※この記事は2020年6月6日に掲載されたものです。
監修:楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之
高配当目当てに購入した株価が暴落、配当が少額すぎて得した感がしない、分配金が税金で相殺されてしまった…銘柄選びの前に知っておきたい、ありがちな失敗例と、その防止策をまとめました! 期待通りの高配当ライフを送るためのヒントがいっぱいです!
失敗1:高配当利回り7%超えの超高配当銘柄を購入したが、いつのまにか株価が下落!
[予防策]減配リスクに注意して業績が堅調かどうかを確かめて選ぶこと!
現在の株価で配当利回りを再計算してみたら、1株当たりの年間配当金額は変わらないのに、購入時の配当利回りの7%よりもずっと高くなっていた…。得しているのか、損しているのか、数字だけを見ているとよく分からなくなってしまうときがあります。この場合はズバリ、投資を見直すべき。配当利回りの計算式を思い出すと、その理由が分かります。
配当利回り(%)= 1株当たりの年間配当金額 ÷ 1株当たりの株価 × 100
1株当たりの年間配当金額が変わらないのに、配当利回りが高くなったということは、1株当たりの株価が下がったということ。株価が値下がりする原因はいろいろ考えられますが、最も株価の下落に影響を与えるのが企業の業績の悪化です。コロナ・ショックのような、想定外の出来事による世界規模の経営環境の悪化を事前に予想するのは難しいけれど、その企業の事業が順調に推移しているのか、低迷しているのかは、企業のウェブサイトにあるIR情報をチェックすれば、ある程度は分かります。
例えば「決算短信」(決算発表時に公表される決算速報)を見て、売上高や本業のもうけを表す営業利益が横ばいだったり、毎年減っていたりしている企業、つまり業績が低迷していたり、悪化が止まらない企業は、株価下落が続く可能性が高く、配当金額が変わらなければ、配当利回りは上昇します。とはいえ、業績の悪化が止まらなければ、いずれ企業から「配当予想の修正」が発表されて、「減配」(配当金額の引き下げ)もあり得ます。そうなると株価はますます下落……。
こうした失敗をしないためには、銘柄を選ぶ際、配当利回りの高さだけに注目せず、業績が堅調な企業、成長している企業を選びましょう。コロナ・ショックの影響により、日本を代表する大企業でも、業績の悪化を予想して株価の下落に見舞われています。その一方で、対コロナウイルス関連銘柄の中には、増益を予想し、配当予想を上方修正(引き上げて)している企業もあります。企業規模や知名度で選ばず、必ず業績の健全性を調べてから、買う、買わないを決めるようにしましょう!
失敗2:黒字でもうかっているはずなのに配当が増えない!
[予防策]配当性向で企業の姿勢をチェック!
もうかっていても配当が増えない、という理由はいくつかの理由があります。一つずつ解説していきましょう。
▼もうかっているのに無配当、その理由は?
新規公開(IPO。株式を上場)したばかりの企業の経営者の多くは、株主還元について聞かれると「利益は成長のための投資に使います」と答えます。成長途上にある企業は、事業を拡大する余地が大きいので、利益を設備投資に使って業績を向上させ、株価を上昇させたほうが、配当を出すよりも株主に報いることになるという考え方です。よって配当は、企業がある程度成長するまでお預け…となります。現在でも、利益が出ても株主への還元よりまずは企業の成長に注力する、という思想のもとに、大企業や好業績企業でも、無配の企業があることをまず知っておきましょう。
▼もうかっているのに配当は増えない、その理由は?
企業は通常、利益を、株主と社員と企業で分配します。昔からある「利益三分法」という考え方は、利益を3者で3分の1ずつ分けるということ。「利益三分法」では、株主は利益のおよそ30%を配当として手にすることになります。
このように企業が1年間でもうけた利益から、どれだけ配当金として株主に還元しているかを示す指標を「配当性向」(企業の純利益に占める配当金の割合)といいます。
計算式は、
配当性向(%) = 1株当たり配当額 ÷ 1株当たり当期純利益 × 100
となります。
大企業の配当性向は平均30~40%です。これは「利益を得たら30%を株主に配当として還元します」ということです。
配当性向が高い企業は、株主還元を重視している優良企業とも言えますが、実は事業に成長が期待できず、設備投資を控えているため、企業の取り分を減らしているのかもしれません。
利益が出ているのに配当はいつもほぼ同じで、なおかつ配当性向が下がっている企業は、成長が期待できる事業に利益を投資するつもりなのかもしれません。その場合、その投資がうまくいけば株価の上昇も期待できます。IR情報や経営者の談話などで、企業の今後の方針をチェックしてみましょう。
失敗3:予想配当利回りがよい銘柄を選んだが、実際の配当はそれより低かった!
