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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
【日本株】優待人気 イオン「買い」3-5月最高益

第1四半期最高益のイオン、株価急騰

 イオン(8267)が6日発表した、3-5月期(2023年2月期の第1四半期)決算は、売上高・営業利益・経常利益・純利益とも3-5月期として過去最高でした。国内・国外(中国・ベトナム)とも、コロナ禍からの利益回復が進みました。国内では、堅調な食品売上に衣料品の回復が重なり、GMS(総合スーパー)事業が黒字転換しました。

 世界的なインフレは逆風でした。仕入価格の上昇に対して、日本国内では十分な価格転嫁ができていないからです。ただし、イオンは粗利益率の高いプライベートブランド品(トップバリュ)の売上構成比を拡大することで、粗利益率の悪化を防ぎました。

イオン株週足チャート:2020年10月2日~2022年7月8日

出所:楽天証券マーケットスピードより作成

 コロナ禍からの本格的な回復が始まったという期待が高まり、イオン株は7日に急騰、13週移動平均線(赤い線)・26週移動平均線(水色の線)を抜けました。8日終値は、2,624.5円でした。

 ここで、イオンの近年の株価の動きを振り返ります。イオンは2020年に大きく上昇しましたが、2021年以降、大きく下がりました。2022年7月6日に発表した3-5月期決算が好感され、ちょうど株価が急騰したところです。

 2020年に株価が急騰したのは、2020年9-11月期の営業利益が最高益となり、コロナ禍からの本格的な回復が始まったと思われたからです。ただし、その判断は今振り返ると早計でした。

 2021年に入り、コロナ感染が再び急拡大すると、再び行動制限が広がり、イオンの業績も低下しました。2021年のイオン株は、オミクロンの感染拡大による業績低迷を嫌気して大きく下落しました。

 足元、再び回復期待が高まっています。2022年3-5月期の最高益を好感して、株価も急反発しています。コロナ変異株の感染拡大で不安はありますが、重症化リスクが少しずつ低下してきたことを考えると、遅かれ早かれ消費の本格回復はいつか来るでしょう。いつか来るイオン業績の本格回復を期待して、株価が下がってきた今、イオン株は買っていって良いと判断します。

 私は、イオンは総合小売業の勝ち組で、コロナが収束した後、国内外で最高益を更新していく企業と見ています。短期的な利益回復期待だけでなく、長期的な最高益更新を見据えて、長期投資していくのに、良い買い場を迎えていると判断しています。

 上記の株価変動要因が一目でわかるのが、以下イオンの四半期別の営業利益推移です。

2020年9-11月に盛り上がった回復機運が2021年に冷え込む

 過去2年、日本の消費は、コロナに振り回されてきました。コロナ禍で落ち込み(2020年前半)→感染縮小で回復の期待高まる(2020年後半)→感染再拡大で落ち込み(2021年)→回復期待高まる(2022年)と推移してきました。それが、イオンの株価と四半期業績に表れています。

イオンの四半期別営業利益:2021年2月期第1四半期~2023年2月期第1四半期

出所:同社決算資料より作成

【1】2020年9-11月期に営業最高益

 2020年は、3-5月(2021年2月期の第1四半期)に▲125億円の営業赤字に陥(おちい)りました。コロナ禍による営業停止が影響しました。ところが、この年の9-11月(同第3四半期)には営業利益が急回復し、9-11月期として過去最高の342億円をあげました。営業再開で利益が急激に戻りました。

 この時、GoToEat、GoToトラベル・キャンペーンが実施され、イベントの制限も緩和され、全国的に人の移動が活発化しました。いよいよコロナ後の回復が始まったと期待が盛り上がった時です。映画「鬼滅の刃」が大ヒットし、イオンの「専門店」部門の利益を押し上げました。

【2】2021年は内外でコロナ禍が再び猛威をふるい業績回復遅れる

 2021年は3-5月(2021年2月期第1四半期)に営業利益が過去最高の391億円となり、いよいよ本格的な回復が始まると期待されました。ところが、その後の展開が、期待どおりになりませんでした。日本およびアジアでコロナ禍が再び猛威をふるいました。国内外の営業規制・外出自粛の影響で営業利益の回復が遅れました。

