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年明けからはグロース株売りの流れが鮮明化、日経平均も調整色強める

 直近1カ月(2021年12月17日~2022年1月14日)の日経平均株価は1.5%の下落となりました。12月20日に一時2万8,000円を割り込んで以降は切り返しに転じ、年明け早々には一時2万9,388円まで上昇しました。

 ただ、その後は売りが優勢となり、1月14日には一時、昨年12月20日の安値水準を割り込む状況となっています。また、同期間はマザーズ指数の下げがきつく、同指数の下落率は12.3%に達し、2020年5月以来の安値水準となっています。

 昨年12月半ばにかけての調整は、英イングランド銀行が予想外の利上げに踏み切るなど主要国の金融引き締めの動きが警戒されたこと、新型コロナウイルス変異株「オミクロン型」の欧米での感染急拡大が懸念視されたことなどが背景です。

 その後は、オミクロン株の重症化率は低いとの見方も強まったことで過度な警戒感が後退、新年相場への期待感も重なって、年明けにかけては戻りを試しました。

 しかし、年が変わって以降、グロース株売りの流れが鮮明化し、日経平均も急速に崩れる展開となっています。

 12月開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨が明らかになると、FRB(米連邦準備制度理事会)のタカ派姿勢が強く意識されることになり、米長期金利の上昇を通じて、日米ともにグロース株が大きく売り込まれる状況となっています。

 この期間の下落率上位銘柄は、Sansan(4443)SHIFT(3697)JMDC(4483)メルカリ(4385)など、PBR(株価純資産倍率)をはじめバリュエーション水準の高い中小型株が多くを占めました。

 主力大型株においても、キーエンス(6861)エムスリー(2413)など、グロース株の代表格が大きく売り込まれる局面が見られました。これらはあくまで個別材料ではなく、グロース株売りといった需給面が影響したものといえます。

 個別では、連日のストップ安を演じるなどレノバ(9519)が急落しました。期待された風力発電プロジェクトの受注失注がネガティブサプライズとなり、成長期待が大きく後退したようです。

 小売企業の決算発表も本格化しましたが、ウエルシア(3141)イオン(8267)ローソン(2651)などがマイナス視されました。

 一方、T&DHD(8795)ふくおかFG(8354)かんぽ生命(7181)など金融関連株は、米長期金利の上昇を手掛かりに買い優勢となりました。また、グロース株からバリュー株への資金シフトも強まり、商船三井(9104)JFEHD(5411)日本郵船(9101)などの高配当利回り株も上昇しました。

 ほか、バリュー株では出遅れ感があった三菱重工業(7011)の連日の上昇、円安メリット期待による年明けにかけてのトヨタ(7203)の上昇なども目立ちました。

短期的にリバウンド余地も、日本株の相対的なアウトパフォームは期待しにくい

 金融政策正常化に向けた動きの加速化懸念を背景に、2022年に入ってからはグロース株売り・バリュー株買いの流れが鮮明化しており、グロース株の動向が反映されやすい日経平均も調整基調を強めてきています。

 現在では、米国の年内利上げ回数は4回程度との織り込みも進んでいるため、いったんはあく抜け感が強まりやすい状況でしょう。

 1月26日にFOMCの結果発表がありますが、バランスシート縮小の早期化が意識されるなど、さらなる加速化への懸念が強まらない限りは、リバウンドに転じていく可能性もあるでしょう。

 ただ、実際に3月以降の利上げ局面に入った際の株価への影響は読み切れない面もあります。現状では押し目買いからの短期戻り売りスタンスが優位と感じられます。

 日本株に関しては、米国株の動向が引き続き大きく影響するとみられますが、相対的な株価パフォーマンスに関しては低調なものになると考えます。

 グローバル投資家が日本株に比重を置く可能性は低いとみます。今夏に参院選を控えることで、岸田政権では新型コロナウイルス感染抑制に政策の重きを置く公算のため、経済活動抑制策に対する警戒感などが目先は拭えないでしょう。

