そもそも、「中国共産党全国代表大会」とは何か?

 8月30日に日程が発表されて以降、「党大会10月16日開幕」に向けて、この期間、5年に1度の党大会の見どころとなる人事や議事について扱ってきました。時が過ぎるのは早いもので、開幕日まで残すところ3日となりました。今回は開幕前最後のレポートということで、改めて、というよりはそもそも「党大会って何なの?」というテーマを私なりに解説してみたいと思います。

 新聞やテレビでも、「中国5年に1度の党大会」、「習近平氏3期目入りへ」、「党大会の見どころ」といった見出しであらゆる報道がなされ、特集が組まれていますが、それだけ重要で注目に値する党大会はそもそも何をして、何を決める政治のお祭りなのか、という部分に焦点を絞ります。

「党大会」の正式名称は「中国共産党全国代表大会」です。1945年に第一回大会が開催され、今回で20回目になります。1945年と言えば「中華人民共和国」が建国される前ですが、この歴史的経緯は、中国において「党」が「国」をしのぐ、党が国の上にかぶさっているという政治構造を如実に表しています。

 中国が語られる際、その最高指導者に対してしばしば「国家主席」という肩書きが付け加えられます。現在であれば「習近平主席」。一方、中国の政治制度においては、まずは5年に1度、秋に開催される党大会で党のトップ、すなわち総書記が選出されます。その上で、翌年3月の全国人民代表大会(全人代:毎年開催)において国のトップ、国家主席が選出されるのです。この順番は逆にはなり得ないということで、中国という国でトップに上り詰めるには、まずは党でトップにいかなければならないのです。そして、党大会というのは文字通り、国ではなく、党のイベントということになります。

「党の憲法」である党規約において、党大会は、中国共産党で最高意思決定機関を形作る上での基盤となる中央委員会によって召集されます。全国代表大会というからには、大会に出席する代表たちがいます。第20回党大会に出席する代表はすでに2,296名と発表されていますが、これらの代表が党大会に出席し、後述する各種審議、決定に参加するという仕組みです。

 この代表たちの人数や選び方なども、中央委員会によって決定されます。習近平(シー・ジンピン)氏の党における肩書は中国共産党中央委員会総書記、すなわち、約9,700万人いる党員のトップであり、現在(第19期)204人いる中央委員会(加えて補欠委員が172人)のトップでもあるということです。

 党大会における議題(アジェンダ)は以下のように規定されています。

(1)中央委員会の報告を聞き、審査する
(2)中央規律検査委員会の報告を審査する
(3)党の重大な問題を議論し、決定する
(4)党規約を改正する
(5)中央委員会を選挙する
(6)中央規律検査委員会を選挙する

(1)は、先週のレポートで扱った「二十大報告」を指します。中央委員会のトップである習総書記が、開幕日に行います。(2)、(6)にある中央規律検査委員会とは、反腐敗、すなわち汚職や職権を乱用する党の幹部や政府官僚、国有企業幹部などを監視監督、取り締まる組織です。(3)や(4)も極めて重要で、中国という国の方向性を左右するような議題が審議され、憲法改正に不可欠な党規約の改正いかんがこの場で決定されます。

 今回は、習総書記の権力基盤を巡る事項や要素がどう改正されるかに注目で、この点は党大会閉幕後にしっかりと検証します。中国の今後を占う上で極めて重要な作業になります。

習近平が党の最高指導者に選ばれる仕組み

 人事という意味での注目点が(5)です。この期間、「党大会人事」と題し、習総書記が3期目入りするかどうか、中央政治局常務委員の人数や誰が入り、誰が残るか、国務院総理は誰になるか、ポスト習近平は内定するか、といったポイントを検証してきましたが、これらの議論には制度的に前提があるのです。

「中国共産党中央委員会工作条例」によれば、約200人から成る中央委員会の委員、および往々にして200名には満たない補欠委員は(任期5年)、2,000人強から成る全国代表大会の代表によって、党大会の場で選出され(第三章第九条)、中央政治局、常務委員会、中央委員会総書記は中央委員会全体会議を通じて選出されるからです。と同時に、総書記は中央政治局常務委員の中から選ばれなければならない点も明記されています(第三章第十条)。