 2021年9-11月の営業利益は前年同期比で▲67%の115億円まで落ち込みました。9月まで国内では4度目の緊急事態宣言が発令されていたこと、アジアでもコロナによるロックダウン(都市封鎖)が行われていた影響が出ました。回復機運が盛り上がった2020年9-11月と明暗が分かれ、失望が広がりました。

 ただし、2021年9-11月期を月別で見ると、緊急事態宣言が続いた9月がもっとも悪く、その後業績は戻りつつありました。これから回復が始まると期待が高まったところで、年明けからオミクロン感染が急拡大しました。まん延防止等重点措置(まん防)の影響でまた回復が鈍化しました。

【3】2022年度は営業最高益を回復する可能性も

 まん防が2022年3月22日に全面解除されたことを受けて、消費回復の期待が高まっています。実際に3-5月の営業利益は最高益でした。会社が公表している今期(2023年2月期)業績予想では、営業利益が2,100億~2,200億円と、2020年2月期に計上した営業最高益(2,155億円)の更新を視野に入れています。

 イオンは今期業績予想の前提として、経済再開を受けた感染再拡大が2022年9-12月に起こり、一部地域でまん防が再度適用される可能性も考慮しています。もう、まん防適用はないとすると、営業利益は上ぶれして最高益となるでしょう。

 ただ、感染は再び拡大しており、予断を許しません。重症化リスクが低いことからウィズコロナの経済再開が進むと私は予想していますが、感染拡大が再び内需回復に足かせとなるとの見方もあります。

 大切なことは、短期的な回復時期の予測ではありません。いつになるかわかりませんが、遅かれ早かれ人類はいつかコロナを克服すると考えています。そして、コロナが回復し、リベンジ消費が盛り上がる時には、業績・株価とも上昇すると予想しています。

総合小売業の勝ち組としてコロナ後の成長が見えてきたと判断する理由

 7~8年前まで、イオンは「優待は人気でも業績はイマイチ」というイメージを持たれていました。大手スーパーや百貨店などの総合小売業は、長らくユニクロ、ニトリ、無印良品などの専門店や、セブン-イレブン、ローソンなどのコンビニに売り上げを奪われて、衰退していくと考えられていました。

 百貨店の衰退は今でも続いていますが、大手スーパーは変わりました。特にイオンは、はっきりビジネスモデルを変えて、小売業の勝ち組に返り咲いたと考えています。過去5期の業績推移と、今期の業績(会社予想)をご覧ください。コロナ前は以下の通り、営業最高益が続いていました。

イオンの連結売上高・営業利益・純利益の推移:2018年2月期~2023年2月期(会社予想)

出所:同社決算資料より作成

 イオンは、構造改革の成果で、2018年2月期に連結営業利益で最高益をあげると、2020年2月まで3期連続で営業最高益を更新しました。その間、人手不足・人件費上昇・天候不順・消費増税(2019年10月)と悪材料が続きましたが、イオンは金融・不動産・ドラッグストア・海外の利益を伸ばすことで、営業最高益を続けました。

 ただし、グループ各社の再編にコスト(特別損失)が出るので、連結純利益は低水準で、まだ最高益に届いていません。

 ところが、前々期(2021年2月期)は、コロナ禍で一時営業停止があった影響で、最終損益は710億円の赤字に転落しました。前期(2022年2月期)は回復が鈍いことを嫌気して株価が下がりました。

 それでも、今期経済再開が進めば、再び営業最高益を更新すると予想しています。

イオンは魅力的な空間をつくって「小売+金融+不動産」で稼ぐビジネスモデルを確立

 ここからは、イオンが勝ち組小売業に返り咲くのに寄与した構造改革について解説します。まだ構造改革が完了したわけではありませんが、すでに大きな効果が出ています。それが近年、営業利益で最高益を更新する原動力となりました。

 不採算店舗の整理など構造改革を終えるのにまだ時間がかかるので、連結純利益が最高益に達するのは3~4年先と考えられますが、営業利益では来期以降、最高益の更新が続くと予想しています。

 総合小売業である百貨店や大手スーパーが衰退し、ユニクロ・ニトリなどの専門店(カテゴリー・キラー:特定分野の勝者)が成長する時代がずっと続くイメージがありましたが、イオンだけは、総合小売業として生き残るビジネスモデルを確立して、復活しました。

