国内金(ゴールド)小売価格は最高値を更新

 1月25日、国内の代表的な大手地金商が提示する金(ゴールド)小売価格が最高値を更新したと、報じられました。これにより、同地金商の小売価格は、月間平均でも最高値を更新する可能性があります。(1月27日時点で1グラムあたり8,000円を超えた。税抜価格)

図:国内金(ゴールド)税抜小売価格(月間平均 2023年1月は27日時点) 単位:円/グラム

出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

 国内金小売価格が騰勢を強めている背景は、「ウクライナ危機がきっかけで発生している不安だ」との声がありますが、「ドル建て(だて)金価格の上昇」が直接的なきっかけであると考えるのが自然だと、筆者は考えています(詳細を後述します)。

 以下は、世界の金(ゴールド)価格の指標の一つであるドル建て金価格の推移です。先ほどの金(ゴールド)は、価格の単位が「円」、重さの単位が「グラム」でした。以下の世界の指標は、価格の単位が「米ドル」、重さの単位が「トロイオンス(約31グラム)」です。

図:ドル建て金(ゴールド)価格(月間平均 2022年12月まで) 単位:ドル/トロイオンス

出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

 世界の指標(ドル建て)は、足元こそ反発色を強めているものの、昨年(2022年)は、国内の円建てのような急上昇は演じませんでした。次より、「川」の流れに例えて、こうした状況を説明します。

「ドル建て価格」が価格形成における最上流

 以下の図は、円建て商品の価格決定のイメージです。「川上」にドル建て価格があり、「川中」でドル/円の変動による影響を受け、「川下」で円建て価格が決定する様子をイメージしています。

 水の流れは、川上から川下へ、ですので、「円建て価格」は、川上側にある「ドル建て価格」と「ドル/円相場」によってつくられていると、言えます。

「円建て価格」の変動が「ドル建て価格」や「ドル/円」を動かす、いわゆる「逆流」するケースは、あまり(ほとんど)ありません。

図:円建て商品(コモディティ)の価格決定のイメージ

出所:筆者作成 イラスト:PIXTA

 上図は、「ドル建て」が主、「円建て」が従、ドル/円がその関係に強弱を加える、とまとめることができます。このことを裏付けるのが、以下のデータです。以下は、「ドル建て金価格」と「国内地金大手小売価格(税抜)」と「円建て換算値」の相関係数です。

 相関係数は、1に近ければ近いほど「正の相関(一方が増えればもう一方も増える)」が強く、マイナス1に近ければ近いほど「負の相関(一方が増えればもう一方は減る)」が強いことを意味します。

「円建て理論値」は、ドル建て価格 × ドル円 ÷ 31.1035(トロイオンスをグラムに換算)で計算しています。長期を前提とするため、相関係数の対象期間は1974年1月から2022年12月までのおよそ48年間としています(月間平均価格を参照)。

図:相関係数(1974年1月から2022年12月までの月間平均価格をもとに算出)

出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

「国内地金大手小売価格(税抜)」と「円建て換算値」の相関係数が「0.99992(二つの値動きはほぼ一致)」であることから、「国内地金大手小売価格(税抜)」は、「ドル建て金価格」と「ドル/円相場」でできていると言えます。国内価格が国内の独自要素で動くことはほとんどない、とも言えます。

 また、「ドル建て金価格」と「国内地金大手小売価格」の相関係数が「0.90409(二つの値動きはおおむね一致)」であることから、長期投資においては、保有する金関連商品が円建てであっても、「ドル建て価格」を指標(参考値)とするべきであると、言えます。

金(ゴールド)価格の変動を決める7テーマ

 特に長期視点の金(ゴールド)投資においては、「ドル建て金価格」の動きに注目することが必要だと述べました。その「ドル建て金価格」は、どのような要因で動いているのでしょうか。

 以下は、筆者が考える、「短中期」「中長期」「超長期」の三つの時間軸ごとの、金(ゴールド)相場に影響を与え得る七つのテーマです。

図:金(ゴールド)市場を取り巻く七つのテーマ

出所:筆者作成

 有事の金買い(上記の有事ムード)だけ、株と金(ゴールド)の関係(上記の代替資産)だけ、ドルと金(ゴールド)の関係(上記の代替通貨)だけ、など、どれか一つのテーマだけで、現代の金相場を正しく分析することはできません。

 ウクライナ危機勃発、高インフレ継続、FRB(米連邦準備制度理事会)による急速な利上げ、中国の景気減速、各種人権問題噴出など、不安材料に事欠かなかった2022年の金相場(ドル建て)が下落したことから分かる通り、「有事だけ」では現代の金相場を分析することはできません。(もし今も、有事だけで金(ゴールド)価格が動くのであれば、2022年は急騰していたかもしれない)

 2022年の下落は、不安材料が噴出したことによる「有事ムード」増幅と株価が不安定化したことによる「代替資産」起因の上昇圧力を相殺して余りある、強い下落圧力が存在していたために起きたと、考えられます。その強い下落圧力は、FRBの急速な利上げがきっかけで発生したドル高(「代替通貨」起因の下落圧力)によってもたらされました。