 要するに、党大会における議題の一つであり、中央委員会を選出する(5)がなければ、「習近平第三次政権」を巡る中央政治局常務委員・委員人事につながらないということであり、上に行くためには、まずは中央委員会委員に選出される必要があるということです。

 新たな中央委員が選出された後、党大会は閉幕します(10月22日の見込み)。その翌日、第20期中国共産党中央委員会第一次全体会議(一中全会)が開催され、その場で、新中央委員の中から中央政治局委員、そして常務委員が選出されるという仕組みです。繰り返しになりますが、習氏が2期10年務めてきた総書記というのは、中央委員会という組織の最高位であり、中央政治局における序列1位という地位に登り詰めることになります。

 一応断っておきますが、上記で繰り返し用いた「選出」に関して、西側諸国や日本で普遍的に採用されている「自由で公正な選挙」ではなく、権力闘争や人間関係、最高指導者や長老たちの思惑や利害が複雑かつ赤裸々に絡み合う中で、ブラックボックス内の操作を通じて結果的に選ばれる、という意味です。選抜、という表現が最も現実を表しているといえるかもしれません。日本の大手企業で、役員や社長が「選出」されるイメージです。

党大会が中国で最も重要な政治イベントである理由

 1949年の建国以降、毛沢東(マオ・ザードン)、鄧小平(ダン・シャオピン)という第一世代、第二世代の最高権力者が、紆余(うよ)曲折を経ながらも、文化大革命、天安門事件といった危機を招きながらも、国家運営を進めてきました。毛氏は1976年に死去するまで名実ともに最高権力者の地位に居座り続けましたし、鄧氏は他の人物を主要な職位に就け、自らは一歩引きつつも、最高権力者として君臨し、江沢民(ジャン・ザーミン)、胡錦涛(フー・ジンタオ)という後の最高指導者を自ら指名しました。

 江氏、胡氏が主に国をつかさどった1990年代、2000年代を通じて、最高指導者というのは、党、国、軍という三つの部門でトップを担っていたのです。それぞれ、中央委員会総書記、国家主席、中央軍事委員会主席という職位です。李克強(リー・カーチャン)氏が2期10年担ってきた国務院総理というのは、これらの下に位置する職位であり、習氏と李氏の権力、権限、権威には従来的に比較する余地はなく、故に「習・李体制」という呼称は中国政治を巡る現実の的を射ていない、言い換えれば、本質を見誤らせる恐れを内包するものです。

 以上を前提に、党大会がなぜ中国で最も重要な政治イベントなのかという話を最後にします。1990年代以降、党・国・軍のトップは同一人物が務めてきたと前述しました。この3役は、三位一体(特に、2018年、憲法改正を通じて、国家主席の任期が撤廃されたことで、党の総書記、中央軍事委員会主席を含め、3役の一体性が強化されました)の関係にあり、並列的ですが、同等ではないのです。

 最初にくるのはあくまでも党の総書記であり、その地位を確保して、初めて国家主席、中央軍事委員会主席の座を射止めることが可能になるのです。もちろん、政治とは「一寸先は闇」の世界であり、中国政治は特に習近平体制に移行して以降、多くの不確実性に満ちていますから、この三位一体が何らかの形で調整される、例えば、どこかのタイミングで、習氏が、国家主席だけは他者に譲るといったケースは考えられます。権力基盤を維持・強化するという観点から、あえて三位一体性を崩すというシナリオも、今後に向けて念頭に置いておく必要があるということです。

 総じて、これからの5年、10年、もしかするともっと先の将来を見据える上で、今回の党大会が、習総書記にとっての「再起点」になるのは間違いありません。私自身、しっかり観察し、中国がどこへ向かうのかを分析していきたいと思います。

マーケットのヒント

  1. 3日後に迫る5年に1度の党大会は中国で最も重要な政治イベントであり要注目。
  2. 中国で最高指導部が成立する過程は、日本の大手企業でトップ経営層が形成されるプロセスに似通っている。
  3. 中国という国がどこへ向かうかを判断する上で、まずは「党」が起点にあるという基本的国情・制度を理解することが重要。党が国にかぶさっているという構造。