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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
日経平均を動かす外国人 「投機筋」の動きを読み解く方法​」 

今日は、投機筋の動き、裁定残の読み方を解説します。中上級者向けの内容ですが、なるべく初心者でもわかるように書きますので、初心者の方にも読んでいただきたいと思います。

日本株を動かす外国人の先物売買

 本欄で繰り返しお伝えしている通り、日本株を動かしているのは外国人投資家です。外国人が買い越す月は日経平均が上昇し、外国人が売り越す月は日経平均株価が下落する傾向が30年以上、続いています。

 なかでも、外国人投機筋による日経平均先物の売買は大きな影響を持っています。2021年2~3月のコロナ・ショック時に日経平均を暴落させたのは、外国人の先物売りです。その後の急反発を主導しているのは、外国人の先物買いです。最近の日経平均の上昇下降を先導しているのも、外国人を中心とした投機筋の先物売買です。

 その動きをくっきりと表しているのが、裁定売り残高・裁定買い残高の変化です。詳しく説明すると難解になるので、説明は割愛して結論だけ述べます。

 東京証券取引所が発表している「裁定売り残」の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「売り建て」の変化が表れます。外国人の先物売り建てが増えると裁定売り残が増え、売り建てが減ると裁定売り残が減ります。

 また、「裁定買い残」の変化には、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「買い建て」の変化が表れます。買い建てが増えると裁定買い残が増え、買い建てが減ると裁定買い残が減ります。

2018年以降の投機筋の売買を読み解く

 以下、裁定残高の増減に、投機筋の動きが表れています。

日経平均と裁定売り残・買い残の推移:2018年1月4日~2022年5月24日(裁定売買残高は5月13日まで)

出所:QUICK・東京証券取引所データより楽天証券経済研究所が作成

 上のグラフの見方がわかって説明できるようになれば、投機筋の動き、裁定残の読み方は完璧です。以下で、2018年以降の動きを説明します。

【1】裁定買い残高が高水準だった2018年

 上のグラフを見ていただくとわかる通り、裁定買い残高は、2018年初には3兆4,000億円もありました。この時は、「世界まるごと好景気」と言って良い状況でした。したがって、投機筋は世界景気敏感株である日本株に強気で、日経平均先物の買い建てを大量に保有していました。
ところが、2018年10月以降、世界景気は悪化しました。投機筋は、日経平均先物を売って、買い建てをどんどん減らしていきました。

【2】売り残を積み上げた後、踏み上げがおこった2019年

 2019年には製造業を中心に中国や日本の景気が悪化しました。それを受けて、投機筋は日経平均先物の売り建てを増やしました。そのため、裁定売り残は一時2兆円まで拡大しました。

 ところが、2019年10月以降、世界景気回復期待が高まって世界的に株が上昇するとともに日経平均が上昇する中で、踏み上げ【注】が起こりました。日経平均先物を売り建てていた投機筋は、損失拡大を防ぐための、先物買戻しを迫られました。その結果、裁定売り残が減少しました。

 ここで「踏み上げ」という相場の専門用語を使いましたので、説明をつけます。

【注】踏み上げ
日経平均が下落すると予想して日経平均先物の売り建てを積み上げていた投機筋(主に外国人)が、日経平均がどんどん上昇していく中で、損失拡大を防ぐために日経平均先物の買い戻しを迫られること。

【3】コロナ・ショックで売り残が再び急増、その後踏み上げで減少に向かった2020年

 2020年、コロナ・ショックで日経平均が暴落した2~3月、投機筋は再び日経平均先物売り建てを増やしました。裁定売り残は一時2兆6,000億円近くまで増加しました。ところが、その直後から、世界的な金融緩和と景気回復を受けて日経平均は急騰、ここでも先物の踏み上げが起こりました。

【4】裁定買い残の増減にしたがって日経平均が上下した2021~2022年

 裁定売り残は2021年になると低水準となりました。コロナからの世界景気の回復が鮮明となったので、日経平均先物をあえて売り建てしようとする投機筋はほとんどいなくなりました。2021~2022年、日経平均は、先物の買い建ての増減にしたがって、上下する動きとなっています。投機筋が先物を買い建てる時に裁定買い残が増加し、日経平均は上昇しています。しかし、継続的な上昇は見込めず、投機筋が先物の買い建てを閉じる時に、裁定買い残が減少し、日経平均は下落しています。投機筋が日本株に強気になったり弱気になったりを繰り返していることがわかります。日本株について外国人の投資スタンスが定まらない状況が続いています。

5月13日現在の裁定残高のインプリケーション

 5月13日現在、裁定売り残は2,847億円、裁定買い残は7,141億円あります。この残高をどう解釈したら良いでしょうか?強気にも弱気にも傾いていない普通の状況と比較してどうか、考えるしかありません。

 裁定売り残は、あまり積みあがることがないのが普通です。したがって、2,847億円という低い水準にありますが、それは普通です。

 裁定買い残7,141億円は低いと言えます。通常1兆~2兆円あるのが普通ですから、通常よりも少ない状態です。世界景気に不透明感があるので、外国人は投機的な買い建てを持たないようにしている状態です。

 これから、日本株に強気材料が増えれば、投機筋の先物買いによって日経平均が大きく上昇する余地があると言えます。弱気材料が増えても、投機筋があわてて買い建てを閉じなければならない状況にはありません。

 結論として、投機筋のポジションは、相場にとって上昇に寄与しやすい状況と言えます。ただし、それはただ一般的な見方を言っているだけです。ここから2008年に起きたリーマン・ショックのような世界景気悪化があれば、投機筋は日経平均先物の空売りを増やすので、裁定売り残が増えて行くことになります。世界景気に対する不安が減っていく過程では、投機筋の買い建てが増えて行くことになります。

 投機筋の動きと、ファンダメンタルの変化は同時に見ていく必要があります。

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