 イオンの復活の背景に何があるのでしょうか? それは、イオンのセグメント情報を見るとよく分かります。前期(2022年2月期)の営業利益1,743億円をセグメント別に分けたのが以下の表です。

イオンの2022年2月期事業セグメント別営業利益

出所:同社決算資料より作成

 イオンの連結営業利益に大きく貢献しているのは、GMS(総合スーパー)やSM(その他スーパー)などの小売業ではありません。

 ヘルス&ウエルネス(ドラッグストア「ウエルシア」など)、総合金融(クレジットカードや銀行業など)、ディベロッパー(イオンが運営するショッピングセンターに入居している専門店から入るテナント収入など)の3部門で、全体の営業利益の81%を稼ぎ出しています。総合小売業なのに、総合小売業以外の部門で高い利益をあげています。

 昔のイオンは、有力な専門店と競合する存在でした。ところが、今のイオンは、有力専門店と競合するのではなく、その競争力を取り込む戦略に転じています。最先端のGMSでは、人気の専門店を積極的に取り込み、親子連れで楽しめるようにエンターテインメントの要素も取り入れ、ショッピングセンター全体の魅力を高める戦略を取っています。

 昨年12月、イオンは、有力な100円ショップテナントであったキャンドゥにTOB(株式公開買い付け)をかけて、子会社化しました。キャンドゥのプライベートブランド品開発能力も活用し、さらに競争力を強化していくと考えられます。

 自前の売り場は、競争力のある生鮮食品や、競争力のあるプライベートブランド(トップバリュ)などに限定し、イオンは、専門店と競合せず共存して成長を目指す戦略となっています。

 外部テナントを取り込むと、そこからは賃貸収入が入ります。今やショッピングセンターは小売業(自前の売り場)と、ディベロッパー業(テナント管理)・金融業(クレジットカードなど)のミックスとなっています。魅力的なGMSを全国に展開することで、ディベロッパー業と金融業で高い利益をあげ、成長が見込まれるようになってきています。

 自前の売り場にこだわらず、魅力的な空間をつくることで稼ぐ発想は、小売業というよりはサービス業です。イオンはサービス業の発想で、総合スーパー事業を衰退ビジネスから再び成長するビジネスに変えたと思います。

 今、イオンの成長を担っているのは、金融・ディベロッパー業に加え、ヘルス&ウエルネス事業(ドラッグストア)もあります。上場子会社のウエルシアHDの成長が取り込まれています。ここは総合スーパーとは異なるビジネスです。

 ドラッグストアという成長分野をとらえて、専門店として成長しています。調剤部門を強化していることが、ウエルシアの成長につながっています。

国内だけでは成長は頭打ちに、海外事業の利益拡大に期待

 国内で高い競争力を有する小売業に返り咲いたイオンですが、国内だけでビジネスをやっていたら、いずれ頭打ちになります。人口が成長するアジアで、利益を拡大していかなければ、中長期の成長は見込めません。

 イオンは、ASEAN(東南アジア)、中国に進出し、アジアで収益を拡大しています。初期コストの回収も終え、海外事業が黒字化しつつあります。コロナの影響で足元、収益が悪化しましたが、コロナが収束すれば再び海外利益を成長させていくことができると考えています。それが、以下の所在地別営業利益でわかります。

イオンの2022年2月期所在地別営業利益

出所:同社決算説明資料より作成

 アセアン・中国その他を加えた海外事業の営業利益382億円で、全体の約22%を占めます。将来的にはこの比率がさらに高まっていくと予想しています。

 海外でも、小売業ではあまり稼げていません。それが、事業別のセグメント情報でわかります。事業別セグメントの「国際」部門の営業利益は55億円(構成比3%)しかありません。これが海外小売業の利益です。それに、海外の金融・ディベロッパー事業の利益を加えたものが、上記の所在地別セグメント情報に示された、海外事業全体の営業利益です。

コンビニとの戦いは続く

 総合スーパーにはまだ天敵がいます。セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートなどのコンビニです。コンビニの販売のおおむね8割以上は食料品と飲料です。ここは大手スーパーが自前で収益を稼げる部門として、最後まで残してきたところです。

