米国株急落でも、日経平均はしっかり

 先週(5月16~20日)の日経平均株価は、1週間で311円上昇し、2万6,739円となりました。米国株の急落、年初来安値更新が続く中で、日経平均が相対的にしっかりした展開が続いています。

 米国の主要指数と日経平均の先週の動きを比較すると、日経平均の堅調さが目立ちます。先週、NYダウ(ダウ工業株30種平均)が1週間で▲2.9%、ハイテク株比率の高いナスダック総合指数が▲3.8%、米国株全体の動きをもっともよく表すS&P500種指数が▲3.0%下がる中、日経平均は1週間で1.2%上昇しました。

米ナスダック・S&P500・日経平均の動き比較:2019年末~2022年5月20日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成。2019年末を100として指数化

日本株が相対的に堅調な4つの理由

 先週のレポートで書いたとおりですが、日本株が3月以降、相対的に堅調な理由は以下4点と思います。

【1】円安

 円安は日本の企業業績には大きなプラス要因です。円安による輸入物価の上昇が国民生活にマイナスなので、「悪い円安」とメディアで盛んに言いたてていますが、日本の企業業績全体に与える影響を集計すると、マイナスよりもプラスの方が大きいです。

【2】日本の企業業績が良好

 3月期決算の発表がほぼ終了しました。終ったばかりの2022年3月期が好調であったことに加え、新年度(2023年3月期)も小幅ながら増益が見込める可能性がでています。以下が、東証上場主要841社の業績推移です。今期、楽天証券では、連結純利益が5.8%の増益になると予想しています。

東京証券取引所上場、3月期決算主要841社の連結純利益(前期比)

出所:楽天証券経済研究所が作成
注:2017年3月期より2021年3月期までは東証一部上場の主要841社から計算、2022年3月期・2023年3月期は東証プライム上場の主要841社から計算。東証一部主要841社のうち、東証再編でプライム市場に入らなかった54社は除外し、プライムに入った銘柄と入れ替え

【3】リオープン(経済再開)への期待

 新型コロナウイルスの感染は続いていますが、重症化リスクが低下し、死亡率も通常のインフルエンザに近いところまで低下してきているので、リオープン(経済再開)への期待が高まっています。消費が、コロナで抑え込まれていた反動で、一時的に大きく伸びる可能性が出ています。
 米国では、昨年、コロナからの消費急回復がありました。米国は消費が急回復した後に過熱、反動で今年は減速する懸念が出ています。昨年、コロナの影響で消費が冷え込んだままで、今年やっと回復が期待できる日本とは逆の動きです。リオープンのモメンタムの差から、日本株を選好する向きも一部にあると考えられます。

【4】「インベスト・イン・キシダ」、資産倍増策への期待

 岸田首相が提唱している「新しい資本主義」では、株式投資にネガティブな提言が多く警戒が生じていました。ところが、先般、岸田首相がロンドンでおこなった講演では、「インベスト・イン・キシダ」と述べ、株式投資にフレンドリーな発言が出たことが注目されました。岸田政権の政策スタンスに変化が生じる兆(きざ)しかと、期待を生じています。

最悪シナリオも念頭におきつつ時間分散しながら日本株買い増しの方針継続

 結論はいつも述べていることと変わりません。世界景気は急減速するものの、景気後退まで至らないと私は考えていますので、日本株は良い買い場を迎えていると考えています。

 ただし、世界的な景気後退や金融危機が起こることを警戒する声が出つつあるのは事実です。そうしたリスクを警戒して、日経平均が短期的にさらに売り込まれるリスクは残っているので、時間分散しながら投資していくことが必要と考えています。

 このような時には、積み立てで日経平均インデックスファンドに投資していくか、あるいは、株価割安度が際立っていると私が判断している三菱UFJ FG(8306)などから投資していくのが良いと考えています。

 今、考えているメインシナリオと、警戒されている2つのリスクシナリオは以下の通りです。

【1】メインシナリオ:世界景気は減速しつつも拡大続く

 世界景気は急速に減速するものの、世界景気後退には至らないと予想しています。円安とリオープンの効果で日本の企業業績は今期もプラスになり、日本株はいずれ見直されて上昇すると予想しています。

【2】リスクシナリオ:世界景気後退シナリオ

 このまま、欧州景気・中国景気に続き、米国景気も悪化。日本の景気も腰折れ。そうなると、2022年の後半から2023年にかけて、世界景気は後退期に入ります。
 その場合、資源価格は急落、米国のインフレは鎮静化します。FRB(米連邦準備制度理事会)による引き締めは早めに終了、緩和スタンスに逆戻りします。そうなると、世界景気は2023年から2024年にかけて、再び回復に向かうと予想されます。

【3】最悪シナリオ:世界的に金融危機が起こるシナリオ

 世界的に景気が後退するだけにとどまらず、新興国で金融危機が起こるシナリオです。エジプトやスリランカで起こっている金融危機が世界的に拡大し、リーマンショックに近い状況となるシナリオです。
 景気後退に金融危機が伴うと、回復までにかかる時間がさらに長くなります。2022年後半から2023年にかけて世界景気は後退期に入り、回復は2024年から2025年以降になるリスクがあります。そうなると、日経平均は高値から3割以上下がり、2万1,500円以下まで下がる可能性が出ます。

 先行き起こることを正確に予想することは誰にもできません。短期的なリスクを考えながら、リスク管理しながら、長期的に割安な日本株への投資を増やしていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。悲観が広がっている時は、後から振り返ると、株を割安に買う機会となっていることも多く、私はここから日本株を売るよりは、買いの機会を探っていった方が良いと思います。

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