※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「総合商社決算レビュー 割安な成長株として「買い」判断継続」
大手総合商社5社を割安な成長株として評価
大手総合商社5社(伊藤忠・丸紅・三井物産・住友商事・三菱商事)の10-12月決算が出そろいました。5社とも、通期(2022年3月期)純利益予想を上方修正、最高益を更新する予想です。
資源価格の上昇によって、資源事業の利益が拡大します。非資源事業もおおむね好調で、各社とも最高益を大幅に更新する見通しです。
好業績を評価し、株価は2021年・2022年とも大きく上昇しています。
5大商社2021年・2022年の株価騰落率、日経平均と比較
コード | 銘柄名 | 2021年 | 2022年 2月16日まで |
---|---|---|---|
8001 | 伊藤忠 | 18.7% | 8.0% |
8002 | 丸 紅 | 63.2% | 7.4% |
8031 | 三井物産 | 44.1% | 10.9% |
8053 | 住友商事 | 24.5% | 10.7% |
8058 | 三菱商事 | 43.7% | 9.1% |
日経平均 | 4.9% | -4.6% | |
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成 |
株価は上昇していますが、以下の通り、株価指標を見ると、PER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)が低く、予想配当利回りが高いバリュー株として、評価できます。
大手総合商社5社の株価バリュエーション:2022年2月16日時点
コード | 銘柄名 | 株価 :円 |
配当 利回り |
PER | PBR | 1株配当金 会社予想 :円 |
---|---|---|---|---|---|---|
8001 | 伊藤忠 | 3,799.0 | 2.9% | 6.8倍 | 1.37倍 | 増配 110 |
8002 | 丸 紅 | 1,202.5 | 4.8% | 5.3倍 | 0.99倍 | 増配 58 |
8031 | 三井物産 | 3,020.0 | 3.5% | 5.8倍 | 0.89倍 | 増配 105 |
8053 | 住友商事 | 1,882.0 | 5.8% | 5.4倍 | 0.75倍 | 増配 110 |
8058 | 三菱商事 | 3,985.0 | 3.6% | 7.2倍 | 0.91倍 | 増配 142 |
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成、配当利回りは、2022年3月期1株当たり配当金(会社予想)を2月16日株価で割って算出。PERは、2月16日株価を2022年3月期1株当たり利益(会社予想)で割って算出 |
私は「株価指標で見て割安」というだけで、この5社を評価しているわけではありません。5社とも、今期最高益を更新する見通しです。継続的に最高益を更新していく力があると判断しています。割安な成長株として評価できると考えています。
5大手商社の連結純利益:2019年3月期(実績)~2022年3月期(会社予想)
(単位:億円) | |||||
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コード | 銘柄名 | 2019/3 | 2020/3 | 2021/3 | 2022/3 会社予想 |
8001 | 伊藤忠 | 最高益 5005 |
最高益 5013 |
4,014 | 最高益 8200 |
8002 | 丸 紅 | 最高益 2308 |
-1,974 | 2,253 | 最高益 4000 |
8031 | 三井物産 | 4,142 | 3,915 | 3,354 | 最高益 8400 |
8053 | 住友商事 | 最高益 3205 |
1,713 | -1,530 | 最高益 4600 |
8058 | 三菱商事 | 最高益 5907 |
5,353 | 1,725 | 最高益 8200 |
コロナ・ショック | |||||
出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成 |
以下の表をご覧いただくとわかる通り、5大商社は、コロナ・ショックを超越して増配を続けています。