(1)テーマを俯瞰(ふかん)すること、(2)複数のテーマ起因の圧力を相殺すること、この二つなくして、現代の金(ゴールド)相場を分析することはできないのです。

「過去」ではなく「今」を凝視することが必要

(1)テーマを俯瞰すること、(2)複数のテーマ起因の圧力を相殺すること、この二つなくして、現代の金(ゴールド)相場を分析することができないと、述べました。この二つは、以下の考え方を用いることで、実現に近づきます。

図:現代の金(ゴールド)相場分析に役立つ考え方

出所:岸見一郎、古賀史健 著「嫌われる勇気」より筆者作成

 アルフレッド・アドラー(1870年、オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家)は、フロイトやユングに並ぶ心理学の巨人といわれています。彼が提唱したアドラー心理学は、自己受容、他者承認、他者貢献を三つの柱とし、原因論を否定・目的論を肯定します。

 また、過去から自分を切り離すこと、「いま、ここ」に強烈なスポットライトを当て続けること、が重要だとしています。

 過去の失敗や成功にしばられると、目の前で起きている事象を、正しく判断することができなくなることがあります。特に「成功」ほど、その傾向が強く、「あの時はあのパターンでうまくいった」「今回もうまくいくはず」と、今を直視せずに、判断してしまう場合が少なくありません。

 これはいまだに「有事だけ」で金価格が動いていると、認識してしまっていることに似ています。こうしたことを避けるため、「アドラー心理学」、特に過去から自分を切り離すこと、「いま、ここ」に強烈なスポットライトを当て続けること、の教えを参考にすることが有効であると、筆者は考えています。

「人類最後の日」まで、あと90秒!?

 米国の科学雑誌「Bulletin of the Atomic Scientists」は、1945年にマンハッタン計画(第二次大戦中の米国の原爆開発・製造計画)に貢献したシカゴ大学の科学者によって作られ、1947年より「人類最後の日」までの残り時間を示唆する「終末時計」を公表しています。

 もっとも新しい「終末時計」は2023年1月に公表されました。「人類最後の日」の午前0時00分まで残り90秒、つまり今が「前日の23時58分30秒」である、としています。

図:「人類最後の日」までの残り時間(公表年のみ記載) 単位:分

出所:Bulletin of the Atomic Scientistsのデータをもとに筆者作成

 終末時計の分針を動かすかどうかは、毎年、同誌の各種委員会が、10名を超えるノーベル賞受賞者を含むスポンサー委員会と協議し、決定しているとされています。

 この時計は、核のリスク(核兵器の使用)、気候変動(気温上昇による災害発生)、生物学的脅威(各種感染症の拡大)、破壊的な技術による大惨事(情報操作からドローンなどが有する潜在的な脅威)に対する世界の脆弱(ぜいじゃく)性を示す指標として、世界的に認知されるようになりました。

 この「終末時計」がこの1月に、最も「人類最後の日」に近いとされたのは、ウクライナ危機の危険性が高まっていることを主因だとしています。ロシアが核兵器を使用することを、薄くほのめかしていること、ロシアがチェルノブイリ原発やザポリージャ原発の放射性物質を広範囲に拡散させる可能性があると、指摘しています。

 また、ウクライナ危機がきっかけで気候変動リスクが高まっているとしています。ロシアに石油や天然ガスを依存していた国によって、本来なくなるはずだった化石燃料の投資が拡大していると指摘しています。こうした経緯を経て進んだ「終末時計」は、「これまでで最も世界的な破局に近い位置にある」としています。

 同誌のウェブサイトに、「人間が作り出したものだから、コントロールできるはずだ」という記載があります(because humans created them, we can control them)が、人間が作り出したものだからこそ、コントロールできないリスクもあると、筆者は考えています。

 ヒトは、一度ぜいたくを覚えるとなかなか以前の生活に戻れない、SNSを駆使することで民衆の渦(主に怒り)が極限まで膨張する、などの性質を持っています。これらは、ヒトという生き物が持っている性質がそうさせていると、考えられます。

 今、以前の「2023年の金(ゴールド)相場を予想 最高値更新はある!?」で述べたとおり、民主的な国の数が減り、非民主的な国の数が増えてきています。世界はまさに、「分断」拡大期にあるといえます。こうした中、人類は自らを律し、リスクを解消することはできるのでしょうか。

「終末時計」の目的が、各種リスクの高まりを「警告すること」であれば、この時計は0時00分に至る(人類最後の日が到来する)ことは、ないでしょう。その代わり、人類は、絶えず世界のどこかで、大なり小なりのリスクが存在することを容認することになるでしょう。自覚があるないにかかわらず、です。特に「自覚がないリスク(=見えないリスク)」の存在はやっかいです。

「終末時計」は、先ほど「金(ゴールド)市場を取り巻く七つのテーマ」で、超長期のテーマとして書いた「見えないリスク」の高まりを示していると、筆者は考えています。

 超長期視点で「見えないリスク」は続き、そしてそれは、超長期視点で金(ゴールド)相場を支える要因になると、筆者は考えています。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例 ※級は筆者の主観

初級:純金積立、投資信託(当社では、楽天ポイントで投資信託を購入することが可能)

純金積立・スポット購入
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド

中級:関連ETF、関連個別株

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
バリック・ゴールド(GOLD)
アングロゴールド・アシャンティ(AU)
アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)
フランコ・ネバダ・コーポレーション(FNV)
ゴールド・フィールズ(GFI)

上級:商品先物、CFD

国内商品先物
海外商品先物
商品CFD