり、危機勃発以降、われわれの身近な品目の原材料である燃料や食料、金属の価格が高止まりしています。

図:主要銘柄の価格推移(週次終値 2015年1週目の終値を100として指数化)

出所:マーケットスピードⅡのデータをもとに筆者作成

 以下のとおり、ガソリンスタンドで売られているガソリンや軽油の原材料である「原油」、スーパーマーケットで売られている食用油やスナック菓子の原材料および、肉を生産する際に家畜に与えるエサとなる「穀物」やその他の農産物、電気料金の決定要因になり得る各種燃料価格が、いずれも高止まりしています。

図:主要銘柄の騰落率(2015年から2019年までの日次終値平均と2023年5月19日を比較)

出所:QUICKのデータをもとに筆者作成

 物価高の主因は、こうした原材料価格が、全体的に高止まりしていることです(円安よりも全体的な原材料価格高の方が、影響が大きい)。

 トウモロコシ、大豆、小麦といった穀物のほか、砂糖、コーヒー、ココア、菜種などの農産物の価格も高止まりしていることを、「食卓のインフレ(物価高)が続いている」と指摘する専門家がいます。同感です。

ゼレンスキー氏は物価高を終わらせるカギ

 軍事侵攻が勃発した直後の急騰劇は終わったものの、各種原材料がなかなか下がらないのはなぜなのでしょうか。単純ですが、価格が上昇することや、高止まりすることを望む市場参加者がいるためです。

 多くの日本人が、物価高が沈静化してほしいと思っている一方で、燃料や食料の価格は高い方がよいと思っている人もいるのです。例えば、原油の生産・販売が国の利益と直結する産油国、食料や金属などの資源を有している国の人々です。

図:原材料の価格動向に関する思惑

出所:筆者作成

 価格が上がってほしい、高止まりしてほしいと考えている節がある産油国や資源を持つ国々のふるまいには、原油の減産や自国の安全保障を銘打った輸出制限などの「出し渋り」や、物価高(インフレ)を誘発することによる「間接的な攻撃」という意図が見え隠れします。西側諸国の優位に立つ狙いがあると、考えられます。

 見方を変えれば、原材料価格が下がらないのは、西側の先進国と、西側の先進国と異なる考え方を持つ産油国や資源を持つ国々との間に「分断」が存在するためだと、言えます。原油やさまざまな資源を持つ非西側諸国に「出し渋り」や「間接的な攻撃」をやめてもらうには、何を言ってもウクライナ危機を終わらせる必要があります。

 あの時間帯にちびまる子ちゃんに代わってテレビに登場したゼレンスキー氏は、ウクライナ危機の陣頭指揮を執る、同国の大統領です。彼は、物価高(インフレ)を終わらせるカギを握っているのです。

西側と非西側が真の議論をすることを望む

 ウクライナ危機を終わらせるには、冒頭で述べた大学教授の言葉にならい、異なる考えを持った国が存在することを認めなくてはなりません。その際、自分の価値観だけで物事を考えてはなりません。

 ウクライナ危機を勃発させた、西側と非西側の間にある「分断」はどのような過程を経て生じたのでしょうか。この過程をたどることで、分断の根本原因(≒ウクライナ危機の遠因)が見えてきます。つまりこれが、原材料価格を高止まりさせている、我々の生活を脅かしている物価高(インフレ)の原因でもあるのです。

 さまざま議論があることは承知していますが、物価高←ウクライナ危機勃発←世界規模の分断深化←西側・非西側の対立発生という流れの起点(根本原因)となったのはリーマンショックだったと筆者は考えています。

図:リーマンショックを起点に考える原材料価格高止まりの背景

出所:筆者作成

 同ショックが発生したことで、非西側諸国において、西側の経済体制や思想への不信感が高まりました。また、西側は経済回復のため「環境問題」「人権問題」などのテーマを創造しましたが、こうしたテーマは産油国や権威主義国といった非西側諸国に負の圧力をかけるきっかけとなり、一層、西側と非西側の分断を深めました。

 同ショック後の経済回復のために西側が行ったテーマ創造が西側と非西側の分断を深めたことについては、多くは語られていません。

 しかし、西側によるテーマ創造やその後の西側の動きが、異なる考えを持った国(非西側)との深いコミュニケーションの上で行われたものなのか、再点検をする必要があると、筆者は考えています。そのことが、世界規模の分断を直すきっかけになると考えているからです。

 以前の「原油高とSDGsの深遠な関係」で、SDGsで起きないはずの「置き去り」が起きたと述べました。この点がまさに、異なる考えを持った国(非西側)と深いコミュニケーションがなされなかった証だと言えます。

(環境問題や人権問題をきっかけに西側のビジネスが活発化し、逆に非西側のビジネスが弱体化の危機に直面したことは、非西側にとってあまりにも不平等に感じられただろう)

燃料や食料の価格はまだ高止まりか

「どんなもの(人)でもまずは存在を認める」「自分の価値観だけで物事を考えてはならない」と言ったあの大学教授の言葉に従い、今からでも、「環境問題」や「人権問題」を、非西側とひざを突き合わせて、改めて議論をスタートする必要があるでしょう。そうしないと、何十年たっても、真の「環境問題」、真の「人権問題」の解決に至ることはないでしょう。

 今後も、こうした真の議論がないまま、西側が「環境問題」や「人権問題」を一方的に解決する姿勢を崩さない場合、非西側との分断が直らず、ウクライナ危機、ひいては物価高が継続してしまう可能性があります。ゼレンスキー氏の平和への訴えは、西側と非西側とで、諸問題について真の議論をしてほしい、という訴えでもあると筆者は感じています。

 また、ゼレンスキー氏は、ウクライナ戦争は日本の人にも関わりがあって、この戦争が終われば、日本の皆さんが直面している物価高も終わる可能性がある、というメッセージを残していったと筆者は感じています。しかし残念ながら、あの日曜日、みんながみんな、同氏と物価高が密接な関係があると感じたとは言い難い状況でした。

 同氏がちびまる子ちゃんの代わりにテレビに映ったとき、ある母親は同アニメを楽しみにしていた子供に、「戦争で苦しんでいる国のリーダーが、平和になるよう被爆地に祈りに来た」という趣旨の説明をしたそうです。また、「事件や災害でもないのに、子供向けの番組を休止する必要があるのか?」という趣旨の疑問を呈した方もいらっしゃったようです。

 こういった趣旨の発言を見ると、「あの人の国が戦争の影響を受けている、あの人の国が平和になるように祈りに来た」、「今の物価高を異常な事態だと認識してない」など、まるでわたしの国では何も起きていない、物価高や戦争を、どこか他人の事のように感じている節があるように感じてしまいます。

「戦争は物価高の原因である(その戦争を終わらせようとゼレンスキー氏は動いている)」、ウクライナ戦争の影響は、海の向こうだけではなく、わたしたちの身近にすでに及んでいる、という認識がもっともっと、広がるとよいように思います。

図:ゼレンスキー氏のメッセージの深意

出所:筆者作成

 こうした認識が広がらないと、当事国以外からの、戦争を終わらせようという世論が起きにくいと考えます。こうした認識が広がるまでは、戦争やそれをきっかけに起きている物価高が続く可能性があると、筆者はみています。

[参考]コモディティ関連の具体的な銘柄 

投資信託

iシェアーズ コモディティ インデックス・ファンド
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
eMAXISプラス コモディティ インデックス
SMTAMコモディティ・オープン

ETF

iPathピュア・ベータ・ブロード・コモディティETN (BCM)
インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド (DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN (DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト (GSG)