中国景気減速リスクに注意
中国の対外強硬姿勢が、東アジアの地政学リスクを高める要因となっています。台湾海峡問題、南シナ海での実効支配拡大が、株式投資をする上で常に考えていかなければならない問題となりました。
もう1つ、日本株への影響で懸念され始めているのが、足元の中国の景況です。2020年にはコロナからの回復が早く、一時は世界景気の牽引役として期待されていました。2020年10~12月には中国景気回復が、回復の遅れていた日本の企業業績にかなりのプラス影響を及ぼしました。
ところが、2021年4~6月以降、中国景気回復にブレーキがかかりつつあります。2022年になると、中国景気の減速がさらに深くなる懸念が出ています。ゼロコロナに固執して上海ロックダウンを続ける影響が、中国だけでなく世界全体の景気に悪影響を及ぼしつつあります。
上海を中心に物流が滞(とどこお)り、自動車生産や販売にも重大な支障が出ています。その影響で、2022年4月の中国自動車販売は、前年比48%減の118万台まで落ち込んでいます。
中国自動車販売の推移:2007年1月~2022年4月
2020年に成功したゼロコロナ政策が足かせに
ウィズコロナで経済再開を進めるのが世界の潮流となる中、中国のゼロコロナ政策に基づく上海ロックダウンは異様に映ります。2020年に国家権力をもって強引にコロナを抑え込んだ成功体験から、離れられなくなっていると考えられます。
2020年には中国・ベトナムなど東アジア・東南アジア諸国が、コロナ封じ込みに成功した優等生といわれました。欧米は感染の封じ込みに失敗したといわれました。
ところが、2021年以降は、評価が逆転しました。より感染力が強い、重症化リスクの低い変異型が感染の中心になると、東アジア・東南アジアでも遅れて感染が拡大しました。感染封じ込めの優等生といわれていたアジアで感染拡大・都市封鎖が広がる中、先に感染が拡大した欧米ではワクチン普及とともに経済再開が進みました。
そのもっとも極端な事例が中国です。2020年にコロナ封じ込めに成功して、経済が急回復しましたが、2021年以降、一転して都市封鎖による経済悪化が大きくなっています。
中国のGDP統計は信頼性が低い
中国景気について議論する時、中国GDP(国内総生産)の推移が引き合いに出されますが、見方に注意が必要です。出てくる数字から景気のイメージをつかむことはできますが、数字の信頼性は高くありません。簡単に、2007年以降の中国GDPの推移を振り返りましょう。
中国の実質GDP成長率(前年比):2007年1-3月期~2022年1-3月期
中国政府の発表ベースでは、2007~2019年6月まで、中国のGDP成長率は6%を下回ったことがありません。四半期ベースでマイナス成長になったのは、コロナ危機に見舞われた2020年1-3月期(▲6.8%)が初めてということになっています。そんなはずはないと思います。世界景気の影響を受けやすい中国のGDPが、発表されたGDPのように安定しているはずがありません。
私は、四半期ベースのマイナス成長は、以前から何度もあったと見ています。たとえば、リーマンショック直後の2009年1-3月に中国のGDPも一時マイナスになったと考えています。
ただし、リーマンショックで一時的に落ち込んだ中国景気は、2009年に中国政府が4兆元(約62兆円)の巨額公共投資を実施した効果で、一気に持ち直しました。中国の公共投資が、世界不況を救ったといわれました。ところが、後から振り返ると、この公共投資で膨らんだ非効率な投資が、その後の中国経済の構造改革を遅らせました。手っ取り早く稼げる鉄鋼・不動産・石炭開発などに投資が集中した結果、鉄鋼業などで過剰生産能力を抱え、地方では入居者のいない高層マンション群がゴーストタウン化しました。
4兆元の公共投資で膨らんだ非効率な投資に足を引きずられ、2010年以降、中国景気はじわじわと悪化しました。2015年10~12月には、「チャイナショック」と呼ばれるほど中国景気が悪化し、世界景気にもマイナス影響を及ぼしました。
ところが、中国政府の発表するGDPを見ると、2015年も7%近い成長を実現していたことになっています。そんなことはあり得ないと思います。チャイナショックがあった2015年10-12月期と、それに続く2016年1-3月期は、中国景気だけでなく、世界中の景気が悪化しました。原油価格急落によって、ブラジル・ロシアなど資源国の景気が悪化しました。米景気も1-3月には、一時的に停滞色が強まりました。日本もこの時、景気が後退ぎりぎりまで悪化しました。こうした現実が、中国のGDP統計にはまったく表れていません。中国の実態を知るには、他の景気指標を見る必要があります。
李克強指数、生産者物価指数に見る中国の実態
中国景気は、中国が発表するGDPとはまったく異なり、激しく浮沈を繰り返していると考えています。それが、李克強指数【注】の動きに表れています。
【注】李克強指数:中国の李克強(り こくきょう)首相は、首相になる前の2007年に「中国のGDP統計は信頼できない。鉄道貨物輸送量・銀行融資残高・電力消費の変化を見た方が実態がわかる」と語ったとされる。その話を受け、鉄道貨物輸送量25%、融資残高35%、電力消費40%の構成で作られた指数。中国経済の実態をよく表していると評価されている。
李克強指数の推移:2007年1月~2022年5月
中国政府が発表するGDP成長率とは異なる、中国景気の実態がここから見て取れます。中国景気が以下のように推移してきたことがわかります。
【1】2008年にリーマンショックで悪化
【2】2009年は巨額(4兆元)の公共投資実施で急回復
【3】その後、徐々に景気が減速。2015年にチャイナショック
【4】2016年以降、景気回復
【5】2018~2019年、米中貿易戦争の影響で景気失速
【6】2020年1-3月期、コロナ危機で大きく落ち込み、ただし4-6月以降急回復
【7】2021年4月以降、景気減速。ゼロコロナ政策による上海ロックダウンでさらに悪化
足元の中国の景気実態が厳しくなっていることは、李克強指数に加え、中国でビジネスを行っている、中国関連株と言われる日本企業の声からもわかります。
ただ、今わかることは、今の実態だけです。先行き、一段と悪化するか、あるいは回復に向かうかは、現時点で判断するのは難しいところです。中国政府がいつまでもゼロコロナに固執し続けるか、あるいは方針転換するかが、大きく影響するからです。
日本株の先行きを考える上で、当面、中国政府がゼロコロナ政策をいつまで続けるのか、目が離せません。これからも定期的に、中国経済の分析をお届けします。
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