※本記事は2022年10月に情報を更新しました。

「いつでも」「いくらでも」買える投資信託は資産形成の強い味方

 投資信託の魅力の一つは、需要量と供給量に関係なく、原則として好きなタイミングで購入も解約もできるという点です。

 積み立てと相性のよい金融商品として投資信託が取り上げられるのも、やはり、あらかじめ指定した日に指定した金額分だけを購入できるからです。

 しかし、その投資信託も買いたいときに買えなかったり、まれに「売り切れ」状態になることがあるのをご存じでしょうか。

 決して頻繁に起きるわけではありませんが、長期にわたって投資信託と付き合っていく上では、今後遭遇する可能性もありますので、知識の一つとしてぜひ覚えていただきたいと思います。

 投資信託の目論見書の「お申し込みメモ」ページには、購入前に確認すべき重要事項が項目別に記載されています。

 この中の「購入・換金申込受付の中止及び取消し」という項目には、どの投資信託にも以下のような記載があります。

取引所等における取引の停止、外国為替取引の停止、決済機能の停止、その他やむを得ない事情があるときは、委託会社は、受益権の取得申込み・換金請求の受付を中止すること、およびすでに受け付けた取得申込み・換金請求の受付を取消すことができます。

 ここの大きなポイントは、取引所が停止したり、やむを得ない事情に見舞われたりした場合に、「運用会社の判断で」購入や換金(解約)の受付を停止できるという点です。

 例えば、投資対象地域において非常事態(台風を含む自然災害、金融危機、クーデターをはじめとした政治体制の変更など)が発生すると、取引所が停止されることがありますが、こうした事態が起きた場合でも、投資信託の購入・換金の受付を停止するかどうかの最終的な判断は、運用会社に委ねられています。

 では、この「その他やむを得ない事情」にはどのようなものが含まれるのでしょうか。

投資信託の使い勝手のよさが人気!でも売り切れることも?

 運用会社が投資信託の新規の購入受付を停止する「やむを得ない事情」の典型例は、「資金流入の急増」です。

 つまり、人気が出て売れすぎてしまった結果、残高が増え、適切な資産規模での運用が維持できなくなる恐れがあるときに販売を停止します。

 少し前の話になりますが、ファンド(投資信託)の運用会社アセットマネジメントOneは2021年9月2日から2022年1月末までの約5カ月間、同社が運用する「企業価値成長小型株ファンド(愛称:眼力)」の新規買い付け申し込みを停止しました。(ただし、既に設定済みの積み立てについては、そのまま買い付けの申し込みを受け付けました。)

 同ファンドに限らず、一般的に時価総額が小さく、流動性の低い中小型株式などを投資対象とする投資信託は、投資信託の規模の上限である「信託金限度額」が小さく設定されています。

 この信託金限度額は、投資信託が主に投資する投資対象や運用手法などを考慮し、投資信託ごとに約款で定められています。大きいものだと1兆円単位、小さいものだと百億円程度に設定されており、ファンドによって開きがあります。

 運用会社はファンドの純資産残高が信託金限度額に近付くと、販売を一時的に停止したり、反対に限度額を引き上げたりという措置を取ります。

 限度額を大きくしても運用に支障がないと運用会社が判断した場合は、数兆円単位まで引き上げることもあります。

 例えば、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」を運用するアライアンス・バーンスタインは、2021年3月から2022年3月までの1年間で、同ファンドの信託金限度額を3回引き上げました。限度額は当初1兆円でしたが、現在は2兆5,000億円です。

積立投資している投資信託が、売り切れになったら?

 では、自分が保有する投資信託の人気が出て「売り切れ」状態となった場合、どうしたらよいのでしょうか。

 先に解説したような、適正な運用資産規模を維持するための販売停止であれば、大きな心配は必要ないでしょう。

 というのも、販売停止措置が取られても、換金(解約)は通常通りに行えることが多いためです。この場合、ご自身のお金が「凍結」されるようなことは基本的にありません。また、解約によって残高が自然に減少し、適正な運用資産規模に戻ると、販売も再開されます。

 ただし、冒頭で触れた、「投資対象地域で非常事態が発生した場合」においてはこの限りではありません。例えば、ウクライナ侵攻を巡って世界各国から経済制裁を受けたロシアは、株式市場の機能が事実上停止し、日本で展開されているロシア関連の投資信託にも影響が及びました。この場合、そもそも市場が正常に機能しておらず、基準価額すら算出できないため、投資信託の解約も制限され、資金が事実上「凍結」された状態となります。

 こうした、流動性の極端な低下に伴う販売停止は、人気が出て「売り切れ」の状態になるのとは根本的に性質が異なります。
(詳しくは「ロシア投信、解約停止はなぜ?目に見えないリスクに注意」をご参照。)

 なお、積み立ての取り扱いについては、個々のファンドや運用会社によって対応が分かれます。

 先述の「企業価値成長小型株ファンド」を含め、既に設定している積み立てについてはそのまま継続(積立購入)できることが多いですが、ごくまれに積み立てによる買い付けも停止されることがあります。

 以上、まとめると、短期間のうちにファンドの人気が出て「売り切れ」の状態になったとしても過度に心配することはありません。ただし、まれに積み立ても停止されることがあるため、運用会社が投資家向けのお知らせ(レター)を公表した場合は、その内容を必ず確認するようにしましょう。