注目される4-6月期の中国経済。昨年は上海でロックダウン

 中国経済の動向に注目が集まっています。

 国家統計局が5月16日、4月の主要経済指標の統計を発表しました。4月といえば、2022年は上海が2カ月間ロックダウン(都市封鎖)した真っただ中にあり、同市で自動車の販売台数ゼロを記録するなど、個人消費に致命的な打撃が与えられました。

 2022年の実質GDP(国内総生産)成長率は前年比3.0%増と目標(5.5%前後)未達成に終わりましたが、四半期ごとの前年同期比伸び率を振り返ると、1-3月期は4.8%、4-6月期0.4%、7-9月期3.9%、10-12月期2.9%と、4-6月期が最も落ち込みました。その反動で、2023年の4-6月期にどのくらいの回復が見られるか。直近の2023年1-3月期は4.5%増と堅調なスタートでしたが、この勢いを加速できるのか。

 4月下旬のレポートで扱ったように、市場の期待値は高まっているように見受けられます。4-6月期の景気指標は、2023年の中国経済全体(目標は5.0%前後)に切実な影響を及ぼすというのが私の基本的な見方です。

4月の中国経済統計は前年同月比で増加も市場予想を下回る

 それでは、ここから統計局が発表した2023年4月の統計結果を見ていきましょう。左が最新の数値、右が2022年4月の数値です。

中国の主要な経済指標

  2023年4月 2022年4月
工業生産 5.6% ▲2.9%
小売売上高 18.4% ▲11.1%
固定資産投資(1-4月) 4.7% 6.8%
不動産開発投資(1-4月) ▲6.2% ▲2.7%
中国国家統計局の発表を基に筆者作成。工業生産、小売売上高は前年同月比。固定資産投資、不動産開発投資は1-4月累計の前年同期比。▲はマイナス。

 まず、2023年4月は前年同月と比べて、工業生産、小売売上高が大幅に伸びていることが分かります。ただ、2022年4月は前年同月比マイナスと大きく低迷したため、その反動で2023年の伸び率が大きいのは当たり前です。むしろ、5.6%増、18.4%増という数値はそれぞれ市場予想の10.9%増、21.0%増を下回りました。

 固定資産投資は1-4月で4.7%増と、市場予想の5.5%増に届きませんでした。1-3月の5.1%増と比べても伸び率が鈍化しています。さらに、2022年を通じて10.0%減と過去最悪を記録した不動産開発投資は、1-4月で6.2%減となり、1-3月の5.8%減と比べて減少率が広がっています。

 そして、この期間懸念されてきた雇用動向です。ここで改めて説明しますが、中国政府が公式に発表する失業率は、(1)調査できる範囲における、(2)農村部を含まない数値です。よって、実際の失業率は発表される数値よりも高いと見るべきです。

中国の雇用統計

  2023年4月 2023年3月 2022年4月
調査失業率(除く農村部) 5.2% 5.3% 6.1%
同25~59歳 4.2% 4.3% 5.3%
同16~24歳 20.4% 19.6% 18.2%
中国国家統計局の発表を基に筆者作成。数字は前年同月比。▲はマイナス。

 その前提で、2023年4月の失業率は5.2%と、直近の3月(5.3%)、前年同月(6.1%)と比べて改善しています。景気指標と見てよい25~59歳、すなわち労働適齢人口のそれも2023年4月は4.2%となり、直近の3月(4.3%)、前年同月(5.3%)に比べて改善しています。

 気になるのは若年層で、2023年4月、過去最高となる20.4%を記録しました。夏には過去最多の1,160万人の大学卒業生が市場に流れ込んでくる見込みで、この20.4%という数値がさらに上昇する可能性も大いにありです。

 若年層の失業率上昇が、そのまま景気悪化を招くわけでは必ずしもありませんが、中国では、各家庭子供の教育には巨額の投資をするのが常です。せっかく育て、費やしたのに、大学や大学院卒業後職に就けない、起業もできないという状況が固定化してしまえば、当然個人消費や成長率にも影響してきますし、何より国家の将来を担う若者の士気を悪化させ、場合によっては、深刻な社会不安を招くようなリスクも考えられます。いずれにせよ、若年層の失業率が前代未聞に上がっている現状は、中国経済にとっての実質的リスクと見るべきです。

中国政府の現状認識「国内需要は明らかに不足」

 これらの統計結果を受けて、国家統計局は現状と先行きに関して次の見解を示しています。

「4月、国民経済は引き続き回復の態勢を見せており、前向きな要素は蓄積、増加している。しかし、外部の環境は依然複雑で厳しく、国内の需要は依然として明らかに不足している。経済が回復するための国内インセンティブも弱い」

 短いですが、情報量に富んだ文言だと私は理解しました。欧米の景気低迷や金融不安、ウクライナ戦争など地政学リスクを含めた外部の環境が中国経済に与える悪影響を軽視できないという認識は従来の立場を踏襲するものです。特筆すべきは、国内の需要が「明らかに」不足しているという指摘。足元、需要不足が相当深刻である現状を物語っています。

 また、景気を回復させるために必要な中国国内におけるインセンティブも弱い、すなわち投資、消費、生産を含めて、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込もうとする「ゼロコロナ」策解除後も、景気回復は不透明であり、市場の期待値と実態の間には一定程度のギャップが存在しているのが現状ということでしょう。

 中国政府は3月の全人代で、2023年の経済政策として「安定成長」「内需拡大」を最優先事項に掲げ、積極的な財政政策と穏健な金融政策を必要に応じて稼働させていく立場を表明しています。足元、景気が想定に比べて回復してきていない状況を受けて、中国政府は財政出動や金融緩和といった手段を小刻みに行使しつつ、景気を刺激していくものと思われます。