「フルコロナ」で迎えた2023年の春節

「ウイルスが突然目の前から、周りから消えてなくなったみたい」

 中国の春節休みが明けた1月28日、陝西省西安にいる友人からこんなメッセージが送られてきました。ほとんどの市民が依然マスクを着用しているものの、身の回りに新規感染者が見当たらない、「SARS(重症急性呼吸器症候群)の時と一緒。突然消えてなくなった感覚」だと言います。

 私は正直、そんな魔法みたいなことが可能なのかと疑いました。中国が2022年12月、それまで約3年間続けてきた、感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」策を撤廃し、コロナウイルスがまん延する「フルコロナ」状態と化してから実質まだ1カ月強の時間しかたっていません。

 一方、中国の政府や医療の関係者にヒアリングを進めると、「2週間で人口の半分近くが感染した」、「ゼロコロナ策を続けてきた分、撤廃後は一気に感染が拡大し、そのスピードは世界で最も速い」、「人々が感染すれば社会は安全になる」といった声が耳に入ってきます。

 専門家の見解もこうした声を裏付けているように見受けられます。香港大学公衆衛生学部疫学科の研究グループは1月13日に学術誌『ネイチャー・メディシン』に発表した論文で、中国の感染者数は今後数カ月で7億人と、人口の半数に達する見込みで、北京市内に限れば、1月末までに人口の90%以上が感染するとの予測を示しています。

 また、感染症を専門に扱う政府機関である中国疾病予防センターの主席専門家、呉尊友氏は1月21日、ゼロコロナ解除後、中国では「人口の約80%がすでに新型コロナに感染した」という見解を投稿しています。同センターは1月25日、国内の重症コロナ患者数が、1月初めに付けたピークから72%減少したとも発表しています。

 西安の友人が実感を共有してくれたように、多くの国民はすでにコロナに1度感染、いまは回復し、今現在、新たに感染している人が周りにいない、というような空間が生まれているのかもしれません。

 中国社会が、「感染するな」と要求されるゼロコロナから、「感染しろ」と奨励されるフルコロナ状態に劇的に変化する中、今年の春節期間(中国語で「春運:1月7日~2月15日の40日」で延べ20億人以上が帰省や観光目的で移動するという見込みが中国政府によって示されていました。

 交通運輸省の発表した統計によると、1月26日時点(春運20日目)で、全国鉄道、公道、水路、民間航空が発送した旅客の数は延べ4,356万回で、コロナ禍前の2019年同期と比べて46.9%減という一方で、2022年同期と比べると85.9%増となっています。

全国31の地域が2023年の経済成長率目標を発表。平均は6%増

 一つの注目点は、コロナ禍前の状態に戻るべくあらゆる制限が緩和、解除していく中で、経済活動がどれだけ正常化するかでしょう。中国政府が2023年の経済にどれだけの掌握と自信を有しているかを知る上で最も重要な舞台となるのが、約1カ月後に開幕する全国人民代表大会(全人代)。李克強(リー・カーチャン)氏が国務院総理として発表する最後の「政府活動報告」で、今年の成長率目標が公式に発表される予定です。

 一方、全国各地の地方自治体からは続々と目標が発表され、2月1日時点で、31全地域の目標が発表されました。GDP(国内総生産)の規模が大きい順に、広東省、江蘇省、山東省、浙江省、河南省はそれぞれ5%以上(昨年は1.9%)、5%前後(2.8%)、5%以上(3.9%)、5%以上(3.1%)、6%(3.1%)といずれも5%を超える目標を設定しています。

 また、昨年2カ月以上のロックダウン(都市封鎖)による打撃から0.2%減とマイナス成長に終わった上海市は5.5%以上、0.7%増と低迷した北京市は4.5%以上に設定。目標を最高に設定したのは「自由貿易港」としての繁栄を目指す海南省で9.5%以上(昨年は0.2%)、チベット自治区が8%前後(同1.1%)で続いています。

 私は1月12日に配信したレポートで、2023年、中国全体としての成長率目標は「5%以上」あたりに設定されるのではないかという予測を示しました。すでに発表された31地域の目標を足して31で割った数値は5.95%増。

 ただ、過去の経験値から、中央政府が国として発表する目標値は往々にしてそれよりも低く設定される傾向があります。従って、1カ月後に李首相が発表する目標値の目安は5%程度になるのではというのが依然私の予測です。

 国家統計局が1月31日に発表した1月のPMI(製造業購買担当者指数)は50.1、建設業とサービス業を対象とする非製造業PMIは54.4で、昨年12月の47.0、41.6からそれぞれ大幅に改善しています。この結果に対し、同局は「景気が著しく上向いている」としつつ、「市場の需要が不足している製造業、サービス業関連の企業はまだまだ少なくない。需要不足が引き続き企業の生産、経営が直面する最大の問題」と現状に満足はしていないようです。

国境のリオープンは何をもたらすか

 2023年の中国経済を見ていく上で、私が一つ注目しているのが国境のリオープンが国民の生活や将来への期待値にどう影響していくかです。実際、春節休みにおいて、出入国の動きはこれまでに比べて大分活発になったようです。

 国家移民管理局が1月28日に発表した統計によれば、1月21~27日、同局が把握する出入国人数はのべ287万7,000人(入国143万4,000人、出国144万3,000人)で、昨年の春節休みと比べて約2.2倍に増加しています。とりわけ、中国本土の住民が香港とマカオへ赴く比率が高く、マカオへは延べ49万8,000人、香港へは延べ10万4,000人が赴き、出国者全体の81.2%を占めました。

 今後は海外旅行者も増えていく見込みです。中国政府はこのほど、2月6日を境に、中国の旅行代理店が「ホテル+航空券」の団体旅行サービスを再開することを許可しました。対象となる国は、タイ、インドネシア、カンボジア、モルジブ、スリランカ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ラオス、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、南アフリカ、ロシア、スイス、ハンガリー、ニュージーランド、フィジー、キューバ、アルゼンチンの20カ国です。試験的措置と位置付けられているため、今後増えていくでしょう。東南アジアや多いこと、ウクライナと戦争をしているロシアが含まれていることが特筆に値します。

 1月29日、中国政府は1月10日から停止していた中国を訪れる日本人へのビザの発給を再開しました。コロナの感染拡大が収まっていけば、日本人の中国訪問も増えていくでしょうし、これからどれだけの中国人観光客が日本にやって来るかも、インバウンド産業の活性化という意味でも注目です。香港、台湾、韓国、欧米からはすでに観光客が戻り始めている印象を私自身抱いていますが、ここに中国本土からの訪問者が加われば、また騒がしくなっていくのでしょう。

 今年、平和友好条約締結45周年を迎える日中関係の動向という視点においても、人の流れという要素は極めて重要だと思います。