6月1日午前0時。2カ月以上続いた上海市のロックダウン(都市封鎖)がついに解除されました。一部地域は依然として封鎖状態、地下鉄やバスなど公共の交通手段を利用する際には72時間以内の陰性証明が必須、スーパーマーケットなどに入れる客は上限の75%、飲食店内での食事は引き続き禁止など、制限が完全に解消されたわけではありませんが、それでも解除は解除です。我慢に我慢を重ねた市民は歓喜と興奮に包まれ、景気回復も期待されます。上海はどこへ向かい、中国経済に希望は見いだせるのか。不安要素はないのか。

上海「ザ・ロックダウン」に続く「ザ・ロックダウン解除」

 正直、予想以上、というより、サプライズでした。

 何がサプライズだったかというと、2カ月以上ロックダウン下にあった上海市が、6月1日0時を境に、本当にロックダウン解除に踏み切ったからです。私はこれまで、自らが研究の対象としてきた中国のロックダウンは、あらゆる抜け道や隙間のある「なんちゃって都市封鎖」ではなく、「ザ・ロックダウン」だという見方をしてきました。「緊急事態宣言」下にあっても満員電車の光景などに何ら変化も見られない日本が「なんちゃって」系の典型です。

 そして、今回ロックダウンに踏み切るとはいえ、中国政府のコロナ対策の根底にあるのは依然として「ゼロコロナ」、すなわち感染者をゼロにすることですから、ロックダウン解除は「なんちゃって解除」になる。すなわち「事実上の解除」ではなく、「形式上の解除」、市民があらゆる負担や制限を強いられる基本的局面に変化はないのでは、という見方をしていたのが正直なところです。

 2週間前に配信したレポート「上海、ロックダウン解除方針。中国経済の起爆剤となるか」では、上海市政府は5月17日に、同日から6月中下旬にかけて、3段階に分けて段階的にロックダウンを解除していく方針を検証しました。その第3段階がまさに6月1日から始まることになっていて、中旬から下旬に向けて、「感染拡大のリバウンドを厳格に防ぎ、リスクを制御する前提で、全面的に常態化管理を実施、市全体の正常な生産、生活秩序を回復する」と発表されました。

 私は現地にいないので、本当のところは分かりませんが、報道や発表、現地の知人たちからの情報を眺める限り、一部地域を除いて、市民は自由に外に出られるようになり、バスや地下鉄など公共の交通機関も再開され、職場や生活の拠点も再開していくようです。段階的とはいえ、「ザ・ロックダウン解除」なんだなという感覚を現時点では抱いています。

 上海市民の間ではすでに、ロックダウン解除という意味で節目となった「6・1」を記念日のように扱う声すら広がっているようです。参考までに、5月31日の上海における新型コロナの新規感染者は15人(うち無症状者10人)で、北京と同様(15人、うち無症状者1人)となっています。北京でも一部地域で厳格な外出、移動規制が敷かれていますが、スーパーマーケットなどを含め徐々に解除されていく見込みのようです。

上海市高校教師が語るロックダウン解除の「クレイジー」さ

 6月1日未明、ロックダウン解除直後に、上海市の自宅付近で、住民や住民を管理する立場にある「住民管理委員会」の模様を現場で観察していた同市高校教師と話をしました。

 この教師は中国では珍しいほどにリベラルで、上海市政府のロックダウンを含め、中国共産党の政策に批判的な立場をとってきました。今回のロックダウン解除にも懐疑的で「どうせあらゆる手法を使って市民の行動を制限するに違いない」と漏らしていました。

 そんな知人が、会話がスタートするなり、珍しく興奮気味に伝えてきたのが次のメッセージです。

「解除は神速!クレイジー!マンション付近に設置されていたガードレールも即座に撤去された。いかなる余地も残さない、傍観する時間もなかった。本当にサプライズだ!」

 1日午前0時にロックダウンが解除されると、花火をあげたり、爆竹を鳴らしたりする市民も多数いたそうで、「まるで春節前の大みそかのようだった」(同教師)そうです。

 上海に住む人々は、2カ月以上住居(付近)に閉じ込められ、大変な苦労をしてきたのは想像に難くなく、そんな中で水を差すようで恐縮でしたが、どうしても聞きたかったので、次の質問を投げかけました。

