先週の日経平均株価は前週比126円高と4週連続で上昇しました。しかし、ハイテク株が大きく上昇した米国株に比べると、勢いの乏しい1週間でした。

 今週2月6日(月)~10日(金)は日本企業の2022年10-12月期決算発表がピークを迎えるため、業績次第で株価の明暗が分かれそうです。

先週:パウエル議長のインフレ鈍化発言で米国株上昇、日本株は円高で伸び低下

 先週の株式市場で最も注目されたのは、米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)です。2月1日(水)に0.25%の利上げを決めて終了しました。

 FOMCで決まるのは、短期金利の代表的指標であるFF(フェデラル・ファンド)レートと呼ばれるもの。

 今回の利上げでその利率は下限が4.5%、上限が4.75%となり、次回3月のFOMCで5%台到達がほぼ確実になっています。

 これまでの利上げの効果もあって、2022年6月に前年同月比で9.1%の上昇と40年ぶりの高水準だった米国のCPI(消費者物価指数)は12月に6.5%の伸びにとどまり、伸びは鈍化しています。

※CPIに関して詳しくはこちら:1分でわかる!インフレと株価の関係

 今回のFOMC後の記者会見で米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「インフレ鈍化(ディスインフレ)のプロセスが始まった」と発言。

 この言葉が、利上げはもうすぐ終わるという市場の楽観論に火をつけました。

 さらに先週相次いだ米国の巨大IT企業の決算発表の後、今後の業績回復に期待した買いが集まりました。

 フェイスブックの親会社、メタ・プラットフォームズ(META)アップル(AAPL)アマゾン・ドット・コム(AMZN)、グーグルやYouTubeの親会社、アルファベット(GOOG)の2022年10-12月期の純利益はいずれも前年同期比で減益だったものの、ともに株価は上昇。

 大手IT企業がこぞって進める大規模なリストラによって今後、収益力が改善するだろうという楽観論が、ネット広告の落ち込み、スマートフォン販売の低迷に対する悲観論に勝利しました。

 メタ・プラットフォームズは売上高が市場予想を上回ったことに加え、事業のスリム化や効率化を打ち出したことで、株価が前週比23%近くも上昇しています。

 しかし、3日(金)に発表された1月の米国雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比51万7千人増と、予想を大幅に上回りました。

 インフレの元凶になる平均時給も前月比0.3%増と高止まりしたこともあり、米国株は急落。

 米国の雇用情勢が強すぎると、賃金の上昇、ひいてはインフレ率の高止まり、つまりFRBの高金利政策の長期化につながりかねません。

 株価は経済を映す鏡といわれますが、経済指標が強すぎることが逆に株安につながるケースもあるのです。

※米国雇用統計に関して、詳しくはこちら:1分でわかる!雇用統計と株価の関係

 ただ、多くの機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は、それでも前週比1.6%上昇しました。ハイテク株が集まるナスダック総合指数にいたっては3.3%高と5週連続の上昇で終わっています。

 一方、日本株はパウエル議長のインフレ鈍化発言で日米金利差が縮小し、1ドル=128円台まで円高ドル安が進んだこともあり、小幅高に終わりました。

 米国株に比べた日本株の弱さが気になるところです。

今週:トヨタ自動車など決算発表ピークで強弱伯仲か?日銀人事で急落も!? 

 3日(金)夜、絶好調の米雇用統計を受け、為替市場では1ドル=131円台まで急速な円安ドル高が進みました。

 輸出銘柄を中心に円安が追い風になる日本株は、今週、高く始まりました。

 2月7日(火)には、民間討論会にパウエルFRB議長が出席します。

 非常に強い1月の米国雇用統計を受けて、高金利政策の継続を強く主張する発言が飛び出すと、株価にとってはネガティブかもしれません。

 日本では、2022年10-12月期の決算発表がピークを迎えます。

 9日(木)には日本で一番時価総額の大きいトヨタ自動車(7203)、中国の経済再開を好感して株価上昇が続く日本製鉄(5401)などが発表します。

 先週の企業決算では、原材料費の上昇で住友化学(4005)が2023年3月期業績を大幅下方修正するなど、円高や資源高、中国など海外事業の低迷で業績が悪化する製造業の企業が目立ちました。

 今週は、日本株を揺るがすような非常に大きなイベントも控えています。

 それが4月8日に2期10年の任期を終える日本銀行の黒田東彦総裁の後継人事です。

 報道によると、岸田政権は、2月10日(金)にも日銀の次期総裁および副総裁の人事案を国会に提出する方向で調整しているとのことです。

 黒田氏は、2013年4月に故・安倍晋三元首相から日銀総裁に抜てきされ、就任しました。

 安倍氏が2度目の首相に就任した2012年12月の日経平均株価の始値は9,484円。

 しかし、黒田日銀の異次元の金融緩和を追い風に、2021年9月には3万795円の高値をつけ、現在も2万7,000円台で推移しています。

 この10年間、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を引っ張り、日本株の上昇に大貢献してきたといっていい黒田日銀総裁の退任は、歴史を変えるような大きなイベントです。

 メディアでは、黒田総裁の下で副総裁を務め、量的緩和の金融政策に精通する雨宮正佳氏、黒田氏の前任だった白川方明前総裁時代に副総裁を務めた山口広秀氏、量的緩和に積極的なインフレターゲットの研究を続けてきた伊藤隆敏コロンビア大学教授などが総裁候補として挙がっています。

 6日(月)未明には日本経済新聞が、政府が雨宮氏に就任を打診したと報道しました。

 雨宮氏や伊藤氏であれば、黒田路線継承ということで株式市場はポジティブに受け止めそうです。

 ただ、日銀は黒田総裁の指揮のもと、金利をマイナスからゼロ近辺に抑え込むため、すでに膨大な量の国債を買い入れています。

 その総額は昨年9月末時点で、政府が短期の資金繰りのために発行する国庫短期証券を除いた国債発行残高の50.2%に到達。

 日本政府が抱える借金の半分は、日銀が大量に紙幣を発行して肩代わりしていることになります。

 アベノミクスとは一線を画する姿勢も垣間見える岸田政権が、量的緩和策に消極的な人物を日銀総裁に抜てきした場合、日本株が急落する恐れもあるので注意が必要でしょう。