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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
米シリコンバレー銀行破たん、金利上昇で財務悪化。パウエルFRB、さらに利上げ加速?

先週は米国株が大幅安の中、日経平均は小幅高

 先週(3月6~10日)は、米国株が大幅安となる中、日経平均株価は、1週間で216円上昇して2万8,143円となりました。

先週(3月6~10日)の日米株価指数の騰落率

出所:QUICK

 先週、米国株が大きく下がった主な理由として、二つの理由が挙げられます。

【1】パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が利上げ加速の可能性を示唆していることへの不安
【2】シリコンバレー銀行が破たん。リーマンショック後最大の銀行破たん。急速な金利上昇で財務が悪化。金融株全般に不安が広がって売り込まれる。

 日経平均は、先週の木曜日まで(3月6~9日)は米国株が下落していたにもかかわらず上昇し、9日には一時2万8,734円(高値)をつけました。

 ところが、米国株の下げが続くと10日には日経平均も前日比479円安の2万8,143円(終値)と下落しました。ただ、先週1週間で見ると、日経平均は小幅上昇でした。

日経平均とナスダック総合指数の動き比較:2021年末~2023年3月10日

出所:2021年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 ナスダック(ナスダック総合指数)は、昨年来、米景気「ソフトランディング期待が高まると上昇、ハードランディング不安が高まると下落」を繰り返してきました。

 1月は、米景気が堅調なうちにインフレが収束に向かい、利上げ停止が視野に入るとの期待で、ナスダックは上昇しました。

 ところが、2月は米インフレの収束が遅く、FRBによる引き締めが長期化する不安から、ナスダックは下落しました。先週の米国株は、それに加え、シリコンバレー銀行の破たんが発表されたことを受けて、金融株の値下がりが目立ちました。

 以下、先週の米国株が下落した二つの理由を、さらに詳しく解説します。

米株下落の理由(1)米利上げ加速の不安

 株式市場は、パウエルFRB議長の発言から先行きの金融政策の示唆を得ます。議長の発言が最近変わるので、その都度、今後の利上げがどうなるか、市場のセンチメントが変わっています。最近、話題になったのは、以下三つの発言です。

【1】2月1日:FOMC後の記者会見

「ディスインフレ(インフレ収束)が始まっている」と発言。株式市場で利上げ停止が近づいているという解釈が広がりました。

【2】3月7日:米上院で議会証言

「必要であれば利上げ幅を再び拡大することもあり得る」と発言。株式市場では3月21~22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、0.5%の利上げが実施される可能性が高いとの解釈が広がりました。

【3】3月8日:米下院の公聴会での証言

「3月のFOMCでどうするかは、まだ何も決定していない。今後のデータ次第」と発言。上院公聴会のパウエル発言を受けて、市場で「3月FOMCで利上げ幅を0.5%に拡大する示唆」との解釈が広がっていることに対し、「まだ決まっていない」としました。

 株式市場では、依然として0.5%の利上げの確率が高いとの解釈が優勢ですが、2月の雇用統計やCPIを見極める必要があるとの見方も出ました。

 利上げが加速する不安が出る中、3月10日に発表された米雇用統計は強く、利上げ幅が0.5%に拡大する不安は残ったままです。

非農業部門の雇用者増加数(前月比):2019年1月~2023年2月

出所:米労働省より作成

 非農業部門の雇用者増加数は31.1万人で、事前予想(20万人強)を上回りました。1月が50万人を超え、雇用が想定以上に強いことを印象づけました。3月も雇用の強さを再確認する内容でした。

完全失業率:2014年1月~2023年2月

出所:米労働省より作成

 失業率は1月より0.2ポイント上昇して、3.6%となりました。実質完全雇用で、コロナ前の3.5%とほぼ同水準で、強い内容でした。

 平均賃金は前月比で0.2%の伸びでした。市場予想(0.4%増)より低く、賃金の伸びは落ち着いてきていると見られました。2月の米雇用統計を総括すると、雇用増が大きく、雇用は強いことが再確認されたものの、賃金はやや落ち着いてきたと見られました。

米株下落の理由(2)シリコンバレー銀破たん

 10日、信用不安で株価が急落していたシリコンバレー銀行の破たんが発表されました。同銀行の2022年末総資産は約2,090億ドルで全米16位、米銀で過去2番目の規模の破たんとなりました。

 破たんの原因は、米金利急騰です。FRBによる急速な利上げが破たんにつながったことは明白です。ただ、金利上昇に対する備えのないシリコンバレー銀行【注】の経営に問題があったと言えます。

【注】シリコンバレー銀行が金利上昇に脆弱(ぜいじゃく)だった理由
 シリコンバレー銀行はテクノロジー関連の新興企業との取引で成長した銀行で、新興企業がベンチャーファンドから集めた資金が預金として預けられていた。

 新興企業への融資も行っていたが、預金が大きく融資が少なかったため、デュレーション(平均償還期間)の長いMBS(モーゲージ債)や米国債などの有価証券に積極投資していた。債券投資にのめりこんでいたため、2022年末で保有するMBSや米国債の額が預金の7割弱を占めており、金利上昇で急速に含み損が拡大して財務が悪化した。

 シリコンバレー銀行の信用不安が明らかになってから、預金の取り付けが集中し、破たんにつながった。FDIC(米連邦預金保険公社)が保護する預金額の上限は25万ドルだが、それを超える額の預金をしていた新興企業が多かったため、預金の引き出しが集中したと考えられる。

 金利の急上昇が、大型の銀行破たんにつながったことから、株式市場では、連鎖破たんが起きないか、さらに金利が上昇上昇するのではないか、などの不安が強まり、金融株が売られて大きく下がりました。FRBは、シリコンバレー銀行の経営破たんを受け、米国に拠点を置く銀行の資金繰りを点検するための緊急調査を始めた模様です。

シリコンバレー銀行破たんの余波

 シリコンバレー銀行の破たんが株式市場に与える影響は、二つが考えられます。

【1】FRBがさらなる利上げに慎重になれば、株式市場にプラス

 FRBはこれまで、インフレ抑制を最重視して金融政策を行ってきました。ところが、急速な利上げが銀行破たんという思わぬ結果を招じたことで、さらなる利上げに慎重になる可能性があります。FRBが利上げに慎重になり、先行き利上げ停止が視野に入ってくれば、株式市場にプラスとなります。

【2】FRBがさらに利上げを加速させ、連鎖破たんの不安が広がればマイナス

 シリコンバレー銀行の破たんは特殊ケースで、他の銀行への波及はない、とFRBが判断する可能性があります。FRBが、今回の破たんに影響されることなく利上げを加速させ、それがさらなる連鎖破たんを招く不安が高まると、株式市場にマイナスです。

日本株の投資判断

 日本株の投資判断は変わりません。日本株は割安で長期的に良い買い場を迎えていると考えています。

 ただし、米利上げが続くことによる短期的なショック安はまだあるかもしれません。時間分散しながら割安な日本株を少しずつ買い増ししていくことが長期的な資産形成に寄与すると考えています。

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