昨年から世界の金融機関は4,000億ドルの評価損や損失を計上し3,000億ドルの増資を行ったと言われているが、今月の相次ぐ「格下げ」による評価の見直しでさらなる損失の拡大は避けられないであろう。昨日の米国株の下落の理由として米シティグループの追加損失報道や米クライスラーの連邦破産法適用の噂などが大きく報道されているが、マーケットの底流にある米株下落の大きな背景は、米国金融機関の増資の引き受け手であったオイルマネーがここにきて米国への投資に慎重になっていることがあげられよう。

原油が140ドルを突破した26日の外為市場は日中のドル/円の変動幅が1円56銭、豪ドル/円が1円77銭を記録するなど大きく動いた。NYダウも26日の市場では358ドル安と長大陰線引けになっている。景気がよくないのは米国だけではない。ドイツのIFOの大幅な悪化をみてもわかるように先進国はみな景気後退局面に入っている。景況感だけをみると先進国の通貨はすべて売りとなってしまうが、どこも景気がわるいので相対評価としては大きく動かない。しかし、信用収縮や景気後退を背景に米株が下落すると、これまでの相場は概ね円高基調に転換している。ここで我々が注視すべきポイントは、金融マーケットの変動率(ボラティリティ)の上昇は円高につながりやすいということである。

筆者が円キャリー取引(金利収益を狙った円売り・高金利通貨買い)を行ううえで「相場の変動率」を非常に重視していることはこれまでに述べてきた。そして「相場の変動率」を計測する方法として使っている指標(計算式)が「ATRアベレージトゥルーレンジ)」である。クロス円取引の相場は、「ATRが下がる過程で円安・上がる過程で円高」となるケースが多い。円キャリー取引は金利収益を目的とする以上、相場変動率の低下や低位安定が必要条件となる。 ATRの上昇期間でも円安トレンドが発生することはあるが、ATRの上昇期間は「急激な円高となるリスク」を孕んでおり、リスク/リターン比の観点から筆者は円キャリー取引を行っていない。<3日連続でATRが上昇>すると円キャリー取引は中止している。昨日の大陰線相場で対円相場はどの通貨もATRが上昇したが、今後ATR低下のトレンドが反転し上昇傾向となっていくのかを注視したい。その意味で来週の相場は非常に重要な1週間となるだろう。

米国金融機関の資金調達とスタグフレーション回避の処方箋」で「3月17日安値95円78銭を起点にドル/円の上昇は12週間に及んでおり、すくなくとも周期的な高値のピークを数週のうちにつけるであろう。3月・6月は米金利の反転しやすい月であり、ドルも6月後半が反転ポイントとなることが多い。米金融機関の決算にむけたリパトリ、サムライ債の大量発行、日本のボーナスシーズンなどドル高を支援する需給要因は多いが短期周期的なドルの下落調整がいつ起こってもおかしくない時間帯に入っていることには留意したい」と述べたが、今週は3月17日安値95円78銭からのドル/円の上昇は14週目である。そろそろ円高への備えが必要であろう。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(注:ATR上昇でも円安トレンドが発生することはある)


(出所:石原順、ブルームバーグ)