「風評被害」に耐えたプラチナ

 今回から3回にわたり、来年の相場見通しを書きます。1回目の今回は「プラチナ」です。

 プラチナ相場は、2015年9月に発覚した、ドイツ自動車大手「フォルクスワーゲン」のスキャンダルを機に、プラチナの主用途である自動車排ガス浄化装置向け需要が減退するとの思惑が支配的になり、数年間にわたり、低迷を余儀なくされました。

 同需要の減少が、需給統計で示されていないにもかかわらず、です。あるアナリストは、このような、統計無視・思惑主導の価格推移を、「風評被害」と言いました。同感です。「風評」で下落したプラチナ相場に、同情を禁じ得ません。

 フォルクスワーゲン・スキャンダル発覚→プラチナ需要減→価格下落、という流れが分かりやすかったことが、プラチナ相場を長期低迷に追いやったわけです。「複雑なことは誤り」「わかりやすいことが良い」という社会の風潮も、下押し圧力となったと考えられます。

 こうした値動きを経ても、ぐっと歯を食いしばって底堅く推移し、価格反発の予兆が見え始めたプラチナ相場は、2022年、どのように推移するのでしょうか。

図:プラチナと金の価格推移(年間平均) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグより筆者作成

2022年は「コロナ・脱炭素」の「3年目」

 前回の「金(ゴールド)・原油の、2022年の相場予想の前提」で述べたとおり、2022年は、「歴史的な社会的構造変化の3年目」であると、筆者は考えます。

「新型コロナ」と「脱炭素」の本格スタートが、2020年であり、2022年はその3年目だからです。

 今後、超長期的には、元年以前から存在していた諸事象と、元年以降に目立ち始めた諸事象による相乗効果で、世界(小規模な社会を含む)は、「効率的消費・理性重視・格差是正・低リスク社会の模索」、「新しい常識の創造」に進むと考えられ、2022年はその序盤、ということです。

図:2022年をはさんだ大局的な社会的変化

出所:筆者作成

 このため、2022年は、2020年、2021年と同様の、以下のような事象が発生する可能性があります。

図:長期視点の考察で得られた、2022年も起き得る事象(2021年の踏襲)

出所:筆者作成

 また、事態が「加速」していることを考えれば、2021年よりも2022年の方が、各事象がもたらす市場への短期的なインパクトが強くなることが想定されます。

 前例があるから適切に対応できる(大きな混乱は起きない)、という考え方もあるかもしれませんが、元年に発生した「脱炭素」「新型コロナ」はまだ黎明期・過渡期にあります。このため、前例をもとに迅速に対処することは、2021年と同様、難しいと考えられます。

 例えば、人類はまだ、新型コロナの変異株が発生した時の対処法を確立できておらず、変異株が発生するたびに、市場が急変し、その度合いは増しています。こうした例は、同じ事象が起きても、それらから受けるインパクトは、2021年よりも大きくなる可能性があることを示唆しています。

多くの時間帯で、上昇圧力は下落圧力に勝る

 前ページで、2022年の前提となる考え方を述べました。この考え方を参照し、2022年のプラチナ市場を巡る動きについて、考えます。以下は、筆者が考える2022年のプラチナ市場の環境です。

図:2022年のプラチナ市場の環境(筆者予想)

出所:筆者作成

 2022年は、ほぼ常に、下落圧力と上昇圧力の両方が存在すると考えます。とはいえ、拮抗(きっこう)したままではなく、どちらかといえば、上昇圧力が勝る時間帯の方が、長くなると考えます。2022年が「コロナ・脱炭素」が本格化して間もない3年目であることが、大きな要因です。

 下落圧力となる要素には、「脱炭素」ブームによって、ガソリン車やディーゼル車が否定され、排ガス浄化装置向けの貴金属の需要が減少する懸念が生じること(あくまで懸念)、コロナの変異株が新たに確認されるなど、突発事象により株価が下落することが挙げられます。

 一方、上昇圧力となる要素には、「コロナ」が、鉱山生産を減少させる懸念を生むきっかけとなること、「脱炭素」が、「水素社会」にプラチナが貢献する期待を高めることなどが、挙げられます。

 2022年は、上記のような上昇圧力と下落圧力が継続する中で、比較的、上昇要因が勝る時間帯の方が長くなる可能性があり、その結果として、価格上昇が見られると、考えます。

本格的な「ディーゼル否定」には至らない

 2015年のフォルクスワーゲンのスキャンダル発覚により、プラチナ価格が急落すると考えられたのは、プラチナの主な用途が、自動車の排ガス浄化装置向けであるためです。当時、同スキャンダル発覚が、プラチナの当該需要を急減させると、多くの人が考えました。

