最初に結論を申し上げます。私は、株式投資は最初「高配当利回り株」から始めた方が良いと思っています。優待投資は使い方を間違えなければ魅力的な制度だと思いますが、初心者には間違えた使い方をして優待投資で失敗する例が多いので、注意が必要です。
使い方を間違えなければ「優待狙い」も良い
日本には「株主優待制度」という、世界でも珍しい制度があります。上場企業が株主に感謝して贈り物をする制度です。
本来、株主には配当金を支払うことで利益還元するのが筋です。しかし、日本の個人株主の一部に、お金(配当金)をもらう以上に贈り物(株主優待)を喜ぶ風潮があることから、株主優待という制度が存続しています。
小売・外食・食品・サービス業では、個人株主がそのままお客さま(自社製品の購入者)になることもあるので、広告宣伝活動の一環として自社製品を優待品に積極活用する企業が多数あります。とても魅力的な制度なので、積極的に活用すると良いと思います。
株主優待を積極的に活用した方が良いと考える理由は3つあります。
【1】優待品(サービス)と配当金が両方もらえる
優待品(サービス)とは別に、配当金ももらえるので、お得感があります。
【2】優待投資家は、良い意味でも悪い意味でも株価を見ない人が多い
ひんぱんに投資した銘柄の株価を見て一喜一憂するのは精神衛生上あまり良くありません。あまりひんぱんに株価を見ていると、ちょっと値上がりしただけでもちょっと値下がりしただけでも売りたくなり、じっと腰を落ち着けて長期投資ができません。
優待投資家は、いい意味で株価を見ていないので、株価変動に余計なストレスを感じることなく、じっくり長期投資できることがあります。ただ、優待投資で株価を見ないのが問題となることもあります。それについては後述します。
【3】株主優待制度は、小口投資の個人投資家を優遇する内容である
株主優待制度は、個人投資家を優遇する内容となっています。そのため、機関投資家には、株主優待制度に反対しているところが多数あります。
優待制度はほとんど、小口投資家(主に個人投資家)に有利、大口投資家(主に機関投資家)に不利な内容となっています。以下は、典型的な優待の一例です。
◆A社の優待内容
期末の株主名簿に記載されている株主に以下の自社製品を送る。
上記の優待内容から、100株当たり、どれだけの金額の優待を受けられるかを計算したのが、以下の表です。
ご覧いただくと分かる通り、100株当たりの経済メリット享受額は、最小単位(100株)を保有する株主が1,000円で最大です。保有株数の大きい株主は、100株当たりの優待受け取りが小さくなります。
つまり、株主優待制度は、少額投資の個人株主を優遇するものであることがわかります。
個人株主数を増やしたい上場企業が、優待制度を積極活用して、個人株主にアピールしているわけです。したがって、少ない資金で効率的に優待を取ろうと思う個人投資家は、投資の最小単位である100株ずつ、なるべく多くの優待銘柄に分散投資するのがお得です。
優待投資の3大失敗
ただし、気をつけるべきリスクもあります。今日は、優待投資でよく聞かれる以下3つの失敗談を避けるための知恵を解説します。
- 業績や財務に問題のある銘柄に投資。株価下落
- 優待券を使わないうちに、いつも有効期限が切れる
- 優待しか見ない、高配当利回り株を完全に無視
【失敗談1】業績や財務に問題のある銘柄に投資。株価下落
一番よく聞く失敗談は、業績や財務に問題のある銘柄に投資して、株価が下がってしまったという話です。株主優待目当てで株式投資を始める方には、良い意味でも悪い意味でも、あまり株価や業績を見ない方がいます。
人気優待銘柄には、小売り・食品・サービスなど消費関連株が多数あります。消費関連株には、過去10年、アジアや国内で売上を伸ばし、株価が大幅に上昇した銘柄が多数あります。
優待の魅力で投資して、「気が付かないうちに、株価が2倍以上になっていた」という話もよく聞きます。それが、良い意味で株価を見ないということです。イオン(8267)や日本マクドナルドHD(2702)がその例です。
イオン株価月次推移:2010年1月~2021年12月(10日)
日本マクドナルドHD株価月次推移:2010年1月~2021年12月(10日)
同じ話の裏表ですが、業績も株価も見ていないうちに、株価が大幅に下がっていたということもあります。
消費関連の人気優待銘柄には、昨年のコロナ禍で大きなダメージを受けたところが多数あります。特に外食業は、甚大なダメージを受けています。構造不況に陥り、財務に不安が出ている銘柄は、売却すべきと思います。
ただし、コロナ禍で一時的に利益が悪化している銘柄は、売る必要がありません。コロナが収束すれば元の元気企業に戻る、と判断できる銘柄はそのまま継続保有しましょう。一時的に収益が悪化し株価が下がっているだけならば、売るより買いの機会を探すべきです。
と言われても、「一時的に悪化しているのか構造的にダメになっているのか、どうやって判断したらいいかわからない」という方が多いかと思います。以下のような基準をもって損切り売却の判断をするのも、リスク管理上、大切な知恵です。
