中国共産党大会が開幕。7-9月期経済統計結果の発表は延期
16日、中国共産党第20回全国代表大会(以下「党大会」)が開幕し、習近平(シー・ジンピン)中央委員会総書記が報告を発表しました。
2017年開催の第19回党大会時は演説時間が3時間21分という「マラソン演説」でしたが、今回は1時間44分と半分以下でした。一方、現時点では報告の最終版が公表されていないものの、今回の報告は72ページと、前回(68ページ)に比べ多い分量でした。
要するに、習総書記は、報告の半分以上を読み飛ばしたということです。新型コロナウイルス禍が続いた過去の3年間、中国共産党の各会議において、1時間半を超える演説は基本的に実施されていないことから、今回もその事情に留意したのでしょう。「長すぎる」と不評を買った前回の教訓、習氏自身の体調面への考慮もあったのかもしれません。
党大会は現在も行われており、22日に閉幕、23日のお昼ごろ、新たな中央政治局常務委員がお披露目となります。最大の注目ポイントであり、来週のレポートで検証するつもりです。
開幕後、物議を醸しているのが、18日に予定されていた、2022年7-9月期、および9月単月の主要経済統計(国内総生産、小売、投資、工業生産など)の発表が延期になった事実です。その理由や背景、新たな発表日程についても説明はありません。
党大会の日程が発表された8月30日直後に配信したレポート「中国共産党大会、『10月16日開幕』の意味。景気と人事の微妙な関係」にて、私は次のように指摘しました。
「10月16日開幕に関して、1点指摘すると、2022年7-9月期の主要経済指標の統計結果が10月18日に発表される予定で、それよりも前に開幕したいという思惑が党指導部にはあるのではないかと推察しています。新型コロナの感染拡大に伴うロックダウンや猛暑による電力不足などを背景に、足元の景気は芳しくなく、7-9月期においても、0.4%増という市場予想を下回る結果に終わった4-6月期からの劇的なV字回復は期待できそうにありません」
「そんな中、市場の予想や世論の期待を裏切るような統計結果が発表されてから開催するよりも、それより前に開催してしまうほうがダメージコントロールはしやすくなると考えているのでしょう。というのも、党大会の閉幕時(10月22日の見込み)に指導体制をめぐる新体制がお披露目になりますが、私の見方では、遅くとも開幕時には新体制の人事が相当程度固まっています。要するに、7-9月期の経済統計が発表される頃には、党人事が基本的に確定している、言い換えれば、7-9月期の景気がどれだけ悪かったとしても、人事に影響することは原則ないということです」
予定通りに統計が発表されなかったのは想定外ですが、この事実と党大会の開催は無関係ではないでしょう。習総書記にとって、今回の党大会を通じて最も実現したいのが、「習近平第三次政権」を自らの構想に符合する形で開催した上で、自らの意思を反映する新指導体制をスタートさせることにほかなりません。
そう考えると、あらゆる政治的攻防が繰り広げられている真っ最中に7-9月期の統計結果が発表されるのを嫌がり、回避したということでしょう。統計が間に合わなかったのでないことだけは確かです。
技術的理由ではなく、政治的理由ということです。
少子高齢化対策として注目される社会福祉政策
習総書記による報告は、過去5年の仕事を総括した上で、これからの5年あるいは10年に向けて、党としてどのような国家運営をしていくのかを、政治やイデオロギー、経済、科学技術、文化、外交、環境、社会福祉、軍事、党内建設などあらゆる分野から語っています。
ここでは、私が注目していた少子高齢化と社会福祉の分野について検証したいと思います。
このテーマを考える上で、押さえておきたい背景があります。
2021年、中国の人口は14億2,589万人に達し、今年以降減少に転じる可能性が高まっています。2021年の出生数は1,062万人で1949年の建国以来最小、人口の自然増加率は0.03%まで下がってきているのです。少子高齢化に歯止めをかけるべく、1979年以降続いた「一人っ子政策」が撤廃され、2016年には全ての夫婦が2人目まで、2021年には3人目まで出産が可能となりました。