 過去10年で、コンビニは大手スーパーの顧客にどんどん食い込んできました。10年以上前、コンビニの顧客の中心は若年層で、品ぞろえも若年層が外で食べる手軽な食べ物が中心でした。この時は、大手スーパーと直接競合することはありませんでした。

 ところが、コンビニはその後、顧客ターゲットを変えていきました。家庭食をターゲットとして、40~50代の女性顧客を増やすことに成功してきました。家庭食がターゲットとなったことで、コンビニは大手スーパーと直接競合するようになりました。コンビニは次々と魅力的な総菜や食材を開発し、大手スーパーの客を奪っていきました。

 これに対し、イオンはコンビニと対抗するビジネスモデルを徐々に作りつつあります。小型スーパーやドラッグ・ファーマシーです。セブン-イレブンを凌駕(りょうが)するビジネスになったとは言えませんが、コンビニより面積が広く品ぞろえが異なるドラッグストアや、小型の食品スーパーの一部は、コンビニと戦える存在になりつつあります。

イオンは2月・8月の優待人気トップ

 イオンは「株主優待」人気銘柄として有名です。楽天証券「株主優待検索」で長年、2月・8月の優待銘柄で人気トップ【注】の座を維持しています。優待内容は、以下からご覧いただけます。
「イオンの株主優待内容:買物返金カード等」

【注】2月・8月優待で人気トップ
2月・8月に株主優待を得る権利が確定する銘柄は166あります。楽天証券のお客さまで保有している株主の数が多いほど「人気が高い」と判断し、保有株主数の上位銘柄をランキングしています。2月・8月優待とも、人気トップはイオン、第2位はビックカメラ(3048)、第3位は吉野家HD(9861)です(7月10日時点)。

 最近、「株主平等の原則」を意識して、優待を廃止する企業が増えていますが、イオンの優待は廃止されるリスクが低いと私は考えています。

 先日、株主優待で人気のオリックス(8591)が、2年後に優待を廃止すると発表して驚かれました。2024年3月期まで株主優待を続けるが、それを最後として優待を廃止するとしています。オリックスのように自社製品やサービスと無関係の優待品を出しているケースでは、今後、優待廃止が増える可能性もあります。

 イオンの優待は、自社店舗の利用拡大を促進する内容なので、株主平等の原則で問題となることはなく、今後とも長年にわたり、優待制度が維持・活用されていくと考えられます。

イオングループ各社の投資魅力は、いずれも高いと判断

 イオンは、中核事業を担う子会社を多数上場させています。典型的な、親子上場企業です。イオンの成長を担う上場子会社は、いずれも、投資価値が高いと判断しています。

【1】イオンフィナンシャルサービス(8570)

 イオングループの金融事業を担います。前期(2022年2月期)の経常利益は599億円、今期(2023年2月期)の経常利益(会社予想)は550億円と、最高益だった3期前(2019年3月期・この時は3月期決算企業)の経常利益701億円から大きく減少したままです。

 ただし、アジアでの貸倒れは減少しており、コロナが完全に収束すれば、再び最高益を更新していくと予想しています。

【2】イオンモール(8905)

 イオングループのディベロッパー(不動産)事業を担います。前期(2022年2月期)の経常利益は325億円、今期(2023年2月期)の経常利益(会社予想)は455億円と、コロナ前の2020年2月期にあげた最高益561億円に届きません。ただし、コロナが完全に収束すれば、再び最高益を更新していくと予想しています。

【3】ウエルシアHD(3141)

 イオングループのドラッグ・ファーマシー事業を担います。前期(2022年2月期)の経常利益は前期比3.9%増の475億円と24期連続で最高益を更新しました。今期(2023年2月期)の経常利益(会社予想)は前期比8.4%増の516億円と25期連続の最高益を見込みます。

 調剤部門の売上成長が続いています。2018年2月期1,148億円→2019年2月期1,298億円→2020年2月期1,554億円→2021年2月期1,741億円→2022年2月期1,992億円と成長をけん引しています。調剤薬局はかつて門前薬局(大病院のすぐ近くにある調剤薬局)優位が続きましたが、その傾向が変わってきています。

 ウエルシアは、門前でなくても調剤部門の収益が伸びるようになりました。患者が病院の近くではなく、自宅の近くの調剤薬局を利用するようになったためです。

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