図:自動車1台あたりに使用される、排ガス浄化装置向け貴金属の量

出所:ジョンソンマッセイおよびOICAのデータより筆者作成

 ただ、上図のとおり、自動車1台あたりに使われる排ガス浄化装置向け需要は、2015年以降、増加しています。

 環境保護先進国の集団である欧州だけでなく、米国、日本、中国などの主要国は、断続的に、排ガス規制を強化しています。各国は、自らに課した厳しい規制に対応すべく、排ガス浄化装置の性能を向上させる必要に迫られていると、考えられます。

 その結果、1台あたりに使用される貴金属の量が、増加していると考えられます。自動車の生産台数が減少したからといって、必ずしも、プラチナの当該需要が減少することにはならないのです。「脱炭素」3年目の2022年も、排ガス規制の強化の流れが継続することから、当該需要は、増加する可能性があると、筆者は考えます。

2022年も需給バランスは引き締まるか

「南アフリカ」は、世界のプラチナの鉱山生産のおよそ65%を生産しています(2020年時点)。2位のロシアがおよそ13%であるため、まさにプラチナは偏在している(偏って存在している)と、いえます。

図:プラチナの鉱山生産量 単位:トン

出所:ジョンソンマッセイのデータより筆者作成

 その南アフリカのプラチナの鉱山生産量は、コロナ元年となった2020年に大きく減少しました。南アフリカは、以前の「原油暴落、金(ゴールド)は上昇。変異株拡大を抑える手立てとは?」で述べたとおり、複数の変異株が発生した地域とされています。

 コロナ感染拡大により、地中数千メートルまで掘り下げた鉱山での作業がやりにくくなっている、市中での感染拡大が発生し、国の機能が一部、低下している、などが、その背景だと、考えられます。

 先述の「脱炭素」の環境下でも、自動車排ガス浄化装置向け需要は、急減せずに一定程度、存在すること、そして、鉱山生産量が不安定化していることにより、以下の通り、2020年は、プラチナの需給バランスは大きな供給不足になりました。

図:プラチナの需要と供給 単位:トン

出所:ジョンソンマッセイのデータより筆者作成

「コロナ・脱炭素」本格化、3年目の2022年も、この傾向が続くと筆者は考えています。

新しいプラチナの需要に注目

 2022年を「脱炭素」本格化、3年目と考えれば、「脱炭素」に関わる新しい技術の芽が、大きくなる可能性があります。以下は、脱炭素時代のプラチナの新しい役割を示したものです。水素生成装置、FCV(燃料電池車)の発電装置、合成液体燃料の精製装置などの電極部分にプラチナが化学反応を起こす触媒となり、電気とともに水を水素と酸素に分解したり、高温下で水素と酸素を結合させて発電したり、します。

図:脱炭素時代のプラチナの新しい役割

出所:筆者作成

 電気分解の際に用いる電気が、再生可能エネルギー由来の電気であれば、その過程で生成された水素は、「グリーン水素」と呼ばれます。水素は無色透明ですが、便宜上、生成過程を明らかにするため、「グリーン」、生成過程で発生した二酸化炭素を回収した「ブルー水素」、生成過程で発生した二酸化炭素を大気中に排出した「グレー水素」などに分けられます。

 プラチナは、最も環境にやさしい「グリーン水素」を生成する際の一助になると、注目されています。また、環境に配慮したFCVの発電装置や合成液体燃料の精製装置などでも、活躍するとされ、「脱炭素」本格化3年目に、大きな注目が集まるかもしれません。

 2020年時点では、プラチナの全需要の内訳は以下のとおりですが、2022年以降、そう遠くない将来、上記の「脱炭素」起因の新しい需要が、統計で確認される日が来ると、筆者は考えます。

図:プラチナの需要内訳(2020年)

出所:ジョンソンマッセイのデータより筆者作成

2022年のプラチナ価格は上昇すると考える

 ここまで述べたように、下落要因はあるものの、「脱炭素」がプラチナ需要を急減させる可能性は低く、上昇要因は「コロナ・脱炭素」の本格化が進むことで、2022年のプラチナ価格は、上昇する可能性があると考えます。

図:2022年のプラチナ価格の予想 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグより筆者作成

 年平均で1,303ドル、瞬間的な高値1,689ドル、瞬間的な安値は912ドルあたりが目安になると、現状では考えています。「コロナ・脱炭素」本格化3年目の2022年、プラチナ相場の行方に、要注目です。

 [参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)