米長期金利の上昇で、ドル高(円安)進む

 為替市場でドル高(円安)が急速に進み、1ドル=123円台をつけています。その主因は、日米金利差の拡大です。

 原油などエネルギー価格の急騰を受けて、日本の経常収支が1月にはマイナス1兆1,887億円と2カ月連続で赤字となったことを材料視する向きもあります。ただし、貿易収支や経常収支の赤字よりも、規模が大きいのは金融収支です。内外金利差の拡大を受けて国際間を飛び回る投機マネーが、為替の動きを決めています。

 ドル/円の長期的な動きは、ほとんど日米金利差で説明できます。もっとも良く動きを説明できるのは、2年金利差です。

ドル/円は2年金利で動くことが多かった

 リーマンショックが起こる前、米金利の水準がもっと高かった頃、ドル/円の動きは、日米2年金利の差で、説明できる時期が多かったと言えます。2年金利差というのは、米国と日本の2年国債利回りの差です。

日米の2年金利(残存2年の国債利回り)と日米金利差(2年金利の差):2008年1月~2022年4月(5日)

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 それでは、ドル/円の動きと日米2年金利の差を比較しましょう。

ドル/円レートと日米2年債利回りの差:2008年1月~2022年4月(5日)

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 2008年以降の動きを見ると、おおむね日米2年金利差とドル/円は連動していることがわかります。ただ、厳密にいうと、以下のように細かい相違があります。

【1】2008~2011年

 日米金利差の縮小にしたがって、円高(ドル安)が進みました。

【2】2012~2014年

 日米金利差が少ししか拡大していないのに、大幅な円安(ドル高)が進みました。2年金利の差では説明できない程、円安の進行が大きかったということです。

【3】2015~2018年

 日米金利差が拡大する中で、円高が進みました。2012~2014年に行き過ぎた円安に修正が起こったと見ることができます。

【4】2019~2020年

 日米金利差が縮小するにしたがって、円高が進みました。

【5】2021-2022年

 日米金利差が拡大するにしたがって、円安が進みました。

 ただ、為替は金利差だけで動いているわけではありません。2013~2018年のドル/円の動きに大きく影響したのが、政治圧力でした。

政治も、為替を動かす重要な要因である

 ドル/円は、日米金利差だけで動いているわけではありません。政治圧力にも振り回されます。
米国が円安を容認している間は、円安が進みやすい一方、米国から円安批判が出ると、円高が進みやすくなります。

 2012~2014年、金利差の拡大で説明できないほど円安が進み、2015~2016年にその反動で金利差が拡大する中で円高が進んだ背景に、政治圧力があります。その部分の説明を加えたのが、以下のチャートです。

(再掲)ドル/円レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2022年4月(5日)

出所:楽天証券経済研究所が作成

【1】2012~2014年

 日本が異次元緩和で事実上の円安誘導をする中、米国は円安を容認していたので、日米金利差では説明できないほど、大幅な円安が進みました。

【2】2015~2016年

 2016年には、米大統領選キャンペーンで共和党候補だったドナルド・トランプ氏(前大統領)と、民主党候補だったヒラリー・クリントン氏が、ともに円安を批判したことをきっかけに、円高が進みました。トランプ前大統領が、日本の対米黒字を問題視していたことも、潜在的な円高圧力となりました。

円安は日本株にマイナスか?

 日銀が異次元緩和を継続する中、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げ・金融引き締めを続ければ、円安(ドル高)がさらに進む可能性もあります。

 そこで気になるのは、今進んでいる円安が日本経済に悪影響を及ぼすという「悪い円安」説です。日本の製造業は海外現地生産を高めたので、円安が進んでも日本の輸出が増える効果はありません。一方、円安が進むことでエネルギー輸入コストが上昇し、1月の経常収支が1兆1,887億円の赤字となり、日本経済に悪影響を及ぼす「悪い円安」という声が高まっています。

 私は、「悪い円安」説は、やや誇張されていると考えています。日本からの輸出は確かに減りましたが、日本企業は海外現地生産・現地販売で高い利益を上げています。円安が進むことによって、海外利益(ドル建て)の円換算額が膨らむ効果は大きいので、プラスマイナス合わせて、円安は日本の企業業績にプラスと考えています。

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