今日は、エネルギー安全保障に貢献が大きいと私が考える高配当利回り株についてリポートします。

なぜ今、エネルギー関連株?長期視点で「買い」と判断

 最初に、なぜ今、エネルギー関連株についてリポートするのか説明します。というのは、原油先物は既に大きく下落しているからです。エネルギー関連株を「原油先物が上昇しているときに買うもの」と短期的視点で見るならば、「もう今から投資しても遅い」と思うかもしれません。

<ニューヨーク天然ガス先物(期近)の動き:2021年1月4日~2023年4月7日>

(出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成)

<WTI原油先物(期近)の動き:2021年1月4日~2023年4月7日>

(出所:QUICKより作成)

 私が今日書くのは、短期的な視点ではありません。長期的な視点からです。日本にとって重要な「エネルギー安全保障」に貢献が大きいと私が考える会社で、かつ、配当利回りが高く、株価指標で見て「割安」と判断できる銘柄をご紹介します。以下の3銘柄です。

<エネルギー安全保障に貢献すると考える、高配当利回り株3選:2023年4月10日時点>

コード 銘柄名 株価:円 配当
利回り
PER:倍 PBR:倍
1605 INPEX 1,445.0 4.4% 7.0 0.49
5020 ENEOS HD 463.0 4.8% 10.0 0.49
8058 三菱商事 4,754.0 3.8% 6.0 0.85
出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成。配当利回りは1株当たり年間配当金(今期会社予想)を4月10日株価で割って算出。1株配当金は、INPEXが64円、ENEOSが22円、三菱商事が180円。PERは、株価を1株当たり利益(今期会社予想)で割って算出。今期とは、INPEXは2023年12月期、他は2023年3月期

 上記3社の株価指標をご覧ください。予想配当利回り3.8~4.8%と、魅力的な水準です。PER(株価収益率)は6~10倍と極めて低いことが分かります。驚くべきは、PBR(株価純資産倍率)で0.49~0.85倍と、解散価値といわれる1倍を大きく割り込んでいることです。

 利益も配当もしっかり出していて、エネルギー安全保障にとって重要なビジネスをやっているにもかかわらず、それが株式市場で十分に評価されていないと思います。それが、3社とも「買い」だと私が判断する理由です。

最も価値が高いと考えるのはINPEX

 INPEX・ENEOSホールディングス(HD)・三菱商事とも、私がファンドマネージャーだったら今買いたいと思う高配当利回り株です。どれも財務内容が良好、収益基盤が安定的にもかかわらず株価が割安な「高配当利回り株」として長期投資する価値があると判断する銘柄です。

 中でも、一番投資価値が高いと評価するのが、INPEXです。今日のリポートでは、INPEXについて詳しく解説します。

 INPEXは、2021年12月1日のリポートで投資判断を「強い買い」に引き上げた銘柄です。そのときのリポートは、以下からお読みいただくことができます。

2021年12月1日:利回り3.7~6.2%、12月決算の高配当株5選。INPEXを「買い推奨」に引上げ

 株価は、2021年12月1日の938円から既に50%超上昇して、1,445円となっていますが、それでもPER7.0倍、PBR0.49倍と、株価指標で見てとても割安です。日本のエネルギー安全保障にとって極めて重要な企業であることが、株価に十分に織り込まれていないと考えられます。

 以下、長期の株価チャートをご覧ください。同社株価は2020年まで、原油・天然ガス価格下落を受けて低迷していました。2021年以降大きく上昇しているとはいえ、2007~2008年の株価と比較すると、まだ低い水準にあります。

<INPEX株価推移:2006年12月~2023年4月(10日)>

(出所:QUICKより作成)

INPEXを高く評価する六つのポイント

 INPEXを高く評価する点は、以下6点です。

【1】今期は減益予想だが、利益は高水準で、株価割安と判断

 今期(2023年12月期)の純利益(会社予想)は、前期比38%減の2,700億円です。最高益を大幅に更新した前期と比較して減益でも、今期利益は高水準の見込みです。PER・PBRなどの株価指標で見て、株価は割安と判断しています。