 また、株価動向次第では、参院選後に金融所得課税強化などの議論が高まる可能性も意識されるため、急騰場面では過熱警戒感なども高まりやすいといえます。

 ほか、北京五輪を控える中国でも厳しいコロナ対策が行われており、短期的に中国経済指標の悪化要因となります。中国景気の動向も、米国株と比較した日本株のパフォーマンス悪化要因となるでしょう。

 今後1カ月間における、個別物色の最大の注目点は10-12月期の決算発表となります。2月決算の安川電機(6506)などは景気敏感株の先行指標となりますが、受注自体は好調だったものの、半導体不足などによる供給不安が警戒される形となっています。

 国内主要企業の決算も引き続き、半導体不足の影響、インフレによる材料費の上昇などが焦点となります。とりわけ、半導体調達不足の影響が期待通り解消されたのかなど、自動車株が最も注目されるとみられます。

 半導体関連に関しては、好調な需要状況は継続とみられますが、台湾TSMCの設備投資計画にポジティブな反応が限定的だったことが懸念材料です。ポジティブ材料への反応が鈍ってきている印象も受けます。

 海運や鉄鋼などのバリュー株は、ガイダンスが保守的となる懸念もありますが、そこで売られた場面は押し目買いの好機と捉えたいところです。食品や建設セクターなどはインフレによる原材料費上昇が決算に対してネガティブに影響してきそうです。

グロースからバリューへの資金シフト鮮明化で出遅れのバリュー株に注目

 年明け以降はグロース株売り・バリュー株買いの流れが強まっています。短期的にはグロース株の突っ込み警戒感もありますが、インフレ進行の沈静化は足元でもみられず、FRBのタカ派姿勢も日増しに強まっている印象です。

 こうしたなか、直近ではバリューの大型株と位置付けられる三菱重工(7011)が連日の上昇となるなど、グロース株売りの裏でバリュー株買いの動きも観測されています。

 昨年末の株価はコロナ・ショック急落時とほぼ同水準など、主力株の中では極めて出遅れ感も意識されていた銘柄であり、バリュー株の出遅れとして注目されたものとみられます。

 バリュー株と位置付けられる高配当利回り銘柄の中でも、出遅れ銘柄には循環物色の動きが強まる可能性もあるでしょう。

 下表は、配当利回りが3.5%以上の高配当利回り銘柄の中で、比較的株価の出遅れ感が強いとみられる銘柄群になります。基準日はコロナ・ショックによる株価急落時、2020年3月19日としています。

 この期間、日経平均は約7割の上昇となっています。表中の銘柄はこの上昇に全く乗れていない銘柄ということができます。

 また、よりバリュー色の強い銘柄として、PER(株価収益率)、PBRなどからの割安感も強い銘柄を選定しています。今後もグロースからバリューへの資金シフトが一段と進んだ場合、見直される余地の大きい銘柄と考えます。

株価に出遅れ感の残る高配当利回りのバリュー銘柄

コード 銘柄名 配当
利回り
株価 時価総額 株価
騰落率
PER PBR
9513 電源開発 5.02 1,495 2,737 -24.2 9.1 0.34
9508 九州電力 4.67 856 4,059 1.2 9.4 0.73
5711 三菱マテリアル 3.82 2,093 2,752 3.7 7.4 0.50
3401 帝人 3.72 1,479 2,928 -5.6 8.1 0.70
8282 ケーズHD 3.59 1,114 2,507 -11.5 3.6 0.84
注:配当利回り、株価騰落率の単位は%、時価総額の単位は億円。PER、PBRの単位は倍。株価は2022年1月14日終値、単位は円。
注:株価騰落率は2020年3月19日終値比。

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.5%以上(2022年1月14日終値ベース)
  2. 2020年3月19日終値比での株価騰落率が5%未満
  3. PBRが1倍未満
  4. PERが10倍未満
  5. 時価総額が1,000億円以上

電源開発(9513・東証1部)

どんな銘柄?

