バフェットは3年連続で株式を売り越し

 2月14日に判明したウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイ)のSEC報告書(フォーム13F)によると、バフェットは3年連続で株式を売り越した。株式の売却額は購入額を109億ドル(約1兆2,500億円)上回っている。バフェット指標が200を上回るような局面では利食いを優先させているのだろう。

バフェット指標:株式の時価総額÷名目GDP×100(緑のライン・現在177)

出所:gurufocus

*バフェット指標とは、株式の時価総額を名目GDP(国内総生産)で割り、100を掛けてパーセント表示にした数字で、一般に100%を上回れば株価は割高、下回れば割安と解釈される。 著名投資家のウォーレン・バフェットがこれを重視するとされていることから、バフェット指標と呼ばれている。

 バフェットがウェルズ・ファーゴ(WFC)を大量売却して、バンク・オブ・アメリカ(BAC)を買っているのは、自社株買いをする企業を好んでいるからだ。アップルをみればわかるように、自社株買いは株価を押し上げ、また下支えもする。過去10年間の自社株買いが米国株市場に与えた影響は、40.5%が自社株買いによるものである。

過去10年間の自社株買い(緑)がS&P500に与えた影響:40.5%が自社株買いによるもの

出所:ゼロヘッジ

自社株買いトップ10社

出所:S&P500の資料より石原順作成

 バフェットは気に入った銘柄は永遠に保有すると言われているが、実際には銘柄の組み入れや入れ替えを適宜行うなどしており、「短期投資家」としての一面が垣間見られる。

「株式市場の本当の話」(前田昌孝 日経プレミアシリーズ)によると、バークシャー・ハサウェイが2020年9月末までに売却した81銘柄について、売却後の騰落を調べたところ、33銘柄は売却後の騰落率が指数を上回っていた。つまり投げ当たり、売って正解だった。昨年、コロナウイルスの感染が猛威をふるう中、保有していた航空会社株を全て手放したことがあったように見切るのは早い。

 バフェットはかつて、「10年間株を保有する気がなければ、10分間保有することさえ考えない方がいい」と述べていたが、その長期保有のイメージとは裏腹に、見切り売りを的確にすることで、それなりのリターンを確保しているというのが実はバフェットが天才投資家とされているゆえんである。

 個人投資家がバフェットの運用で学ぶべきなのは、 

(1)「運用が決して破綻しないビジネスモデル」 
(2)「投資先として米国株式市場を選択していること」 
(3)「大暴落した時に株を買える現金の温存」 

 であり、長期の株式投資で個人投資家が成功するには、ひたすら長期の投資チャンスを「待つ」ことがポイントである。

バークシャー・ハサウェイの現金ポジション比率(2001年7月~2021年3月)

(バフェットは株式市場の大幅下落に対処できるように3割程度の現金(緑のライン)をいつも温存している!?)
出所:gurufocus

バークシャー・ハサウェイの現金ポジションとNYダウの推移

(注:2021年9月末時点のデータ・最新データは2月26日に発表される)
出所:石原順

 昨年、バフェットのビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーは、「かなりのインフレの兆候が見られる。とても興味深いが、われわれは価格を上げているし、人々もわれわれに対して価格を上げている。そして、それは受け入れられている。コストは上がる一方だ。鉄鋼のコストも毎日のように上がっている。それは止まらない。なぜなら人々はポケットにお金を持っていて、彼らはより高い価格を支払うからだ。6カ月前かそこらに予想したより多くのインフレが起こっている」と、インフレに警鐘を鳴らしていた。そして、「少なくとも今のところミレニアル世代は株式市場の勝者に見えるが、すべて涙で終わると確信している」と述べている。

王道5銘柄とバークシャー・ハサウェイの保有株トップ30

 バークシャー・ハサウェイのフォーム13Fによると、米マイクロソフトが買収することで合意したゲームソフト会社アクティビジョン・ブリザード(ATVI)を2021年10-12月期中に約1,470万株購入、昨年末時点で時価総額にして約10億ドルを保有していることが明らかとなった。 

 バフェットとマイクロソフト創業者のビル・ゲイツとの交友関係もあり、あまりのタイミングの良い購入に、「インサイダー・インフォメーションではないか?」などさまざまな臆測が広がったが、バフェットのオフィスは17日に書簡を公表し、米ゲーム大手アクティビジョン・ブリザードの株式を取得したことについて、「棚ぼたではない」とし、アクティビジョンがマイクロソフトから買収提案を受けることは知らなかったと指摘した。

 以下は、バークシャーの保有株トップ30(時価総額ベース)である。トップはご承知の通りアップル(AAPL)で、その評価額は1,575億ドル、全体のポートフォリオに対する保有比率は47%となっている。以下、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、アメリカン・エキスプレス(AXP)、コカ・コーラ(KO)、クラフト・ハインツ(KHC)である。

