プラチナ・ジュビリーを祝った初めての英国君主

 9月8日、エリザベス元女王(以下、エリザベス2世)が亡くなりました。6日に、ボリス・ジョンソン前首相の後任を決める保守党の党首選で勝利したリズ・トラス氏を首相に任命するなど、亡くなる直前まで、公務をこなしていました。

 在位期間が英国君主として最長となる70年に達していたことは、今年6月に祝った「プラチナ・ジュビリー」の際に世界中に報じられていました。英国王室におけるジュビリー(ロイヤル・ジュビリー)は、君主(国王または女王)の統治期間が一定年数に達した際に行われる特別な祝典のことです。

 ロイヤル・ジュビリーは貴重な素材に関連付けられています。英国王立造幣局博物館の資料には、貴重な素材と統治した年数は、シルバー(銀)が25年、ゴールド(金)が50年、ダイヤモンドが60年、プラチナ(白金)が70年と記されています。

 これまでに、ロイヤル・ジュビリーを祝った明確な記録がある英国君主は、ジョージ3世、ヴィクトリア女王、ジョージ5世、エリザベス2世の4人といわれています。この4人の中で、プラチナ・ジュビリーを祝ったのは、在位期間が最長となったエリザベス2世だけです。

 エリザベス女王は、前人未到の領域に達し、ある意味「プラチナ」と「70年」が結び付いていることを、「改めて」世界に知らしめたと言えるでしょう。なぜ「改めて」なのか。それはもともと、日本のみならず世界中の多くの市民の身近に、「プラチナ」と「70年」が結びついている例があるためです。

 例えば日本には、「プラチナ婚・ダイヤモンド婚・金婚を祝う会」のような催しを開催する自治体が複数あります。また、明治天皇が1894年(明治27年)に銀婚式を祝ったことがきっかけで、日本でも特定の年数で結婚を祝う文化が根付いたといわれています。「プラチナ」と「70年」をつなぐ身近な例とは、結婚記念の年です。

図:明確な記録が残る英国王室の祝典(ジュビリー) ※エドワード7世以前の時代は、シルバー・ジュビリーを祝う習慣がなかった。

出所:Historic Royal Placesおよび英国王立造幣局博物館の資料をもとに筆者作成

結婚記念を特定年数で祝う文化はどう拡大した?

 結婚記念を特定の年数で祝う文化は、どのように拡大したのでしょうか。この点を考える上で、チャールズ前皇太子(現英国王)がゲスト編集者を務めたことがある、120年を超える歴史を持つ雑誌「Country Life」に掲載された記事「Curious Questions: Where do wedding anniversary traditions come from?」(2021年9月18日掲載)を参照します。

 この記事は、1852年10月27日付けの「Belfast Newsletter」(北アイルランドの日刊紙)に掲載された、同誌の特派員がドイツで偶然「金婚式」を目撃したことを書いた記事に触れています。

「Belfast Newsletter」の原文を読むと、アイルランド人とみられる特派員は、金婚式について、ドイツ全土で行われていると思われる、これほど感動的な場面を目撃したことがない、はじめて知った、などと記しています(このことから、当時はまだ、結婚記念を特定の年数で祝う文化が世界全体に浸透していなかったことがうかがえる)。

 また、特派員は、結婚50周年を迎えた夫婦が、友人から金(ゴールド)でできた花輪を贈られ、結婚の誓いを新たにする「金婚式」のほか、25周年で行う「銀婚式」の存在にも触れています(ダイヤモンド婚式、プラチナ婚式については触れられていない)。

「Country Life」の記事は、こうした特派員の記事について、当時の人間の寿命の長さを考えれば、「金婚式」を迎えることは「偉業」だったと解説しています。また、当時の結婚記念日の主流は、綿(結婚1年目)、紙(2)、木(5)、毛織物(7)、錫(10)、絹(12)、水晶(15)、磁器(20)、シルバー(25)、真珠(30)、ルビー(40)、ゴールド(50)だったとしています(近年のものと若干異なる)。