「いまは2カ月以上のロックダウンから解放された歓喜と興奮に浸っていると察するが、そこまでクレイジーに解除されて、リバウンドの懸念はないのか」

 知人は答えます。

「解除は果敢で、徹底している。リバウンドが来たとしてももうロックダウンはしないという、政府と市民の決意を誓っているように感じられる。市民の行動を直接規制、管理してきた住民管理委員会の関係者も、心の底から住民を解放してあげたいという思いに駆られ、爆発力を行使してガードレールを撤去した。もう二度と不条理で非人道的な命令など出したくないと思っているのだと察する」

 中国情勢を観察する立場からは、リバウンドやロックダウン第二波、それに伴う景気のボラティリティを懸念しつつも、知人の言葉や描写に、同じ人間として、妙に納得する自分がいたのもまた事実です。

上海市政府と中央政府が経済立て直しのための政策措置を立て続けに発表

 上海市のロックダウン解除を受けて、最大の関心は、中国経済を巡る景気がどこまで上向いていくかでしょう。

 中国国家統計局が5月31日に発表した5月のPMI(製造業購買担当者景況指数)は49.6と、前月から2.2ポイント上昇。内訳をみると、供給の強さを示す生産は前月から5.3ポイント上昇の49.7、需要の強さを示す新規受注が前月5.6ポイント上昇の48.2となりました。5月を通じて上海市がロックダウン状態にあった経緯なども影響し、3カ月連続で景気の好不調を判断する節目の50を割り込みましたが、景気悪化のペースは鈍化し、6月以降はさらなる上昇も期待できるでしょう。

 5月29日、上海市政府は経済を立て直すために、8分野、50項目にわたる政策措置を打ち出しました(6月1日から実施)。そこには、企業への一部税還付、ロックダウンの影響を直接的に受けた飲食、観光、小売、民間航空関連企業を対象とした保険料支払い猶予、不動産プロジェクトの承認手続き加速や新たな宅地供給、車のナンバープレート割り当てを4万台分増やすことのほか、電気自動車購入者への補助金支給などが含まれます。6月から全ての製造業者が生産を再開することも認めています。

 5月23日には、国務院(中央政府)も経済立て直しのための6分野(財政、金融、消費と投資の促進、食料とエネルギー安全、サプライチェーン、国民生活)、33項目にまたがる一連の政策措置を発表しました。

 そこには、企業向けの減税の加速化、交通インフラ投資の強化、3兆4,500億元に及ぶ地方特別債発行と使用進度の加速化、金融機関による中小企業、インフラ建設、大型プロジェクトへの投融資強化、自動車、家電などの消費拡大、プラットフォーム経済の規範的、健康的発展の促進、民間投資の拡大、石炭の貯蓄能力と水準の向上、物流ハブ・企業への支持強化、重大プロジェクトにおける外資誘致の強化などが含まれています。

 ロックダウンからの立て直しを狙う上海市政府、中国経済全体の立て直しを担う中央政府による立て続けの景気刺激策をみる限り、党指導部は、年初以降続き、3月、4月で顕在化した景気の低迷を本気で懸念しており、「打てる政策は全部打つ」という姿勢と気概でいるのだと分析できます。

 5月23日、李克強(リー・カーチャン)首相が全国2,800以上の地域から計10万人の幹部を招集し、経済立て直しのためのテレビ会議を開催し、各地の経済官僚を鼓舞するように次のように主張しました。

「現在、我々は通年の経済情勢を決定づける肝心な節目に身を置いている。何としても時間を味方につけないといけない。経済を正常な軌道に戻すべく尽力しなければならない」

 2022年全体の中国経済を占う上で、まさに今が鍵を握るということです。私自身は、実業家や投資家など市場関係者の中国経済の掌握と自信を取り戻すためにも、上海ロックダウン解除後、すなわち、6月、および4-6月期の指標が非常に大事になってくると見ています。

マーケットのヒント

  1. 上海のロックダウン解除は本物。もう後戻りはできないという気概で、上海市の政府も市民も現状と向き合っている。
  2. 上海市政府は経済立て直しのための大胆な政策措置を取り、中央政府もそれを支持している。「ロックダウン第二波」が来なければ、景気は堅実に回復していく見込み。
  3. 李克強首相率いる中央政府は、2022年の中国経済の中で「今こそが肝心」という認識。6月、および4-6月期の経済指標が極めて重要であり、要注目。