 この上位5銘柄については前の四半期からの変更はなく、バフェットの王道5銘柄と言って良いだろう。

バークシャー・ハサウェイの保有株トップ30

出所:2021年12月末時点のフォーム13Fより石原順作成

 バークシャーはアクティビジョン以外に、第4四半期にもう1つ新たな株式を保有した。南米地区でデジタル銀行を展開するヌー・バンクを傘下に持つヌー・ホールディングス(NU)だ。10億ドル相当のヌー株を保有している。上記のランキングでは22位だ。ヌーHDは昨年12月9日にニューヨーク証券取引所にIPO(株式の新規公開)したばかりの企業であるが、創業からわずか8年で世界一の顧客数を抱える金融ビジネス界のキラ星である。

 その他特筆すべきは、シェブロンを追加したことだろう。シェブロンはバークシャーのポートフォリオの9位となった。12月末時点で45億ドル相当を保有している。前述の通り、昨年2021年のシェブロンのパフォーマンスは38%と高いリターンをもたらしている。一方で、ビザ(V)やマスターカード(MA)、製薬会社のアッヴィ(ABBV)など、8銘柄の保有株を減らした。

 2月26日には2021年第4四半期の決算発表が予定されている。期末の業績、キャッシュポジションの水準、そして毎年恒例の「株主への手紙」ではどんな話を披露してくれるのか注目したい。

2021年高リターンを上げたウォーレン・バフェットのポートフォリオ

 今年は米国で少なくとも3回の利上げが実施されると言われている。金利のなかった世界から金利のある世界へと正常化が進んでいく過程においては、低金利を享受していた一部のハイテクグロース株にとっては大きな逆風だ。

 その一方で、金利の上昇は金融株など一部の銘柄には有利に働く。昨年2021年のウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイのポートフォリオは、ほとんどの銘柄が2桁のリターンを記録した。FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げが進めば、今年のリターンはさらに向上する可能性もある。バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)自体の時価総額も7,000億ドル以上に上昇し、1兆ドルに迫る勢いとなっている。

バークシャー・ハサウェイB株(週足)

出所:石原順

 2021年、バークシャーのポートフォリオでどんな銘柄が高パフォーマンスを誇ったのか。ヤフーファイナンスの記事「Warren Buffett’s Performance in 2021: 10 Best Stock Picks(2021年のウォーレン・バフェットのパフォーマンス:ベスト10ストックピック)」から、ランキングを以下に紹介する。

1位 ウェルズ・ファーゴ(WFC) 2021年のリターン:62%
2位 マーシュ・アンド・マクレナン(MMC) 2021年のリターン:53%
3位 バンク・オブ・アメリカ(BAC) 2021年のリターン:48%
4位 クローガー(KR) 2021年の利益:40%
5位 バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK) 2021年のリターン:39%
6位 シェブロン(CVX) 2021年のリターン:38%
7位 アメリカン・エキスプレス(AXP) 2021年のリターン:38%
8位 アップル(AAPL) 2021年のリターン:37%
9位 ムーディーズ・コーポレーション(MCO) 2021年のリターン:33%
10位 USバンコープ(USB) 2021年のリターン:21%

 なお、それぞれの評価額については、バークシャー・ハサウェイが2021年11月15日にSECに提出したフォーム13F(2021年9月末時点、2021年第3四半期末時点)を元にしている。

バフェットが投資をする企業のほとんどが「安定期」にある企業

 投資というのは本来退屈なものだ。投資の神様と言われるウォーレン・バフェットも、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターのレイ・ダリオも地道で地味な投資を行っている。一時のはやりに乗るのはいいが、飛び道具のようなものに乗ってしまうと、オール・オア・ナッシングの世界に引き込まれてしまい、長く投資の世界で生き残ることはできない。

 バフェットの投資先を選ぶ基準は極めてシンプルだ。それはキャッシュフローに始まりキャッシュフローに終わる。縦軸に投資キャッシュフロー、横軸に営業キャッシュフローをとったキャッシュフローマトリックスから確認してみよう。

 投資キャッシュフローは将来のキャッシュを生み出すために使われる先行投資である。企業が成長している時期にはキャッシュが設備投資などに使われるためキャッシュが出ていき、基本的にはマイナスとなる。投資が進み、キャッシュが稼げるようになると、リターンが生み出され営業キャッシュフローがプラスとなる。

 バフェットが投資をする企業のほとんどが、投資よりも稼ぎのほうが大きい「安定期」にある企業だ。

キャッシュフローマトリックス

出所:石原順

アップルのキャッシュフローマトリックス

出所:石原順

 大化け株などで一時的に大きな資金を得たとしても、あぶく銭はすぐに泡と消える傾向が高い。投資を事業として長く続けたいのであれば、安定した王道株への投資が必須である。

 バフェットの「安定期投資」については、昨年12月30日のレポート『「安定期投資」というウォーレン・バフェットの運用の秘密!?』を参照されたい。