黒田日銀からサプライズ、長期金利の上限を0.5%に引き上げ

 20日正午、日本銀行から久々にビッグ・サプライズ(大いなる驚き)が飛び出しました。日銀の金融政策決定会合の結果が発表され、「長期(10年)金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げる」決定が伝えられました。

 世界中の中央銀行が利上げ・金融引き締めに動く中、黒田東彦総裁はこれまで、かたくなに大規模金融緩和の維持、長期金利の上昇拒否を唱えていました。したがって、マーケット関係者は一様に、19~20日の日銀政策決定会合で「金融政策の変更はないだろう」と予想していました。

 ところが、20日正午にビッグ・サプライズが出ました。日銀が長期金利の変動幅の拡大を容認すると発表されました。これまで、長期(10年)金利の利回りを「0%±0.25%」の範囲にコントロールする「イールドカーブ・コントロール」を行ってきましたが、それを「0%±0.5%」の範囲へ拡大すると発表されました。つまり、上限金利を0.25%から0.5%に引き上げました。

 この発表を受けて、20日午後には金融市場に波乱が起こりました。日経平均株価が急落、メガ銀行など金融株が急騰、円高が急伸、債券価格が下落(長期金利が上昇)しました。

<20日の株・為替の動き:日銀の長期金利上昇容認で波乱>

【1】日経平均:2万6,568円(前日比▲669円▲2.5%)
【2】三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306):818.4円(前日比+46.2円+6.0%)
【3】東京海上ホールディングス(8766):2,891.5円(前日比+77.5円+2.8%)
【4】ドル/円為替レート:1ドル132.72円(前日比3.12円の円高、20日15時時点)

 これまでFRB(米連邦準備制度理事会)が急激な利上げを進める中、黒田日銀がかたくなに長期金利を抑え込む緩和政策を続けてきたことにより、為替市場では10月まで「安心して円を売ってドルを買う」流れが続いてきました。

 ところが、FRBの利上げが最終局面に入りつつあるとの見方が出てきたことに加え、黒田日銀が今回、長期金利の上昇を容認したことによって、円高が進みやすい地合いになってきました。

 円安は、日本の企業業績を拡大し、日本株を支える役割を果たしてきましたが、20日は円高が急伸したことで、日経平均が急落しました。

日経平均が急落する中、なぜ銀行株が急騰?

 20日の東京株式市場で、日経平均が急落する中で、メガ銀行株など金融株が急騰しました。金利上昇は、株式市場にとってネガティブですが、金融株にとってはプラスと見られているからです。

 日本および世界の銀行株はこれまで、世界的に金利低下が進む都度、売られてきました。金融株は、「金利が低下すると利益を出しにくくなる」というイメージがあるからです。

「金利が低下すると利益を出しにくくなる」というイメージは、正しい面と間違っている面があります。詳細な説明は割愛しますが、低金利は一般的に金融株の収益に、以下の影響を及ぼします。

【1】生命保険

 終身生命保険の引き受けが大きい生命保険会社にとって、長期金利が低下すると、保険契約の価値が低下します。長期金利が上昇すると、保険契約の価値が増加します。したがって、上場している生命保険会社の株は、金利下落で売られ、金利上昇で買われる傾向が顕著です。
 ただし、終身生命保険の引き受けが少なく、多角化(医療保険や海外事業)が進んでいる生命保険会社では、国内金利変動の影響が相対的に小さいところもあります。

【2】銀行

 長期金利が低下すると、国内の商業銀行業務の収益性が低下します。したがって、銀行株は、金利が低下すると売られ、金利が上昇すると買われる傾向があります。
 ただし、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)などのメガ銀行は、多角化(海外事業、投資銀行業務、信託業務など)が進んでいるので、低金利でも高収益をあげるビジネスモデルができています。したがって、メガ銀行株は金利低下で売られる必然性はないのですが、それでも、メガ銀行株も金利が低下すると売られ、金利が上昇すると買われる流れが続いています。

【3】損害保険

 損害保険契約は1年契約がほとんどで、生命保険のように何十年にも及ぶ長い契約はありません。したがって、生命保険のように、金利低下によって運用が逆ざやになるリスクはほとんどありません。
 したがって、損害保険株が、金利低下で売られ、金利上昇で買われる必然性はありません。それでも、現実には、銀行株や生命保険株のように、金利低下で売られ、金利上昇で買われる傾向があります。
 なお、大手損保が、多角化で展開している生命保険事業(例えば東京海上ホールディングスが展開している東京海上あんしん生命)については、金利変動の影響を受けます。

 以上説明した通り、金融株全般に、金利低下で売られ金利上昇で買われる傾向があります。20日の東京市場では、日銀が長期金利の上昇を容認したニュースに反応して、日経平均が急落する中で、金融株が急騰しました。

市場と対話しない日銀

 金融政策の変更によって金融市場がショックを受けないように、欧米では中央銀行がマーケットと対話する努力をしています。まず、金融政策変更についての考え方を、繰り返し市場に流し、市場の反応を見ます。

 市場は、中央銀行のメッセージを受けて、将来の政策変更を少しずつ織り込んでいきます。最終的に、政策変更を発表した時には、織り込み済みで、市場がほとんど反応しないことを理想としています。

 FRBの市場との対話の仕方にもまだ改善余地がありますが、それでも政策を変更した時に、市場に大きなサプライズが起こってはいないという意味では、対話に成功しているといえます。

 これに対して日銀は、伝統的に秘密主義を貫いてきました。金融政策の変更を予知されないように秘匿してきたので、政策変更はサプライズを伴うことが多かったと言えます。

 黒田総裁は、2013年4月の着任時に、マーケットと対話する開かれた日銀を目指すと宣言しました。あれから9年、確かに黒田総裁は、マーケットに強烈なメッセージを出し続けてきました。

 ところが、一見、明解に聞こえる黒田語録ですが、肝心な政策変更については、予断や言質を与えないように、いつも巧妙に秘匿されています。その結果、市場は、黒田総裁の真意をいつも読み間違えます。日銀会合の結果発表直後に、市場が荒れることがよくあります。

割安な金融株「買い」方針継続

 予想配当利回り3.9%の三菱UFJ FG(8306)(20日株価818.4円、2023年3月期1株当たり配当金会社予想32円)など、予想配当利回りが高く、海外展開が進んでいる大手金融株の、「買い」判断を継続します。

 日銀が長期金利の上限を0.5%に引き上げたこと自体が、大きなポジティブ材料とは考えていません。低金利でも高収益をあげるビジネスモデルができあがっていると考えられること、高水準の利益・配当金を出しているにもかかわらず株価の低迷が続いてきたことから株価が割安と判断できることが、買い判断を継続する理由です。

 詳しくは、以下、「著者おすすめのバックナンバー」のレポートをご参照ください。

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2022年11月16日:利回り4.4%・5.1%、メガバンク2社の「買い」判断を継続