[予防策]予想配当利回りは予測。あてにしすぎてはダメ
楽天証券の個別株スクリーニング機能「スーパースクリーナー」の検索条件にも「配当利回り(予)」(予想配当利回り)がありますが、これはあくまでも予測です。予想配当金は、企業が業績予想に基づいて発表します。そのため実際の業績が業績予想を大きく下回れば、予想配当金が引き下げられ、実際に受け取った配当金額が期待より少ない、ということもあります。
とある企業を例にとると、3月期中間決算(2019年11月発表)時点の配当は、中間配当72円(実績)、期末配当72円(予想)の合計144円でしたが、2020年5月18日に発表された2020年3月期決算では期末配当が28円に引き下げられ、年間配当は100円になりました。理由はコロナ・ショックによって、好調だった外国での事業活動が悪化したためです。
コロナ・ショックのような異常事態を別にして、平時に高配当銘柄を選ぶときは、
【1】業績が安定しているかどうか
【2】過去の配当金額をさかのぼって比較し、安定して同じような配当金を出しているかどうか
をチェックしましょう。淡々と同じような配当金を出し続けている企業は、将来も同額程度の配当金を受け取れる可能性が高いと考えられます。
しかし、だからといって、「1株配当額」が「1株利益」を上回る状態(たこ足配当と呼ばれる)が続いている企業は要注意です。利益を上回る金額を支払うためには、企業が蓄えた剰余金を取り崩さなければならず、財務体質が悪化したり、企業の成長力が弱まったりする恐れがあります。あるとき力尽きて突然無配転落、株価暴落という可能性もあります。瞬間風速的に、予想配当利回りをあてにしすぎず、企業の本当の体力や、成長力の継続性をしっかりチェックしましょう。
失敗4:配当利回りが高いという理由でよく知らない米国株を買ったら株価が暴落。でも、よく知っているamazonやグーグルは配当を出していない。米国株で高配当を狙うなら何を選べばいい?
[予防策]NYダウ銘柄の中から配当利回りの高い企業をチェックしよう!
モノ言う株主が多い米株は全体的に高配当となりがちです。だからといって、スクリーニングの検索条件を配当利回りが高い順にして、上から順番に買えばいい、というわけではありません。配当利回りが高い企業の中には、経営や業績に問題を抱えているため株価が低迷し、結果として配当利回りが高くなったというケースもあるからです。
しかし、誰でも知っているGAFA(Google、Apple、Facebook(現 Meta)、Amazon)や GAAFA(Alibabaを加える)やFANG(Appleに代えてNetflix)は、成長投資に資金を使う方針のため、無配当です。キャピタルゲイン狙いにはいいのですが、インカムゲインを狙う高配当銘柄投資には向きません。
では、米株の高配当銘柄投資はどのようにすればいいのでしょうか。長期的に高配当銘柄を保有したいというのなら、「ダウの犬投資法」がおすすめです。これは、NYダウ(ダウ工業株30種平均=業績が安定した優良企業の集まり)に採用されている銘柄を高配当順に並べ、上位10銘柄(投資資金により5~10銘柄でも大丈夫)に同じ金額ずつ投資する方法です。米株市場で犬と言えば負け犬のこと。高配当順にスクリーニングしたベスト10銘柄は、配当の割に株価が低い負け犬(でも指数に採用されているのだから優良企業)と解釈されています。
ダウの犬ベスト10銘柄を買って保有。配当を受け取りつつ1年が経過したら、もう一度スクリーニングして上位10銘柄のリストを作り、保有中のベスト10銘柄と突き合わせ、外れた銘柄は売却、その代わり新たに入った銘柄を買います。次の年も、次の次の年も同じように銘柄を入れ替えていくことで、低コストで安定した業績と配当が期待できる優良銘柄のポートフォリオが組めます。米国株での高配当銘柄選びの指針としてください。
失敗5:高配当を期待して5年以上保有しているが、配当が少なすぎてありがたみをあまり感じられない。売りたくなってきた
[予防策]複利投資&10年単位でのんびり構えよう
高配当銘柄とは一般に配当利回りが3~4%を超える銘柄のこと。定期預金などと比較すれば3%は高金利といえますが、それでも投資金額が少ないと、受け取れる配当金も「ありがたみ」を感じるほどではありません。例えば投資金額が100万円の場合、3%は3万円。5%でも5万円。ちょっとぜいたくをすると使い切ってしまいそう。
「ありがたみ」を感じたいのなら、資産形成を目的とした10年単位の長期投資と決めて、配当金を使わずに全て再投資して、複利効果を味方に付けましょう。資産形成目的なのだから、投資資金は配当金に限ることなく、新たな資金を加えて、なるべくたくさんの株を買うこと。ちなみに配当金の受け取りを「株式数比例配分方式」にしておくと、配当金が証券口座に入金されるので買い増しが楽にできます。
