先週のレポートで、5年に1度の中国共産党大会が10月16日に開幕すること、今回の党大会が歴史的に重要である理由、これから約1カ月、経済政策とゼロコロナの間で繰り広げられる「綱引き」が鍵をにぎる見込みなどを解説しました。

先週のレポート:中国共産党大会、「10月16日開幕」の意味。景気と人事の微妙な関係

 今週は予告通り、党大会最大の見どころである人事について、ポイントを五つに絞って整理したいと思います。古今東西、官民問わず、人事は組織の成長や国家の行方に影響する要素であり、中国がこれからの5年、10年とどのような変化と発展の軌道を描くのかを占う上で、人事を巡る分析は不可欠であると考えます。

 以下、五つのポイントを一つずつ見ていくことにします。

ポイント1:習近平総書記が続投・3期目突入するか

 これから党大会に関するメディア報道は過熱し、10月中旬から下旬にかけてそれらがピークに達すると予想しますが、現時点においても「焦点となるのは習近平(シー・ジンピン)が3期目に突入するかどうか」という報道が散見されます。例えば、党大会の日程発表を受けて、NHKは「中国共産党大会 10月に開催 習近平主席 3期目入りするかが焦点」と題した記事を配信しています。

 今回の党大会で決まるのは、習氏が共産党中央委員会の総書記として3期目入りするか否かであり、国家主席として3期目入りするか否かが決まるのは2023年3月の全国人民代表大会になります。新政権の人事が最終的に確定し、本格的に発足するのは2023年3月と理解するのが適切だと思います。

 その上で、私の考えは、習氏が続投=3期目入りすることは「焦点」というよりはむしろ既定路線です。というのも、習氏は前回(2017年10月)の党大会から2018年の全人代にかけて、憲法改正を通じて国家主席・副主席の任期(2期10年)を撤廃し(総書記には任期なし)、「終身制」の実現を制度的に可能にしました(実質的にどこまでやるかは別問題)。

 今でもよく覚えていますが、現代政治の象徴ともいえる任期を撤廃した事実、しかもその過程で十分な党内、国民議論を経なかった経緯は物議を醸し、国内外から少なくない疑念や批判が投げかけられました。言い換えれば、習氏としてそれだけの政治的コスト&リスクを取ってまで、任期を撤廃したかったということです。

 仮に現在最高指導者を務める総書記、国家主席、軍事委員会主席という三役で3期目入りするつもりがなければ、そもそも任期撤廃などしないでしょう。説明が付きません。

 政治とは生き物であり、一寸先は闇。いつ何が起こるかは分かりません。党大会が開幕するまで、人事を巡る攻防は続くでしょうし、来年の3月までは予断を許さない状況が続きます。

 ここで強調しておきたいのは、「習近平第3次政権」の誕生は、そもそも既定路線であるということです。

ポイント2:中央政治局常務委員が何人になるか

 中国共産党の最高意思決定機関といわれるのが中央政治局で、同局には25人の委員がいます。その中でも最上位に君臨するのが「常務委員」といわれる国家指導者らであり、現在7人います。そのトップが習氏、序列2位に李克強(リー・カーチャン)国務院総理がいます。

 今回の党大会で「焦点」の一つとなるのは、この常務委員の数です。過去の党大会で決まった常務委員の数を以下の図表に整理してみたのでご覧ください。

第7回(1945年) 5人 第14回(1992年) 7人
第8回(1956年) 6人 第15回(1997年) 7人
第9回(1969年) 5人 第16回(2002年) 9人
第10回(1973年) 9人 第17回(2007年) 9人
第11回(1977年) 5人 第18回(2012年) 7人
第12回(1982年) 6人 第19回(2017年) 7人
第13回(1987年) 5人 第20回(2022年) __
著者作成

 過去最も少なかったのが5人、最も多かったのが9人。しかも第8回、第12回を除いて奇数であることが分かります。常務委員が奇数を取る理由は、国家の存亡や盛衰に関わる意思決定を最高レベルで行う上で、常務委員たちの間で「多数決」という形を取ることが往々にしてあるからです。特に、集団指導体制が比較的機能していた胡錦涛(フー・ジンタオ)政権(9人)では多数決が多用されていたというのが私の理解です。

 では、2022年の今回は何人になるか。現状は7人ですが、現状維持の可能性は大いにあると思います。一方、5人になれば、それは習氏に対する権力が一層集中することを意味し、逆に9人になれば、集団指導体制がこれまでに比べて顕在化することになります。理由は明白で、最高レベルでの意思決定に関わる人数が増えるほど、そのプロセスに影響を与える要素が増加、複雑化するからです。一人一人の常務委員の背後には、数多くの政治勢力が影響力の行使をもくろんでいるのが常態なのです。