【2】日本最大の原油・天然ガス生産・開発企業

 原油・ガスの生産量・埋蔵量は国内最大で、世界20数カ国で石油・天然ガスプロジェクトを推進しています。

【3】海外権益のほとんどが友好国に

 海外権益は、オーストラリア・インドネシア・中東などの友好国にあります。権益喪失の危機にあるロシアの「サハリン1」にも出資【注】しているが出資比率は低く、仮に撤退・減損という最悪の事態になったとしても影響は限定的と同社はコメントしています。

【注】INPEXは、サハリン1の権益を30%保有する「サハリン石油ガス開発」の株式を6.08%所有

【4】先行投資が実り、今後生産量・埋蔵量とも拡大が見込まれる

 長い年月をかけて開発を進めてきた、オーストラリア(イクシス)・インドネシア(アバディ)などで先行投資が実り、生産量や確認埋蔵量が拡大する局面に入ると予想されます。

【5】技術的に難しい海底ガス田を開発

 技術的に難しい海底ガス田を開発、陸上にガスを誘導してLNG(液化天然ガス)に転換して日本などに輸出するプロジェクトを行っています。

【6】脱炭素にも積極的に取り組み

 2050年にCO2(二酸化炭素)排出ネットゼロを目指し、(1)水素・アンモニア事業、(2)CCUS(CO2回収収・貯蔵・利用)、(3)再生エネルギー事業(地熱・風力など)、(4)メタネーション(合成メタン)、(5)森林保全などの事業を推進しています。

INPEXの三つの潜在リスク

 一方で、不安材料もあります。特に私が重視しているのは、以下3点です。

【1】資源ナショナリズムのリスク

 最大のリスクは、資源ナショナリズムです。海外に保有する権益はいつでも資源ナショナリズムによって接収されるリスクがあります。現在、友好国中心に権益を保有しているとはいっても、その友好関係がなんらかの理由で崩れるリスクは常にあります。

 国交断絶にならない限り、さすがに無償で権益を没収されることはないと考えられますが、それでも友好関係が崩れると不当に低い対価で権益を奪い取られるリスクが生じます。日本企業が保有する権益に対し、「環境アセスメントで問題あり」など難癖をつけて取り上げることが考えられます。

 友好国であっても法人税率をどんどん高めることで実質的に利益を取り上げられてしまうこともあります。INPEXも既に海外事業で高率の法人税を取られています。

【2】脱炭素が進むことに伴うリスク

 世界中で、脱炭素に向けた取り組みが進む中、化石燃料ビジネスを展開する企業は、「環境税」などのペナルティを科せられるリスクがあります。これに対し、INPEXは2050年のCO2排出ゼロを目標としてさまざまな取り組みをしていますが、その効果が出るにはかなりの年数を要します。

【3】資源開発がさらに進み、エネルギー価格が下落するリスク

 現在、欧州をはじめ世界中で天然ガスの供給不足が深刻化し、ガス価格が高騰しています。供給不足は長期化が予想され、解消のめどはたっていません。ただし、より長期の視点に立てば、米国などでさらに資源開発が進み、数年後にエネルギー価格が急落するリスクもないとはいえません。

 ただ、上記に挙げたリスクを勘案しても、先に解説した六つのポイントから、INPEXに投資する価値は高いと判断しています。

 ご参考まで、同社の2014年3月期以降の業績推移を以下に掲載します。

<INPEXの売上高・営業利益・当期利益推移:2014年3月期(実績)~2023年12月期(会社予想)>

(出所:同社決算資料より作成)

原発関連株にも注目

 日本のエネルギー安全保障を考えると、安全性の基準を満たした原子力発電を再稼働していくことは必須と考えています。そうなると、長らく低迷していた「原子力発電」関連株の投資価値は高まると考えられます。したがって、日本のエネルギー安全保障に貢献する企業として、原発関連株にも投資していきたいと思います。

 その候補企業は既に私の頭の中にあります。ただし、まだ原発稼働が進むか不透明なことから、投資の条件が完全には整っていません。現時点では皆さまに投資の参考銘柄はお示ししません。

 後日、条件が整ったと考える時点で、原発関連株について、改めてリポートを書きます。