 全国に約100カ所の発電所を保有、運営して、国内電力会社などに販売しています。発電設備の出力は約1,800万kwとされています。発電設備約2,500万kwのうち、約3割が海外となっています。

 2004年に完全民営化を果たした企業となります。電源は石炭火力や水力が中心で、現在は、風力やバイオマスなど再生可能エネルギー電源の新規建設を積極化させています。大間原子力発電所の建設工事本格再開を目指しています。

業績見通し

 2022年3月期上半期経常利益は266億円で前年同期比44.9%減益となっています。また、通期予想は従来の500億円から410億円、前期比43.4%減に下方修正しています。

 火力の燃料費の増加や卸電力取引市場からの電力調達価格の上昇、一部発電所の設備トラブルの影響などが響く形になっています。

 年間配当金は据え置きで、前期比横ばいの75円を計画しています。

ここがポイント

 期間内の株価パフォーマンスは電力株の中でワースト2となっています。業績下方修正や石炭価格上昇の影響が警戒材料とされる形になっています。

 ただ、国内火力発電所の稼働正常化に伴い、2023年3月期の業績は回復する公算が大きく、それに伴う増配の可能性もあるとみられます。

 今期ベースでの配当利回り水準は電力セクターの中でも最も高く、バリュー株物色の流れ継続の中で、見直し局面も近づいていると判断します。全国2位の規模を誇る風力発電など、再生可能エネルギー事業の展開力も折に触れて注目されるでしょう。

九州電力(9508・東証1部)

どんな銘柄?

 九州地方に電力を供給する電力大手の一角です。グループでの年間総販売電力量は858kWhとなります。2021年3月現在の発電設備は190カ所で、ほか、九電みらいエナジーで手掛ける再エネ発電設備は27カ所(2021年3月時点)となっています。

 原子力発電所は川内原子力発電所で2基、玄海原子力発電所で2基が再稼働済みとなっています。再生エネルギーや原子力の活用によって、同社はゼロエミッション・FIT電源(固定価格買取制度で買い取られる電気をつくる再生可能エネルギー源)の比率が大手電力会社の中でも高くなっています。

業績見通し

 2022年3月期上半期経常利益は657億円で前期比20.3%減益となっています。燃料価格上昇による購入電力量の増加、原子力バックエンド費用の増加などが減益要因となりました。

 通期は700億円で前期比26.9%増益の予想となっています。1-3月期は前年同期が大幅な赤字であったため、通期では増益転換の見通しです。原子力発電所の稼働増による利益率の向上が寄与する格好です。

 年間配当金は前期比5円増配となる40円を計画しています。

ここがポイント

 期間中の株価パフォーマンスは電力セクターの中でも底堅い部類となりました。それでも、配当利回りは電力セクターの中で3番目に高水準となっています。

 国内の原発で稼働中の炉は9基ですが、そのうち4基は同社であり、燃料価格が上昇する中で、今後も競争の優位性が保たれるものとみられます。

 2023年3月期は、玄海原発の特定重大事故等対処施設の完成が期限に間に合わない可能性なども指摘されており、短期的な業績のリスク要因とはなりますが、脱炭素化に向けた動きが進んでいることも評価点で、セクター内では選別物色の対象になり得そうです。

三菱マテリアル(5711・東証1部)

どんな銘柄?

 非鉄金属業界の最大手企業、チリやカナダで銅鉱山の権益を保有しています。1トン=100ドルの変動で、8億円程度の経常利益変動要因になると試算されています。

 ほか、電子材料などの銅加工品、超硬工具、セメント、リサイクルなど、事業の多角化も進んでいます。伸銅品販売、超硬工具売上、セメント生産能力、家電リサイクル処理量などは国内でトップの実績を誇っています。

業績見通し

 2022年3月期上半期経常利益は382億円で、前年同期比2.3倍の水準となっています。上半期決算と同時に通期予想を修正しており、経常利益は従来の560億円から590億円、前期比32.5%増に上方修正しています。