 その後、サンゴ(35)、サファイア(45)、ダイヤモンド(60)、プラチナ(70)、オーク(楢の木)(80)が追加されたことについて、ヴィクトリア女王の「ダイヤモンド・ジュビリー(1897年)」が行われたことや、人間の寿命が長くなったことが、背景にあったとしています。

図:最近の結婚記念年(英国式) ※諸説あり

出所:各種資料より筆者作成

 そして、20世紀に入り、米国の宝飾品関連の小売団体による啓蒙活動が功を奏し、特定の年ごとに結婚を祝う文化が世界規模になり、1930年代には、現代版に近い詳細な結婚記念年のリストが完成し、記念の年にごとに送るべきプレゼントが決まったとしています。

 特定の結婚記念の年に祝う文化は、キリスト教の文化圏が発祥と考えられ、こうした文化は、人類がさまざまな発展を遂げる中で、商業利用されながら、異なる宗教の国々に広がっていったと、考えられます。

「忍耐」と「プラチナ積立」に緊密な関係あり

「希少」「忍耐」。こうしたキーワードは、結婚70周年目のプラチナ、80周年目のオーク(楢の木)の共通点でしょう。

 プラチナは、例えば金(ゴールド)よりも流通量が少なく希少です。また、多数ある金属の中で比較的融点が高く、ガラスを製造する装置やパラキシレンを精製する装置などに用いられるなど、負荷が高い環境でも変質せずにさまざまな役割を果たせる、耐え忍ぶことができる性質を持っています。

 オークは、欧州で古くからアンティーク家具やワインのたるなどに用いられたり、神聖な樹、忍耐・強さの象徴などと言われたりしています。「希少」「忍耐」というキーワードを併せ持つ、たぐいまれなプラチナとオークが、70年、80年という通常では到達し難い境地(英国王室の在位年数、結婚年数しかり)のシンボルになったのもうなずけます。

 筆者は、「忍耐」と投資は、切っても切り離せないと、考えています。筆者が知るアナリストは、積立投資で上手に資産形成をするために欠かせない条件に、(1)とにかく続けること、(2)余計なことをしないこと、の二つを挙げています。そのとおりだと思います。

 この二つを実現するために必要なことは何でしょうか。「忍耐」でしょう。そしてこの「忍耐」の精神をもってプラチナ積立を続けることは、長期投資における有効な手法であり、現在のプラチナ市場には、「忍耐」の精神をもって積立投資を行う投資家を受け入れる素地があると、考えます。

プラチナ「今安く・今後高くなる可能性がある」

 以前の「暴落の嵐で浮き出たプラチナ積み立ての有効性」で書いたとおり、効率の良い積立投資を行うために必要なことは、「今安く・今後高くなる可能性がある」銘柄を選択することです。「今安い」ことは、数量を効率的に増やすことに貢献し、「今後高くなる」ことは、増やした数量を効率的に収益化することに貢献するからです。

「数量」が重要視される積立投資に、「今高い」銘柄はなじみません。「今高い」と、効率的に数量を増やせなくなるだけでなく、収益化の難易度が上がってしまうためです。(向こう数十年間、史上最高値を更新し続ける銘柄など、あるのでしょうか?)

 積立投資をするのであれば、「今安く・今後高くなる可能性がある」銘柄を探すことが賢明でしょう。

 その意味では、2015年に発覚したドイツ自動車大手フォルクスワーゲン社のスキャンダルをきっかけに、一部で需要は増えないと強く認識され、近年は価格が低位で推移している(今安い)一方、「脱炭素」をきっかけに、これまでにない新しい需要が増加し、長期視点で価格が高くなることが予想されるプラチナは、まさに、積立投資に適していると言えるでしょう。

