嵐吹き荒れる金属相場。昨年末比2桁下落はざら

 金属相場が急落しています。貴金属に分類される金(ゴールド)、プラチナ、銀、産業用金属に分類される亜鉛、鉛、アルミニウム、銅、錫(スズ)の価格は、昨年末に比べると、大きく下落しています。2桁下落はざら(あたりまえ)です。

図:金属価格の騰落率(2021年末と2022年7月12日を比較)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 金属相場に暴落の嵐が吹き荒れていることがきっかけで、数十年単位のプロジェクトである「積立投資」との親和性を高めた銘柄があると、筆者は考えています。「プラチナ(白金)」です。

暴落によって大きくなったプラチナの2大利点

 足元の暴落により、プラチナ価格はこれまでよりも、さらに一層、2008年に発生したリーマンショック直後の安値水準(800ドル前後)に接近しました(下図 右の赤矢印と点線)。

図:プラチナと金(ゴールド)の価格推移(月間) 単位:ドル/トロイオンス

出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

 この安値水準は、同ショック後の10数年間、「長期視点の底値」として、プラチナ相場を下支えしてきました。

 プラチナの長期視点の底値は、1980年代から2000年代にも存在しましたが(350ドル前後)、リーマンショック後、現在の水準に切り上がりました。こうした長期視点の底値の変化は、パラダイムシフト(均衡点の劇的な変化)と呼ばれることがあります。

 同ショック直後の安値が長期視点の底値になっている例は、小麦、大豆、トウモロコシなどの穀物でもみられます。

 また、現在のプラチナ価格は、リーマンショックの直前につけた史上最高値(およそ2,000ドル)の半値以下です。長期視点の高値と現在の価格の差は、長期視点の今後の価格動向における上昇余地になり得ます。

 プラチナは暴落の嵐によって、「長期視点の底値にさらに近づき」、「長期視点の上昇余地をさらに拡大させた」、と言えるでしょう。今、プラチナにおける長期投資に重要な二つの要素が大きくなっていると、考えます。

環境配慮はプラチナの需要を維持する側面あり

 プラチナの需給を確認します。WPIC(World Platinum Investment Council)のデータによれば、以下の通り、需要の73%が産業用、27%が宝飾、供給の76%が鉱山生産、24%がリサイクルによる供給です。(2021年)

図:プラチナの需要と供給(2021年)

出所:World Platinum Investment Councilのデータをもとに筆者作成

 2021年の鉱山生産は620万トロイオンス(1トロイオンス=約31グラム)、リサイクルによる供給は195万トロイオンスでした。これまでおよそ10年間、これらの値は「ほぼ横ばい」で推移しています。

 需要の割合が大きい「自動車排ガス浄化装置」は、2021年、264万トロイオンスでした。新型コロナがパンデミック化し、世界景気が急速に冷え込んだ2020年から回復。2022年は、2020年に比べて27%増加、2013年から2021年までの平均を上回るなど、さらなる回復が見込まれています(WPICによる)。

 近年、「脱炭素」の潮流により、排ガス浄化装置を搭載したガソリン車やディーゼル車(内燃機関を持つ自動車)の販売シェアが低下し、次世代自動車の販売シェアが上昇しています。

 EV(電気自動車)とプラグインハイブリッド(PHV/PHEV)の世界全体の販売シェアについて、2017年は1%強でしたが、2021年は8%弱に達しました(EV salesおよび国際自動車工業連合会のデータより計算)。

「脱炭素」を推進して地球環境を守ろうとする動きや、それに乗じてビジネスを拡大しようとする動きが目立っているわけですが、その影響でプラチナの主要需要である「自動車排ガス浄化装置」の需要が減少する可能性がある、との指摘があります。

図:世界の自動車生産台数と1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属消費量(筆者推計)

出所:ジョンソンマッセイ、国際自動車工業連合会などのデータをもとに筆者作成

 とはいえ、先述のように、同需要はコロナショック後、回復傾向にあり、2022年はこの約10年間の平均を上回る見通しです。上図に記した、自動車1台あたりに使われる排ガス浄化装置向け貴金属の量が増加していることが大きいと、筆者は考えています。

 世界全体の「排ガス規制」が年々厳しくなっています。この動きに対応すべく、自動車部品各社は、排ガス浄化装置に使う貴金属の量を増やし、同装置の性能を向上させていると、考えられます。

 内燃機関(エンジン)をもつ自動車の生産・販売台数が減少しても、排ガス浄化装置向けに使われる貴金属の量が減らないのはこのためだと、考えられます。

 環境配慮の動きは、プラチナにとって需要を減少させる要因であるものの(内燃機関の自動車生産台数が減少)、同時に、需要を維持する要因でもある(排ガス規制強化が1台あたりの貴金属需要を増やす)、と言えます。

