ジョージ・ソロス氏は全世界の信用危機について、「すでにピークに達している。現在、金融システムはすでに自浄作用を発揮、回復を始めている」と指摘しているが、筆者も同じ認識だ。ただし、実体経済が悪化していくのはむしろこれからであろう。今後、雇用や企業業績の悪化は避けられない。先陣をきって中国が総額4兆元(約57兆円)の景気刺激策をアナウンスメントしたが、この先、世界中が財政拡張政策を採用することになるだろう。

ポールソン米財務長官がこれまでの金融救済策の柱となっていた住宅ローン担保資産の買取り計画を放棄し、現在対象でないノンバンクへの資本注入拡大を検討すると発表したことで、金融市場の不確実性や不安感を高めることになったと非難されているが、これは出来レースであろう。住宅ローン担保資産の買取り計画は7000億ドルの金融安定化法案を通すための方便であったと思われる。現在の金融不安を解消するためには資本注入が必要なのであって、不良資産の買い取りなどをやっていてはいくら予算があってもすぐに足りなくなってしまう。

FRBはAIGに対し9月16日に850億ドルの融資枠を供与したが、これでは足りずに10月9日には380億ドル上積みした。このように損失が膨らんでいる理由は株価の下落でCDS(企業倒産に対する保証・保険のデリバティブ商品)や合成CDO(CDSを組み込んだ資産担保証券)の損失・追加担保が拡大しているからである。現在、なにを優先して資本注入が行われているかというと、それはCDSを決済させないことにある。おかしなことにCDS関連の損失を被った金融機関や会社の損失額はほとんど発表されておらず、米決済機関のデポジトリー・トラスト・アンド・クリアリングが11月4日に発表したCDS市場に関するリポートでも真相はあきらかにされていない。NY連銀は「CDS契約の取引価格などを含め一段の情報開示を目指していく」とコメントしているが、公表が噂されている4Q(第4四半期)の決算でも損失が明らかになるのかどうかはわからない。GMやフォードの問題もCDSがからんでいるだけに神経質な問題となろう。相対取引のためCDS関連の損失を抱えている会社と損失額がわからず、米国の金融株は頭の重い展開となっている。今後の相場は各国の政策対応と実体経済悪化のせめぎあいとなろうが、疑心暗鬼の続いている金融機関の決算発表スケジュールは頭に入れておきたい。


(出所:ブルームバーグ、石原順)

さて、実践的な相場の話に移ろう。相場は観測する時間の尺度によって強気にも弱気にもなる。以下のチャートはドル/円の月足と20カ月移動平均線のチャートである。20カ月移動平均線の攻防が変動相場制以来のドル/円相場の方向性を決定してきたが、月足の終値が20カ月移動平均を割り込んだのは2007年 8月の115円97銭からである。月足という長期タームでみると、この時点からドル/円相場は円高周期に入った。

ドル/円(月足)20カ月移動平均線とボリンジャーバンド


(出所:石原順、ブルームバーグ)

現在のドル/円相場の月足は20カ月のボリンジャーバンドのマイナス3σ(シグマ)に接近しており、相場のリバウンド(アヤ戻し)があってもおかしくないところまでドル売りが進んでいる。過去の相場ではドル高であれドル安であれ、3σに接近あるいはタッチすると(黄色の部分)いったんは相場の反転をみている。したがって、マイナス3σに接近している現在の局面ではドルの戻り売りスタンスが基本で、追っかけてドル売りを行うことは確率的に分が悪いと思われる。

中期タームのテクニカル指標である26日の変動率や14日のADXでドル/円相場を観測すると、相場はランダムネス(無秩序)な動きをする時間帯にある。簡単にいうと現在の相場は方向性をもっていないということになる。

ドル/円(日足)と26日の変動率 変動率は低下傾向
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)と14日のADX 相場の方向性は低下中
方向性のある期間(黄色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

筆者は上記のような手法に基づいて「相場の方向性(トレンド)の有無」を重視する。相場が方向性を持っていない期間では、筆者は逆張りを行う。相場で儲かるか、損をするかはやってみないとわからないが、確率に賭けるということである。

豪ドル/円(日足)と26日の変動率 変動率は低下傾向
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

上記のチャートは豪ドル/円(日足)と26日の変動率である。相場の変動率は低下しているものの、クロス円の場合は変動率がまだ相対的に高すぎる。したがって、この高変動率に対応するにはレバレッジを下げることが必要であろう。

1時間足という短期タームでみると、中期タームと比較した場合の相場の方向性は、いくぶんはっきりしている。現在のような高変動率相場はデイトレードにとっては好ましい状況と言えるだろう。デイトレードの手法と相場の方向性の認識については、「相場予測というゲームと資産管理という現実」で紹介しているので、そちらを参照されたい。

ドル/円(1時間足)ボリンジャーバンド1σの外側での相場と移動平均線の傾き


(出所:楽天証券、石原順)チャート画面は11月14日 AM:6:00現在のもの

豪ドル/円(1時間足)ボリンジャーバンド1σの外側での相場と移動平均線の傾き


(出所:楽天証券、石原順)チャート画面は11月14日 AM:6:00現在のもの

ユーロ/円(1時間足)ボリンジャーバンド1σの外側での相場と移動平均線の傾き


(出所:楽天証券、石原順)チャート画面は11月14日 AM:6:00現在のもの

筆者は、
(1)相場がボリンジャーバンド1σの外側で取引されている。
(2)移動平均に大きな傾きがある
という2つの条件がそろえば、相場は方向性を持っていると仮定して取引を行っている。取引のメインに使っているタイムフレーム(時間のパラメータ-)は【1時間足】である。(相場の方向性の認識手法の一例にすぎず、決して将来の収益を保証するものではないのでご注意を!)

楽天FXチャート ボリンジャーバンドの周期とσのカスタマイズ設定


(出所:楽天証券、石原順)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2008年11月13日まで)

ドル/円およびクロス円市場は“円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する”という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間では円の売り放置やキャリートレードはリスクが高くなる。ATRは過去に見ないような高い変動幅を記録しており、現在は平時よりもリスクの高い局面であることに注意していただきたい。

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:楽天証券、石原順)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:楽天証券、石原順)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:楽天証券、石原順)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:楽天証券、石原順)