【1】株価が買い値より20%以上、下がったら売却
株価が買い値より20%以上、下がるということは、一時的ではなく何か構造的な問題を抱えている可能性もあります。20%の損切りルールを持っておけば、半値になるまで放っておくという失敗をせずに済みます。
もちろん、20%下がったところが大底で、そこから反発する銘柄もあります。そういう時は「売らなければ良かった」と、後悔する人もいるでしょう。
しかし、私はファンドマネジャー時代、損切りしてから株価が反発しても、後悔することはありませんでした。20%下がってそこから反発する銘柄よりも、20%下がってそこから下げが加速する銘柄の方が、はるかに多かったからです。
20%も下がる銘柄を買ってしまったということは、買う時点で、何か重大な判断ミスをしていた可能性が高いということです。いったん売却し、頭を冷やしてから、別の有望銘柄を見つけて投資した方が良い結果につながることが多いと言えます。
【2】財務に不安が出た銘柄は、問答無用で売り
景気悪化局面で業績が悪化し、株価が下がっているだけならば、一時的な問題と考えられます。景気が良くなれば、また業績も株価も回復するとみることができます。
ただし、業績だけでなく財務も悪化し、資金繰りに不安が出ている場合は、問答無用で売却した方が良いと言えます。
「政府系金融機関が支援を検討」「銀行から派遣されている役員が辞職して引き上げた」「資金繰りが困難」などのニュースは、財務に問題が出たことを示します。そういう銘柄は売却するべきと考えます。
と言われても、そんな難しい判断はできない、という方も多いかと思います。そういう場合は、【1】のルールで売却すれば良いと思います。財務に不安が出る銘柄は20%以上株価が下がることが多いので、それで売却判断ができます。
【3】優待廃止、減配など発表したら、売り
一時的に業績が悪化しているだけならば、日本企業はなるべく配当や優待を維持しようとします。ところが、構造的に収益が悪化、あるいは、財務に不安が出た場合は、優待廃止・減配に動くことがあります。
大量に人員削減を始める企業も、要注意です。日本企業は、一時的に業績が悪化しても、雇用だけは何とかして守ろうとするからです。
人員削減に動く企業は、優待廃止や減配をすることが多いと考えられます。従業員に痛みを強いる中、株主への還元は維持するというわけにはいかなくなることが多いのです。
【失敗談2】優待券を使わないうちに、いつも有効期限が切れる
人気の優待券に、外食業の「食事券」があります。有効期限1年と定められていることが普通ですから、使わずに失効してしまえば、メリットを得られません(今はコロナ禍の特例で有効期限を延長する企業もあります)。
人気の株主優待券ですと、ネット上、あるいはチケットショップで売却できる場合もありますが、かなり割引されます。
500円の食事券が400円で売れれば、良い方です。500円の券が300円、あるいは、250円でしか売れないこともあります。あまり人気のない優待券は、買い取りするチケットショップがないこともあります。
人気の株主優待割引券でも、有効期限までの期間が短いと、売れないことがあります。使うあてがない場合は、早めに売却した方がいいと思います。
いつも優待券を使わないうちに失効させてしまう方は、自社製品(食品や飲料の詰め合わせ)などを送ってくる優待に切り替えた方が良いかもしれません。製品を送ってくる優待ならば、メリットを取り損なうことがないと言えます。
【失敗談3】優待しか見ない、高配当利回り株を完全に無視
日本の個人投資家に、配当金よりも贈り物(株主優待)を好む傾向があります。ただ、それも度が過ぎると、非合理な行動につながります。
株主への利益還元は、本来は配当金支払いによって行うのが筋です。配当金と、株主優待を総合して、メリットの大きいところを選ぶべきです。
2,000円相当の食料品(株主優待)と配当金1,000円(合わせて3,000円相当)が得られる会社を歓迎し、同じ投資金額で8,000円の配当金(源泉税約2割を差し引くと約6,400円)を払う会社を避けるといった、非合理な行動をしていないか考えてみてください。
株主優待ばかり見ている方は、一度、優待はないが安定的に高い配当利回りの出ている銘柄に投資することも考えた方が良いと思います。
配当利回りが安定的に高く、かつ、優待も魅力的な銘柄は理想的です。
KDDI(9433)は予想配当利回りが3.7%(1株当たり配当金125円、株価3,334円:12月10日時点)と高く、3月末の株主にカタログギフトの優待品を贈呈します。財務内容が良好で収益基盤が堅固で、長期投資する価値が高いと判断しています。
なお、配当利回りの高いオススメ銘柄については、以下「著者おすすめのバックナンバー」をご参照ください。
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