 以下のグラフのとおり、「脱炭素」を背景に、長期視点で、プラチナ相場の変動領域は現在よりも高くなると考えています。

図:プラチナ価格の推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

プラチナの「新しい常識」は「脱炭素」が主導

 環境配慮の動きは「脱炭素」が旗印となり、世界を席巻しています。長期的視点で、「脱炭素」はプラチナの需要を増加させる要因になると、考えられます。

 環境配慮先進国である欧州主要国、そして日本は、乗り物や発電所のタービンを動かしたり、熱を発生させたりするために使用するエネルギーを、CO2(二酸化炭素)を排出する化石燃料から「水素」に切り替える方針を示しています(「水素社会」を目指す)。

 プラチナは、水の電気分解の仕組みを利用した「水素の精製装置」や、水の電気分解の逆の仕組みを利用した「FCV(燃料電池車)の発電装置」に利用されるケースがあります。水素の精製装置で用いる電気が再生可能エネルギー由来だった場合、そこで発生した水素は「グリーン水素」と呼ばれます。

図:プラチナの「新しい常識」

出所:筆者作成

 水素は無色透明ですが、どのような過程を経て精製されたかを示すため、便宜的に名前に色が冠されます。グリーンは精製過程でCO2を排出しなかった水素、ブルーは排出したがそのCO2を回収した水素、グレーは排出し、そのCO2を大気中に放出した水素です。

 プラチナが装置の電極部分に用いられて精製される水素は、「グリーン水素」という、最も環境にやさしい水素です。また、FCVは走行時にCO2を排出しない(水を排出する)次世代自動車として、EV(電気自動車)などと同じように注目されています。

「脱炭素」の潮流は、長期視点でプラチナの需要を喚起し、プラチナ相場の変動領域を、一段引き上げる可能性があります。

プラチナ積立は資産と人間性を成熟させる!? 

「結婚記念を特定年数で祝う文化はどう拡大した?」で述べたとおり、結婚して数年間は、紙、綿、木などまだまだ未熟な「薄い」素材がその象徴でした。10年くらいたつと、鉄、銅、錫(スズ)、鋼鉄など「硬い」素材に、15年くらいで、絹、象牙、水晶など「価値がある」な素材へと移り変わります。

 さらに時を経ると、シルバー、ゴールド、プラチナといった貴金属や、真珠、ルビー、サファイアといった宝石などの「希少で高価」な素材になります。「薄い」→「硬い」→「価値がある」→「希少で高価」、という移り変わりは、夫婦の関係が成熟する過程をなぞっていると言えるでしょう。

 先ほど、プラチナとオークは、「忍耐」の要素を含むと書きましたが、これは単にプラチナとオークがそれぞれ「忍耐」を象徴する用途・意味があるだけでなく、成熟の果てにある「耐え忍ぶことの美しさ」の意味も含んでいると、筆者は考えています。

 エリザベス2世が「プラチナ・ジュビリー」に達したその年に亡くなったことを思うと、英国王室の在位年数にしても、結婚年数にしても、「プラチナ(=70年)」の境地に到達するには相当の「忍耐」が必要であると、実感させられます。

(1)とにかく続けること、(2)余計なことをしないこと、の二つを、エリザベス2世が示唆した「忍耐」の精神をもって愚直に積立投資を長期間続けることで、投資家として成熟し、ひいては人間的な成長を感じることができると、筆者は考えます。

「忍耐」の精神をもって、「今安く・今後高くなる可能性がある」プラチナを積立することは、資産を成熟させ、ひいては投資家の人間性を成熟させることにつながると、筆者は考えています(半分の「サンゴ(=35年)」などを目標に、開始してみてはいかがでしょうか)。

[参考]積立ができる貴金属関連の投資商品例

純金積立・スポット取引

金(プラチナ、銀)

投資信託(一例)

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)

ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)

三菱UFJ 純金ファンド

海外ETF(一例)

SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)

iシェアーズ・ゴールド・トラスト(IAU)

米国株(一例)

バリック・ゴールド(GOLD)

アングロゴールド・アシャンティ(AU)

アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)