5大手商社の1株当たり配当金:2019年3月期(実績)~2022年3月期(会社予想)
(単位:円) | |||||
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コード | 銘柄名 | 2019/3 | 2020/3 | 2021/3 会社予想 |
2022/3 予想 |
8001 | 伊藤忠 | 83 | 85 | 増配 88 |
増配 110 |
8002 | 丸 紅 | 34 | 35 | 減配 33 |
増配 58 |
8031 | 三井物産 | 80 | 80 | 増配 85 |
増配 105 |
8053 | 住友商事 | 75 | 80 | 減配 70 |
増配 110 |
8058 | 三菱商事 | 125 | 132 | 増配 134 |
増配 142 |
コロナ・ショック | |||||
出所:各社決算資料より楽天証券経済研究所が作成 |
自社株買い・増配に積極的な高配当利回り株としても高く評価できます。
脱炭素に貢献する5大商社のLNG事業
5社共通の問題として、化石燃料ビジネスを手掛けていることが挙げられます。ESGを重視する年金基金などは、化石燃料ビジネスで高い利益をあげている5大商社を投資対象から外す可能性があります。私はきわめておかしなことと思います。
化石燃料ビジネスを手掛けることを「すべて悪」と決めつける、現在の欧州主導のESG基準には大いに問題があると考えています。日本企業は、化石燃料を世界一効率的に使う技術を幅広く保有していますが、それが現在のESG基準では「悪」とレッテルが貼られます。
たとえば、トヨタ自動車のハイブリッド車は、ガソリン車の中でもっとも高い燃費を実現していますが、それでも現在のESG基準では「ガソリンを使う問題ビジネス」とされてしまいます。
同様に、5大商社を始めとして、日本企業が高い技術を持ち、幅広く手掛けているLNG(液化天然ガス)ビジネスも既存のESG基準では高く評価されません。
私は、人類が真剣に脱炭素を進めようとするならば、そのプロセスにおいて天然ガス・LNGを積極的に活用することが不可欠だと考えています。脱石炭を急速に進めるための切り札となる、天然ガス・LNG事業をESG基準でもっと高く評価すべきと考えています。
天然ガス市況高騰
世界的に、原油・天然ガス・石炭など、化石燃料の価格が高騰しています。皮肉なことに、世界各国が脱炭素(化石燃料からの離脱)を進める方針を示したことが、これらの価格高騰を招いています。
世界景気回復で需要が拡大する中で、化石燃料の開発や増産が進みにくくなったことが、供給不足・価格高騰を招いています。
天然ガス市況は、以下の通り、推移しています。投機筋の買いで昨年10月に急騰した水準からは下がっていますが、依然として高水準に張り付いています。
ニューヨーク天然ガス先物(期近)推移:2019年末~2022年2月15日
世界各国が脱炭素を進める中で、化石燃料である天然ガスの需要が急速に拡大、市況が高騰していることが戸惑いを生じています。
ただ、こうなることは当然の帰結だったと言えます。脱炭素を進める上で、まっさきに削減が求められているのは石炭です。石炭火力発電を縮小する代わりに、石炭よりCO2排出が少ないガス火力へシフトが急速に進むのは自明です。
特に、世界の石炭消費の約半分を占める中国が、天然ガス・LNGの調達を拡大していることが、ガス市況の高騰につながっています。再生可能エネルギーの拡大には相当長い年月がかかりますから、まず天然ガスが代替エネルギーの中心となることが、はっきりしてきました。
脱石炭は、中国もはっきり意識しています。石炭火力が深刻な大気汚染を引き起こしているからです。国際社会の要求に応えるだけでなく、自国の環境問題を解決するためにも、中国は脱石炭を進める方針です。
「脱石炭」が求められている電力・鉄鋼産業
脱炭素が叫ばれる中、石炭火力発電に対し世界中で急速に風当たりが厳しくなっています。石炭火力への新規融資停止、新規建設停止、さらに将来的には環境税などのペナルティを科す検討が世界中でされています。
石炭使用が大きい産業として電力の次に批判の的となるのが、製鉄業(高炉)です。鉄鉱石から銑鉄を作る際に、還元剤として石炭を使用するため、電力産業とともに問題視されています。