 ただ、「環境配慮→エンジン否定→プラチナ需要減少」というイメージの方が、「世界的な排ガス規制強化→関連する貴金属需要維持」よりも、わかりやすいため、環境配慮の動向は、プラチナ価格の「上値を限定的にする」「急騰を抑制する」要因になりやすいと考えます。

不可逆的機運「脱炭素」起因の長期需要増加観測

 環境配慮の動きは「脱炭素」が旗印となり、世界を席巻しています。足元では、先述のとおり、プラチナの需要を減少したり維持したりする要因とみられますが、超長期的視点で見た場合、「脱炭素」は需要を増加させる要因になると、考えられます。

 環境配慮先進国である欧州主要国、そして日本などは、乗り物や発電所のタービンを動かしたり、熱を発生させたりするために使用するエネルギーを、CO2(二酸化炭素)を排出する化石燃料から「水素」に切り替え、「水素社会」を目指す方針を示しています。

 プラチナは、水の電気分解の仕組みを利用した「水素の精製装置」や、「FCV(燃料電池車)の発電装置」に利用されるケースがあります。水素の精製装置で用いる電気が再生可能エネルギー由来だった場合、そこで発生した水素は「グリーン水素」と呼ばれます。

 水素は無色透明ですが、どのような過程を経て精製されたかを示すため、便宜的に名前に色が冠されます。グリーンは精製過程でCO2を排出しなかった水素、ブルーは排出したがそのCO2を回収した水素、グレーは排出し、そのCO2を大気中に放出した水素です。

 プラチナが装置の電極部分に用いられて精製される水素は、「グリーン水素」という、最も環境にやさしい水素です。また、FCVは走行時にCO2を排出しない(水を排出する)次世代自動車として、EVなどと同じように注目されています。

図:プラチナの「新しい常識」

出所:筆者作成

 ウクライナ危機が発生し、石炭、原油、天然ガスといった化石燃料の調達環境が複雑になったことで、同燃料の需給がひっ迫している地域があります。このため、「脱炭素」が後戻りしてしまうのではないかと、心配をする声が上がっています。

 しかし、超長期的にみれば、世界的な「脱炭素」の流れは前に進み続けると、筆者は考えています。温暖化が進み、地球が住みにくい場所になることを望む人は、少ないはずだからです(戦争を仕掛けた人であっても、その地球に住んでいる)。

 プラチナの需要は「脱炭素」の前進とともに、超長期視点で、増加していく可能性があります。これに伴い、プラチナ価格は、超長期視点で上昇する可能性があると、筆者は考えています。

 銀の「太陽光発電向け需要(photovoltaics)」がそうであったように(2010年ごろまで、統計内で、存在すらなかったものの、近年、需要が増加して主要な項目の一つに追加された)、プラチナの統計でも、脱炭素関連需要の項目が追加される日が来るでしょう。

「当面安い」「長期で高い」プラチナは積み立て向き

 以前の「なぜ金(ゴールド)とプラチナは、積立てになじむのか?」で述べたとおり、積立投資の効率化には、「保有数量が増えること」、「取引期間の終盤に価格が上昇すること」が欠かせません。

 この二つを言い換えれば、「積み立て開始後当面、価格が上昇しないこと」「数十年後に、目立った価格上昇が起きること」となります。

 積立投資は、毎月の投資額が一定であるため、「価格が低位で安定」する期間が長ければ長いほど、保有数量が増えやすくなります。そして、数十年間の低位安定によって効率的に増えた保有数量を、「終盤の価格上昇」で効率的に収益化するのです。

 上記の積立投資を効率化させるポイントから考えられる、積立投資になじむ銘柄は、ざっくり言えば、「今も当面も安く、超長期的に価格上昇が起きそう」な銘柄です。

 具体的に言えば、今も当面も「脱炭素」起因で、排ガス浄化装置向け需要が減退するイメージが先行して上値が抑えられやすく、かつ超長期的に見れば「脱炭素」起因で、新しい需要が台頭して価格上昇が見込める「プラチナ」です。

 つまり、プラチナは積立投資を効率化させる二つのポイントを、満たす可能性があるわけです。今後もプラチナの積立投資の優位性を、筆者なりの言葉で、解説していきたいと思います。

[参考]積立投資ができる貴金属関連銘柄(一例)

純金積立・スポット取引

金(プラチナ、銀)

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド

海外ETF

SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ・ゴールド・トラスト(IAU)

米国株

バリック・ゴールド(GOLD)
アングロゴールド・アシャンティ(AU)
アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)