市場環境は年々複雑化。流れには逆らえない

 しばしば、「常識」を連呼する人に出会います。話を聞いているうちに、聞き手である自分が常識を知らないのではないか?と不安に駆られることがありますが、「常識」の連呼は、自身の考えを正当化する手段である場合が少なくありません。

 相手を操作する目的で発せられた「主観に満ちた常識」は、常識ではありません。ここでは常識を、「客観的事実が裏付ける、顕在化せずに底流する、多くの人たちが否定しない最大公約数。抽象化を経ることで迫ることができるもの」と定義します。

 以下は、コモディティ市場の動向を左右してきた主な要因(抽象的キーワード)です。

図:コモディティ市場の状況:全体観

出所:筆者作成

 事実を振り返れば、上図の期間で、コモディティ市場の変動に影響を与え得る要因の種類が増えたことは、一目瞭然です。社会全体が変化すれば、おのずと、その一要素である市場も変化します。社会の変化によって「常識は変化する」のです。

金(ゴールド)も原油も変動要因の多層化が進行

 ここからは、金(ゴールド)と原油の市場環境の変化について書きます。

図:コモディティ市場の状況:「金(ゴールド)」 主要な変動要因のみ掲載

出所:世界銀行のデータより筆者作成

 1960年代は政策が価格を決め、1970年代から1980年代は有事が、1990年代は株価動向が主な変動要因でした。この間は、比較的、価格動向を説明するのが簡単でした。しかし、2000年代に入り、変動要因が多層化し始めました。足元、ドル高(主要テーマの1つ「代替通貨」起因の下落要因が発生していても)でも、金(ゴールド)相場は上昇しています。

 次に原油です。

図:コモディティ市場の状況:「原油」 主要な変動要因のみ掲載

出所:世界銀行のデータより筆者作成

 1960年代は欧米のメジャーが価格を決め、1970年代から1980年代は産油国の政策と政情が主な変動要因でした。この間は、比較的、価格動向を説明するのが簡単でした。しかし、2000年代に入り、変動要因が多層化し始めました。足元、OPECプラスが増産(主要テーマの1つ「産油国の政策」起因の下落要因)をしていても、原油相場は上昇しています。

答えなければならない重要な問い

 金(ゴールド)相場は「ドル高」でも上昇、原油相場は「OPEC増産」でも上昇。価格動向を説明するのが比較的簡単だった「過去の常識」では、考えられない事態と言えるでしょう。ここで以下の問いを立てます。

なぜ、ドル高なのに金(ゴールド)相場が上昇しているのか?

ウクライナ危機勃発後、ドルが大きく上昇しているが、金(ゴールド)も上昇している。

ドルと金(ゴールド)が逆相関の関係であれば、金(ゴールド)相場は下落するのではないか?

なぜ、OPECが増産をしているのに原油相場が上昇しているのか?

昨年5月以降、OPECプラスは毎月、原油生産量を増やしている。

OPECが増産をすれば世界の需給はダブつき、原油相場は下落するのではないか?

 上記の素朴な問いへの答えは、なかなか報じられません。とはいえ、放置してよい問いではありません。この問いへの回答を導き出すため、コモディティ市場に根深く存在する「過去の常識」と「現在の常識」の論争に着目します。

底流する論争「過去の常識」vs「現在の常識」

「過去の常識」は、比較的変動要因を把握しやすかった時代に生まれたと考えるのが妥当でしょう。こうした時代は、変動要因(原因)と価格変動(結果)の関係が非常にシンプルだったため、変動要因を点で見ても、比較的、値動きを把握することが可能でした。

「現在の常識」は、少し複雑な上、体系的な分析が必要で、状況を俯瞰(ふかん)的に見ることや、経済学と社会学(人に関わる分野を網羅する学問)によるアプローチが必要です。実は、「過去の常識」だけで分析できなくなっているのは、コモディティ市場だけではないと、筆者は感じています。株式も通貨も、金利も不動産も、暗号資産も、です。

「現在の常識」を深く理解する方法

「現在の常識」を深く理解するためには、「過去の常識」をある程度、否定することが有効だと考えます。

図:「現在の常識」と理解の深め方

出所:筆者作成

 現在の市場を正しく分析するためには、「材料の俯瞰(ふかん)と影響力の足し引き」は欠かせません(後編で詳細を述べます)。そしてそれを求めるためには、「過去の常識」をある程度否定し、「現在の常識」への理解を深めることが欠かせません。

「過去の常識」の特徴であった、「物事を点でみる」を、「俯瞰(ふかん)する」に、「五感で感じられる(具体)」を「抽象度を高める」などに置き換えることで、「現在の常識」への理解を深めることができるでしょう。

 後編の次回は、今回述べた「材料を俯瞰(ふかん)すること」や、「抽象度を高めること」が具体的にどのようなことなのかを示した上で、金(ゴールド)と原油の「材料の足し引き」の事例を挙げ、2つの「素朴な問い」に回答し、最後に、金(ゴールド)と原油市場のテーマと今後の見通しについて述べます。

[参考] 原油相場と石油関連株

 以前の「原油相場と石油関連株。なぜ高止まりしてしまうのか!?」で述べたとおり、原油相場が高止まりしています。

図:NY原油先物、エクソンモービル(XOM)、パイオニア ナチュラル リソーシズ(PXD)
※2022年2月23日を100として指数化

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 米国の石油関連株も、高止まりしています。油田などの権益を有したり、直接的に油田の開発に関わったりしている企業の株価は、原油相場に連動する傾向があります。

 また、足元、制裁によって供給量が大幅に減少する懸念があるロシア産原油を代替すべく、米国は、米国国内で原油(シェールなど)の生産を拡大する方針を打ち出しています。上記に示したパイオニア・ナチュラル・リソーシズ(PXD)は、それに関わる一例です。原油相場の動向とともに、こうした、主に米国国内で活動する石油企業の株価にも、注目です。

・パイオニア・ナチュラル・リソーシズ(PXD)
・エクソンモービル(XOM)