 総じて、常務委員の数が5人になれば、習氏の権力基盤が強化され、7人の場合は現状維持、9人に増えれば、習氏が権力を譲渡すべく政治的に妥協したという解釈が可能になります。

ポイント3:政治局常務委員から誰が去り、誰が入るか

 政治局常務委員、および委員の資格を巡って、「七上八下」という暗黙の慣例があります。年齢に関するもので、党大会開催時点で67歳以下は中央政治局に残れる、あるいは入れる、一方で68歳以上は去る、入れないというものです。明文化したルールではありませんが、近年はこの慣例の基に政治局を巡る人事が展開されてきた事実は、軽視できません。

 現在7人いる常務委員のうち、序列3位の栗戦書(リー・ジャンシュー)全国人民代表大会常務委員長と7位の韓正(ハン・ジェン)国務院副総理はともに68歳以上となるため抜ける可能性が高いです。残りの4人、李氏、汪洋(ワン・ヤン)全国政治協商会議主席、王滬寧(ワン・フーニン)中央書記処書記、趙楽際(ジャオ・ラージ)中央規律検査委員会書記は67歳以下であるため、年齢的には残る資格があると見なすことができます。

 習氏が残るのは既定路線として、この4人のうち何人が残り、何人が去るのか。誰が去り、誰が残るのか。そして、どれだけの「新人」が入るかも重要です。現状、政治局委員25人のうち、7人が常務委員で、18人が委員ですが、年齢的に常務委員に昇格する資格がある委員が9人います。新人たちをめぐる詳細は次回以降のレポートで改めて扱いたいと思いますが、何人の新人が入るのか、それが誰になるのか、も極めて重要なポイントになります。それによって、習氏の権力基盤をめぐる強弱がある程度分かるようになるからです。

ポイント4:ポスト習近平は内定するか

 当代中国政治における一つの特徴が「5年後の新体制が分かる」というものでした。どういうことかというと、習氏は2007年の第17回党大会で上海市書記から政治局常務委員入りし「ポスト胡錦涛」に、李氏は「ポスト温家宝(ウェン・ジャーバオ)」に内定、それから第18党大会までの5年間を「内定者」として過ごしています。

 従来であれば、2017年の第19回党大会で、5年後に「ポスト習近平&李克強」となる2人の内定者が分かる見込みでしたが、それはなされませんでした。習氏自身が3期目続投を見込んだ任期廃止を行った経緯を顧みれば、当然と言えば当然ですが。

 それでは、今回の党大会で、「ポスト習近平」が見えてくるかどうか。この点は極めて重要で、仮にそれがなされれば、時期はともかく、どの人物が習氏から最高指導者の座を引き継ぐのかが分かり、今後の展開を予想しやすくなります。

ポイント5:国務院総理は誰になるか

 最後のポイントが、「ポスト李克強」が誰になるかです。国務院総理の任期はそもそも2期10年であり、案の定、今年の全人代で李氏は「今年が最後の1年」と自ら発信しています。李氏が国務院総理から正式に退くのは来年3月の全人代になりますが、今回の党大会で次期総理が誰になるかは分かるのが通例です。

 なぜ国務院総理という人事が重要なのか。

 それは、このポストがある意味中国という国家の「顔」だからです。歴史的に、国務院総理は外交と経済の分野で存在感を発揮してきました。その典型が今年9月で50周年を迎える日中国交正常化に尽力した周恩来(チョウ・エンライ)と経済改革を大胆に実行した朱鎔基(ジュー・ロンジ)でしょう。

 2000年10月、朱氏は日本を訪問した際、TBSの番組・「筑紫哲也スペシャル」にゲストとしてスタジオに登場し、100人の日本国民に囲まれる中で交流しました。温氏が2007年に訪日した際には、京都で立命館大学の野球部員と交流、2010年訪問時にも上智大学の野球部員と汗を流すなどしました。

 日中国交正常化時の毛沢東(マオ・ザードン)の風格に代表されるように、「奥の院」にいる印象の強い国家主席に比べ、国務院総理は「表舞台」に出てくる存在であり、中国とはどういう国なのか、外国の国民から親しみやすいのか、外国企業に取って投資やビジネスがしやすい市場なのか、などを自らの言葉と行動で発信していく責務を担っているのです。

 だからこそ、国務院総理をめぐる人事が重要だと私は考えます。候補について、思うこと、想定する人選はあります。また回を改めて扱いたいと思います。

マーケットのヒント

  1. 習近平3期目入りは「焦点」ではなく「既定路線」として見るべき
  2. 「ポスト習近平」が内定するか否かでこれからの中国が分かる
  3. 「中国が投資しやすい市場か」を判断する上で、国務院総理の人事は重要