ただ、結婚をする人が減っていることや、都市部における生活コストが上昇していることなどが原因となり、若年夫婦の出産を促すには至っていないのが現状です。これから2050年にかけて、15歳から64歳の人口は現在の約9億8千万人から約7億7千万人と、2億人以上減る見込みであり、経済の持続的成長という意味でも不安要素になるのが必至という状況なのです。
中国は、デジタル経済を大々的に推し進めており、AI(人工知能)やロボットなど先端技術の研究開発やサービスが急速に進んでいます。都市化率も足元では67%まで上昇しており、少子高齢化自体が生産性の低下や経済成長にとっての下振れ圧力になるとは限りません。それを食い止めるための政策は各方面から打たれるでしょう。
一方、国民が将来に対する不安をできる限り少なくし、安心して出産や育児に向き合い、正当な労働や投資を通じて内需主導の経済成長を促していく上で不可欠になるのが、社会福祉の充実であると私は思います。国際労働機関が2017年に発表したレポートによれば、中国のGDP(国内総生産)に占める社会保障支出の割合(保健医療費除く)は約0.2%と、世界平均の1.1%を大きく下回っているのが実態です。改善の余地は大いにあると見るべきです。
党大会で取り上げられた、社会福祉政策の方向性
ここからは、党大会報告で少子高齢化と社会福祉政策がどのように扱われたかを具体的に見ていきます。
報告の第9章にて「国民生活の福祉を増進し、国民生活の質を向上させる」と題し、公共サービスシステムの健全化と水準の向上を通じて、共同富裕を着実に推し進めていくと記されています。内訳としては四つあり、(1)分配制度の最適化、(2)雇用優先戦略の実施、(3)社会保障システムの健全化、(4)「健康中国」の建設を推進、から成っています。
(1)では、「分配制度は共同富裕を促進するための基礎制度である」という前提の下、市場、政府、社会による分配制度をパッケージで進めていくためのシステム整備、機会公平を促進するために、低所得者層の収入を増加させ、中間層を拡大していくとし、所得税制度の最適化、社会保障政策の充実などを掲げています。高所得者層や有力企業には、公益性の観点から慈善事業などに取り組むことが奨励されています。
(2)は、中国の経済政策にとって雇用こそが最重要事項であるという党指導部の立場を如実に反映しています。これまで軽視されていた職業訓練や雇用構造を巡るミスマッチの問題の解決、労働者の権利保障などが掲げられています。
(3)では、年金、医療、失業、労災といった各種保険を多面的に発展させる政策が掲げられています。中国政府の統計によれば、2021年末時点で、全国基本医療保険には13億6,000人(総人口の96%以上)が加入していますが、基本年金は74%、失業保険は16%、労災保険は20%にとどまり、社会保障システムという意味ではまだまだ改善の余地があるのが現状です。
(4)では、人口発展戦略を最適化するために、国民の生育を支持する政策体系として、出産、育児、教育コストのカットに取り組むとしています。高齢化という不可逆的な大勢に積極的に対応するという観点から、養老事業や産業を発展させること、高齢者の老後生活に焦点を当てた医療サービスを充実させることなどが掲げられています。
このように、中国政府として、少子高齢化に真正面から、かつ前向きに向き合うこと、そのために社会福祉政策の充実を通じて、国民の生活コストを下げ、しかるべき消費を促すことの重要性と必要性は十分に認識している現状が見て取れます。問題はこれから、これらの政策をどのように実施し、結果につなげていくかです。
私自身は、人口動態を巡る動向は、中国が長期的にどのような発展の軌跡を描くのかを占う上で、潜在的にリスクともチャンスともなり得る「不確定要素」だと考えています。今後、折を見て本連載でも触れていきたいと思います。
マーケットのヒント
- 7-9月期の経済統計の発表延期は、党大会開催という政治的理由に起因する
- 少子高齢化は中国の将来的発展を考える上で潜在的に重要な要素である
- 中国政府は少子高齢化を直視し、社会福祉政策の改善に取り組んでいる。今後の動向を辛抱強く見ていくべき
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