それに対し、日本の高炉(日本製鉄やJFE)はCO2回収を進めますがそれだけでは済まず、将来的に水素製鉄にシフトする方針を打ち出しています。還元剤として石炭ではなく水素を使う製鉄方法です。CO2(二酸化炭素)の代わりに、H2O(水)が排出されるので、クリーンな方法です。
ただし、実現までに、莫大な研究開発費と設備投資費が必要となることが製鉄業の重荷となります。
中国はCO2使用の大きい製鉄業(高炉)を無尽蔵に拡大してきた戦略から転換しつつあります。中国が粗鋼生産の拡大を抑え始めたことが、世界的な鉄鋼市況の上昇につながり、鉄鋼ブームを生んでいます。
中国は高炉の拡大を抑える中で、電炉(くず鉄を電気炉で溶かして再生する製鉄方法)への転換もはかっています。そうなると石炭消費は減りますが、電力の需要は拡大します。それを補うためにもガス火力発電の拡大が必要になります。
自然エネルギーの利用拡大にガス火力が必要な事情
脱炭素を進め、最終的に自然エネルギーだけで人類が使用するエネルギーのすべてをまかなえるようにすることが理想です。それには相当長い年月がかかりますが、私は実現可能と考えています(詳しくは末尾についているバックナンバーの中で解説しています)。
ただし、移行過程で人類はガス火力発電にどうしても頼らなければならない事情があります。
【1】自然エネルギーは気まぐれ、調整電源としてガス火力が必須
自然エネルギー発電の多くは、気まぐれです。太陽光や風力はその典型です。突然大量に発電されたり、まったく発電がなくなったりします。
電気は、保存ができないため、需給調整が難しく、自然エネルギーが電源に占める比率が高くなると、無駄に電気を捨てる問題や、停電が頻発する問題が起きます。
常時、同時同量(発電量と電力使用量を一致させる)を実現するには、自然エネルギーの発電量の変化に合わせて、発電量を増やしたり減らしたりする調整電源が必要です。調整電源として大規模に活用可能なのは、現時点でガス火力発電しかありません。
【2】石炭火力を代替できるのは、当面、ガス火力しかない
地球規模で脱炭素を進めるならば、経済規模がきわめて大きくなった中国やインドが電源の6~7割を石炭火力に頼っている問題を、看過できません。
石炭火力に頼り切っている国で、いきなり自然エネルギー発電を拡大することはできません。まずはガス火力発電を拡大するしかありません。
自然エネルギー発電を拡大する努力が必要なことに違いありませんが、当面は代替電源としてガス火力を使っていくしかありません。
LNGの利用拡大が地球環境にとって重要と考える理由
今の地球上には、まだ活用されずに捨てられている天然ガスが大量にあります。中東の油田では、原油を採掘する際に、出てくる天然ガスを今でも大量に燃やして捨てています。それを、すべてLNG(液化天然ガス)に変えてもれなく活用することが、地球環境にとって重要です。
油田で出てくる天然ガスをパイプラインで運べる範囲だけで使うのでは、もれなく活用することはできません。LNGに変換して、世界中に運ぶ必要があります。ところが、世界中のほとんどの国でそれがまだできていません。
世界では、天然ガスはパイプラインで運べる範囲だけで使うのが普通です。天然ガスをLNGに変換して運び、貯蔵し、使用するのには、かなりの設備投資とコストがかかるからです。ただし、それをやっていかなければ、地球上のガスが無駄に捨て続けられる問題は解決しません。
LNGの活用が進んでいるのは日本や韓国です。特に日本企業は、LNGの技術が進んでいます。今後はLNGおよびガス火力発電で高い技術を持つ日本企業に、大いに活躍の場があると予想しています。
日本の大手総合商社(三菱商事・三井物産など)は、LNG事業で高い実績を持っています。また、日本の大手プラント建設会社(日揮・千代田化工など)は、LNGプラント建設で高い技術と実績を有します。
こうした企業に期待が高まります。投資するならば、経営が安定しないプラント建設会社ではなく、業績が好調で成長性があると私が判断している大手総合商社の方が良いと考えています。
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2022年1月18日:脱炭素&DX、2022年の重要テーマに。2050年までの脱炭素が可能と考える理由
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