 銅やパラジウムなど金属価格の上昇、半導体関連および自動車関連製品の販売数量増などが増益に寄与しました。

 年間配当金は前期比30円増の80円を計画していますが、一時的な収益増に対応する特別配当30円を含んでいます。

ここがポイント

 同期間における株価パフォーマンスは、非鉄市況の上昇を手掛かりに住友金属鉱山(5713)三井金属(5706)UACJ(5741)東邦亜鉛(5707)などが倍加したのに比べて、極めて低調な推移となっています。

 2020年3月期における大幅な特損計上などが尾を引いたほか、多角化分野の伸び悩みで業績変化率が相対的に限定的だったことが影響しました。

 ただ、2023年3月期は、市況反動安局面が想定されるため、他の非鉄大手との比較での業績の底堅さが意識されるとともに、出遅れ感に関心が向かう可能性も高いと考えられます。

帝人(3401・東証1部)

どんな銘柄?

 合成繊維の大手メーカーです。炭素繊維では世界第2位の位置づけ、世界で初めて熱可塑性炭素繊維複合材料の量産技術を確立しています。痛風治療薬などの医薬品、電子材料やリチウムイオン電池向けセパレータなども手掛けています。

 2017年1月には、自動車向け複合材料製品を展開する米Continental Structural Plastics Holdings Corporationを買収しました。配当性向は30%を目標としています。

業績見通し

 2022年3月期上半期営業利益は315億円で前年同期比1.2%増益となりました。通期計画は600億円で前期比9.2%増を見込んでいます。年間配当金は前期比5円増配となる55円を計画しています。

 第1四半期37.1%増益と比較して上半期増益率は縮小していますが、主因は複合材料製品を展開する米社の伸び悩みです。

 半導体不足による自動車減産の影響に加えて、原材料費や人件費上昇などのコストアップがかさんできているようです。販売価格への転嫁がいかに進んでいくかが今後の焦点となるでしょう。

ここがポイント

 昨年の株価は大幅なアンダーパフォームとなりました。複合成形材料を手掛ける米社の伸び悩みに加えて、痛風治療剤の国内特許切れによる来期・再来期の業績伸び悩みなどを織り込む動きとなったようです。

 ただ、PBRで0.7倍割れ水準にまで売り込まれ、当面の収益低成長はある程度織り込まれたとも考えられます。今後の自動車生産の正常化に加えて、新型コロナ感染一巡による航空機需要の回復期待などが高まる場面では、株価の見直し余地も大きくなると考えられます。

ケーズホールディングス(8282・東証1部)

どんな銘柄?

 家電量販店大手の一角です。デンコードーなども子会社に抱えます。北関東地盤に2021年9月末で525店舗を全国で展開しています。

 家電量販店業界内においては、収益性の高さが特徴となるほか、財務体質も良好であり、今期まで4期連続で自社株買いを実施しています。

 2021年10月には配送・工事業務を手掛けるサワハタキャリーサービスを買収、安定かつ効率的な体制構築を図っています。

業績見通し

 2022年3月期上半期営業利益は219億円で前年同期比30.7%の減益となっています。巣ごもり需要拡大などによる前年同期の高いハードルの反動に加えて、夏季の天候不順もエアコン販売などに影響したもようです。

 通期予想は445億円で前期比14.0%減益、期初から変更していませんが、足元の月次動向からみて、やや下振れ懸念が残ります。

 年間配当金は前期並みの40円計画となっています。

ここがポイント

 巣ごもり需要増の反動による既存店売上伸び悩み、東京五輪開催効果への期待一巡などもあって、足元の株価は低調な推移となっており、少なくても4月までは既存店の高いハードルが続きます。

 ただ、アナリストコンセンサスなどからみて新年度業績への期待感はすでに低下しており、2022年3月期決算発表に向けてはあく抜け期待などが高まりやすくなるでしょう。

 高い配当利回りに加えて、継続的な自社株買い実施を想定すれば、押し目買い局面は近いと判断されます。