複利効果を味方に付ける前提として、最初に買う銘柄は、1年で株価が2倍、3倍になりそうな(その代わり業績が安定せず、配当にも波がある)成長銘柄ではなく、業界のリーダー的存在で、財務内容が良く、収益を着実にあげ、配当を出し続けている優良銘柄を選ぶこと。目先の株価の上下に惑わされずに機械的に買い増ししていくと、複利効果と買い増し効果によって、投資残高は急カーブを描いて増えていきます。1,000万円に到達すれば、配当利回り3%の配当金は30万円、5%なら50万円。もう「ありがたみ」を感じないなんて言えなくなります。
失敗6:配当回数が多いほうが得かと思って四半期配当銘柄を選んだけどそうでもなかった
[予防策]回数が変わっても金額は変わらない
配当の回数は1年に何回までならOKなのか。旧商法の時代は、配当の回数が年2回(期末配当と中間配当)までと決められていたのですが、2005年に制定された企業法により、配当の回数や時期の決まりがなくなりました。そのため、四半期ごとに年4回、株主に配当を行う「四半期配当」の企業もあります。
一見、年4回も配当をもらえるなんてお得! と思えますが、利益に対する配当の割合はほぼ同じで、年間の配当金を4回に分けて受け取るか、2回に分けて受け取るかの違いということになります。
そこで、注目したいのは、配当回数ではなく、毎年配当金が増えている「連続増配」の企業です。継続して利益を出せる財務力と戦略があるからこそ、増配が実現します。スーパースクリーナーで銘柄をチェックする際、過去にさかのぼって、配当が増えているかどうかもチェックしてみましょう。
失敗7:配当を受け取るたびに税金がかかり、ほとんど得した感がしない…
[予防策]NISAで運用ししっかり節税しよう
預金の利息と同じように、配当にも20%(国税15%、地方税5%)の税金※1がかかります。つまり10万円の配当金を受け取っても、税金を2万円差し引いて、手取りは8万円になります。納税は国民の義務とはいえ2万円は大きいし、複利効果を狙うにしても再投資額が10万円と8万円では、あとあと大きな違いになります。
しかし、譲渡益や配当が非課税になる「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)」を活用すれば、配当を非課税で受け取ることができます。
「一般NISA」の非課税投資枠は年間120万円が上限ですが、譲渡益や配当に上限額はありません。つまり、「一般NISA」口座で受け取った配当金は、それが10万円でも、100万円でも、1,000万円でも20%の税金がかかりません。
なお「一般NISA」は2024年から「新・NISA(仮称)」に制度が変わります。譲渡益や配当が非課税になるという特典は変わりませんが仕組みが少し変わるので、「2024年から新NISAがスタート。一般NISAとつみたての合体版」などの記事を参考にしてください。
※1 2037年12月31日までは復興特別所得税が課され20.315%。
失敗8:配当利回りが下がってきたから売ったけど、そのあと急回復。売らなきゃよかった…
[予防策]連続増配銘柄投資法で長期投資
失敗1でも説明したように、株価が上昇すると(配当金額が変わらなければ)配当利回りは下がります。投資家は株価が上昇すると売りたくなるもの。とりわけ株価は、配当を受け取る権利が得られる最終売買日の「権利付き最終日」に向かってじりじり上昇していく傾向があるので、長期投資のつもりで買ったのに、つい「権利付き最終日」前に売ってしまって配当をもらい損ねた! 売却益よりも配当金の方が多かった! なんていう落とし穴にはまった経験がある人もいるはず。
落とし穴を避けて通るためには、堅実に配当を出し続けている銘柄というだけではやや弱いといえます。そこで、失敗6で紹介した「連続増配銘柄」に注目しましょう。連続増配できるだけの体力と先見性を持っている企業ならば、インカムゲインもキャピタルゲインも狙えそうです。
このような連続増配銘柄なら、次回の配当金も期待できるので、目先の株価の上昇に一喜一憂せずにすみ、他の多くの投資家もチャンスがあれば買いたいと虎視眈々と狙っているため、下値が支えられているという安心感もあります。
このような超優良企業を探すには、PER(株価収益率)や、ROE(自己資本利益率)とか、EPS(1株当たり利益)とかの指標を見る必要があるのですが、投資初心者にはややハードルが高い指標です。そこで過去の配当実績を調べて、連続増配を続けている企業を見つけましょう。連続増配は体力があるからこそできること。きっとPERやROEもいいはず……そんな逆転の発想です。
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