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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
ウクライナ停戦はいつ?日経平均は停戦で上昇する? 」 

今日は、ウクライナ情勢が世界の株式市場に及ぼす影響について改めて私の考えを述べます。停戦が実現すれば世界経済・株式にプラスと考えられますが、停戦はすぐには見通せない状況です。

ウクライナ停戦期待遠のき、世界経済にダメージの懸念広がる

 停戦が見通せないことが、世界経済・株式にとって重大なマイナス材料となっています。欧米および日本など世界各国がロシアへの経済制裁を強めることでロシアはダメージを受けていますが、同時に、制裁する日米欧の景気・企業業績にも大きなマイナス影響が及びつつあります。ウクライナの戦争が長引くほど、世界経済へのマイナス影響は大きくなる懸念があります。

 2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始した直後、一時早めの停戦もあり得るとの期待がありました。「ロシアに対する経済制裁が功を奏してロシアが早期停戦を求めざるを得なくなる」という今になって思えば楽観的見通しでした。現実には、ロシアへの経済制裁は思ったほどの効果が出ていません。それには3つの理由があると考えられます。

【1】ロシアの主要輸出品の市況高騰

 主要輸出品である原油・天然ガス・穀物の市況高騰が、ロシア経済に追い風

【2】経済制裁に抜け道

 中国やインドなど制裁に参加しない国がロシアをサポート

【3】ロシアへのエネルギー依存度の高い欧州などが完全な禁輸に踏み切れていない

 EU(欧州連合)は5月30日、ロシア産原油の一部禁輸でやっと合意したが、完全な禁輸には遠い

ロシアの通貨や株価は反発

 ロシアへの経済制裁が十分な効果を発揮できていない証左として、ロシアの通貨や株価が反発していることが挙げられます。

 ロシア通貨ルーブルは、ロシアの一部銀行を国際銀行間決済から締め出した後、一時急落しました。ところが、その後急反発して、ウクライナ侵攻前よりも高い水準に達しています(対ドル)。

ロシア・ルーブルの対ドル為替レート推移:2022年1月3日~5月31日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 ウクライナ侵攻後に急落した、ロシア株も足元、反発しています。

RTS指数(ロシア株)の推移:2022年1月3日~5月31日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

ウクライナ終戦はいつ?楽天DIの集計結果

 「ウクライナで終戦が実現するとしたら、いつになると思いますか?」という質問を、3月の楽天DI(アンケート調査:回答期間3月28~30日)で皆さまにお聞きしました。3,400名超の方から回答をいただきました。集計結果は以下の通りです。

ウクライナでの終戦時期

出所:楽天DI2022年3月

 3月の楽天DIではさらに、以下の質問をしています。
「ウクライナで終戦が実現するとしたら、日米欧とロシアの経済関係はどうなるか?」
「ウクライナで終戦が実現した後、日経平均はどうなるか?」。
いただいた回答は以下の通りです。

ウクライナ終戦後の日米欧とロシアの経済関係

出所:楽天DI2022年3月

終戦後の日経平均

出所:楽天DI2022年3月

 3月時点のアンケート結果ですが、ウクライナでの戦争が長期化する懸念を持たれている方が多いことがわかりました。また、仮に終戦が実現しても、多くの問題が残ると考える方が多いこともわかりました。「終戦条件がウクライナに有利でロシアへの経済制裁は解除される」という世界経済にとってもっとも良い展開を予想する方は16.3%しかいませんでした。「終戦条件がロシアに有利で制裁は継続」という悲観的な回答が41.8%、どちらとも言えないという回答が41.9%でした。

停戦があっても問題解決に遠い可能性も

 ウクライナでこれから何が起こるか、予想することは困難です。ただし、株の先行きを予想する上で、一定の前提を置くことは必要です。

 私は一時的な停戦は年内に実現する可能性があると想定しています。ただし、それは領土問題を棚上げした一時的な停戦で、恒久的な終戦にはならないと思います。

 領土問題は恐らくこれから数十年を経ても解決できないでしょう。ウクライナが欧米の武器供与を受けて攻勢に転じるとしても、親ロ派勢力(ロシア系住民)が多数を占める地域まで奪還するのは困難かもしれません。領土問題を残したままの休戦が、数十年にわたり続く可能性もあります。そうなると、ロシアに対する経済制裁も完全に解除されることはなく、世界経済へのマイナス影響が残ることになるでしょう。

 それでも、停戦が実現すれば、世界の株式市場はいったん好感すると思います。領土など複雑な問題を残し、ロシア経済の世界からの分断が続く中で、世界経済は成長を続けると思います。これからもこれまでも、世界経済は不当な戦争や搾取を残したまま成長し、株式市場はそれを織り込みながら動くと思います。

 「治(ち)きわまれば乱に入り、乱きわまれば治に入る」。これは、三国志演義に出てくる有名な一節です。「平和が続くと戦争が起こりやすくなり、戦争が続いた後は平和な時代が来る」という意味です。残念ながら当面、世界では戦争が起こりやすい状況が続く可能性もあります。

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