(ご質問3)昨年、株式の売却(譲渡で)損失が出ました。どうすればよいでしょうか?

 前回に引き続き、今回も株式投資の税金について、特に重要と思われるものの質疑応答をしていきます。

 ご質問3では株式の売却(譲渡)で損失が出たという話ですが、まず大前提として、売却による利益と損失につき、1年間(1月1日~12月31日の暦年)でトータルして利益だったのか損失だったのかを判定してください。

 その上で、年間トータルで損失だった場合、そもそも損失ですから税金はかかりません。確定申告しなくてもおとがめはありません。

 でも、確定申告をすることで、同じ年に受け取った配当金と損益通算することができます。そのためには売却損と配当金の双方につき確定申告が必要です。配当金は申告分離課税を選択します。

 なお、源泉徴収ありの特定口座で、かつ配当金の受け取り方法を株式数比例配分方式にしている場合は、売却損と配当金を証券会社にて自動で損益通算してくれます。

 それでも残った損失については、確定申告をすることにより、翌年以降3年間にわたり、損失を繰り越して、翌年以降の売却益や配当金と損益通算できます。

 2022年3月15日に申告期日を迎える令和3年分で考えてみましょう。

 令和3年の年間トータルで売却損が出た場合、令和3年に受け取った配当金とまず損益通算ができます。(源泉徴収ありの特定口座かつ株式数比例配分方式の場合は確定申告不要)

 それでも売却損が残った場合、確定申告をすることにより、令和4年~令和6年までの3年間に生じる売却益や配当金と損益通算することができます。

 もし損失の繰り越しをしなければ、売却益や配当金と損益通算できず、その分だけ余計な税金がかかってしまいますから、忘れずに確定申告しておきましょう。

損失の繰り越しについて勘違いしやすいポイントを押さえておこう

 損失の繰り越しについて、とても勘違いしやすいポイントが2つあります。これを知らないと、損失を繰り越したつもりができていない…という悲しいことになりかねませんので、しっかりと押さえておいてください。

(1)源泉徴収ありの特定口座であっても確定申告が必要

 前回、一般口座と特定口座の違いにつき説明した際、源泉徴収ありの特定口座は税金の計算だけでなく、納税も証券会社が行ってくれるので、確定申告不要です、とお伝えしました。

 通常、源泉徴収ありの特定口座の解説をみると、同じような説明になっています。

 ところが、これだけでは大事な点が抜け落ちているのです。確定申告は確かに不要ですが、「損益通算したり損失を繰り越ししたい場合は源泉徴収ありの特定口座であっても確定申告が必要」です。

 結構な数の方が、「源泉徴収ありの特定口座は何でもかんでも全部証券会社が代わりに行ってくれる」と思いこんでいます。そのため、本来はご自身で確定申告しなければならない手続きにもかかわらず、自分ではなにもしなくてよい、と勘違いしてしまうのです。

 源泉徴収ありの特定口座でしてくれるのは、売却損益の計算と納税、そして同じ年に生じた売却損と配当金の損益通算(株式数比例配分方式の場合のみ)だけです。それ以外のこと、特に売却損を繰り越したり、売却益と過去の売却損とを損益通算するためには、ご自身で確定申告が必要になる点は必ず知っておいてください。

損失繰り越しの確定申告は1回だけではダメ?

(2)損失の繰り越しを複数年にわたり行うためにはその都度確定申告が必要

 売却損につき確定申告することで、翌年以降3年間にわたり繰り越して、将来の売却益や配当金と損益通算し、節税につなげることができる…、これはその通りです。

 でも結構な方が勘違いしているのが、売却損が生じた時に確定申告すれば、その後3年間自動的に損失を繰り越してくれる、と思っている点です。実はそうではないのです。

 確かに、例えば令和3年に生じた売却損を確定申告すれば、令和4年に繰り越すことができます。

 しかし、令和4年が終わってもまだ損益通算できない損失が残っている場合、再度確定申告をしないと、令和5年に繰り越すことができないのです。

 同様に、令和5年が終わっても損益通算できず残っている損失については、もう1度確定申告をしないと令和6年に繰り越すことができません。

 損失の繰り越しは3年間にわたりすることができますが、そのためには確定申告を3年間毎年行わないといけない、ということです。

 なお、繰り越すための確定申告を忘れていた…という場合、そもそも確定申告書を提出していないのであれば、更正の請求の手続きにより対応できる可能性があります。しかし、源泉徴収ありの特定口座で生じた損失につき申告を失念し、かつ確定申告そのものは行っているというケースでは残念ながら損失の繰り越しは認められないことになります。

 損失を繰り越すときは毎年確定申告を忘れずに行うようにしましょう。

(ご質問4)損益通算の確定申告をすることによって配偶者控除や扶養控除、国民健康保険料などにマイナスの影響を及ぼすことがあると聞いたのですが本当ですか?

 例えば令和2年から繰り越してきた売却損が残っていて、この売却損と令和3年に生じた売却益や配当金を損益通算するときには、確定申告が必要となります。

 これにより、売却益・配当金と損益通算できた売却損の20.315%の税額が還付されることになります。

 ところがその一方で、損益通算のために売却益や配当金を確定申告することによって所得が増加すると、本人や家族の配偶者控除や扶養控除が適用されなくなったり、国民健康保険料の金額がアップしてしまうという側面もあるのです。

 実際に、損益通算のために売却益や配当金を確定申告した方が有利なのか、あえて確定申告しない方が有利なのかは人それぞれケースバイケースです。

 したがって、事前にシミュレーションを行い、有利な方を選択するようにしましょう。

 中には、所得税は売却益や配当金を確定申告した方が有利だが、住民税は確定申告しない方が有利、という場合もあります。その場合は、所得税だけ確定申告して住民税は申告不要を選択する、ということもできます。

 なお、上記において、売却益を確定申告するかどうか選べるのは源泉徴収ありの特定口座の場合のみです。源泉徴収なしの特定口座や一般口座での売却益はそもそも確定申告が必要となっていますので、選択の余地はありません。

※本コラムは株式投資の税金についての一般的な取り扱いについて取り上げています。個々の置かれている状況によっては、これとは異なる取り扱いとなる可能性もありますので、税理士や税務署などへご相談のうえ実行されることをお勧めします。本コラムを参考にして実行された結果不利益を被った場合、筆者および楽天証券は一切の責任を負いませんのでご了承ください。