現在、トレンドが発生している主要通貨はユーロ/ドルだけである。したがって、通貨市場の投機筋はユーロ/ドル、ユーロ/豪ドル、ユーロ/スイスなどのユーロクロスを中心とした通貨ペアを狙って売買を行っているところが多い。

1月26日FOMCの声明文は「景気回復継続したが労働市場の著しい改善に不十分」「住宅市場は依然として低迷」「商業用不動産への投資も弱い」など、景気認識は改善されていない。いずれにせよ、QE3問題は4月のFOMCまで持ち越され、当面はジャブジャブの状況が続く。

こうした米国の政策と正反対の政策を主張しているのが、ECBのトリシェ総裁だ。1月13日のECB理事会では「インフレ警戒」を唱え、インフレ率が上昇すれば利上げを行うことを主張している。ブラックマンデーの引き金を引いたのはドイツの利上げであり、ECBがリーマン危機の直前に金利を上げているのを見ても分かるように、欧州人はロジックで動く。今回もユーロの財政・金融不安案件とは関係なく金利政策を行うというECBの独立性を強調しているが、ECBの「空気を読まない方針」が現在の思いがけないユーロ高を促している原因である。

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)・13日移動平均3%乖離(青)


(出所:石原順)

ところで、この連載やブログ『石原順の日々の泡』で使っている上記のチャートと「同じもの」を作って欲しいという要望を頂いたので、現在作成中である。

  • 石原順のトレードツールβバージョン

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(紫)・13日移動平均3%乖離(金)


(出所:石原順のトレードツール)

日足ベースでは、ユーロ/ドル以外にトレンドが発生していない。面白くない相場状況であるが、仕事をしなければいけないので、筆者は年末から<1時間足>での売買を頻繁におこなっている。トレードする銘柄の選択については、『石原順の日々の泡』に時々掲載しているが、PCを何台も並べて四六時中チャートを観察しているわけではない。「銘柄選択の方法」については既に書いたが、<1時間足>でのトレードにおいては、筆者のブログの右側に出ている為替レートを見ているだけである。

為替レートと通貨ペア


(出所:石原順の日々の泡

ここに出ている通貨ペアの値段が前日比で20~30ポイント動いたら、その通貨ペアのトレンドの状況を確認する。相場が1σのラインを飛び出し、標準偏差ボラティリティとADXが上昇していたら相場にエントリーしているだけだ。

以下のチャートは昨日のユーロ/豪ドルの<1時間足>チャートであるが、年末からトレンドが頻繁に発生し、筆者の運用難状況における救済?通貨となっている。

ユーロ/豪ドル(1時間足)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21時間ボリンジャーバンド1σ(紫)


(出所:石原順のトレードツール)

このように外為市場も方向性に欠ける展開であるが、とにかく、カネばかり余っていて、投資する対象がないのがここ1カ月の相場だ。筆者は昨年末からセミナーやレポートなどで、2011年の相場は商品(コモディティ)と株がバブルするという見通しを述べてきた。株がややこしいのは、新興国への強気は続いているものの、それらの国が現在「利上げサイクル」に入っていることである。バブルを冷やそうとする金利上昇サイクルの中での株式相場は難しい。

今年は意外にも先進国の株式市場に投資しているファンドが多い。新興国の経済成長が今後も続いていくのは間違いないが、今年に限って言えば、筆者の周辺にいるファンドは利上げサイクルに入っている新興国の株式市場を避け、先進国の株への投資を行っているところが多いのである。

先進国への格式投資のキーワードは、<アングロサクソンの国>である。具体的には「米・英・オーストラリア・カナダ」の株式市場だ。ここに多くを配分し2番手がユーロ諸国、3番手が新興国である。

コモディティの方は踊り場を形成し調整中だが、押し目は中国とインドが買うので弱気のファンドはいない。中国の利上げ云々や、商品投資への規制がG20で話し合われるとの観測から現在やや失速しているが、実需の強さを背景にQE2終了の手前までは上げ基調が続くだろう。国際商品価格が高騰すると、先進国にもコストプッシュインフレを促すので、先進国の債券も安心して買えない状況にある。

NYダウ(左)と上海総合指数(右)の日足チャート


(出所:石原順)

英FT100(左)とブラジルボベスパ指数(右)の日足チャート


(出所:石原順)

とうもろこし(左)と大豆(右)の日足チャート


(出所:石原順)

上記のチャートを見れば分かるように、世界の投機資金は現在、アングロサクソンの国の株式市場と商品市場に向かっている。年前半はQE2のバブル相場なので、新興国の株式市場もブラジル市場をはじめとして、「押し目買い」で対処するのがよいだろう。

カネ余りと金利上昇が複合する今年の株式市場は「押し目買い」なのである。というか、それしかない。これを通貨市場に当てはめると、NYダウと極めて似た動きをする豪ドル/円などはやはり押し目方針がよいだろう。

豪ドル/円(日足)RSIの調整は進んでいるが…押しが浅い。

上段:55日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)・13日移動平均3%乖離(青)
下段:14日RSI(赤)


(出所:石原順)

日本国債の格下げについて大騒ぎになっているが、喜んでいるのは消費税を上げたい人達だけである。相場がレンジ抜けをするほどの威力は今のところないだろう。ただし、「格付け」は「CDS」と並ぶ投機筋の金融破壊兵器なので、今後の日本国債相場の動向を注視したい。